“尖った企業”が情報発信でオープンソースに貢献し、ブランディングに成功するまでを株式会社MIERUNEに聞いた。


株式会社MIERUNEは、QGIS・MapTiler・WebGISに関する豊富な技術と経験、位置情報に関する課題解決をサポートする尖った技術を持つ北海道札幌市にあるソリューションカンパニーです。同社は、オープンソースへの貢献と自社ブランディングを目的にQiita Organization(キータ オーガナイゼーション)を導入しました。

MIERUNEは、Qiita Advent Calendarなどにも参加するなど、Qiita Organizationを積極的に活用されており、最近では記事が案件化したり、人材採用に繋がったりするケースも出てきているといいます。そこで今回は、MIERUNEの取締役 CTOの桐本 靖規氏と、取締役の古川 泰人氏に、同社のQiita Organization導入の理由や、得られた効果などについてお伺いしました。

桐本 靖規 (きりもと やすのり)
株式会社MIERUNE 取締役 CTO
2004年から位置情報分野に携わり、2016年にMIERUNEを共同創業。MIERUNEでは、世界を目指す位置情報ソリューションカンパニーとして、よりプロフェッショナルなチーム形成やプロダクト成功のための組織マネジメントに注力し日々模索中。専門はGIS(Geographic Information System)とFOSS4G(Free and OpenSource Software for Geospatial)。AWS DevTools Hero / MapLibre Voting Member / FOSS4G Hokkaido / Notion Sapporo / Owner of dayjournal

 

古川 泰人(ふるかわ やすと)
株式会社MIERUNE 取締役
野生生物の研究活動をきっかけに位置情報に出会い、民間企業や北海道大学の研究員などを経て、2016年にMIERUNEを共同創業。近年ではオープンなツール・データを使った社会実装やカスタマーサクセスについて多方面から関わっている。このほかにも、総務省地域情報化アドバイザーやCode for Japan フェローとしてオープンデータやシビックテックに関する活動を行っている。

オープンソースに貢献する情報発信と交流のために導入

――――はじめに自己紹介をお願いします。

桐本 靖規氏(以下、桐本):私は2016年に株式会社MIERUNEを共同創業し、現在CTOをしています。これまで組織マネジメントなどについて日々、模索してきました。私は会社のカルチャー作りを重要視しています。その一環としてQiita Organizationを導入しました。今では非常に重要なツールとなっています。

古川 泰人氏(以下、古川):MIERUNEの取締役として、社内、社外のお客様とコミュニケーションを取っています。現在はガンガン開発をするロールではありませんが、以前から位置情報技術をやってきて、オープンソースのコミュニティに所属していたこともあり、技術情報をシェアする意味で2015年の12月からQiitaに投稿をしてきました。検索したら自分がwebに公開したメモに辿り着くのはよくある話だと思いますが、そういった経験を当社のメンバーに話して、情報発信のメリットを伝えています。

――MIERUNEがQiita Organizationを導入した経緯を教えてください。

古川 泰人氏:当社はオープンソースソフトウェアをメインに様々なビジネス、開発に取り組んでいます。ご存知のように、オープンソースソフトウェアは多くのコミュニティーメンバーの貢献で成り立っています。そもそも、貢献とは何かという話にはなりますが、使って「こんな発見があった」と発信して広めることも1つの貢献だとの考えがあります。開発に加わったり、コアのプログラミングにコントリビュートしたりすることも大事ですが、私たちはオープンソースコミュニティへの貢献、お返しの気持ちを持ってQiitaで記事を書いています。

もう1点。当社が何をしている会社か、外部から見るとわかりにくい一面があります。そこで技術力や当社の良さを他の方々にリーチさせたいと思いました。その意味で、成果物であるサービスやちゃんとした人がやっていることをアピールすることが、1番わかりやすく、重要であると考えたのです。そこでQiita Organizationを技術ブログのような役割にして、様々な情報発信と外部との交流を行う目的で導入しました。

“広げる”ことを重視してQiita Organizationを選択


――技術ブログの構築にWordPress等を利用することも考えられますが、多くの選択肢の中からQiita Organizationを選んだ理由は何でしたか?

