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なぜ「検索結果」だけでは足りないのか――探索プロセスをナレッジとして残す意味

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Last updated at Posted at 2026-10-05

仕事で情報を探すとき、必要なのは必ずしも「検索結果」だけではありません。

たとえば設備に異常が発生したとします。

担当者は「異音」という言葉で検索し、点検報告書を読む。そこに「温度上昇」という記述を見つけ、今度は過去の交換記録を調べる。そこから部品型番を確認し、部品表や過去の故障報告書へ辿っていく。

最終的に「過去にも同じ部品で同様の故障が発生していた」と分かったとします。普通の検索システムで残るのは、最終的に見つかった資料です。しかし、本当に再利用したい知識はそれだけでしょうか。

重要なのは、
「何を手掛かりに、何を調べ、どの情報を根拠に、次の資料へ進んだのか」
という探索のプロセスにもあります。

この考え方は単なる思いつきではなく、情報検索、Sensemaking、Analytic Provenance、Knowledge Provenanceといった研究分野で長く研究されています。


「検索」には、答えを探す検索と、理解するための検索がある

Gary Marchioniniは2006年の論文 Exploratory Search: From Finding to Understanding で、検索を単純な「Lookup」だけで捉えるべきではないと論じています。

検索には、既知の情報を取り出すだけでなく、Learning(学習)やInvestigation(調査)を目的としたExploratory Search=探索的検索があります。

探索的検索では、最初から正確な検索語や答えが分かっているとは限りません。複数回の検索や閲覧を繰り返しながら、対象への理解を深めていきます。

たとえば、

「図面番号ABC-123を探したい」

のであれば通常の検索で十分です。

一方、

「この設備で繰り返し発生している異常の原因は何か」

となると事情が違います。

点検記録、図面、部品表、過去のトラブル報告書、仕様書などを行き来しながら調べる必要があります。

つまり、

検索結果を得ることが目的なのではなく、検索しながら問題を理解すること自体が仕事

になっています。

参考論文


情報探索は「Sensemaking」のプロセスでもある

Russell、Stefik、Pirolli、Cardは1993年の研究で、Sensemakingを、情報を検索し、目的に適した表現へ整理しながら、特定の問いに答えられる状態にしていくプロセスとして扱っています。

ここで重要なのは、「情報を取得すること」と「意味を理解すること」が同じではない点です。

大量の報告書が保存されていても、

  • 今回の問題とどの資料が関係するのか
  • どの記述を重要と見るべきか
  • 次に何を調べればよいのか

は、人が判断しなければなりません。

したがって専門業務では、

検索 → 確認 → 判断 → 次の検索

という繰り返しによって知識が形成されていきます。

参考論文


「どこに辿り着いたか」だけでなく、「どう辿ったか」にも価値がある

探索経路そのものの有用性を実験的に調べた研究もあります。

HendahewaとShahは2017年、300人以上の探索検索データを用いて、他の利用者が辿った**Search Trail(検索経路)**を推薦する研究を行いました。

ここでいうSearch Trailとは、おおむね、

検索クエリ → 閲覧したページ → 次に閲覧したページ……

という情報探索の経路です。

研究では、有効な探索経路を提示することで、利用者がより広い情報を発見するとともに、特定のテーマをより深く調査でき、情報探索のカバレッジや知識獲得が改善することが示されています。

また、単に有用なページの集合を提示するだけではなく、経路の順序そのものにも意味があると報告されています。

これは重要な結果です。

最終的に同じ資料へ到達したとしても、

「どの情報を経由してそこへ辿り着いたのか」

には、次に同じ問題を調査する人を助ける情報が含まれている可能性があるからです。

参考論文

さらにWexelblatとMaesは1999年の Footprints: History-Rich Tools for Information Foraging で、過去の利用者が情報空間をどのように移動したかという「Interaction History」を利用する仕組みを研究しています。

Map、Trail、Annotation、Signpostなどを使った実験では、履歴情報を利用したユーザーが、同程度の作業をより少ない労力で行えたと報告されています。

参考論文


ただし「操作履歴」を残すだけではナレッジにはならない

ここは非常に重要です。

「探索プロセスが重要なら、クリック履歴を全部保存すればよい」とはなりません。

GotzとZhouは2009年、Insight Provenanceを、

洞察がどのようなプロセスと理由によって導かれたかの履歴

として扱っています。

そして、クリック、ドラッグ、キー操作といったイベントだけを自動記録する方法にも、利用者が手作業でメモする方法にも限界があると指摘しています。

そこで、単純なイベントより意味のある「Action」という抽象度で分析活動を捉えることを提案しています。

つまり、

「A.pdfを10時32分に開いた」

だけでは十分ではありません。

重要なのは、

  • なぜA.pdfを開いたのか
  • A.pdfのどの情報を重要だと判断したのか
  • その情報から、なぜB.xlsxを調べることにしたのか

です。

参考論文

  • Gotz, D. & Zhou, M. X. (2009), Characterizing Users' Visual Analytic Activity for Insight Provenance, Information Visualization, 8(1), 42–55.
  • DOI: https://doi.org/10.1057/ivs.2008.31

「探索」と「そこで得た知識」を一緒に扱う研究も始まっている

さらに2026年にはChristinoらが、**Visual Analytics Knowledge Graph(VAKG)**という枠組みを発表しています。

VAKGの特徴は、ユーザーの操作履歴だけでなく、その過程で得たIntentやInsightといった知識の変化を、同じKnowledge Graph上で関連付けることです。

