インターネットコマースにおける決済システム Qiita x Stripe Meetup

2019年4月12日、Incrementsはインターネットビジネスのためのソフトウェアプラットフォームを提供するStripeと共催でMeetUpを開催しました。前半はIncrements代表取締役 CEO 海野弘成さんとStripe日本法人代表 ダニエル・へフェルナンさんがStripeの特徴を中心に対談しました。後半はStripe活用した企業2社が実際の導入や活用方法について解説し、最後にOpen Network LabからサービスについてLTで紹介いただきました。

Stripe ダニエル・へフェルナン × Increments 海野 弘成 対談
Webを加速させるCDNと開発を加速させるStripe 【レッドボックス/小川 勝久】
サービスは継続的な改善が肝 決済機能も聖域にしない 【はてな/脇坂 朝人】
企業を応援するOpen Network Lab 【Open Network Lab/佐藤 直紀】
最後に

Stripe ダニエル・へフェルナン × Increments 海野 弘成 対談


海野 弘成 / Increments株式会社 代表取締役
ダニエル・ヘフェルナン / ストライプジャパン株式会社 代表取締役


ダニエル・ヘフェルナン / ストライプジャパン株式会社 代表取締役


海野 弘成 / Increments株式会社 代表取締役

海野:Increments代表 海野です。Qiitaを運用しています。Qiita Teamという社内向けの情報共有サービスがあり、月額課金のサービスなので当初決済方法について悩んだりしました。エンジニア向けサービスや決済が必要なサービスについて話ができればと思います。

Daniel:Stripeのダニエル・へフェルナンです。Stripeは決済サービスを中心にインターネットのビジネスに必要なインフラを支援しています。

海野:Stripeの日本展開はいつからですか?

Daniel:僕が2014年5月入社で、その少し前に日本法人が設立しました。最初の1年は四畳半のマンションにいて、打ち合わせに困りました(笑)。1年後にはバックエンドシステム、銀行口座開設、振込自動化などが整い、1人目の社員採用と最初のユーザーを迎えました。

海野:Stripeの強みや特徴を教えてください。

Daniel:決済サービスがすぐ使えることです。StripeはWebからアカウントを開設したらすぐにAPIを使えるのがポイントです。

海野:僕はStripeのAPIドキュメントがオープンで、きれいな点がいいなと思いました。

Daniel:細かく見ればつっこみどころはありますよ。StripeのRubyドキュメントを見ると、いまだにハッシュロケットがあり、社内でも「古いね」と言っています。

海野:決済サービスとしての特徴や強みは?

Daniel:いろんなサービスを拡充してますが、継続課金向けStripe Billingが強みです。また、グローバルで統一したプラットフォームであることも強みです。海外進出すると、現地のカード会社との交渉や加盟店契約などを、最初からやらないといけません。しかしStripeなら統一したプラットフォームなので海外進出がスムーズです。

海野:Stripeと相性がいい業種や業態はありますか?

Daniel:新規事業と越境ビジネスです。日本から海外へ製品を輸出したり、旅行者などインバウンド向けビジネスなど、ドルやユーロで請求するようなところです。もちろんSaaSも相性がいいです。

海野:まだ日本発でグローバル展開しているSaaSは多くないですね。

Daniel:そこはすごく支援したいです。使いやすい決済インフラがあれば展開しやすくなると思います。

海野:月額課金ビジネスで独自に決済処理をするなら、ありがちなのが月次バッチ処理をcronで走らせるとか。途中で失敗してやり直すと、二重課金が生じることも。こういうのは最も怖いので、Stripeに任せられるなら魅力的です。

Daniel:Stripe Billingなら請求情報が変わったタイミングで通知すればいいです。例えばユーザー数で課金する場合、ユーザー数が変わったタイミングでAPIでインプットしてもらえば、後はStripeでロジックが走ります。

海野:うちも初期にそういう苦労を経験したので、すごくわかります。Stripeを導入している企業一覧をいただきました。結構広いですね。

Daniel:SaaSが多いですが、大企業のANAやKDDIも新規ビジネスで使っていただいてます。C2Cのマッチングプラットフォームでは、支払だけではなく銀行への振り込みもできるのが有利です。

海野:国をまたいでお金をいただくとか、いただいたお金を他のお客さんに支払うとか、自分でやるとなるとあまり想像したくないですね。

Daniel:越境となると通貨の組み合わせが増えるので決済は複雑になります。

海野:決済まわりだと、失敗した時の被害が大きいので怖いですね。Stripeは大企業で導入されており、クオリティやセキュリティがしっかりしていて信頼されているのだと思います。ちょっとテッキーな質問ですが、一時期ビットコイン決済も受け付けていたとか。びっくりしました。

Daniel:びっくりしたのはビットコインをやっていたことですか?やめたことですか?

