はじめに
皆さんはバーンダウンチャートを効果的に活用できていますか?ベロシティを計測してただ埋めるだけのような形骸化チャートになっていませんか?
本来バーンダウンチャートは、チームの進捗を可視化し、改善につなげることを目的としている強力な計画管理ツールです。
この記事では、バーンダウンチャートの基本的な概念と、現場での活用方法について解説します
バーンダウンチャートとは
バーンダウンチャートとは、以下のような残作業の推移を時間軸で可視化するグラフのことです。
チャートを通じてチームの進捗を可視化し、改善につなげることを目的としています。
- x軸...イテレーションの期間(日や週単位)
- y軸...残っている作業量(ポイント、日数など)
このグラフのメリットとしては、以下の四つの指標を一目で分かるということです。
- ベロシティ
- 残りの作業量
- 消化済みの作業量
- いつ作業を全て完了できそうか
健康診断で例えてみる
バーンダウンチャートをチームの健康診断として例えるとイメージしやすくなります。
- 理想線 = 健康なチームの標準値
- 予定通りに作業が進めば、残作業量は理想線に近い形で減っていきます。つまり理想線は、健康な状態を示す基準値と言えるでしょう
- 実績線 = 実際のチームの健康状態
- 毎日の進捗により上下する実績線は、チームの体調の変動を表します。実績値が高いとチームの体調が良い状態、逆に低いと疲れているサインと言えるでしょう。想定よりも実績値が高すぎても注意が必要です。
- 理想線と実績線のギャップ = 病気のサイン
- 理想線と実績線の差は、チームが直面している課題や負荷の偏りを示す重要なサインです。バーンダウンチャートを定期的にみることで、早めに対応策を検討できます。
このように、バーンダウンチャートはチームの進捗を可視化する健康診断表のようなものです。定期的なチェックで小さな異変に気づき、ベロシティを上げるための施策やスコープの調整など早めに検討できる点が利点です。
バーンダウンチャートの活用方法
バーンダウンチャートは単なる進捗グラフではなく、チームの意思決定や改善に活かすためのツールです。グラフをどのように活かすかが重要です。
1.ステークホルダーとの進捗共有
残作業量の推移のグラフを提示することで、プロダクトオーナーや経営層などのステークホルダーに現状を直感的に伝えることができます。計画より遅れているか、順調かを可視化することで、仕様変更やスコープ調整などの意思決定がスムーズになります。
2.振り返りでの分析
イテレーション終了後にレトロなどの振り返りで実績値と理想線の差を分析することで、進捗が遅れた原因を特定できます(例:見積もりの甘さ、手戻り、外部要因による中断など)。この分析をもとに、次のイテレーションで無理のない作業量を設定する参考になります。
3. チーム内でのデイリースクラムの指標
デイリースクラムなどでチャートを確認しながら、今日どこを重点的に進めるかをチームで議論できます。進捗の遅れや課題を早期に共有し、ストーリーの優先度の見直しを行うことができます。
このように、バーンダウンチャートを更新するだけでなく、コミュニケーションを促すツールとして活用することに価値があります。
バーンダウンチャートあるあるの形と原因
バーンダウンチャートには、実務でよく見かける特徴的な形があります。それぞれの形が意味するチームの状況や原因も理解すると、改善に役立ちます。
1. 前半はほとんど減らず、後半に急激に減る「後半追い上げ型」
- スプリント前半は残作業がほとんど減らず、後半になって急に消化が増える
- 実線が理想線より上にあり、後半で急降下
主な原因
- タスクが大きすぎて前半に進めにくい
- 要件理解や設計に時間がかかる
- 前半はリスク回避や情報収集で進捗が遅れる
対策
- タスクを細かく分割して前半から進めやすくする
- 設計や準備作業もポイントとしてカウントする
所感
- 既存機能の大きな改修など、前半に調査を必要とするプロジェクトでよく見るケースです。スパイクや調査タスクもポイントとしてカウントしたり、タスクを細分化して前半から着手できるようにしましょう
- ただし、アジャイルは学習を前提としています。プロジェクトの初期では要件や技術的な不確実性に対する理解が十分ではありません。単なる「遅れ」ではなく、「学習過程の証拠」とも捉えられます。理想線に学習過程の考慮を反映させることも重要です。
2. ジグザグして上下する「揺れ型」
- 実績線が週ごとに増減する
- 理想線との差が不規則で、進捗が安定しない
主な原因
- 作業の見積もりが甘い
- 外部依存や突発タスクが発生
- メンバー間で作業量の偏りがある
対策
- タスクの見積もり精度を上げる
- デイリースクラムで課題を早めに共有
- 依存関係やリスクを事前に整理
- ストーリーをより小さく分割する
所感
- イテレーション内に終わりきらず、次のイテレーションで終わったストーリーがある際にベロシティが週によって大きく差が生じる問題が発生する現場は多いと思います。イテレーション内で完全DONEできる粒度にストーリーを分割しましょう。
3. 線がほとんど理想線に沿う「順調型」
- 実績線がほぼ理想線に沿って滑らかに減る
- 計画通りに進む理想的なパターン
主な原因
- タスク粒度が適切
- チームのベロシティが安定している
- 外部障害が少なく、コミュニケーションも良好
対策
- 継続して振り返りを行い、安定した進捗を維持する
所感
- 理想的ですが、決して簡単ではありません。理想線に合わせようとしてベロシティを高く偽装する心理も働くリスクもあるので、油断禁物です。
4. 減らないまま終了「スプリント未達型」
- 実績線が高いままイテレーション終了
- 理想線から大きく離れている
主な原因
- タスクが過大で完了できなかった
- 優先度変更や仕様変更で計画が崩れた
- チームのリソース不足やメンバーの負荷過多
対策
- スプリント計画時に作業量を現実的に設定
- 優先度を明確にして重要な作業に集中
- チーム全体でリソース配分を調整
まとめ
バーンダウンチャートは単なる進捗確認ツールではなく、以下のようなアジャイル的価値があります。
- チームやステークホルダーとのコミュニケーションの促進
- 計画と実績のギャップの可視化
- 次の改善につなげるためのデータの蓄積
正しく活用することで、計画管理がスムーズになり、チーム全体でより効率的に開発を進めることが可能です。