生成AI時代に問われる「変化に対応する力」を養うには?NECソリューションイノベータのITアーキテクトに聞いてみた
ChatGPTをはじめとする生成AIが広く世間で認知されるようになってから、テクノロジーの進化や社会の変化のスピードが劇的に上がってきています。毎日のようにインパクトのある技術ニュースが飛び込んできて、1ヶ月前に起きていたことが、すでに時代遅れのテーマになることすらある状況です。このような時勢だからこそ、エンジニアもその変化への対応を柔軟にしていく必要があるでしょう。
今回は、生成AI時代に問われる「変化に対応できる力」の養い方や、そのためのマインドセットなどについて、NECソリューションイノベータ株式会社のエンジニアを牽引するエグゼクティブフェローの塩谷氏と、シニアプロフェッショナルとして難度の高いプロジェクトを中心に牽引するITアーキテクトの石川氏にお話を伺いました。
目次
プロフィール
エグゼクティブフェロー兼CTO兼CIPO
ソリューションサービス事業ライン 第二PFSI事業部 沖縄グループ
シニアプロフェッショナル(ITアーキテクト)
生成AIに対してはワクワクしか感じない
――今回のメインテーマは「変化に対応できる力」です。生成AIが話題になったことでAI脅威論のような話も再燃してきていると感じますが、まずはこの辺りについて、おふたりのご意見を伺いたいです。
塩谷:生成AIのような新技術は基本的には武器だと思っていますが、世の中のリアクションは、それこそインターネットが出た時と一緒だと感じています。インターネットが登場した当初は、セキュリティリスクだということでアクセス禁止にしていた会社が多くありましたが、今はネット環境のない会社ってありえないですよね。 同じく生成AIも私たちの生産性を向上させるものだと思うので、決して脅威の対象にはならないでしょうし、ワクワクしか感じていません。
石川:私も生成AIが脅威だとは全く考えていなくて、「言うことをよく聞いてくれる子分」のような存在だと感じています。現時点はスマホやタブレットが登場した時のように、実際に生成AIを触りながら使い方を模索していくようなフェーズではないでしょうか。現に今お客さまとは、生成AIの活用方法について議論/検討しているところです。
――生成AIの登場を悲観的に捉えるエンジニアやビジネスマンも少なくないと感じているのですが、おふたりがそのようにポジティブに捉えているのはなぜでしょうか。
石川: デジタルな業界で仕事をしているので、基本的にいつも「なんでこれはアナログのままなんだろう」とか「デジタル化したらどうなるかな」とか考えています。例えば人っていつまでキーボードを使っているのかなとか。私自身、文系出身で未経験から新卒でエンジニアになった人間なので、積極的に吸収していかないと業界の中で生き残れないという、根本の部分での考え方も影響しているかもしれません。
さらに、新しいことが好きな性格もあると思います。システム開発でも、次に似たようなプロジェクトの話があったら他の人にやってもらって、自分は新しいプロジェクトにチャレンジしたいと思ってしまう性格です。
塩谷:そもそも自分の価値を上げることができるかという話だと思いますよ。Javaエンジニアが一生Javaだけで食べていけないのと一緒で、変化が激しい世界の中で自分だけ変わらないというのは、まずないですよね。人生のスケールで考えたときに、どの技術で成長していくのが自分にとって「楽しい」を思えるのか。変化を恐れるよりも、そう考えた方が100倍楽しい人生になると思います。
私の経験を振り返ってみると、例えば物理サーバーを1,000台用意しなければいけなかった時代から、今ではクラウドサービスが普及してクリックひとつで準備できるようになりました。技術の進歩に対して感謝しかない。そのように考えると、変化をポジティブに捉えることができると思いますよ。
社員の成長が社会価値の提供を加速させる「Value creation cycle」の考え方
――改めて会社について伺いたいのですが、NECソリューションイノベータでは現在、どのような取り組みを強化しているのでしょうか?
塩谷:大きく2軸あります。1つは従来から取り組んでいる技術力や開発力を武器にしたシステムインテグレータとして、もう1つは多様なステークホルダーとの共創を通じて社会に価値を提供していくバリュー・プロバイダとして。それぞれ、変化の多い時代におけるお客さまの戦略パートナーとしてビジネスをしています。
特にお客さまからのご要望に対する「実現力」が、当社の強みだと捉えています。さらに、今年度から「Value creation cycle」(価値創造サイクル)という考え方を掲げ、社員や会社の価値を高めることでお客さまへの提供価値を高める取り組みを進めています。
――「Value creation cycle」とは、どういうことでしょうか?
