1. デジタルフォレンジックスとは
デジタルフォレンジックス(Digital Forensics)は、
コンピュータやデジタル機器から証拠データを収集・分析し、裁判や調査で利用できる形にする技術・手法です。
犯罪捜査、社内不正、情報漏えい調査など、サイバーセキュリティ対策の最前線で活用されます。
- デジタルフォレンジックスのプロセス
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識別(Identification)
事件・事故に関連する可能性のあるデバイスやデータを特定 -
確保(Preservation)
Write Blockerなどで改ざん防止し、証拠保全 -
収集(Collection)
ディスクイメージやメモリダンプを取得 -
分析(Analysis)
削除ファイル復元、アクセスログ解析、通信追跡など -
報告(Reporting)
調査手順と結果を報告書にまとめ、法的証拠として提出
3. 証拠保全の実務例(スクリーンショット例つき)
例:Windows PCのHDD証拠保全手順
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Write Blocker接続
→ 対象HDDを物理的に書き込み禁止モードで接続。 -
ハッシュ値計算(事前)
sha256sum /dev/sdX
→ 保全前のハッシュ値を記録。
3.ディスクイメージ作成(dd使用)
dd if=/dev/sdX of=/evidence/case001.dd bs=4M conv=noerror,sync
4.ハッシュ値計算(事後)
- イメージと元ディスクのハッシュ値が一致するか確認
5.証拠ラベルと保管
- 日時・担当者・案件番号を明記し、改ざん防止袋で保管
💡このプロセスは必ず 「チェーン・オブ・カストディ」(証拠の入手から法廷提出までの証跡管理)に従って記録します。
4. 日本の法制度との関係
関連する主な法律
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刑事訴訟法
→ 捜査機関が押収・検証する場合の手続き -
個人情報保護法
→ 個人データを含む証拠の取扱いに関する制限 -
不正アクセス禁止法
→ 不正アクセス経路の特定や証拠化に関連 -
電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法第234条の2)
→ マルウェアや不正改ざんの調査で適用されることあり
5. ツール選定例
ツール名 | 用途 | 有償/無償 |
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EnCase | 証拠保全・解析 | 有償 |
FTK | 高速ファイル解析 | 有償 |
Autopsy / Sleuth Kit | ディスク解析 | 無償 |
Wireshark | ネットワークパケット解析 | 無償 |
Volatility | メモリ解析 | 無償 |
6. 活用例
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退職社員によるデータ持ち出し調査
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ランサムウェア感染経路の特定
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クラウドサービスのアクセス履歴解析
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SNSの投稿削除後の証拠復元
7. 注意点とベストプラクティス
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改ざん防止措置(Write Blocker・ハッシュ値)
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詳細な記録(日時・担当者・手順・使用ツール)
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法的要件の遵守
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調査環境は必ずインターネット分離
まとめ
デジタルフォレンジックスは、単なる解析スキルではなく、証拠性・信頼性・法的適合性の3つを満たす必要があります。
日本の法制度と実務手順を理解してこそ、調査結果が裁判や社内処分に耐えうる形となります。