課題の発掘から運用定着まで、SOMPOのデータサイエンティストが担う役割

―― まず、堂面さんが所属する「デジタル・データ戦略部」について教えてください。
堂面:私たちデジタル・データ戦略部は、「SOMPO Digital Lab」というグループ全体のDXや新規事業創出などを専門的に担う組織の東京拠点になります。SOMPOホールディングスは、「“安心・安全・健康”であふれる未来へ」というパーパスのもと、国内外の損害保険事業や生命保険事業、介護事業など、人々の健康で豊かな生活に向けた様々なビジネスを展開しています。それらの事業活動に集中できるように、ビジネスユニット(以下、事業部門)が抱える課題を解決していくことを、組織のミッションとしています。
―― 堂面さんは、どのようなことを担当されているのでしょうか?
堂面:私はグループ内のデータ活用案件を発掘するところから入り、要件整理、分析、施策立案、実行支援を担当します。いきなり全体へ展開するのが難しい施策であれば、小さく始めて効果を検証し、成果が見えた段階で範囲を広げます。その進め方を事業部門の方々と議論しながらリードすることも役割の一つです。
―― 「小さく始める」とは、具体的にどうするのでしょうか?
堂面:例えば代理店さまからのお問い合わせ履歴を基にFAQを改善する場合、分析によって作成したFAQを、まずは一部の代理店さまへ提供し、本当に使いやすいかをヒアリングしながら効果を見ていきます。お問い合わせ件数が減るなどの具体的な成果が確認できれば、対象を広げても機能しそうだと判断できます。全国展開するか、段階的に広げるかを事業部門と一緒に考えていきます。
―― データサイエンティストは、分析して示唆を渡したところで区切るイメージもあります。その先まで関わるのですね。
堂面:分析は手段の1つであると私は捉えています。データから事業部門だけでは出てこなかった発想や新しい見方を提示することは腕の見せどころです。ただし、分析結果の共有だけで終わらず、その結果からどのような判断をしてほしいかまでをしっかりと整えて示し、効果検証を経て、データを扱うパイプラインの構築やダッシュボード提供などにより運用に乗せ、最終的に事業部門の皆さんが自分たちで継続的に回せる状態までやり切ることが大事だと考えています。「業務効率が上がった」「新しいことができた」と相対する事業部門の方から聞けると、取り組んで良かったと素直に思います。
深く掘る研究から、技術を組み合わせて課題を解く面白さへ

―― 具体的なプロジェクトの話を伺う前に、まず、学生時代に取り組んでいたことから教えてください。現在のデータ分析につながる研究をしていたのでしょうか?
堂面:大学では情報工学を専攻していましたが、データ分析よりもソフトウェアをどう作るかに関心がありました。小さなマイコン(マイクロコンピュータ)を使い、天井の照明から信号を送って通信したり、その通信を通じてマイコンのプログラムを書き換えたりする研究です。当時はデータ分析はほとんどしていませんでしたね。
―― 大学卒業後は通信キャリアに就職し、データ分析を担当するようになったと伺いました。どんな経緯だったのでしょう?
堂面:面談で「技術に携われるところが良い」と希望したところ、位置情報系のデータ分析を行うチームに配属されたことがきっかけです。そこからPythonなどを本格的に書きはじめ、位置情報を軸とした人口分布の可視化や、大量の元データを高速に処理する分析基盤の研究開発に携わりました。また、自社と異業種の会社が持つデータを安全に結合し、統計データを出すためのプライバシー保護技術についても研究を進めていきました。
―― 研究以外にも、学生時代に技術で何かを作る機会はありましたか?
堂面:ハッカソンにも参加していました。ハッカソンでは、実現したいものや解決したい課題が最初にあります。技術そのものを深掘りするより、既存技術や自分が知っているものを組み合わせ、どうアプローチするかを考える場面が多いんです。横方向に技術を見渡し、組み合わせがうまくハマると課題がきれいに解けるところに面白さを感じていました。パズルを組み立てるような感覚ですね。
―― 現在の仕事にも、その感覚はつながっていますか?
