労務×TechでシェアNo.1!SmartHR CTOに聞く「SmartHR」開発の舞台裏と今求めているエンジニア像
多くの一般企業や個人がクラウドを活用する現在、WEBサービス開発のインフラもクラウド環境が当たり前の時代になっている。
本企画では「クラウド時代に求められるエンジニアリングの実態」をテーマに、エンジニアを積極採用し続けるユーザー向けサービス企業のCTOと、クラウド・エバンジェリストの林 雅之氏を交え、サービスの開発現場の実態や、そこで求められるエンジニア像について熱く語って頂く。
第一回目は数々のスタートアップバトルでの優勝やHRアワード「人事労務管理部門」最優秀賞などで注目を集め、サービスローンチから1年を経た今もなお導入社数を伸ばし続ける、クラウド労務ソフト「SmartHR」を運営する株式会社SmartHRのCTO佐藤大資氏にお話を伺った。
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目次
わずか1年で3,000社以上に導入達成!
労務業務自動化ソフト「SmartHR」ができるまで
“社会保障制度をもっとシンプルでフレンドリーに” という理念の下、生まれた「SmartHR」は、社会保険・雇用保険手続きを自動化するクラウド型ソフトウェアだ。労務関連書類の自動作成や役所へのオンライン申請をコア機能とし、採用管理システム「Talentio」、勤怠管理システム「AKASHI」など外部サービスとのAPI連携に対応している。
林:「Smart HR」をリリースされて1年数ヶ月。数々のコンテストでの優勝も話題となりましたが、これまでを振り返ってみていかがですか?
佐藤:僕がSmartHRにJOINしたのが2015年7月。当初は、代表とエンジニア2名という労務に関する知見のない3名で、労務関係の書籍やヒアリングを元に手探りで労務業務の課題を把握するところから始めました。試行錯誤を経て、同年11月、「TechCrunch Tokyo 2015」のスタートアップバトルでローンチを発表し、そこでの優勝をきっかけに認知され、多くの企業から導入していただくことができました。その後、労務経験者をドメインエキスパートとして迎え、レビューをもらいながら機能の改善・拡充を行っています。
導入企業数は3,000社超!シェアNo.1に
林:わずか1年でこれほど高い支持を集めた理由は何でしょう?
佐藤:ファンになってくれた人が多かったことが挙げられます。労務関係のツールでWEBのモダンなUIがなかったこともあり、使いやすそう!と評価をいただき、口コミで広がりました。特にIT・WEB系の有名企業で導入してくれたところが多かったですね。
林:労務事務担当者のコミュニティづくりもされているとか。
佐藤:ユーザーミートアップの開催や、人事労務業務系のノウハウをまとめた記事をオウンドメディアでアップしています。労務は個人情報が絡むため、元々担当者間のつながりが少ないという状況にあるようです。制度改正に対する見解や知識の共有を求めるユーザーの声にも応えていきたいと考えています。
スクラム開発で進捗・ゴールの共有を明確に。週1のミーティングではサービスについてがっつり議論!
林:サービス開発は内製との事ですが、どのような体制で開発されていますか?
佐藤:現在フロント1名、サーバーサイド6名で、スクラム開発で行なっています。元々僕にスクラム開発の経験があり、進捗共有と工数出しに適したスタイルだと感じています。週ごとにスクラムポーカーで工数出しをします。週に1度の開発ミーティングでは、丸1日をかけて工数出しを行います。その日にサービスについてがっつり議論をして、その日以外は開発に専念できるようにしています。
林:ちなみにリモートワークはされていますか?
佐藤:コミュニケーションロスを防ぐため、現状積極的には行なっていません。自律的な行動が重要なので、ゴールを明確に共有できるよう密な連携を心がけています。
スタートアップ企業から中小企業まで活用が進むクラウド。 創造的な面に注力できる点が魅力。
林:初期の頃からクラウドを利用してサービスを提供されていますが、ユーザー数の増加に伴い、クラウドのリソース変更などはされていますか。
佐藤:SmartHRはアクセスが集中するタイプではなく、入退社や年末調整など、イベントスケジュールも決まっているので、特にしていません。ただ、今はユーザー企業や、企業ごとの従業員数が増えてきているので、安定性を考える必要は出てきました。
林:クラウドの環境にはどんなサービスを利用されていますか。
佐藤:AWSを利用しています。Elastic Beanstalk、DBはRDSで、キャッシュはElastic Cache。最近だとLambda Functionを使っています。
林:サーバーレスを使われているのですね。
佐藤:マネージドサービスを利用できる部分は利用しています。今後それで賄いきれなくなったら自分たちで対応していけばいいかなと思っています。
クラウド活用のメリットは?