古川:まず、Qiitaは検索結果に表示されやすいことがあります。当時、オウンドメディアを持つことや、他の企業のように自社サイトに専用ページを作ることを考えましたが、そのやり方では検索に引っかかりにくいと思いました。

Qiita Organizationなら検索に上がりやすいですし、タグがあるので、例えば「GIS」とか「QGIS」を入れておくと関連するタグでリンクが張られて、一連の投稿が連続的に閲覧できる、つまり“芋づる式”で情報を読み進められる仕組みが最初からできていて便利だと感じました。多くの技術者は、この芋づる式が好きだと思います。Qiita Organizationなら、この仕組みを自分たちで構築しなくても利用でき、MIERUNEのポジティブな活動が可視化できます。

桐本:正直、Qiita Organizationの導入に当たっては、古川も話していたように、自社で技術ブログを持つかどうかで悩みました。位置情報のようなニッチな分野を多くの方に知ってもらい、“広げる”ことがポイントになると考えました。そこで、当時から影響力のあったQiita Organizationを選択したのです。

古川:現在、MIERUNEの記事は「いいね」が5400ほどで、ページビューは133万ぐらいあります。当社のWEBサイトは年間で2万ビュー程度なので、ざっと60年分ほどを稼いでくれていることになります。

桐本:そうですね、現時点で、当社のサイトへのアクセスはそれほど多くありませんので、全く違うと感じています。

古川:アクセスが多いことがお客様の信頼にも繋がっています。その結果、オープンソースコミュニティに貢献している企業というイメージができ、ブランディング面でも役立ちました。

――MIERUNEのWEBサイトにはQiitaに投稿していることが記されており、社員紹介にはGitHubやTwitterのアイコンがつけられていて、御社が交流を大切にしていることがわかります。Qiitaでの交流をブランディングに繋げる狙いもあるのでしょうか?

古川:それもあります。やはり「DevRel(デブレル)」的観点から見てもそうですね。あまり国内ではいわれていませんが、海外では重要視されてきました。Qiitaなどで技術情報を共有することで業界の底上げにもなり、自分たちは発信しているから、さらに頑張らなければならないという流れもできます。当社のメンバーもそこを理解していて、オープンソースコミュニティにもっと貢献しようという空気ができてきました。

Qiita Organizationに記した内容そのものが案件化するケースも

――Qiita Organizationの導入後、利用を促進するような取り組みはしましたか?

古川:そこが難しいところですね。一般に「技術ブログを会社からオーダーする問題」があると思いますが、「書いてくれたら嬉しいな」くらいで、プレッシャーをかけないようにしています。変にKPIを立ててしまうと、魂が入らなくなってしまう気がしているからです。ただ、その一方であまり書けていない社員もいるので、そこをどう楽しくプッシュするかは、今、考えている課題の1つになっています。

――最近は、アウトプット文化のある会社に入りたいというエンジニアも増えているようですね。

古川:やはり、技術者の方は入社前に、その会社がどんなカルチャーを持っているかは気になると思います。当社にはQiita Organizationを見て転職してきた社員が結構います。最初のスクリーニング段階でQiitaの記事を穴が開くほど読んで「この会社、面白そうだな」といって来てくださる方もいました。その意味で、オープンソースコミュニティへのアピールだけでなく、良い人材を得るためのアピールの面でもプラスになっていると感じています。

桐本:今、Qiita Organizationを見て応募した方と面談しています。位置情報はニッチなジャンルなので皆さん検索をしてQiitaで当社に当たり、もう1回検索してまた2回目に検索に当たるとこの会社やるな!「ピン」とくることがあるようです。この流れがカジュアル面談を受けるきっかけになることもあります。

古川:正直、転職サイトよりもQiitaの方が影響力は強い気がしています。開発を楽しんでやりたいと考えているエンジニアには、Qiita Organizationが一番刺さるやり方かもしれないと思いました。

――導入して、その他に効果があったと感じていることはありますか?

古川:ドキュメント化の練習になっていると思います。また、ニッチな分野をしっかり日本語で書くことがジャンルの開拓に繋がった効果もあります。また最近では、Qiita Organizationに記した内容そのものが案件化するケースも出てきました。

イベントは会社のアピールにもなる重要な場であると認識


――Qiita Advent CalendarやQiita Engineer Festaに参加する理由・目的として、どんなことを想定していますか?

古川:Qiita Advent Calendarは日替わりなので、「ふだん書けてない人でも書きやすいかな」と思い参加している一面があります。また、仲間が多い位置情報技術のコミュニティだけでなく、ふだん接触がない他分野のコミュニティに対しても、当社の名前を広めたいという気持ちもあります。極端な話、“道場破り”ではありませんが、「XXXXについて、位置情報と絡めてみるとどうでしょう」とか「今、こんなところで位置情報は利用されています」とアピールすることができる場と捉えています。

――“道場破り”というのは、他の技術との組み合わせをイベントで伝えていくイメージでしょうか?