堂面:はい。デジタル・データ戦略部では、PoC(Proof of Concept)案件も多く扱っています。そこでは1つの技術を深掘りしつづけるより、今ある技術でまずはシンプルに課題解決できないかと考えるため、技術を横方向に広く見る機会が多いです。
―― 前職の研究開発は、どれほどの規模の仕事だったのでしょうか?
堂面:前職では社会的影響が大きく、技術検討の時間も長い研究開発に従事していました。最短でも1年かけて技術検討を行い、その後にPoC、そこで効果が検証できればようやく商用化、というような流れでした。実際に形になるとプレスリリースで発表したり、ビジネスメディアに記事にしていただいたりしました。
―― 社会への影響が大きな環境だったのですね。その中で、SOMPOホールディングスへの転職を考えた理由を教えてください。
堂面:研究の時間軸が長くなるほど、自分の仕事が具体的に誰へ届くのかを、当時の私は捉えにくいと感じていました。
もっと短いタイムスパンで、自分の親や身近な人にも届く仕事に取り組みたい。そう考えたとき、保険や介護など、人々の生活に深く根ざした事業を多数展開しているSOMPOホールディングスの存在が目に留まりました。成果を届ける相手が見えやすいことが、入社を決めた大きな理由ですね。
事業部門が動けるところまで伴走する存在

―― 今はどんなプロジェクトに入っているのでしょうか?
堂面:現在はグループの生命保険会社のプロジェクトに携わり、情報システム部門やコールセンターを統括する部門と連携しています。当部からはビジネス企画職の担当者も参画し、コールセンター部門とKPI設計やプロジェクトの計画策定を担っています。私は主に技術領域全般に携わり、情報システム部門のプロジェクトリーダーとともに分析からシステム開発までを担当しています。
特に、LLMを用いた分析からシステム開発、人を含む運用まで一気通貫で見られる人は多くありません。私自身も現場をすべて知っているわけではないので、利用フローや業務における位置付けなどの全体像を描くことで、システム構成を検討していきます。「この仕組みは実際のオペレーションでは使えない」などの声を聞き、分析のアウトプットがシステムを通して現場へ戻る流れを一緒に設計しています。自分1人では解けないからこそ、多くの学びがあります。
―― ホールディングスから事業会社の現場となると、なにかと距離を感じることもあるのではないかと感じます。そこの難しさなどはいかがでしょうか?
堂面:おっしゃる通り、離れたところから見ているだけだと、現場の仕事のやり方がなぜそうなっているのか分からないことがあります。しかし丁寧にヒアリングを進めていくことで、その運用が、現場の事情に合わせて合理的に組み立てられていることが分かります。どのような運用も、それが生まれた理由があるわけで、背景を知らずに外から一方的にその仕組みを剥がそうとしても、ハレーションが起きてしまいます。
だからこそ、データサイエンティストだけが知る専門用語で一方的に説明するのではなく、聞き込みを重ねることで事業部門が普段使う言葉で一緒に課題を語り、どう解いていくかのストーリーを一緒に作っていくことを心がけています。事業部門の方自身が自分の言葉で語れるようになると、課題を自分ごととして捉え、「これをやっていくぞ」と考えやすくなると思っています。
―― 「あなたたちの課題はこれだから、こうすれば良い」と答えを渡すのではないということですね。
堂面:同じ言葉で課題を語り、「一緒に解きましょう。実際に現場で解決していく皆さんを、私たちがサポートします」という関係を作ることが、プロジェクトを成功させる要因の1つだと思います。
―― 技術面は堂面さんがすべて実装するのでしょうか?部内の役割分担も教えてください。
堂面:本格的なシステムであれば、ソフトウェア、アプリケーション、インフラの各エンジニアやデザイナーがいるチームと連携することもありますし、外部のベンダーさんにご支援いただくこともあります。一方で、モデル構築や運用のためのデータパイプライン構築など、自分のケイパビリティで対応できるものは自身で実装します。同じチームの中にデータエンジニアもいるので、自分の領域を越える部分は得意な人へ相談し、連携しています。
「仕事の半分は落穂拾い」。必要なピースを見つけ、判断を残す

―― お話を伺っていると、データサイエンティストという職種の枠を越えて動いている印象です。プロジェクトの中では、どのような立ち位置で動かれることが多いのでしょうか?