海野:撤退した時にあったということを知ってびっくりしました(笑)

Daniel:そんなふうに驚いてくれる人が多くて、そこに理由があるのだと思います。Stripeは2014年に仮想通貨Stellarに出資するなど支援しています。ただ仮想通貨で価値が生まれるところとStripeはまだ適していません。またStripeではビットコインを保持したい人を想定していません。ビットコインを決済に使えるけど、ドルに転換するなどしていました。

海野:ドル建てが基本なのですね。

Daniel:そうです。すると、為替リスクを負うことになります。ビットコインのレートが短時間で変動すると、金額が変わるので取引をやり直すこともあります。すると手数料が生じてしまう為、Stripeの決済に適していませんでした。当初はビットコインの選択肢があってもいいと思いましたが、まだ普通の銀行のほうが早くて安いです。かつ利用している人が少ないので、いったん撤退しました。しかしStellarも含め、早くて安く、普及したものがあれば対応していこうと思います。

海野:楽しみにしています。先ほどは相性のよいシステムを聞きましたが、逆に不向きな業種やサービスはありますか?

Daniel:さっき話した内容に当てはまらないところ、全部です。安定稼働している既存システムがあり、新しいシステムや新しい事業を作る必要がないなら、そのままがいいでしょう。

海野:新しく立ち上げるところならいいのですね。

Daniel:大規模システムからの移行もあります。移行なら規模によらず、何か理由があります。システムを改善したい、新しいインフラに移行したい、海外展開したいなど。

海野:相性のよくないビジネスモデルや料金体系はありますか?

Daniel:前はありました。Stripe Billingになる前だと、従量課金の処理に制限がありましたが、今では改善しています。

海野:ほかには?

Daniel:多通貨決済で、外貨で請求する時に日本円での請求金額を知りたいという要望がありました。例えば請求金額が100ドルの時、為替レートが変動するので日本円でいくらになるのか保証できません。為替リスクをヘッジするシステムがほしいということなのだと思いますが、現時点では消費者の利便性と為替リスクのトレードオフになります。

海野:サービス事業者としての判断になりますね。日本における考慮点などありますか?

Daniel:明細に表示する文字列となるstatement_descriptorというパラメーターがあります。日本はローマ字のほか漢字やかなが使えますが、気づきにくいかと。

海野:ここからは会場から質問を受け付けます。

会場:エスクロー決済に対応する予定はありますか?Stripe Connectを使おうと思うのですが。

Daniel:Connect Customならできます。入金スケジュールをマニュアルにすれば、そこで一旦止まりますので。

会場:クレジットカードがプリペイドかどうか判断する方法はありますか?残高不足で決済できなくなるケースがあるので。

Daniel:カードのオブジェクトにfundingというパラメーターがあり、クレジット、デビット、プリペイドか判断できます。ただしプリペイドカードだけど、銀行口座に紐づいていて実質的にはデビットカードという場合があるので気をつける必要があります。Stripe Radarを使うとプリペイドカードを拒否する設定もありますので、ご検討ください。

会場:台湾進出に期待しています。

Daniel:わかりました。優先順位は高いけど規制が厳しい国です。期待していただいて大丈夫です。時間の問題なだけです。

会場:仮想通貨が普及したら再開とのことですが、何があれば普及したと判断しますか?

Daniel:鶏と卵のようなものですね。事業者側が取り扱いたいとしても、消費者が仮想通貨で払いたいと思わなければ成立しません。判断軸として、お客様からの問い合わせ件数は大きいと思います。現時点では「ビットコインを扱いたい」という要望は日本では年に2〜3件くらいです。

会場:PayPalと比較したときの強みは?