古川:そうです。位置情報分野に特有なことかもしれません。例えば、PHPのところにPythonの人が入っていっても「それは混ざらないから」という反応になりそうです。言語と言語なので変な例え話ですが、位置という概念は言語選択とはレイヤーが異なり、時間と同様に各分野の共通の課題だったりします。このため「このライブラリ、言語で位置を扱うのはこうです」とか「このサービスで位置を扱うのはこうです」と位置を中心としたやりたいことが見つけやすく、アピールしやすいと感じています。

桐本:それは私も強く思います。個人でも位置情報とそれ以外のジャンルを組み合わせて、アドベントカレンダーに入れていくことをしていました。現在は会社でもやるようにしています。どんな業界でも位置情報を使うのでコラボレーションしやすいですね。そういった意味ではQiita Advent Calendarはアピールにもなる非常に重要なイベントだと思っています。

「Qiita Organizationはインプットとアウトプットの両方に使える」

――今後、新しい取り組みとして考えていることはありますか?

桐本:まず1つ大事なのが、継続することに意味があると思っています。先ほども出ていましたが、現在、当社のメンバー全員が投稿しているわけではなく、偏っている事実はもちろんありますが、他のメンバーも投稿できるような努力をして、Qiita Organizationを続けることが大事だと考えています。

やはり義務ではなく、自然に自分から投稿できることが大事だと思っています。なかなか難しい壁だと思っていますが、それを今後果たしていきたいですね。

古川:リアクションがあったら、すぐに社員たちにSlackなどで伝えてきました。そうすると「書いて良かった」と感じられると思います。先日、Qiita Engineer Festa 2022で1600組織中4位に入ることができましたが、これもお互いを祝い合うことができました。ここからどんどん2段ロケット、3段ロケットが繋がるように続けていきたいと思っています。

――どんな課題を持っている企業にQiita Organizationをお勧めしますか?

古川:当社が成功事例かはわかりませんが、開発ベースの会社や技術力はあってもアピールに上手く繋げられていない会社さんで、キラリと光る知識や経験技術があるなら、Qiita Organizationはとても良いプラットフォームだと思います。

最近、個人的にもとても良いアップデートだと感じたのは、Qiita Organizationで投稿するとき、Organization名義、個人名義のどちらで出すかを選べるようになったことです。人材流動化の時代に入ったこともあり、「この期間、ここに所属していました」というアピールができるような仕組みになり、個人の技術を個人のブランディングに役立てられるようになったのは良いことだと思います。

桐本:当社になかった部分でもありますし、これから変える必要がある部分ですが、4つあります。まず、1つ目が企業カルチャー作りに課題がある企業。2つ目が、チームワークに課題を持っている企業です。3つ目は、技術の底上げをしたい企業で、4つ目が特定の分野で尖がりたい企業だと思います。こういった企業が使うことで一気に知名度が伸びることがあると考えています。4つ目は私たちの課題でもありましたが、Qiita Organizationを利用することでかなり改善したと評価しています。

――最後に、読者にメッセージをお願いします。

古川:僕の好きな言葉は、以前、ラジオで聞いた週刊少年ジャンプの編集長されていた鳥嶋和彦氏が話していた「頭の中の”傑作”を早く世の中に出して”駄作”にしなさい」です。これはドキュメンテーションも同じで、やはり脳内では誰でも大傑作と思っていて、いざ文字にして言語化したり、開発して動かしてみると意外とそうでもないことが多いのです。ですから、まず出して、多くの人のレビューしていただいて、より傑作に近づけていくことが大切になります

技術においても同じです。もちろんNDAなどに配慮しつつもアウトプットすることで、とてもニッチな情報でも必ず誰かの助けにはなることがあるので恐れなくて良いと思います。個人で勉強していることでも書いて出すことは重要です。「書いて出すことは大事」というのは、Qiitaを使って私が得た大事な教訓になっています。

桐本:Qiita Organizationを書くことは誰かの助けになったり、自分が知ってもらいたいことを広げたりすることに繋がります。そして、それだけではなく、最終的に自分に返ってきて、自分の技術力の向上や経験の蓄えになるはずです。Qiita Organizationはインプットとアウトプットの両方に使える、非常に重要なサービスだと思います。

編集後記

株式会社MIERUNEは、オープンソースへの貢献と、自社の知名度向上、ブランディングの一環としてQiita Organizationを導入したことで、人材採用面などでもポジティブな結果が得られたそうです。真摯にアウトプットを継続することが良い結果に繋がったのだと実感できるインタビューでした。とくに、“道場破り”と古川氏が表現されていましたが、イベントは楽しいだけでなく、他分野、他業種とのコラボレーションなどを積極的に図る場としてもQiita Organizationが有効であるとわかりました。今後、イベントを見る際には企業間の交流面に注目したいと思います。

取材/文:神田 富士晴

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