堂面:技術色の強いプロジェクトではデータサイエンティストがPM的な立場を担うこともありますし、規模の大きいプロジェクトではビジネス企画職がPMを担うこともあります。プロジェクトの成功に向けて、自身の立場に拘らず「必要だと思うことは全部やる」という気持ちです。プロジェクトでは、誰も拾っていないボールが発生するものです。そのままでは後で大きな問題になるかもしれないので、積極的に拾い、早い段階で処理するようにしています。感覚としては、仕事の半分くらいは良い意味で 「落穂拾い」ですね(笑)
―― どのように身につけたのでしょうか?
堂面:前職を含めて研究開発から商用開発まで経験する中で、失敗しながら学びました。責任分界点の間に落ちている仕事を見逃していたり、先々で課題になりそうな制約条件を誰も事前にケアしていなかったりなどの小さな落とし穴によって、リソース計画やリスクコントロールに支障をきたし、プロジェクト完遂のためのリカバリーに苦労しました。
このような経験から教訓を得て、「必要なピースを整理して、全体像を組み立てる」ことを意識し、各ピースが全体へどう貢献するのか、「何をやるのか」「なぜやるのか」「どんなアプローチがあるのか」を明確にし、選択した理由と妥当性まで説明できる状態にしています。
―― 選択肢の取捨選択や判断基準を、どう整理していますか?
堂面:システム開発で使われる「ADR(Architecture Decision Record)」の考え方を流用しています。ADRで記載する主要項目である、判断を迫られた背景、取り得る選択肢、採用した選択肢の妥当性、その決定の影響、他の技術を選ばなかった影響もドキュメントへ残すようにしています。判断基準は要件によって異なり、コスト、スピード、性能や可用性などの中から何を重視し、どのようなトレードオフを選んだのかを検証できる状態にしています。
―― 生成AIやLLMの進化は、業務にどのような影響を与えているでしょう?
堂面:当社は積極的なAI活用を推進しておりまして、私が携わるデータサイエンス業務の中でも生成AIを利用しています。一例として、クラスタリング後に各クラスターの特徴を判断し、ラベルを付けたり要約したりする作業でLLMを利用したり、検証するためのコードを生成して仮説検証の回数を増やしたりすることに役立てています。
―― AI活用に伴う「難しさ」についてはいかがでしょうか?
堂面:LLMを動かすにもトークンコストがかかるので、費用を見ながら成果をどう最大化するかが難しいところです。最初の仮説がある程度筋の良いものでなければ、コストだけが積み上がり、成果が出ないこともあります。PoCから実際に本番開発を実施していく段階で、運用コストと利益のバランスが取れているのかはより検討する必要があると感じています。
多様な事業のデータに触れ、学びを現場で生かす

―― SOMPOホールディングスでデータを生業とすることの魅力について教えてください。
堂面:損害保険、生命保険、介護ではデータの特性がまったく異なり、アプローチする相手も変わるので、多様なドメインの課題とデータに向き合えることが面白いですね。契約や会計情報のような構造化データだけでなく、お客さまからのお問い合わせのような非構造化データも豊富にあります。まだ分析できていないデータが大量に眠っており、それらを事業へ生かせる余地も大きいと感じています。
―― 自分が挑戦したい案件を選ぶ余地もあるのでしょうか?
堂面:上長へ「こういう仕事をやってみたい」と伝えておくと、関連する案件を任せてもらえることがあります。私は位置情報を強みにしてきたので、「位置情報系の案件があれば担当したい」と日頃から話しています。希望を伝えることで、自分の経験を生かす機会へとつなげられる環境だと思います。
―― デジタルにまつわる広い領域を担うにあたって、技術のキャッチアップはどう続けているのでしょうか?
