発信を今後のキャリアに繋げる!Findyの「発信力レベル」活用方法とアウトプットのTipsを、CTOと開発メンバーに聞いた
エンジニアにとって、アウトプットは重要な営みの一つ。自身の考えや技術ノウハウを発信することで知識の定着度が上がるのはもちろん、それを見た他のエンジニアにとっての重要な情報となることも多々あり、個人のブランディングにも寄与するなど、様々な観点でポジティブな影響があるでしょう。結果として、アウトプットがキャリアを開拓する一翼を担うことも考えられます。
そんなエンジニアの発信力を定量的に可視化し、転職やキャリア形成へと活かせる「発信力レベル」機能を提供しているのが、ハイスキルなエンジニアと企業をマッチングする転職サービスを提供するファインディ株式会社(以下、ファインディ)です。以下の画面にあるように、ユーザーのブログなど、様々な媒体に関する情報を収集/分析し、発信力スコアをレベル1~10で判定するというもの。登録している他ユーザーのデータを活用して、相対的な発信力の分布とランキングを確認できるようになっています。
今回はIT/Webエンジニアの転職・求人サイト「Findy」の発信力レベル機能の開発に携わっている、取締役 CTOの佐藤 将高さんと機械学習エンジニアの笹野 翔太さんに、アウトプットの重要性や機能開発の背景、そこに込められた想いについて伺いました。
プロフィール
取締役 CTO
機械学習エンジニア
プロダクト開発部 Qiita開発G マネージャー
入社後はQiita、QiitaJobsのプロダクト開発や機能改善などを担当。
2020年1月から「Qiita」のプロダクトマネジメントとメンバーのマネジメントを行う。
「発信」に対しては、好循環なイメージしかない
清野:まずは、おたりのアウトプットについて教えてください。おふたりとも積極的に発信なさっている印象ですが、いつ頃からそのような習慣がついたのでしょうか?
佐藤:僕の場合、人生の中で発信を大事にしてきたこともあって、昔から技術情報に限らず日常の思いなどをブログに書き綴っていました。もちろん、エンジニアになっても引き続き発信が大事だと思っていたので、前職の時からQiitaとかで記事をアウトプットしていました。
清野:人生の中で発信を大事にしてこられたということですが、何か印象に残っているアウトプットのエピソードはありますか?
佐藤:前職で面白い経験をしました。当時QAの部署にいた時、締め会に参加したのですが、そこで部長が「この記事がものすごく良くてさ〜」と紹介したんです。部長は気づいていなかったのですが、紹介されたのは僕の記事でした。すかさず「部長、それ僕の記事です!」ってアピールしたわけですが、このように自分たちの環境に貢献できる面白さがあるので、発信はものすごく良い機会だと思っています。
創業後も、ファインディという会社を知ってもらうため、積極的にイベントへの登壇やWebでの発信をしていったのですが、発信をするとと「知っています」と言ってもらえるケースが増えて、結果として別の登壇の打診につながっていきました。このように露出がさらなる露出につながっていきますし、アウトプットのために正しい知識を調べることで自分のスキルアップにもつながるし、好循環なイメージしかありませんね。
清野:良いですね! 笹野さんはいかがですか?
笹野:僕は佐藤さんと違って、昔はほとんど発信をしていませんでした。エンジニアになりたての時に「なんとなく、やったほうが良いかな」とは思いつつ、腰が重いこともあって、思い出した時にQiitaに登録して1〜2記事書くくらいの感じでした。
それがファインディに入社してから少しずつブログ記事を書いたり登壇したりして、徐々にアウトプットが増えていきました。発信することで自分の何かが満たされるというわけではないのですが、自分を知ってもらったり、記事を読んだ上で面接に来てもらったりしていて、発信するって良いなと。人とのつながりが広がっていくのもそうですし、書き手の思考が記事の中に投影されるような気がするので、面接官である自分のことをある程度事前に知ってもらうための「名刺」のような存在だと思っています。
清野:やったほうが良いとは思うもののできない、というのはエンジニアあるあるだと感じます。対して佐藤さんは最初からアウトプットされていたということで、なぜ最初から、そのような習慣ができていたのでしょうか?
