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Cosmos DBでGraphデータを扱うならどちらを選ぶ?

Last updated at Posted at 2025-09-29

はじめに

Azure Cosmos DBは、ドキュメント、キーバリュー、カラムファミリー、Graphなど複数のデータモデルをサポートするマルチモデル・データベースです。
特にGraphデータを扱う場合、次の2つの選択肢があります。

  • NoSQL API(Cosmos DBの標準API)
  • Gremlin API

どちらを選ぶべきかはユースケースやアプリケーション設計に依存します。
本記事では、それぞれの特徴と優位性を整理し、具体例やクエリ比較、さらに可視化の観点も交えて解説します。


NoSQL API

概要

NoSQL APIはCosmos DBの標準的な利用方法です。ドキュメント指向データモデルをベースにしており、SQLライクなクエリ言語でデータにアクセスできます。

優位な点

  • 汎用性の高さ
    JSONドキュメントとしてあらゆるデータを保存でき、Graph以外の用途にも統一的に利用可能。

  • 学習コストの低さ
    SQLライクな構文で問い合わせできるため、既存のSQL知識を持つ開発者がスムーズに導入可能。

  • 広範なAzureサービスとの連携
    Power BIやLogic Appsなどと自然に統合できる。

  • ベクトル検索のサポート
    Azure OpenAIなどで生成したエンベディングを保存し、類似検索やレコメンドに活用可能。

具体例:商品カタログ検索

ECサイトの「商品カタログ」を考えます。
商品(ドキュメント)ごとにカテゴリ・タグ・在庫数などをJSONで持たせ、SQLライクなクエリで簡単に検索・集計できます。
さらに、商品の説明文をエンベディング化して保存しておけば、「意味的に近い商品検索(セマンティック検索)」も実現できます。
Graph構造が必須でないケース(検索・レポート用途など)ではNoSQL APIのほうがシンプルです。


Gremlin API

概要

Gremlin APIはApache TinkerPopのGremlinクエリ言語を利用し、ノード(Vertex)とエッジ(Edge)を直接操作できるGraph専用インターフェースです。

優位な点

  • Graphに特化した設計
    ネットワークや関係性を直感的に表現でき、ソーシャルネットワークやナレッジグラフの構築に適している。

  • 強力なトラバーサル機能
    ノードからノードへとエッジを辿りながら探索できるため、「友達の友達を探す」「依存関係を追う」といった複雑な関係探索が容易。
    👉 局所的な探索に特に強い。

  • ネットワーク分析に適した基盤
    中心性・クラスタ検出・頻出パターン発見など、ネットワーク全体を俯瞰した分析が可能。
    👉 グラフ全体の構造把握に向いている。

  • 豊富なクエリ表現力
    深さ制御、条件分岐、パス追跡などを柔軟に記述できる。

制約:ベクトル検索は未対応

Gremlin APIはベクトル検索をサポートしていません。
そのため「意味的な類似性検索」を行いたい場合は、NoSQL APIとのハイブリッド利用が現実的です。
例:NoSQL APIでベクトル検索 → 結果のユーザーをGremlin APIで関係探索。

具体例:ソーシャルネットワーク

「Aさんの友達の友達で、同じ趣味を持つ人を探す」ケースを考えます。
SQL的な自己結合を繰り返す必要がありますが、Gremlinなら次のようにシンプルです:

g.V().has("user", "name", "A")
 .out("friend")
 .out("friend")
 .has("hobby", "tennis")

👉 「歩いて辿る」操作が自然に書けるため、関係探索に特に向いています。


クエリ比較:NoSQL API vs. Gremlin API

ユースケース

「ユーザーAの友達の友達を探す」

NoSQL APIでの例

-- ユーザーAの友達を取得
SELECT f FROM c 
JOIN f IN c.friends
WHERE c.id = "A"

-- さらに友達の友達を探す場合
SELECT ff 
FROM c JOIN f IN c.friends
JOIN u IN (SELECT VALUE c2 FROM c2 WHERE ARRAY_CONTAINS(c2.friends, f))
JOIN ff IN u.friends

特徴: JOINが増えるごとにクエリが複雑化。

Gremlin APIでの例

g.V().has("user", "id", "A")
 .out("friend")
 .out("friend")

特徴: トラバーサルで自然に表現でき、深さの追加も容易。


可視化の優位性

  • NoSQL API
    JSONやテーブル形式の結果になるため、そのままではGraph構造を描画できず、変換が必要。
    ただしPower BIなどとの統合により、集計・レポート用途で強みを発揮。

