はじめに
はじめまして、Orbitics株式会社データサイエンス部の上野です。
機械学習モデルを構築する上で、目的に合った適切なアルゴリズムを選択することは、その成否を大きく左右します。本記事では、予測AIモデルでよく用いられる主要なアルゴリズムについて、その概要と特徴、そしてどのようなデータや課題に適しているのかを一般知識も交えて詳しく解説します。
1. 機械学習アルゴリズム選択の重要性
機械学習プロジェクトにおいて、データの前処理や特徴量エンジニアリングがモデルの性能に大きく影響することは周知の事実です。しかし、その後のアルゴリズム選択もまた、予測精度やモデルの解釈性、計算コストに直結する重要な要素です。プロジェクトの目的、データの種類、規模などを考慮し、最適なアルゴリズムを見極めることが求められます。
2. 本記事で扱うアルゴリズムのスコープ
本記事では、予測AIでよく用いられる「教師あり学習」に焦点を当て、以下のアルゴリズムを中心に解説します。
- 線形回帰・ロジスティック回帰
- 決定木
- アンサンブル学習 (ランダムフォレスト、勾配ブースティング)
- Deep Learning (CNN, RNN, LSTM, Transformer)
3. 各アルゴリズムの詳細
3.1. 線形回帰とロジスティック回帰
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概要:
- 線形回帰: 連続値の目的変数を予測するためのアルゴリズムです。入力特徴量と目的変数の間に線形関係を仮定し、最もデータに当てはまる直線を学習します。
- ロジスティック回帰: 2値分類問題に用いられるアルゴリズムです。線形回帰の結果をシグモイド関数に通すことで、0から1の間の確率値を出力し、その確率に基づいてクラス分類を行います。
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特徴:
- シンプルで解釈性が高い。
- 計算コストが低い。
- パラメトリックなアルゴリズム(線形モデルなど)は、多重共線性によって係数の推定が不安定になり、解釈が困難になる可能性があります。標準誤差が増大し、統計的な有意性の判断を誤らせる可能性もあります。
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活用シーン:
- 特徴量と目的変数に線形関係がある場合。
- 解釈性が非常に重要視される場合。
3.2. 決定木 (Decision Tree)
- 概要: データをツリー構造で分割していくことで予測を行うアルゴリズムです。与えられた学習データから、予測精度が高くなるように最適な木の構造と各ノードでの分割条件を決定します。
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特徴:
- モデルの意思決定プロセスが視覚的に分かりやすく、解釈性が高い。
- 非線形な関係性も捉えることができる。
- 過学習しやすい傾向がある。
- カーディナリティ(取りうる値の種類)の高い特徴量を過大評価する傾向があるという問題が指摘されています。
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活用シーン:
- ルールベースの意思決定プロセスを可視化したい場合。
- 特徴量間の複雑な相互作用を捉えたい場合。
3.3. アンサンブル学習
複数の弱学習器を組み合わせることで、単一のモデルよりも高い予測性能を目指す手法です。
3.3.1. ランダムフォレスト (Random Forest)
- 概要: 多数の決定木を独立して学習させ、それらの予測結果を平均(回帰の場合)または多数決(分類の場合)することで最終予測を決定します。各決定木は、データのサブセットと特徴量のサブセットを用いて学習されます。
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特徴:
- 決定木の過学習を抑制し、汎化性能が高い。
- 並列処理が可能で、比較的学習が速い。
- 特徴量重要度を算出できる。
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活用シーン:
- 高い予測精度が求められる幅広いデータセット。
- 過学習を抑制したい場合。
3.3.2. 勾配ブースティング (Gradient Boosting)
- 概要: 複数の決定木を逐次的に学習させ、前の決定木の予測誤差を次の決定木が補正するように学習を進めるアンサンブル学習アルゴリズムです。代表的なライブラリとしてXGBoostやLightGBMがあります。
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特徴:
- 高い予測精度を達成しやすいことが知られています。
- LightGBMはXGBoostよりも処理速度が高速な傾向があるため、社内外で広く利用されています。
- モデルの学習に時間がかかる場合がある。
- 決定木ベースのアルゴリズムは多重共線性に対して比較的ロバストです。
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活用シーン:
- テーブル形式の構造化データに対する予測タスクで特に高い性能を発揮します。
- Kaggleなどのデータ分析コンペティションで頻繁に利用されます。
3.4. Deep Learning
- 概要: 多層のニューラルネットワークを用いて、データから階層的に特徴量を学習する手法です。
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特徴:
- 非構造化データ(画像、音声、テキストなど)からの特徴量抽出に優れます。
- 大規模データにおいて非常に高い精度を達成できる可能性があります。
- モデルの解釈が困難な「ブラックボックス」になりやすい。