佐藤:対外的なメリットを感じてもらえるような動きをしたいというよりは、自分の中での思考の整理に役立てたいという動機の方が、最初は強かったからだと思います。先ほどもお伝えした通り、ブログ記事で出すとなると正しい情報を上げないといけないですよね。となると、公開前に調べる時間が強制的にできるので、分かっていると自分では思っていたけど実は全然分かっていなかったことに対する振り返りの機会にもつながるわけです。思考を深める目的でやっていたら、実はそこでアウトプットした情報は周囲からも求められるものが多かったという、そんな順番での気づきでした。
清野:発信をするとなると、多くの人は「反応があるか分からない」という不安が付きまとうと思うのですが、そのあたりはいかがでしたか?
佐藤:たぶん僕、メンタルが折れないタイプなんですよ。反応がなかったときに、「あーどうしよう、全然反応がない…」ではなく、「これは反応がないんだ、ふーん」で終わるんです。ここはもう個人の特性かなと思っていて、それこそ先ほどの話の続きになりますがアウトプットを出すだけでも価値があると思っているので、反応の有無でうろたえることは基本的にないですね。
清野:それは強いですね。笹野さんはファインディに入社してからアウトプットを積極的にされ始めたということですが、継続のモチベーションはどこから出ているのですか?
笹野:そこは明確にファインディの発信文化が強く関係していると感じています。弊社では今もテックブログで発信していますし、それ以前も、開発組織のメンバーが主体的に各媒体の記事へ、自身のノウハウなどを落とし込んでいく文化がありました。僕らのチームは既存の開発組織に比べて規模がそんなに大きくはないのですが、だからこそ社内外に存在を認知してもらいたいという思いをもって周りのメンバーが積極的に発信しているので、結果として「僕も書かないといけないな」という感じで背中を押してもらっているような側面があると思っています。
ゲーミフィケーションの要素を発信の領域に取り込んだ機能
清野:発信をキャリアに繋げるという観点で、Findyでは「発信力レベル」という機能を提供されていますよね。こちらの機能概要を教えてください。
佐藤:発信力レベルでは、QiitaやSlideShare、Speaker Deck、Zenn、note、connpass、その他ブログなどの統計データ(閲覧数、いいね数、ダウンロード数 etc…)を取得した上で、自分がどれくらい発信できているかを数値として見ることができます。また、母集団をベースに「自分が今どのあたりにいるのか」という位置も分かるようになっていて、どこまで発信したら一人前の発信力になるかというゲーミフィケーションの要素を発信の領域に取り込んだ機能になっています。
清野:2023年5月に新機能として発表された時、面白い機能だなと思って拝見していました。現在の立ち位置が分かることで、次のレベルまで頑張ろうという気持ちにもなりますよね。この発信力レベルはどのようなきっかけで開発することになったのでしょうか?
佐藤:端的にお伝えすると、ユーザーからの声ですね。もともと「Findy」にはスキル偏差値という機能があって、GitHub連携でスキルを偏差値化した上で、例えばOSS活動をするほど偏差値が上がるといった仕組みのものを提供していました。でも、あるスポンサーイベントで登壇した時に「『Findy』は知っているけれど使っていない」と言われたことがありまして、詳しく紐解いていくと「OSS活動をやっていないので低いスコアしか出ないと思うから」とおっしゃるわけです。お話ししている限りとても優秀な方だったので、例えば発信の部分だけでも評価・可視化したら、「Findy」を使ってもらうことがその方のメリットになると感じました。
加えてもともとの考えとして、「発信は頑張っているから今度はOSSを頑張ってみよう」とか、その逆で「OSSをしっかりやっているからそろそろ発信を頑張りたい」など、複数のアプローチからエンジニアとしての成長のモチベーションを作りたいとも思ってたので、発信力を可視化する機能を考えていくことになりました。
清野:ファインディさんのビジョンが「挑戦するエンジニアのプラットフォームをつくる。」ということで、まさにそこを体現するような機能だったというわけですね。
佐藤:挑戦するエンジニアって往々にして、自分のスキルが今どれくらいの位置にいるのかを常々確認しつつ、自分が成長できているかどうかの振り返りもしていると思います。モノサシで何かを測るように、挑戦するエンジニアそれぞれが、自身が成長できているかどうかの振り返りをしやすくするために、彼らの「挑戦したい」をあと押しできるような機能として作りました。
挑戦するエンジニア一人ひとりが今よりも高いレベルになって、業務や各コミュニティへの貢献度を高めると、それに付随して社会全体の底上げにつながると考えているので、発信力レベルも「エンジニアの実力の証明書代わり」として多くの方に使っていただきたいと思います。
清野:発信力レベル機能に対するユーザーからの具体的な声としてはいかがでしょうか?