塩谷:事業を通じてマーケットで収益を上げれば、社員のトレーニングや報酬、エンジニアの開発環境の整備など、より多くのリソースに投資できるようになりますよね。そうやって個人の価値を高めることが組織全体のアウトプットのクオリティを高め、さらに社会やお客さまへの提供価値を高めていく。そのような価値創造における好循環を目指す考え方です。
私はCTOとしてエンジニアチームの諸々の環境整備はもちろん、社内に設置したラボの責任者もやっています。そこでの研究開発の推進や、成果の社内共有なども積極的に行っています。
――ラボではどのようなことを研究されているのでしょうか?
塩谷:一般的にはITの研究だと思うかもしれませんが、私たちの場合はそれだけでなく、ウェット系、つまりはバイオ領域のテクノロジーも扱っています。バイオテクノロジーとITを組み合わせることで人間の生体情報を測定することが可能になります。こうした技術をバイオセンシングというんですが、これらの研究は当社の前身のNECソフト時代から進めてきたものです。それらの研究者に加えて心理学や行動経済学の知見も取り入れた研究を推進しています。
――研究テーマが面白い! なぜ行動経済学の知見が必要なのでしょうか?
塩谷:これまでの人とシステムの関係は、人がデバイスインタフェースを通じてシステムとやり取りするのが基本でした。でも生成AIの登場がこれを変えようとしていますよね。これからの時代は、人が自然言語でシステムとやりとりしたり、人のふるまいをシステム側が自動的に拾って人に自然言語でフィードバックしたりするのが当たり前になると考えています。
そういう意味で生成AIはインタフェース革命であって、環境知能(AI:Ambient Intelligence)の実現に向けた重要な一歩だと言えます。一方で、環境が人間に問いかけようとすると、人間の状態を正確にセンシングする必要がありますし、その前提で人の行動を設計する必要があります。例えば自動運転が実現する車内で、どうすれば人は心地良くなるのか。UI/UXだけでは語れない領域だからこそ、行動経済学の知見も含めて考えていく必要があるわけです。
「DXを進めたい」という言葉自体が間違っている
――実際に現場を担当されている石川さんは、具体的にどのようなプロジェクトを担当されてるのでしょうか?
石川:本当に様々ですが、今はエンタープライズ向け大規模システムのアーキテクトを担当しています。1,000人近いプロジェクトメンバーがいます。
――やはりテーマはDXでしょうか?
石川:もはやDXという言葉は、少なくとも私たちの現場では出てこなくなりましたね。
塩谷:それは「DXを進めたい」という言葉自体が間違っているんだと思いますよ。というのも、DXってあくまで手段じゃないですか。「デジタル技術をベースにしたトランスフォーメーションを通じて何を実現したいか」が本質ですよね。基本的には、これまでは人の作業をデジタル化していたものを、デジタルをベースに人の作業を組み立てたらこれまでとがらっと変わる(=トランスフォーム)でしょ?ということです。
DXが浸透することで、これまでのようにお客さまの What(課題)に対してHow(技術的手段)を提供するだけでなく、そこにWhy(なぜ)が入るようになってきました。お客さまは、なぜその依頼をされているのか、なぜこのままではダメだと思われているのか。そういったところを深掘りながらシステム開発をしているのが石川さんだと思います。
石川:そうですね、少し前までは人の作業をデジタル化して「省力化」や「自動化」を実現することが多かったですが、最近はデジタル技術を活用する前提で人をはめていくような、デジタル技術を中心に業務変革を目指すプロジェクトが多いですね。
塩谷:「こんな省力化/効率化をしたい」という相談から、「こんなビジネスがしたい」という相談へとシフトしてきているんだと思います。ビジネスベースのご相談から始まって、それを実現するためにシステム開発をするようになってきていますね。
――そのようなビジネスベースのご相談から入るアーキテクトとしては、どのような能力が必要だとお考えですか?
塩谷:様々な人がいて良いと思いますが、私は世の中には「虫の目」のエンジニアと「鳥の目」のエンジニア、それからその両方を持ち合わせているエンジニアの3タイプがいると思ってます。本当に細かいところまでディープダイブしていく人も必要ですし、全体を俯瞰できる人も必要です。このズームインとズームアウトを使い分けることができる人がアーキテクトに向いていると思います。
石川:たしかに、物事を「点」と「面」の両方で捉えることができる人が向いている気がしますね。
塩谷:そういう人は、往々にして1つのことをずっとやっていると飽きちゃうと思うんですよね。そういう意味でも、先ほど石川さんが「新しいことが好き」と表現していたのは、「その通りだろうな」と思って聞いていました。
――なるほど、そこに繋がってくるわけですね。ITアーキテクトにやりがいを感じるのはどんな時ですか?