佐藤:運用の面を気にしなくて済むので、アプリケーションロジックやUIなど創造的な領域に注力できる点がいいですね。骨の折れる作業を肩代わりしてくれるので、楽しくプログラミングができます。
林:今はベーシックなサービスを利用されていますが、今後使ってみたいクラウドサービスはありますか。
佐藤:AIなどの最新技術や、面白そうなのは認証管理。マネージドできる新しいサービスは積極的に使っていきたいです。
インフラに詳しくなくても運用しやすい。
林:御社にインフラエンジニアはいますか。
佐藤:今月インフラに強いメンバーが増えました。それまでは特にインフラをガリガリやってきた人はいませんでした。
林:クラウドを使うことで、インフラに深く従事してきた人がいなくても間に合ってきたというわけですね。
開発・検証のスピードを求めるスタートアップの動きに対して、大手企業でのクラウド化は?
林:クラウドネイティブなアプリケーションの普及に加え、SAPなど基幹系のシステムをクラウド化していこうという動きが加速しています。
ライセンス形態がクラウドに対応していないなど色々な面で課題があり、導入は数年スパンになることもあります。弊社は、そういったクラウドの導入を契機としたコンサルティングや、大がかりな構築・運用・保守まで含めたトータルでのソリューション提供も行なっています。
SmartHRの働き方とVISION
「価値観」を最重要視!
SmartHRが求めるエンジニア像
林:現状どんどんユーザー数が増えてきていますが、エンジニアの方は足りていますか?
佐藤:今月2名入社しましたが、もっと増やしていきたいですね。サービスの改善や労務領域と関連する拡張機能の実装も進めていきたいです。
林:どんなエンジニアを求めていますか。
佐藤:第一に、会社の価値観に合う人。労務という社会性の高い領域ですが、興味がないとなかなかモチベーションが湧かない。あとは何か一つやり遂げている人。趣味の範囲の開発でもいいです。まだまだ小さい会社なので、自由な発想で意見して自律的に動ける人を求めています。
林:技術的な面というよりは、価値観を最重要視されているのですね。
佐藤:もちろんスキルも見てはいますが、自分で設計を上手く進めていける人であれば問題ないです。弊社のサービスはRubyを使っていますが、あまり言語にこだわらなくてもいいかなと思っています。
自社イベントも定期的に主催。アウトプットは積極的に。
佐藤:IndustryTech Kaigiという巨大産業へ切り込むスタートアップを集めたイベントや、昨日はBeer Bashを開いてビールを飲みながらLTをやったり、外部のエンジニアも招いて情報交換をしています。
林:エンジニアのスキルアップで、何かサポートされていることはありますか?
佐藤:月に1度、技術勉強会を行っていたり、技術書の購入制度があります。取締役2名がエンジニアということもあり、エンジニアフレンドリーな環境は整備していきたいと思いますね。
林:勉強会はどんなテーマで開催されているのですか?
佐藤:前職で携わっていた技術や自分が面白いと思っている技術など、自由にシェアしています。アウトプットをすることで自分の中で整理されていなかったものを整理できたりするので、外部イベントへの登壇も推奨しています。
主な福利厚生
– タバコ吸わない手当
– 非喫煙者向けの手当
– 30万円の開発設備
– 好きなPCとモニターを選べる
– 技術書購入制度
– 業務に必要な技術書は上長決済なく購入してOK
- まかない制度
- 週に1度、社員全員でランチを囲む。それぞれの得意分野・趣味を通じてコミュニケーションを展開できる社風
- 育児休暇制度有
- 時短勤務実績有
- フレックスタイム制(コアタイム:10時〜16時)
中・長期的な目標は?
佐藤:まだまだ足りていない労務手続きの機能拡充と、大企業でも使いやすいUI、処理速度の改善、パフォーマンスの良いUXを提供していきたいです。今年SRE(Site Reliability Engineering)という開発チームを新たに立ち上げ、サービス水準の安定化を図っていく予定です。
林:AIなど新しい技術の導入についてはいかがですか?
佐藤:新技術の研究も今後していけたらいいなと思っています。Chatbotはサポートとも相性が良いのですぐに使えそうですね。SmartHRは、企業の従業員数など様々なデータを取得できるので、統計情報を元にアラートを出すとか。他のプロダクトともAPIを繋いでいき、色々なデータと紐付けた予測や提案も視野に入れています。
林:海外展開は考えていらっしゃいますか?労務制度は国によりけりなので、難しいとは思いますが。
佐藤:今のところ考えていませんが、言語的な面では、外国人従業員向けに日本の雇用制度を翻訳化するのもいいですよね。また、これは夢のような話ですが、「SmartHR」というシステムをインフラとして、保険制度のない国へ輸出することもゆくゆくはできるかな…?!と思っています。
林:スタートアップの方々は自ら勉強してクラウドを活用し、早いスピードでビジネスを立ち上げているので、クラウド事業者として学ぶことが多いです。本日はありがとうございました。