たとえば、

「利益率を調べたい」
→ グラフを作る
→ 最も高い棒を見る
→ 「X国が最も利益率が高い」と理解する

というように、

行動と知識獲得の関係

を記述します。

論文では、ユーザーがどのような経路を辿って新しい知識へ到達したかを分析できることが示されています。

参考論文

  • Christino, L., Rezaeipour, S., Milios, E. & Paulovich, F. (2026), A Theoretical Approach for Structuring and Analysing Knowledge Provenance for Visual Analytics, Computer Graphics Forum.
  • DOI: https://doi.org/10.1111/cgf.70493

単なる検索と「探索プロセスのナレッジ化」は何が違うのか

違いは、最終成果だけを見るか、そこに到達した過程まで再利用するかです。

単純な検索 探索プロセスを活用する仕組み
欲しい情報がある程度分かっている 最初は答えが分からない
検索語を入力する 検索しながら検索語自体が変わる
結果を取得する 複数資料を比較・確認する
「何が見つかったか」が重要 「どう見つけたか」も重要
最終資料を再利用 探索方法も再利用する
「答え」を残す 答えに辿り着く方法も残す

MarchioniniのExploratory Search、RussellらのSensemaking、HendahewaらのSearch Trail、GotzらのInsight Provenanceはいずれも、対象や研究目的は異なりますが、複雑な情報探索では最終的な検索結果だけでは捉えられないプロセスが存在するという点でつながっています。


どんな仕事で探索プロセスが役立つのか

ここまでの論文から直接「製造業の設備保全に有効」と実証されたわけではありません。

その点は区別する必要があります。

ただし、研究で対象となっているExploratory Searchの特徴――答えが最初から明確でなく、複数の情報を調べながら理解を進める仕事――に照らせば、次のような業務への適用を考えることができます。

設備トラブル調査

たとえば「異音」という現象から点検記録を見て、温度上昇に気付き、部品表で型番を確認し、過去故障報告へ進む場合です。

この場合、最終的な故障報告書だけではなく、

どの兆候から何を疑い、どの資料を確認したか

にも再利用価値があります。

品質不具合の原因調査

不良現象、検査データ、図面、過去不具合、変更履歴、対策報告書と調査対象が広がる場合、

前回の担当者がどの順番で何を確認したのか

は次回調査の参考になります。

設計変更の経緯調査

現在図面だけでは「なぜこの仕様になったのか」が分からないことがあります。

過去Revision、変更コメント、関連仕様書などをどのように辿ったかを残せれば、最終成果物だけでは失われやすい判断経緯を補うことができます。

一方で、

図面番号を入力すれば目的の図面が一意に出る
型番検索だけで目的が完了する

といったKnown-item Searchでは、探索経路を保存する意味は小さいでしょう。

つまり、探索プロセスのナレッジ化が特に意味を持つのは、

「検索する仕事」ではなく、「調べながら考える仕事」

です。


探索プロセスを残すことは、「答えに辿り着く方法」を残すこと

企業のナレッジ管理では、報告書や図面などの「結果」を保存することが中心になりがちです。

しかし、人の知識には、

  • 何を見るべきか
  • 何を手掛かりと考えるか
  • 次に何を調べるか

という部分もあります。

探索研究は、この部分に一定の価値があることを示しています。

特にSearch Trailの研究では、成功した探索経路を他の利用者へ提示することで、探索範囲や知識獲得が改善する結果が得られています。

Insight Provenance研究では、最終的な洞察だけでなく、その洞察に至ったprocess and rationaleを記録する必要性が論じられています。

したがって、探索プロセスのナレッジ化とは、単なる検索履歴の保存ではありません。

「何を探したか」+「何を根拠として見たか」+「そこから何を判断したか」+「次に何を調べたか」

を再利用可能な形で残すことです。

言い換えれば、

従来のナレッジ管理が「答えを残す」ものだとすれば、探索プロセスのナレッジ化は「答えに辿り着く方法を残す」ことです。

一度誰かが調べたことを、次の人が再びゼロから調べ直さない。
探索プロセスを残す本当の価値は、そこにあります。


参考論文

  1. Marchionini, G. (2006), Exploratory Search: From Finding to Understanding
    Exploratory SearchをLookupだけでなくLearning・Investigationまで含むものとして整理。
    https://doi.org/10.1145/1121949.1121979

  2. Russell, D. M., Stefik, M. J., Pirolli, P., & Card, S. K. (1993), The Cost Structure of Sensemaking
    情報を探索・整理して課題への理解を形成するSensemakingの基礎研究。
    https://doi.org/10.1145/169059.169209

  3. Wexelblat, A. & Maes, P. (1999), Footprints: History-Rich Tools for Information Foraging
    過去の情報探索履歴を利用することで、ブラウズ作業の労力を低減できることを実験。
    https://doi.org/10.1145/302979.303060

  4. Gotz, D. & Zhou, M. X. (2009), Characterizing Users' Visual Analytic Activity for Insight Provenance
    Insight Provenanceを「洞察に至ったプロセスと理由の履歴」として扱う。
    https://doi.org/10.1057/ivs.2008.31

  5. Nguyen, P. H. et al. (2016), SensePath: Understanding the Sensemaking Process Through Analytic Provenance
    検索・閲覧等の行動を取得し、Sensemakingの過程を分析・可視化する研究。
    https://doi.org/10.1109/TVCG.2015.2467611

  6. Hendahewa, C. & Shah, C. (2017), Evaluating user search trails in exploratory search tasks
    Search Trail推薦による探索範囲・検索性能・知識獲得への効果を検証。
    https://doi.org/10.1016/j.ipm.2017.04.001

  7. Christino, L., Rezaeipour, S., Milios, E. & Paulovich, F. (2026), A Theoretical Approach for Structuring and Analysing Knowledge Provenance for Visual Analytics
    行動と知識獲得をTemporal Knowledge Graphとして関連付けるVAKGを提案。
    https://doi.org/10.1111/cgf.70493


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