石川:自分が描いたものが、ぴったりとハマった時の、なんとも言えない快感です。
塩谷:そうそう、論理と物理がはまる快感ですね。頭の中の動きと作り上げたシステムが一致して、かつ問題なく動作した時。そういう瞬間が楽しいですよね。特にやったことがない、新しいことをやって成功した場合はしびれます。そう考えると、石川さんはこれまで多くのプロジェクトで、「新しいこと」を経験してきましたよね。
石川:そうですね。ITアーキテクトとして以前に社長賞をいただいたプロジェクトも、クラウドネイティブとかマイクロサービスといった、まだ社内に知見やノウハウがほとんどないタイミングでの取り組みでした。さらに、お客さまからの要求レベルも極めて高かったプロジェクトでした。
――そのように難度の高い新しいプロジェクトを担当される時、どういったことを意識されていますか?
石川:いつも原理原則を押さえるように心がけています。クラウドを使うときはこういう使い方がスタンダードだろうとか、なるべく我流にならないようにしています。原理原則を外さないようにする中で、どうやって実現させるか。そこでいつも試行錯誤している感じですね。
塩谷:エンジニアって、初めての技術を嫌がる傾向があると思いますが、そんな中で石川さんはそれに取り組み続けています。 そういったプロジェクトを多く経験すると、エンジニアとしての成長も早いんですよね。
石川:冒頭にお伝えしたとおり、私自身、文系出身でシステム開発が何たるかを全く知らずに新卒でエンジニアのキャリアをスタートさせた立場なので、とにかく多くのことを自分からキャッチアップしていかないと、ついていけなかったです。IT業界の言葉も全然分かりませんでしたね。でも、物事を構造化して考えるのは昔から得意だったので、とにかく様々な現場に飛び込むようにしていました。だからこそ、結果として新しい技術のプロジェクトも多くなったんだと思います。
現場や技術を具体的に知っている人が組織を作るのが一番効果的
――石川さんとしては、これからどんなキャリアを歩んでいきたいとお考えですか?
石川:今後のキャリアについては、私の中でもまだはっきり決まっていないんです。エンジニアとしてまだまだ進みたいと思う私と、組織運営にも携わっていきたいという私がいます。
先ほどからお伝えしている通り、これまでずっと最前線でエンジニアとしてのキャリアを歩んできたわけですが、自分だけが第一線にいてもダメだとも思いはじめています。エンジニアの最後の仕事は現場から自分を解雇することだ、ってよく言われるじゃないですか。最近は組織戦略を検討する業務もあるのですが、やってみて気づいたのは現場や技術を具体的に知っている人が組織を作るのが一番効果的だということです。だからこそ、自分のあり方としては、2つの方向性をバランスをとりながらキャリアを歩んでいくことじゃないかな?と現時点では考えています。
塩谷:会社として用意しているキャリアとしては大きく2つあります。専門性を活かすプロフェッショナルと、組織長となるマネジメントの2つのラダーです。これらは自分で選択できるようになっています。石川さんはプロフェッショナルのラダーですね。
――塩谷さんはCTOとしてエンジニアの働く環境を整備する側かと存じますが、具体的にどんなことに気をつけていますか?
塩谷:前提として、一昔前と比べてリモートワークが当たり前になっているので、エンジニアのワークライフバランス的には働きやすくなっているかなと思います。一方で、エンジニアの業務効率化もすごく大事なテーマだと考えているので、例えばローパワーなマシンで開発させないとか、そのような基本的なところをしっかりと進めていきたいと考えています。
加えてQiitaのようなところにノウハウをアウトプットすることもエンジニアの成長にとても意味があることだと考えています。会社としても、外部へのアウトプットの場をたくさん作っていくように意識しています。
石川:塩谷さんは毎週木曜夕方に、全社員に向けて技術テーマで発信をされているのですが、そういうところに呼んでいただいて、自分の取り組みを話させてもらったりもしています。
塩谷:「ほぼ」毎週ですけどね。私自身がアウトプットが重要であることを発信しています。「ほぼ週刊しおトーク」っていう番組です。
――どんなテーマでお話しをされているのですか?