Daniel:PayPalもStripeも、設立時の技術を最大限に活用しています。PayPalができた当時はリダイレクトしかありませんでした。StripeはGoogleマップができた頃で、Ajaxが出ていました。そのためリダイレクトなしでJavaScriptを埋め込み、カード情報を直接Stripeに飛ばし、トークンが返ってきて決済ができます。より新しい技術を活かしてサービスを提供しているところはエンジニアから見て差があるところだと思います。一方、PayPalは対応国が多いという利点があります。越境ECをしているサイトはPayPalとStripeの両方に対応したほうがいいこともあります。

会場:Stripe Connectを使っています。ユーザーから入力項目が多いと指摘されているので、減らしていただければありがたいです。

Daniel:アメリカではPayee(送金先)という概念もあり、項目を減らすこともできますが、日本だと各アカウントがMerchant(事業者)という位置づけとなっているため項目が増えてしまう傾向にあります。

Webを加速させるCDNと開発を加速させるStripe 【レッドボックス/小川 勝久】

小川 勝久 / 合同会社レッドボックス CEO

レッドボックス CEO 小川 勝久です。定額のCDNサービスを作っています。CDNはユーザーから最も近い場所からコンテンツを配信し、負荷分散やWeb高速化します。ソーシャルゲーム、動画配信、電子書籍、ECサイトなどで使われています。

CDNサービスをリリース直後は請求書支払にしていたのですが、ミニマムの売上が80円で、請求書を出す工数のほうが高くついてしまいました。サービスに合わせて請求方法を考えるべきでした。

その後Stripeに出会い、フリーミアムなCDN「Rapid START」の提供を開始しました。無料だと配信ロケーションが限定されますが、ユーザーの9割が選択しています。フリーミアムだと無料ユーザーを抱えて運営する資金や体力が必要になるので、コストをいかにセーブするかが重要になります。

Stripeを選んだ理由の1つに、2.45億ドルの資金調達するなど圧倒的な規模感(体力)があります。決済サービスで終了したところもありますが、そうなるとシステム作り直しで工数がかかるため致命的です。

実装のイメージがわきやすいのも利点です。StripeはAPIドキュメントが充実しているため、コピペで結果を確認しながら開発を進められます。Product demosにサンプルコードや正解があるので参考にしてください。

Rapid STARTでは、サブスクリプション(定期支払い)、差額調整、クーポン適用でStripeを利用しています。サブスクリプションではStripeで顧客を作成しておけば、毎月定額で課金してくれます。差額調整はプランのアップグレードやダウングレードなどに対応します。クーポンはStripeでクーポンを作成しておいて、それをAPIコールして適用します。こちら側はクーポンコードを生成と有効性管理をするだけなのでお手軽です。

サブスクリプションビジネスで考慮すべきこととして、カード情報の有効性があります。登録時にはStripeで即時チェックできます。契約期間中に無効になった場合、Stripeが自動でリトライ処理を行い、それでもダメなら事業者に通知されます。

レッドボックスでは今後、次世代WAFを計画しており、事前登録を開始しています。ぜひ登録して、ご意見をください。
CDNはWebを加速させます。Stripeは開発を加速させます。どうもありがとうございました。

当日の投影スライドは以下からご覧いただけます。

サービスは継続的な改善が肝 決済機能も聖域にしない 【はてな/脇坂 朝人】

脇坂 朝人 / 株式会社はてな

はてなのアプリケーションエンジニア、脇坂 朝人です。Mackerelの開発チームで2018年5月からテックリードのポジションで仕事をしています。2019年2月から決済にStripeを使うようになりました。

Mackerelは「エンジニアをワクワクさせる直感的サーバー監視サービス」です。ユーザーさんのサーバーにエージェントを入れると情報がMackerelに送られ、アラート通知や監視ができるようになります。2014年リリースで、新機能を継続的にリリースしています。無料でも利用可能ですが、全ての機能を利用するには有料プランの契約が必要です。

現在はStripe経由でクレジットカード決済していますが、実はサービスローンチしてから決済サービスは3社目です。2014年にサービスローンチした時点でStripeは有力候補でしたが、まだ日本円で決済できなかったため断念しました。しかし最初に採用した決済サービスが終了となり、JCB決済を使いたかったため2社目も別の決済サービスを選びました。移行から1年半、遂にStripeがJCB決済に対応すると聞き、将来性や信頼性を鑑みて、Stripeに移行することにしました。

決済サービス移行時に何をするかは、身も蓋もないですが、詳しくはStripeのドキュメントを参考にしてください。
昨年の移行時は英語のみでしたが、今では日本語もあります。ここではざっくりと要点だけ話します。

