1. AWS re:Invent 2025 参加
Nextscapeの香川と申します。
今年は弊社から総勢5名で参加しており、4人目としてちょうどAWS re:Invent 2025も終了し、国内へ帰国する前に記事を書かせていただきます。既に参加者の内、3名が記事を書いておりますので、そちらも是非ご一読ください!
私だけ、唯一別部署のSA(Solution Architect Department)所属となります。
さて、いきなりですが、皆さまが想像する『お客様の感動を実現するシステム』とはどのようなシステムでしょうか?
そのシステム開発や運用に従事する方であれば、皆様の使命や覚悟とはいかなるものでしょうか。
今年も大事なプロジェクトが進行している最中にも関わらず、快く送り出してくださったお客様のために、役立つ技術、各企業の事例、AI動向を探ることが主な目的でした。
ところが、このre:Inventで、各企業のエンジニアの 『使命や覚悟』 をこんなにも実感することになるとは想像しておりませんでした。
2. ダウンタイム1分 = 1,000万ドル
セッションの中で語られた、ある企業の事例が私の胸に強く刺さりました。
「システムが1分停止すると、それだけで1,000万ドルの損失が生まれることがある」
大げさに聞こえるかもしれません。
しかし、世界規模のオンラインサービスを支える企業では、これが現実なのです。
この言葉を聞いたとき、私は胸が熱くなるというより、 背筋がスッと伸びるような感覚を覚えました。
システム開発を行う以上、私たちは停止と向き合う責務を持っている
当然ながら、どれだけAIが普及し、技術が進化してもシステムにリスクは存在します。
だからこそ、その企業は、
- 「1分たりとも止めない設計」
- 「止めるなら意図的に止める」
- 「障害は事故ではなく設計の結果である」
という哲学を前提に、アーキテクチャを語っていました。
これは単に高い技術力の話ではなく、 ビジネスを預かる者の 『使命であり覚悟』 そのものだと感じました。
私たちも、お客様の大切なビジネスを支えるシステムを任されている以上、この視点は避けて通れません。
「たとえ1分であっても、お客様の事業にマイナスを生む停止は許されない。」
そんな原点にもう一度立ち返らなければいけない。
そう思わせてくれたセッションでした。
また、停止か否かに関わらず、どんな小さな不具合でもお客様のビジネスに影響し得ます。
その現実を前に、私たちは預かっているものの大きさを痛感します。
だからこそ、システムを支えるために必要なのは、最先端の 「技術」 だけではなく、お客様にとっての「価値」を守り抜くという 「思い」 なのだと感じました。
3. セッションで得た「お客様に還元できる技術と思想」
技術カンファレンスに参加すると、どうしても新サービスの羅列のようなまとめになりがちです。しかし今回のre:Inventは違うように感じました。
私が受けたセッションで、どの企業でも語られていたのは、
「どんな技術を選ぶか」よりも「なぜその技術を選んだのか」
そして、
「お客様の価値をどう守り、どう高めるか」
という視点でした。
ここでは、私が特に印象に残った企業事例を紹介します。
◆ トヨタ社のエージェントアーキテクチャ(AgentCore / MCP / RAG)
トヨタ社のセッションは、単にAIを導入した話ではなく、「どうすれば現場で本当に役立つAIになるのか」 を軸に構成されていました。
登場したのは AgentCore、MCP(Model Context Protocol)、RAG といったいま最もホットな技術なのですが、 それらを「こう使うと便利ですよ」というレベルではありません。
特に印象的だったのは、
- 業務フローをそのままAIエージェントに置き換える発想
- 既存APIをMCPで標準化し、「AIから扱いやすい世界」を整える姿勢
- 誤回答を防ぐためにRAGを丁寧に設計し、Strictモードで暴走を防ぐ慎重さ
でした。
AIを「導入すること」が目的ではなく、「お客様にとって価値ある答えだけを届ける」 ための仕組み作りが徹底されており、大規模データを扱う企業には非常に参考になる内容でした。
◆ Netflix / Lyft の可観測性(Observability)
品質の話になると、どうしても堅い内容になりがちですが、NetflixとLyftのセッションはむしろ文化を感じさせるものでした。
彼らの姿勢は一貫しています。
「障害を直す人」ではなく「障害を生まない環境を設計する人」になる。
そこで登場したのがObservability(可観測性)です。
セッションでは、分散トレースやRPC分析、データ鮮度監視などの技術的な仕組みも紹介されていましたが、最も印象的だったのはそれを支える思想でした。
- システムのどこで、どんな振る舞いが起きているかを常に見える化する