塩谷:技術にまつわるテーマであれば何でもです。世界ではどんな考え方や技術の使われ方がされているか、中長期的な物事への見方のヒントなどですね。例えば先日はCES(世界最大のテックカンファレンス)で見つけた、スワロフスキーによるAI双眼鏡(Swarovski Optik AX Visio)を取り上げました。鳥を見つけたら双眼鏡間で連携して、別の双眼鏡に鳥の位置をお知らせしてくれるというものです。現状では全く違うソリューションなのですが、私たちが提供するソリューションにも応用できる可能性があるということで紹介しました。
――クライアントワークをしているとどうしても世の中の動向に疎くなってしまいがちだと思うので、そういう場が用意されているのは非常にありがたいですね。石川さんは、どんなテーマでお話しされましたか?
石川:何回か呼んでいただいたのですが、いずれもプロジェクトの話ですね。先ほどお伝えした社長賞を受賞したプロジェクトもそうですし、最近も大規模開発プロジェクトのアーキテクトとして「どのようなイメージで設計したのか」というテーマでお話しさせてもらいました。
私もアウトプットについては他のメンバーにも経験してもらうことを意識していて、私が登壇するところに連れて行ったり、場を見つけて送り出したり、またはエンジニア同士を繋げて社内外の関係構築を促進するようにしています。
会社もシステムも、ダイバーシティがあることで完成度が高まる
――エンジニアとしてNECソリューションイノベータで働くことの楽しさややりがいについてはいかがでしょうか?
石川:基本的にどんな職種でもキャリアとして用意できるところかなと思います。
塩谷:とにかく事業内容が多岐にわたるので、社内にいながら、途中でキャリアチェンジができます。あと基本的に悪い人はいないですね。人間関係でストレスがかかることがないのが、環境として恵まれていると思います。
石川:コミュニケーションの部分でも、NECグループ会社の垣根を超えたチャットが用意されているので、グループ内にあるノウハウを活用できるのもありがたいですね。
――他のメンバーとしては、どんな方がいらっしゃるのでしょうか?傾向があれば教えていただきたいです。
石川:職人気質な人が多いと思います。ザ・エンジニアな人ですね。
塩谷:トラブルシューティングを見てみても、突き詰めるタイプが多いです。トラブルって往々にして根本的な部分に課題があるもので、本質的なところを追求する姿勢のあるメンバーに恵まれていると思います。
――今後、どんなメンバーに入社してほしいですか?
塩谷:変化を楽しめる人/楽しみたいと思っている人ですね。テクノロジーの最前線でお客さまの課題に向き合うことができるので、多くの新しい技術にチャレンジできます。そういう環境はエンジニアとしてすごく良いなと思っているので、ぜひ楽しんでいただきたいです。
石川:私は、デジタルに興味があればOKです。特定の人物だけを求めてしまうと、会社は中長期的に廃れてしまうと思っているので。
塩谷:会社もシステムもダイバーシティが必要ですからね。ダイバーシティがあることで、チームの完成度も高まります。
――ありがとうございます。それでは最後に、読者の皆さまへメッセージをお願いします。
石川:今の世界にデジタル技術は切っても切り離せない存在なので、それを使った仕事は非常に面白いです。全国に10,000人以上のエンジニアがいる規模の会社はそれほど多くなく、様々な仲間がいる会社なので、楽しめると思います!
塩谷:繰り返しになりますが、テクノロジーは手段です。当社は「ソリューションイノベータ」という名前ですが、テクノロジーを手段としてビジネスにおける本質的な価値を作っていくことを生業としています。新しいテクノロジーに対応するということは、他の人がやっていない領域に踏み出すことでもあります。そうした変化を楽しめるエンジニアの方にぜひ来てほしいと思っています。
編集後記
90年代からITアーキテクトとして活躍されている塩谷さんだからこその視点、さすがだなと感じました。特にDX文脈における「手段の目的化現象」は多くの企業で発生していたことだと感じていたので、大きく頷ける内容でした。また、最高難度のプロジェクトばかりを経験されてきた石川さんからは、変化を楽しみたいオーラがひしひしと伝わってきました。こんな魅力的なメンバーと一緒に仕事ができる機会はそう多くはありません。興味のある方は、ぜひ応募を検討してみてはいかがでしょうか。
取材/文:長岡 武司
撮影:平舘 平
NECソリューションイノベータ