「組織改善にダイレクトに関われるから面白い」ゆめみが語るコーポレートエンジニアの魅力〜Qiita Conference 2022イベントレポート
2022年6月23~24日、エンジニアとして活動している方を対象にしたオンラインイベント「Qiita Conference 2022」が開催されました。こちらは、“ソフトウェア開発に関わる人々の、新たなきっかけを創出する”をコンセプトとした、Qiitaが主催したものとなります。
DXやシステム内製化の機運が高まるにつれ「コーポレートエンジニア」の重要性が高まっています。具体的にコーポレートエンジニアはどのような業務を行い、どのようなやりがいがあるのでしょうか。「Qiita Conference 2022」では、システムの内製化を支援する株式会社ゆめみのコーポレートエンジニアである竹下氏が、「コーポレートエンジニアが作る働きやすい組織」と題して、日常の業務やコーポレートエンジニアの魅力などを明かしました。今回はその模様をダイジェストでお伝えします。
※本レポートでは、当日のセッショントーク内容の中からポイントとなる部分等を抽出して再編集しています。
登壇者情報
働きやすさの改善は技術者の出番
冒頭で竹下氏は「社員にとって働きやすい環境とは何でしょうか?」と問いかけました。それに対する答えとして、「待遇が良い」「社内の風通しが良い」「福利厚生が充実している」「自動化で無駄な処理をしなくていい」「ツールを導入している」といった例を挙げます。
ほかにも竹下氏は、「働きやすさをITの力で改善することは可能か」という問いを投げかけました。Slackなどのコミュニケーションツールを活用すれば、社内の風通しを良くできそうです。福利厚生については、社内サービスを充実すれば改善できるかもしれません。自動化やツールの導入はどうでしょう。これこそがまさにコーポレートエンジニアなどの技術者の出番です。
ゆめみではこうした取り組みをすでに進めており、労働環境を改善しています。
「作ること」に特化したコーポレートエンジニア
竹下氏は、コーポレートエンジニアを「組織の問題解決のためにシステムを内製・運用するエンジニア」と定義しています。その業務はシステムの要件定義に始まり設計・実装まで行います。その後も、社内で使ってもらい、ユーザーのフィードバックからシステムの課題点が見えてくるので順次改善していきます。これがコーポレートエンジニアの仕事だと竹下氏は言います。
こうした業務は、一見すると情報システム部と同じだと思うかもしれません。ですが、ゆめみではコーポレートエンジニアは明確に異なる存在だと竹下氏は言います。
例えば、社員に貸与するPCのセットアップやネットワーク管理、Slackのアカウント発行といった業務は、情報システム部が担当しています。一方、コーポレートエンジニアは「作ること」に特化したチームであり、社内向けのWebアプリやSlack Botなどを開発しています。また、既に提供しているサービスのメンテナンスや機能追加のほか、利用者の声を収集するためにSlackの巡回を行っているそうです。
ゆめみならではの3つの制度
そもそもゆめみとはどんな会社なのでしょうか。設立は2000年で従業員数は300人ほど。インターネットサービスの企画、開発、制作、運用支援といった事業を手がけており、「お客さんと一緒にシステムを作ることが、ゆめみの仕事です」と竹下氏は説明します。
同社には、面白い制度や特徴がたくさんあります。竹下氏は、このうちコーポレートエンジニアと関わりの強い3つの特色を紹介しました。
1. フルリモート・フルフレックス
ゆめみではコロナ禍をきっかけに、バックオフィス部門の一部を除いて全社員が定常的にリモートワークで働くようになりました。この方針は、コロナ収束後も継続する予定だと言います。そして特徴的なのが「コアタイムなし」「欠勤控除なし」のフルフレックス制度を採用していることです。深夜労働時間帯の夜10時から朝5時を除けば、いつ働いても良いとされ、フルタイム勤務と同じ成果が出せるのなら労働時間も自由です。
2. OJT チャンネル
ゆめみではOJTを目的として、個人ごとにSlackチャンネルを用意しています。学びのアウトプットや抱いている不安感など、社員が何でも発信できる場であり、社内ではTwitterのような位置づけだと言います。
例えば竹下氏は、Slackチャンネルに子どものために折り紙を折った話を投稿したことがありました。そのほかにも、記事サイトのスクラップ機能としても活用していると言います。
3. 委員会
