はじめに
この度,2025年(2026年度入学)にNAIST情報科学領域に合格しました.
多くの方の体験記や過去問を参考にさせていただいたこともあり,これから受験する方の助けになればと思い,この記事を書くことにしました.
タイトルにもあるとおり,私は高専推薦で受験したものの不合格となり,その後の一般入試で合格をいただきました.そのため,高専推薦入試についても少し触れたいと思います.
とりあえず数学の口頭試問の問題を見たい方はコチラ(当該章へジャンプ)
プロフィール(スペック)
- 高専の専攻科生
- GPA:約3.5
- TOEIC:680点
- 本科時代は高専ロボコンに参加
- 専攻分野:電子制御・ロボティクス
- NAISTでの志望分野:情報・ロボティクス
- 使用言語:Python,C++
- 学会でのポスター発表経験あり
TOEICについて
NAIST進学を決める前から大学院進学は考えていたため,本科5年生のころから定期的にTOEICを受けていました.
「回数をこなせば点数も上がるだろう」という考えでしたが,受験料が高いため,あまりおすすめはしません.きちんと対策をしてバシッと良い点を取りましょう.
最終的には専攻科1年の9月ごろに受験した回が最高得点(680点)でした.それまでは400〜500点台をうろうろしていたので,かなりラッキーだったと思います.
研究室見学(スプリングセミナー)
専攻科1年の年末ごろ,「そろそろ志望校を決めなければ」と思い調べていたところ,NAIST情報科学領域のスプリングセミナー(短期インターンシップ)が2月に開催されていることを知りました.
スプリングセミナーでは,2〜3日間,希望する研究室でテーマに沿った実習体験を行えます.(2025年の詳細はこちら)
コースによって対面/オンラインや実施日数が異なるため,スケジュールや移動手段も考慮して選びましょう.参加費は無料ですが,対面の場合は交通費・宿泊費は自己負担です.
応募の際には400字以内の志望理由の提出が求められます.応募者多数の場合はこれが選考の判断材料にもなるそうなので,余裕をもって準備しておくことをおすすめします.
私はこのセミナーで現在の志望研究室に参加し,「ここで研究がしたい!」と思いました.
研究内容や研究室の雰囲気がわかるのはもちろん,学生メンターの先輩から寮や授業の話なども聞くことができ,小論文の添削でもお世話になりました(詳細は後述).また,研究室の准教授や教授とも1対1でお話しする機会があり,必要なスキルや研究内容について直接お聞きできたのも大きかったです.
なお,スプリングセミナーとは別に「研究室見学会」もあるそうなので,そちらに参加してみるのも良いと思います.
高専推薦
私は専攻科生だったため,高専推薦での受験が可能でした.
この制度では,受験料不要で審査が受けられ,もし不合格でも一般入試に出願できます(合格の場合は後から受験料を支払い,正式な合格となります).
小論文
高専推薦では小論文の提出が求められます.
A4用紙2枚で以下の2点について書くことが求められています.
- これまでの修学内容(卒業研究等)について
- 奈良先端大において取り組みたい研究分野・テーマについて
形式は自由らしいですが,公式サイトにWordのテンプレートが用意されています.
志望研究室や研究テーマの記載欄があるため,事前に研究室とコンタクトを取っておくことが重要です.
私は「現在の研究:これからの研究」を6:4の比率で書きました(本当は5:5にしたかった).
現在の研究については卒業研究や学会予稿をもとにまとめ,今の研究室の先生に内容確認をお願いしました.
これから取り組みたい研究については,インターンで参加した志望研究室の論文を読み込み,その中でも特に関心のあるテーマを深堀りしました.
志望研究室のHPから過去の論文が公開されていたので,過去5年間分くらいを読み,特に気になる内容については参考文献を辿って読み込みました.
そして,現在の研究を発展させ,一歩進んだ段階を提案するような形で書きました.
仕上げた小論文は,スプリングセミナーでLINEを交換した先輩に見ていただきました.
教員による添削は行われないとのことですが,研究室の学生に頼む分には問題ないそうです.
面談(研究マッチング)
情報科学区分の審査では,成績,TOEIC,小論文をもとに,研究マッチング面談が行われます.
希望研究室の教授とのオンライン面談で,時間は約45分と長めです.
私は事前に「小論文の内容をスライドにまとめ,15分でプレゼンしてほしい」と連絡を受けました.
私はせっかくなので,プレゼンにロボコン活動や授業・インターンでの取り組みも盛り込みました.
本番ではスライドを使って発表し,その内容に基づいて質疑応答が行われました.