  • Gremlin API
    ノードとエッジを直接取得可能。Azure Portalの Graph ExplorerD3.jsGephi などの外部ツールへスムーズに渡せる。
    → 関係探索のストーリーを「そのまま見せる」ことに優れている。


ベクトル検索の観点

近年のAIユースケース(検索・レコメンド・セマンティック検索)では、ベクトル検索の有無が重要な判断材料になります。

  • NoSQL API

    • ネイティブにベクトル検索をサポート
    • AI検索やレコメンドにそのまま活用可能
  • Gremlin API

    • ベクトル検索は未対応
    • ハイブリッド構成により「意味的類似性 × 関係探索」を組み合わせるの必要がある

図解で理解する:NoSQL APIとGremlin APIの違い

1) データモデルの違い

NoSQL API(ドキュメントベース)

Gremlin API(Graphベース)


2) クエリの流れの違い

NoSQL API(自己結合)

Gremlin API(トラバーサル)


3) 可視化での探索例

解説:
この図では、ユーザーAから出発し、友達Cを経由してFに到達する「関係のパス」を強調表示しています。
NoSQL APIではこの経路を抽出するには複雑なJOINを組み合わせる必要がありますが、Gremlin APIなら A → C → F とトラバーサルを記述するだけで自然に表現可能です。


浅いトラバーサルはNoSQL APIでも十分

これまでGremlin APIの強みとして「関係探索のしやすさ」を挙げてきましたが、実際のユースケースでは親子関係の階層を持った1〜2ホップ程度の浅いトラバーサルにとどまる場合も多いです。
例えば「ユーザーAの友達を取得する」「商品Xを購入したユーザー一覧を探す」といったシナリオです。

NoSQL APIでの実現性

  • JOINを1〜2回行うだけで十分対応可能
    クエリ構造はやや冗長になりますが、JSONドキュメント内の配列を展開するJOINを使えばシンプルに書けます。
  • ベクトル検索やBI連携と組み合わせやすい
    「意味的に近いユーザーを検索 → そのユーザーの直接の友達をJOINで取得」といった処理を一貫してNoSQL APIで実装できます。

Gremlin APIを使うほどでないケース

関係探索の深さが浅く、かつ分析よりも検索やレポート用途が主眼の場合は、NoSQL APIのみで十分です。
特に「AI検索の結果を1ホップ関係で拡張する」といったシナリオでは、NoSQL APIのほうが統合しやすいでしょう。


まとめ

  • NoSQL API

    • 汎用的で既存のSQL知識を活かせる。
    • 商品カタログやイベントログ管理など、Graph構造を必須としないケースに適する。
    • 深いリレーション探索はクエリが複雑になりやすい。
    • ベクトル検索をサポートしており、生成AIとの組み合わせに強み。

  • Gremlin API

    • Graph構造に特化し、探索・分析・可視化に強い。
    • ソーシャルネットワーク、推薦システム、知識グラフなど、関係性が中心となるアプリに適する。
    • ベクトル検索は未対応だが、NoSQL APIとのハイブリッドで補完可能。

比較表

観点 Cosmos DB NoSQL API Cosmos DB Gremlin API
データモデル JSONドキュメント ノード(Vertex)とエッジ(Edge)
クエリ言語 SQLライク構文 Gremlin(トラバーサル)
学習コスト 低い(SQL経験者向け) やや高い(新パラダイム)
表現力 JOINで可能だが複雑化 トラバーサルで自然に表現
探索性能 深い探索は非効率 ネットワーク探索に最適
分析性能 集計得意・関係分析は不得手 ネットワーク分析に強い
可視化 変換が必要、BI連携が強み ノード・エッジを直接可視化可能
Azure統合 Power BI / Logic Apps などと連携 Graph Explorer利用可能
ベクトル検索 サポートあり(AI検索・レコメンド・セマンティック検索に有効) サポートなし(必要ならNoSQL API等との組み合わせ)
適した用途 商品検索、ログ管理、AI検索基盤、汎用アプリ SNS、推薦システム、知識グラフ

判断チェックリスト

  • 既存SQL知識を活かしたい / 汎用用途NoSQL API
  • ソーシャルネットワークや推薦システムを作りたいGremlin API
  • 関係性探索を重視Gremlin API
  • 集計やレポートを重視NoSQL API
  • AI検索やベクトル検索を利用したいNoSQL API

総括

  • NoSQL APIは「汎用・シンプル志向」+「AIとの親和性」
  • Gremlin APIは「関係性探索・分析志向」

👉 両者は競合ではなく補完関係
ユースケースに応じて適切に選択、あるいは組み合わせて利用することが最適解です。

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