- 設計段階から「問題が起きたらどうするか」でなく「問題を起こさないにはどう設計するか」を徹底する
- LLM活用においても回答品質や遅延の要因を可視化し、継続的に改善する
これらは、単なる監視ツールの話ではなく、「止まらないシステムを文化として育てる」 取り組みそのものでした。
まさに、本記事2章で書いた 「停止と向き合う覚悟」 をそのまま体現している企業だと感じました。
◆ AI の自動評価(Auto Evaluation)
今回のre:InventではAIを導入する企業が増えただけでなく、AIを安全に運用するための技術が一気に成熟したと感じました。
その代表例がAuto Evaluationです。
AIの回答を人手でチェックするには限界があります。
ましてや問い合わせ数の多い業界では、なおさらです。
そこで登場するのが、
- 回答が正しいか
- 参照先の文書と一致しているか
- 禁止ワードが含まれていないか
- 法務・ガバナンス違反がないか
- 改善に必要なフィードバックを自動収集するか
といった評価をAIが自動で行う仕組みです。
つまり、「AIを動かすためのAI」 が当たり前になりつつある、そんな空気を感じました。
これはすなわち、「人が気づくより前にAIが品質を守る世界」 が近づいているということでもあります。
お客様に誤った情報を届けないための大きな武器となりうる技術です。
ただし、これは今回参加した太田の 記事 でも語られておりますが、「ITエンジニアの存在価値そのものが失われていく」に繋がりかねないことでもあるので、AIに甘えず我々も進化し続けなければならないのだと思います。
4. これらの学びを、どうお客様の価値へ還元するか
今回のre:Inventで強く感じたのは、技術そのものよりも、技術の使われ方が価値を決めるということです。
たとえば、
-
RAGやAuto Evaluationを組み合わせれば 「正確に、裏付けのある回答を返すAI」 を実現できる。
-
AgentCoreやMCPを活用すれば 現場の業務そのものをAIエージェント化 でき、スタッフの負荷を大きく下げられる。
-
Observabilityを組み込むことで 停止に強いシステム、事前に気づけるシステム を設計できる。
こうした技術はすべて、お客様の事業そのものを守り、育てるためのものです。
re:Inventは
「新技術を見る場」ではなく、「価値とは何かを考える場」
だということを改めて実感しました。
5. まとめ 技術の先にあるお客様の価値を見据えて
re:Invent 2025を通して強く感じたのは、
技術は目的ではなく、価値を届けるための手段である。
という、当たり前のようで忘れがちな原点でした。
- 止まらないシステムを設計すること
- 正しい情報を正しく届けること
- 品質を文化として根付かせること
- お客様の事業を支え、ともに未来をつくること
こうした姿勢こそが、今回のセッションで学んだ 『使命と覚悟』 そのものです。
今後もこの学びを胸に、お客様の感動を実現するシステムを提供し続けたいと思います。
また、個々の力だけでは、決して実現できないと感じております。
会社の中でも同じような考えた方を持つ、あるいは共感してくれる仲間が増えると良いなと心から願います。
本文で触れた内容は、主に以下のセッションで得た知見を基にしており、世界にはすごいエンジニアがこんなにいるんだなと改めて実感しました。
【セッション一覧】
- DAT439: Deep dive into Amazon Aurora DSQL and its architecture
- IND320: How Toyota Built an AI Platform that Revolutionizes the Dealer Experience
- ANT315: Intelligent Observability and Modernization with Amazon OpenSearch Service
- ANT423: Amazon Kinesis Data Streams under the hood
- NET302: How CloudFront Handles Black Friday-Scale Retail at the Edge
- IND388: How Netflix Connects Product Experiments to its AWS Bill
- IND387: How Netflix Shapes our Fleet for Efficiency and Reliability
- SPS321: How Yahoo! Finance built research multi-agent systems with Gen AI
最後までお読みいただきありがとうございました。
以上、re:Invent 2025の参加レポートでした。