ゆめみでは組織をマネジメントする役職者を設けておらず、マネジメントは社員全員で分担しています。マネジメントなど通常の業務とは別に、業務改善、ブランディング、採用といった仕事も社員が分担しており、こういった業務をある程度のカテゴリーに分けた「委員会」を作っています。
例えば、勉強会を主催する「勉強会推進委員会」、アルバイトやインターンシップ生の受け入れ準備をする「育成委員会」、新しい技術を積極的に活用する「未来研究委員会」、アジャイル開発を推進・サポートする「アジャイルワンダーランド」などがあります。
コーポレートエンジニアが作った「働きやすさ」
ゆめみには他社にはない面白い制度が多くありますが、独自の制度を設けているがゆえに生まれる課題もあります。竹下氏は、そのうち「コミュニケーションの課題」、「勤怠管理の課題」、「稼働管理の課題」の3つをピックアップし、それらを解決するためにコーポレートエンジニアとしてどのように取り組んだのかを紹介しました。
1. コミュニケーションの課題
コミュニケーションの課題は、リモートワークゆえの課題とも言えます。ゆめみでは、対面でのコミュニケーションはほぼ無く、日常的な会話は基本的にSlackを使ったテキストで行っています。ZoomやDiscord、Slackハドルミーティングを使って、音声や動画でコミュニケーションを取ることはできますが、日常的にはあまり使われていません。
また、自社の従業員に一度も会ったことがない人もおり、2020年以降に入社した人はオフィスに行ったことすらないケースがほとんどだと言います。これでは相手のことをよく知る機会や雑談の機会が無いため、心理的安全性が下がってしまいます。
これらを解決するために、竹下氏らコーポレートエンジニアは、ピアボーナスサービス「Feedit」と自己開示ツール「チェックインBot」を作りました。
「Feedit」は、感謝やフィードバックを送るとポイントが付与される、Slackを使った仕組みです。メッセージをOJTチャンネルに投稿すると同時に、Amazonギフト券に交換可能なポイントが貯まります。社員の中には1か月に7000ポイント貯めた人もいるそうです。
社員同士が感謝し合うことで「存在意義や価値を感じる」「組織の生産性を向上させる」「ウェルビーイングを改善する」「心理的安全性が向上する」などの効果を期待できます。
なおFeeditは、誕生日にリアクションの分だけポイントが付与される機能や、特定スレッドに返信したらポイントがもらえる機能、リアクションによってポイントが貯まる機能が追加されています。
続いて、竹下氏は自己開示ツール「チェックインBot」を紹介しました。このツールでは、毎朝OJTチャンネルに「チェックイン?」とつぶやくと、それに反応してBotが起動します。Botは「いま気がかりなことは何ですか?それについてどう感じていますか?」といった簡単な問いかけをしてきます。これに答えると、予め設定された当選確率に基づいて1ポイントから1000ポイントまでランダムにポイントが付与されます。
チェックインBotの価値は、OJTチャンネルで自己開示の機会をつくることにあります。自分のことをほかの社員に知ってもらう機会を通じて、心理的安全性や安心感の向上が見込めます。また、質問を通じて自分の感情を振り返る機会となるため、メタ認知力が上がることも期待できます。
竹下氏は、チェックインBotの活用は「始業の儀式」としても効果があると言います。フルリモートで仕事をしていると、生活する場所と働く場所で代わり映えせず、なかなか仕事に集中できないケースもありますが、毎朝チェックインすることで気分を切り替えられるわけです。
2. 勤怠管理の課題
ゆめみの組織は「チーム」で構成されています。社員が所属するチームは1つに限られておらず、別のチームと関わりを持つこともできます。
それぞれのチームにはSlackの勤怠管理チャンネルがあり、社員は所属する各チャンネルに「今から仕事を始めます」「お昼ご飯を食べに行きます」といった報告をするのですが、それがとても面倒だという声が上がりました。さらに、フルリモート・フルフレックス制度を取り入れているため、誰が稼働中なのか分かりづらく、確認したい場合はその人が参加している勤怠チャンネルを見に行く必要がありました。
これらを解決するために開発したのが、勤怠管理API「Cheke」です。所属するSlackの勤怠チャンネルを登録しておくと、ボタンを1つ押すだけで各チャンネルに勤怠の連絡ができる仕組みです。これによって、所属するチャンネルごとに勤怠状況を報告する必要がなくなりました。
またWebビューでは、ユーザー名やチャンネルを絞り込んで、誰が仕事中なのか、誰が休みなのかを一覧で表示できます。PWA(Progressive Web Apps)化して、スマートフォンからでも使えるよう改良しました。