堂面:トレンドを把握しておくことは大事なので新技術のリリースにはひと通り目を通しますが、当然、すべてを細かく読むことはできません。だからこそ、「この技術で何ができるのか」「何に注意すべきか」というポイントを押さえ、必要なときに深く調べられる状態を作るようにしています。
チームではデータサイエンティストとデータエンジニアが合同で、月1回ほど勉強会を開いています。そこでの情報共有も大事な情報源になります。また日常的には、各自が気になった情報を投稿するチャットチャンネルもあり、そこで気軽に相談できるようになっています。
―― 学習を支える制度についても教えてください。
堂面:年間10万円まで利用できる部門独自の自己成長支援制度があり、業務に関連する書籍の購入や資格試験の受験費用、語学学習などに使えます。私の場合、プライバシー保護技術に関する知見を深めていきたいので、個人情報保護法など法律関係の書籍を購入し、学んだ内容を勉強会でチームへと還元するようにしています。法律関係の書籍は少し値が張るものもあるので、会社に支援してもらえるのはありがたいですね。
―― プライバシー保護の知識は、現在の仕事でどう生きていますか?
堂面:PoCで素早く作って現場に届けようとすると、プライバシー保護やセキュリティの視点が抜け落ちやすくなります。個人情報に関わるデータ同士を安易にひも付けない、必要に応じてシステムや物理的な環境を分けるといった制約を、早い段階で考えることが重要です。PoCでリスクと対策を整理しておけば、本番開発で一から悩まずに済み、リリースまでの速度も上げられます。
技術的にできるからといって、何でもひも付けて良いわけではありません。作る側にとっては便利でも、自分が利用者だったらどう感じるかと考えるようにしています。法制度が作られるのは社会からの要請があるからだと思っているので、今後も個人情報保護をサービスやシステムへ上手く組み込むことに挑戦したいと考えています。
生成AI時代に求められるのは、事業の課題を見つけて、実際に動かす力

―― 生成AIの活用が進む中で、データサイエンティストやデータエンジニアには、どのような力が求められると考えていますか?
堂面:要件が決まった後に、指示されたものを作る、決められた分析を行うだけの役割は、今後縮小するのではないかと考えています。データサイエンティストならドメインへ深く入り込んで事業の課題を整理し、データ活用によってどのように課題解決へ繋げるかの道筋をデザインして結果を事業のアクションへ還元する人、データエンジニアなら生成AIを活用する基盤や基盤の上でAI Readyなデータを管理・整備できる人。そこまで動ける人が、今後さらに求められていくと思います。
―― 今後、SOMPOホールディングスで実現したいことを教えてください。
堂面:保険や介護は、身近な人を対象とする事業です。これからも身近な人の困りごとに着目し、解決できるサービスやプロダクトやビジネスに携わりたいと考えています。領域を狭く決めず、これまで身につけた技術や視点、経験を、その時々で必要な形で使い、世の中へと還元できたら嬉しいです。
―― データサイエンティストという職種へのこだわりはありますか?
堂面:正直、あまりこだわりはありません。現在のロールにはたまたま「データサイエンティスト」という名前が付いていますが、課題を解くために必要なら、データ分析にとどまらず、エンジニアリングやプロジェクト推進、プライバシー保護設計の検討など、自分の領域を狭めずに関わりたいと思います。
―― ありがとうございます。それでは最後に、Qiita読者へのメッセージをお願いします。
堂面:私たちデジタル・データ戦略部では約7割が中途入社で、メンバーのバックグラウンドも様々です。プロジェクトを組むたびに、異なる経験や視点を持つ仲間からの刺激があることも、当社業務の面白さだと感じています。
技術を生かして事業課題に深く入り込み、身近な人や社会に価値を届けたい方には、やりがいのある環境だと思います。少しでも興味を持ってくださった方と、ぜひ一緒に働けたら嬉しいです。
編集後記
「私の仕事の半分くらいは落穂拾い」という堂面さんの言葉が、取材後も強く残りました。雑務を引き受けるという話ではなく、全体像を見渡し、将来の問題になり得る小さな欠落を先回りして拾う。その姿勢に、技術を現場の成果へとつなげる仕事の本質を感じました。生成AIによって技術的な手数を増やすことができる時代だからこそ、目的を定め、意思決定の理由を残し、人が動けるところまで伴走する力の価値は、いっそう高まるのだと感じました。
取材/文:長岡 武司
撮影:法本 瞳
提供:SOMPOホールディングス株式会社