- 大量のデータと高い計算リソースを必要とすることが多い。
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主なアルゴリズムと用途:
- CNN (Convolutional Neural Network): 主に画像認識や物体検出など、画像データに特化した特徴量学習に用いられます。
- RNN (Recurrent Neural Network) / LSTM (Long Short-Term Memory): 系列データ(時系列データ、自然言語など)の学習に適しており、時系列分析や自然言語処理に用いられます。
- Transformer: 従来のRNNが抱えていた、系列の初めの情報が失われやすい長距離依存性の学習困難や、逐次処理による並列計算の不可といった課題を解決するために、Attentionメカニズムを導入したモデルです。Attentionメカニズムは、系列内のどの要素が重要かを重み付けして捉えることで長距離の依存関係を効率的に学習することを可能にし、また、並列処理を可能にすることで学習速度を大幅に向上させました。過去の記事で取り上げたように、現在の大規模言語モデル(LLM)のアルゴリズムとして利用されています。
3.5. 主要アルゴリズムの特徴まとめ
| 区分 | アルゴリズム | 概要 | 主な特徴 | 活用シーン |
|---|---|---|---|---|
| 線形モデル | 線形回帰 | 入力特徴量と目的変数の線形関係を仮定し、最も適合する直線を学習する。 | ・シンプルで解釈性が高い ・計算コストが低い ・データ構造が単純な場合は安定した精度 ・多重共線性で係数推定が不安定になる可能性 |
・特徴量と目的変数に線形関係がある場合 ・モデルの説明性を重視する場合 |
| ロジスティック回帰 | 線形予測子をシグモイド関数で変換し、0〜1の確率を出力して分類を行う。 | ・シンプルで解釈性が高い ・計算コストが低い ・小規模データでも安定 ・複雑な非線形関係では精度が頭打ち |
・2値分類で確率的出力が必要な場合 | |
| 決定木 | 決定木 | データをツリー構造で分割して予測する。最適な木構造と分岐条件を学習。 | ・非線形関係を捉えられる ・視覚的で解釈性が高い ・単体では精度がやや低く過学習しやすい ・カーディナリティの高い特徴量を過大評価しやすい |
・ルールベースの可視化を重視 ・特徴量の相互作用を理解したい場合 |
| アンサンブル学習 | ランダムフォレスト | 複数の決定木を独立に学習し、平均や多数決で最終予測を行う。 | ・過学習を抑制 ・汎化性能が高い ・中規模データで高精度を発揮 ・解釈性は中程度 |
・高精度が求められる汎用的タスク ・モデル安定性を重視する場合 |
| 勾配ブースティング | 逐次的に木を学習し、前木の誤差を次木が補正。XGBoost/LightGBM等。 | ・構造化データでトップクラスの予測精度 ・LightGBMは高速かつスケーラブル ・チューニングで性能差が大きい ・多重共線性にロバスト |
・表形式データで高性能を追求 ・Kaggle等の競技で頻用 |
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| Deep Learning | CNN | 畳み込み層で画像の局所特徴を抽出。 | ・非構造化データに非常に強い ・大規模データで極めて高精度 ・計算資源を多く要する ・解釈が難しい |
・画像認識・物体検出 |
| RNN / LSTM | 系列データの依存関係を学習。LSTMは長期依存を保持。 | ・系列データに適する ・中〜大規模データで高精度 ・ブラックボックス化しやすい |
・時系列分析、自然言語処理 | |
| Transformer | Attentionで長距離依存と並列計算を実現。 | ・極めて高い予測精度が可能 ・データ規模が増えるほど性能向上 ・LLM/マルチモーダルの基盤 ・高計算コスト |
・自然言語・画像・音声などマルチモーダル |
4. アルゴリズムの使い分け
前章では、各アルゴリズムの特徴や適用シーンを整理しました。
そこから見えてくるのは、予測精度を最大化するためには、データの構造と規模に応じたアルゴリズム選択が不可欠であるという点です。特に近年の実務では、構造化データ(表形式)を扱う場合には勾配ブースティング、画像・音声・テキストといった非構造化データを扱う場合にはDeep Learningを採用するケースが主流となっています。
これら2つの手法はどちらも高い予測精度を実現できますが、その精度の発揮条件やリソース要求、解釈性の観点で明確な違いがあります。両者はどちらも高い予測精度を実現できる一方で、得意とするデータ構造や適用領域が異なります。以下では、それぞれの特徴を整理します。
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勾配ブースティング:
- 得意なデータ: 構造化データ(表形式データ)。
- 理由: 決定木が特徴量間の相互作用や非線形性を捉えやすく、表形式のデータに対して高い性能を発揮しやすいです。比較的少ないデータでも有効な場合があり、解釈性も比較的高いです。
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Deep Learning:
- 得意なデータ: 非構造化データ(画像、音声、テキスト)。
- 理由: 多層のニューラルネットワークが、画像、音声、テキストなどの複雑なデータから階層的に意味のある特徴量を自動的に学習できます。大規模データでの性能向上が顕著です。
まとめ
機械学習アルゴリズムは多岐にわたり、それぞれに異なる強みと弱みがあります。予測AIモデルを開発する際には、単に流行のアルゴリズムを選ぶのではなく、解決したいビジネス課題、利用可能なデータの種類、そして予測精度と説明性のバランスを考慮した上で、最も適したアルゴリズムを選択することがプロジェクト成功への鍵となります。