佐藤:ありがたいことに積極的に使っていただくケースが増えていて、「こういうメディアに対応してほしい」とか、「ブログを複数持っているから複数登録できるようにしてほしい」とか、様々なご要望をいただきます。中には「意外とカンストしちゃってる」といった声もあって、こちらとしては十分に調査して開発したつもりなのに、まだ足りなかったのかと感じることも多いです。記事としてのアウトプットだけでなく、イベントの登壇なども含め、いくつかの側面から発信を深掘りしていきながら、より総合的に評価できるように何度もアップデートしています。
ものすごく簡単な発信からやっていくのが良いと思う
清野:「発信力を定量的に可視化する」というのはシンプルな機能に聞こえますが、いざ機能として提供するとなると考えるべきことがあると思います。実装において、具体的にどのようなことを試行錯誤されていますか?
笹野:エンジニアの皆さまは様々なメディアで発信されるので、いかにそれらを一つの指標へと落とし込むかというのが、当然ながら一番の肝になってくると感じています。例えば、Qiitaでの1記事とイベントへの登壇1回を、いかに同じレベル感で評価するか。ここは今も試行錯誤を続けているところではありますが、今時点でしっくりきているアプローチを一つの処理として加えることで、いくつかのメディアを追加しても、過小評価/過大評価などにならないように調整できていると考えています。
清野:しっくりくる納得感は、具体的にどう判断されているのでしょう?
笹野:ここは非常に難しいところですね。僕ら自身、いつも「正解って何なんだろうか…」と悩みながら設計しているところではあります。何パターンかアプローチはあるのですが、例えばファインディ社内にも発信を頑張っているエンジニアが沢山いるので、そのメンバーに対してヒアリングをしてチューニングするといったことも、一つの目安として行っています。
あと先ほど佐藤からもお伝えしたとおり、人によってはすぐにカンストしちゃうなどの声もあったので、レベルに関してもある程度ゲーム性を持たせ、「上位⚪︎%」みたいなゲーム要素を取り入れる形にしています。このように、納得感として定性評価を加えつつ、俯瞰した目線で「母数全体に対してこのレベルの人はこれぐらいいたらいいだろう」というバランス調整をもって、評価のアルゴリズムを設計しています。
清野:実は僕も「Findy」に登録しているのですが、この数値ってどうやって弾き出しているんだろうなと疑問に思っていました。そういう観点で算出されているんですね。これからエンジニアとして発信しようかと考えている方に向けての、ファインディさんからのアドバイスとしてはいかがでしょうか?
佐藤:発信の中でも、まずは、ものすごく簡単なところからやっていくのが良いと思います。それこそ、「ちょっと疑問に思ったんですけど、これってこのまま継続しても良いんですかね?」みたいな社内のチームに向けた一言とかも、広義な発信と捉えて良いのかなと思っています。
清野:発言も発信だと。
佐藤:発信と聞くと、どうしても対外的にバズるような数千字レベルの完璧な記事を書くようなイメージを持ってしまうかもしれないですが、そうではないし、最初からそんなにハードルを上げなくても良いと思います。部内のちょっとしたドキュメントを、上長や他メンバーからフィードバックをしてもらう前提でまとめるような、簡単なものとかから始めるのが良いんじゃないですかね。そこができたら、今度は範囲を「社内」などに広げて、例えば発表という形のアウトプットができるような場を用意していくとか。
清野:ファインディさんではそのあたりはどうされていますか?
佐藤:弊社のケースでお伝えすると、「Findy Engineer Talk」という社内勉強会がありまして、そこでは「こういう課題に対してこういう対応をしました」とか「こういうトライをしたけれど、こういうところで苦労したので皆さん気をつけてください」みたいな、簡単なLTに登壇するような機会を作っています。今お伝えしたのは登壇という形でしたが、発信って他にも種類があると思うので、まずは失敗してもダメージがないもの/少ないものを選び、意見をもらったり考えていることを伝えたりするところから始めるのが良いかなと思います。
清野:なるほど。笹野さんはいかがですか?