契約レイヤの話もありますが、移行時の作業はまず新サービスに決済ロジックを実装し、次に顧客データを事業者間で移行します。加えて社内向けレポーティングの再構築も必要になります。

エンドユーザー向けの機能移行はプリミティブな機能で実現していたため、サービス間の仕様の違いに遭遇することはなく、ほとんど困りませんでした。また移行が2度目で、複数の決済サービスを同時に扱う下地もありました。

顧客データの移行は決済サービス事業者間でデータを移行します。ここで顧客IDが新たに割り振られるため、新旧のマッピングが必要になります。StripeからJSON形式でマッピングのデータが提供されるため、ここから我々のデータベースに反映します。

移行後、初めての月次バッチはパソコンの前ではらはらしながら見守っていた記憶があります。

大事なのはバックオフィスとの連携です。決済事業者が変わると売上や入金のサイクルが変わります。その落差も踏まえてバックオフィスと調整してレポーティングを再設計しました。けっこう骨が折れましたが、移行は整理の好機ととらえるといいと思っています。ビジネスや経理の要件を踏まえ、移行後のサービスで自然に実現できる形にするのがいいのではないでしょうか。なお弊社のレポートは売上が立った時に何月に入金予定か記録し、入金があった時はいつの売上分かレポートを作成し、これらを消し込むことで入金確認を行います。

現時点ではこのような状況ですが、今後はリッチなソリューションにも興味があり、カード情報を入れられるStripe Elementsに移行しているところです。

あらためて振り返ると、Mackerelはパッケージではなくサービスなので、継続的にサービスを改善していくのが肝です。決済機能も聖域にせず改善を続け、エンドユーザーだけではなく社内のビジネスチームのニーズにも応えていこうと考えています。

Stripeのユーザーとしては豊富な機能や改善の恩恵を受けており、今後のますますのパワーアップに期待してます。

当日の投影スライドは以下からご覧いただけます。

スタートアップを応援するOpen Network Lab 【Open Network Lab/佐藤 直紀】

佐藤 直紀 / Open Network Lab

これまでとはベクトルが違いますが、スタートアップを支援するシードアクセラレーターのオープンネットワークラボについて説明させていただきます。

Open Network Labの運営母体はデジタルガレージグループで、日本で初めて商用ホームページを開設したり、Twitterに投資をして日本のローカライズするなどインキュベーションを通じて様々なサービスを提案するのが得意な会社です。

2010年にアクセラレーターのプログラムを開始しました。8年間の実績や104社、10%がEXITしています。エンジニア出身の創業者も毎回数社います。例えばコードレビューを自動化するsider、たこ焼きを自動で作るロボットを作るコネクテッドロボティクス、クラウドの管理ツールのMobingiも卒業生です。

支援はメンタリングや資金調達などがあります。メンターにはデジタルガレージグループの創業者であり、現在ではMITメディアラボの所長 伊藤穰一さんはじめ、国内外の経営者、著名なVCの方がいます。事務局にもスタートアップに詳しい担当者が併走するので、疑問点はすぐに聞くことができます。

資金調達は最初に最高1,000万円から、その後もデジタルガレージグループのベンチャーキャピタルから追加で調達もできます。またデジタルガレージの施設をご利用いただけます。

プログラム参加特典として、Qiita TeamやStripe、他にもSmartHRやAWSなど、スタートアップが定番で使うサービスをお得な条件で使えます。イベントも多く開催しており、卒業生向け勉強会も開催しています。

プログラム終了後のアンケートで「知人やスタートアップ起業準備中の方にこのプログラムを勧めますか」という設問には10段階で9.4と、高い評価をいただいています。

5月27日まで、19期目のバッチ参加者を募集しています。ご興味があればぜひご応募ください。ホームページから気軽に事業相談会を申し込むことも可能です。どうぞよろしくお願いいたします。

最後に

今回は約1年ぶりのQiita Meetupとなりました。いかがでしたでしょうか。サブスクリプションビジネスやグローバル展開が普及し、決済の仕組みが複雑化するなか、Stripeの決済サービスは柔軟かつ信頼性が高くて頼りになりそうですね。今後もまたエンジニアの皆さんが知見を広めることができるようなイベントを開催できればと思っております。またお目にかかる日を楽しみにしています!

Stripeはこちらから

取材/文:加山 恵美

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