3. 複雑な稼働管理
ゆめみでは、委員会の仕事と案件の仕事でお金の出どころが異なるため、稼働管理を分けて行っています。また、時短勤務で月100時間程度働く人もいれば、法律に抵触しない範囲で最大限に働く人もいるわけです。そのため、稼働率100%=1人月とはなりません。
ゆめみは職種も多く、案件や委員会の仕事では本職以外の役割につくこともあるそうです。例えば、フロントエンドエンジニアとして働きながら、UIデザインを勉強し始めたことで、実務経験を積む目的でUIデザインの案件に参画するというものです。しかし、この制度も稼働管理を複雑にしている要因の1つでした。
そこでコーポレートエンジニアは、稼働管理システム「Guild」を作りました。これによって自分のチームメンバーが、どの案件に何月は何人月アサインされているのかが、ひと目で分かります。ほかにもチーム別・職種別の稼働計画、案件種別ごとの月別稼働レポート、リソース不足の可視化など、便利な機能がそろっています。
大半の従業員が「働きやすくなっている」と回答
改めて、コーポレートチームがもたらしたものを整理します。福利厚生を充実させるポイントサービス、コミュニケーション・自己開示の機会の創出、勤怠報告の自動化と、勤怠状況の確認および工数管理の簡易化です。
これらの取り組みによって、社員は働きやすさを実感できるようになったのでしょうか。社員の労働生産性は上がったのでしょうか。そこで、コーポレートエンジニアチームはサービスへの満足度についてアンケート調査を実施しました。
「組織に良い影響を与えているか?」という質問に対しては、「与えている」と答えた人数が全体の大多数を占めました。「全社的なリソース計画を俯瞰できるようになった」「いろんな案件に所属している場合、同時に勤怠連絡を伝えることができるため、リモートワークには必要なものだと思う」「コミュニケーションの質・量の向上に貢献している」「Feeditなどの社内向けツールが生産性向上に影響を与えている」といったコメントが寄せられました。
次に「ゆめみという組織に合っているか?」と尋ねたところ、「合っている」と感じている社員が多いことがわかりました。「柔軟な勤怠時間や稼働確保などの背景に、ほぼ合致している」「インセンティブを与えることでアクションの促進につながっている」「ゆめみだからこそ可能な活動をできている」といったコメントがある一方で、「既製のツールと比べればもちろん合っていると思うが、まだまだ改善の余地は多い」「組織構造とフィットしているかはよくわからない」といった声もありました。
そして「働きやすくなっているか?」という質問に対しては、「なっている」という回答が全体の大半を占めました。「新しい取り組みに果敢に挑戦していて楽しい」「実際に基幹業務の効率化が進んでおり不満もない」といった感想がある一方で、「ゆめみを改善しているとは言えるが働きやすさを改善しているのだろうか?」と、働きやすさとの結びつきについてはよく分からないとするコメントもありました。
そのほか「既存のSaaSと置き換え可能か?」という問いに関しては、「可能ではない」との回答が多く集まりました。「Slackに乗せたサービスを作ってくれるから、コスパが物凄く良いし、何でもSlackで完結できて楽」「ゆめみはけっこう特殊な組織なので、より組織の実態に合わせた社内ツールが必要だと思う」「カスタマイズ性を加味すると社内で内製したほうが良い」といった、内製に肯定的な意見が散見されました。しかし「おおよその部分で、SaaSではなし得ないことがあると思う。ただ一部はSaaSでも良かったのではないかと思うことはある」というコメントも寄せられました。
この調査結果に対して竹下氏は、「総合的には満足度が高そうです。コーポレートエンジニアの取り組みについて楽しいと感じている方、便利になったと感じている方は数多くいました。基本的には既存のサービスでは置き換えられない価値提供ができていると思います」と受け止めています。これは、社員の働きやすさを左右する要因のうち、いくつかはITの力で改善できることを示しています。
最後に竹下氏は、コーポレートエンジニアの魅力についてこう語ります。
「問題を発見し、解決に導くプロダクトを作ってフィードバックをもらえること、全ての工程を自分の裁量で行えることに楽しさを見出しています。また、自分で会社や組織を改善する経験ができるので、とても大きなことを成し遂げていると感じられます。何より感謝してもらえる点からも、コーポレートエンジニアはとてもやりがいを感じる仕事です」