笹野:昔の自分がまさに「発信=完璧なもの、誰かの役に立つべきもの」という先入観があったことで、大事だと分かっているのになかなか着手できなかったところがあります。そんな僕からのアドバイスとしては、まずは自分がどこだったら気軽に発信ができそうか、場所を見定めることから始めるのが良いと思います。それともう一つ、佐藤からもお伝えしたとおり、「何でも発信なんだ」と思ってもらうことも大事な要素だと思います。自分のためのメモを発信物だと認識したり、とりあえず記録してみようというモチベーションから始めたりするのも、ハードルを下げる一つのアプローチかなと思います。
キャリアの伴走はダイエットの過程に似ている
清野:今後、発信力レベル機能や「Findy」というプラットフォームをどうしていきたいか、教えてください。
笹野:ファインディというサービスの源泉を辿っていくと、先ほど仰った「挑戦するエンジニアのプラットフォームをつくる。」という弊社のビジョンがあるので、それを実現するためにいかに発信を通してエンジニアのキャリアを支援し、また企業の課題を解決していくようにするかという観点が、中の人として機能を作っていく者の命題になってくると考えています。機能の伸び代としては、今後さらに様々な発信へと対応していき、より納得感のあるレベル設計を目指していけたらと考えていますし、とはいえ可視化はある程度実現できるところまで持って来れたので、その次を考えていけたらと思います。
清野:その次というのは、具体的にどのような内容が考えられますか?
笹野:例えばですが機能のアルゴリズムだけではなく、発信の経験が登壇の機会につながったり、ヘッドハンティングのような、キャリアにとっての嬉しい機会が増えたりといったプラットフォームをまたぐ形でのつながりを作ることができたら面白いかもしれません。発信力レベルを通じて良質な発信をする機会を増やし、実際に発信する人が増えることで、エンジニアコミュニティに還元できたらと考えています。
佐藤:少し補足をすると、この8年ほどで可視化の部分がある程度できてきたので、今後は「このままのキャリアだと中長期的にどうなっていくか」という予測や、「予測内容から脱却したいときにどうするべきか」というお悩みに伴走するような部分を、アルゴリズムの力を借りて実現していきたいと考えています。
もちろん、アルゴリズム以外でも、相談先として伴走できるユーザーサクセスのメンバーを集めているので、プラットフォームの機能か否かに関わらず、ユーザーのなりたい姿に向けて、一緒に壁打ちをしながら背中を押していける存在になっていきたいと考えています。この辺りの話は「ダイエット」の過程に近いかもしれませんね。毎日体重計に乗って可視化する部分はできてきたので、次のステップとして、持続可能なダイエットのための取り組みを伴走していくという感じです。
清野:なるほど。お話を伺って、発信がエンジニアとしてのアイデンティティを形成していくというQiitaの思想にものすごく近いなと感じました。
佐藤:実現したいところは、あくまで「挑戦しているエンジニアのプラットフォームをつくる」ことです。その上で、課題があれば僕らが解決に向けて伴走していきたいですが、その際に、ハードルを絶妙な高さに変えたいんです。というのも、高すぎると越えられないし、低すぎると超えるモチベーションが生まれません。絶妙にハードルを調整し伴走することで、エンジニア一人おひとりのタイミングに併せて、成長できる機会をご提供できるかなと思っています。
清野:ありがとうございます。それでは最後に、読者の皆さまにメッセージをお願いします。
佐藤:先ほどからお伝えしているように、エンジニアコミュニティではこういった学びの発信が誰かの学びにつながりますし、発信そのものがサービスやツール、OSSなどの技術の活性化にもつながるからこそ、エンジニアの発信を応援したいと思っています。そのためにちょっとした遊びの要素も発信力レベルに組み込まれているので、ぜひ、発信した結果自分のレベルがどうなったかを見てほしいと思います。僕自身、あのとき発信していて良かったなと思っているので、エンジニアの皆さんの発信に少しでも寄与できたら良いなと考えております!
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編集後記
様々な媒体への発信が「発信力レベル」となって可視化されてキャリア開発に活かせるというのは、非常にユニークなアプローチだと感じます。簡単に測定できて、しかもその結果に対してゲーミフィケーション要素が設計されているということで、はじめの一歩としてはハードル低く活用できそうです。自分の発信力が相対的にどんなものなのかチェックしてみたい、転職含めた今後のキャリアにどこまで活かせそうか確認したいという方は、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?
取材/文:長岡 武司
撮影:伊東 祐輔