聞かれた質問を以下に挙げておきます.
いくつかの質問は他の体験記にも出ていたので,ある程度共通しているのかもしれません.
- 今の研究で扱っているものはどのようなアルゴリズムを用いていますか?
- (評価点を見ながら)この科目の評価が結構低いですが,これはどんな授業で,何故低いのですか?
- プログラミングはどれくらいできますか?
- 書けるプログラミング言語は何ですか?
- どんなものを実装しましたか?
- 何行くらいのプログラムを書いたことがありますか?
- 普段どうやってプログラミングの勉強をしていますか?
このほかにもちろん,今行っている研究内容やこれから取り組みたい研究についても多く質問されました.
また,スライドに載せていたので研究以外の授業等で扱った内容についても聞かれました.
結果
...不合格でした.
高専推薦の結果はメールでPDFが送られてきます.
一般的な入試ではなくあくまで前段階なので,落ちても一般入試には出願できます.
また,合格だった場合は一般入試と同じタイミングで出願,入金をして,自動的に本合格となります.
正直なところ,この時点でかなり油断していたため,かなりパニクりました.
というわけで,ここから約1カ月で一般入試に挑むことになります.
一般入試
NAIST情報科学領域の一般入試はすべてオンラインで実施されます.
全体20分でそのうち数学の口頭試問が12分だそうです.
出願に際して,高専推薦の際に要求された書類以外に追加で提出しなければならない書類があるので,気を付けてください.
細かい内容については募集要項の他に情報科学領域の入試情報や情報科学領域が公開しているQ&Aも参考になります.
数学の口頭試問
数学の口頭試問は画面共有された問題をスケッチブックやホワイトボードにペンで書き,それをカメラ越しに見せる方式です.
その場で画面共有が行われ,考えつつ解いていきます.
代数,解析各1問が同時に出題され,12分間でうまく時間配分をしつつ,好きな順番で解くことができます.
1問といいつつ複数小門で構成されている場合や,誘導になっている場合もあります.
出題範囲は以下の通りです.(募集要項より)
科目 | 出題範囲 |
---|---|
代数 | 概ね、Gilbert Strang, Introduction to Linear Algebra, Fourth Edition, Wellesley-Cambridge Press. (日本語訳: G. ストラング, 線形代数イントロダクション, 原書第4版, 近代科学社) のChapter 1からChapter 7まで。 |
解析 | 概ね、Serge Lang, A First Course in Calculus, Springer. (日本語訳: S. ラング, 解析入門, 岩波書店) のChapter 1からChapter 15まで。 |
数学の勉強法
代数,解析ともとりあえずマセマを1周ずつ行いました.
その後代数の指定教科書を1周,そして過去問を解きました.
過去問は頑張って集めたやつを3~4周くらいしました.
代数のストラングの教科書のクセがあり,一般的な代数の教科書では扱わない範囲も含まれています.
また,教科書の問題から完全にそのまま出題されてる例も多いので,どうにかして教科書を入手して,解いた方が良いと思います.
私が過去問と見比べてみたところ,基本的には各セクションの練習問題,一部挑戦問題から出ているようです.(あくまで個人調べなので保証はしませんが...)
ストラングにあってマセマに無い範囲としては射影,最小二乗近似,LU分解等が挙げられます.
私は幸い学校の図書館にあったため,それを借りて勉強しました.
解析の教科書は入手できなかったため不明です.
マセマ+過去問で頑張りました.
ラングの解析入門に関しては非公式ですがここに目次が載っているので,内容を推察する参考になります.
先人によると教科書が指定されたのは2019年度の試験からだそうなので,過去問を探す際は一つの指標にするのも良いかもしれません.(ソース)
私はGemini(AI)に解答を生成してもらいながら問題演習しました.
代数の教科書に関してはネット上に英語のみですが解答があるらしいです.
小論文(再び)
一般入試でも小論文の提出が求められます.
指定内容は上に書いた高専推薦の際の小論文と同一なので,そちらをご覧ください.
一般入試のオンライン出願の締め切りの5日ほど前に,なんとなしに希望研究室のHPを見たところ,高専推薦に向けて書いた研究提案の,ほぼ上位互換みたいな論文が上がっていることに気づきました.
結局私はこれから行いたい研究についてほぼすべて書き直すことにしました.
前回書いた小論文では「研究計画」としての内容が薄く,他にもいくつか問題があったので,そういう面では書き直しになってよかったのかもしれません.
結局さらに論文をいくつか読み,最新の論文の課題や今後の展望を参考に,もう一歩進んだような内容を提案する小論文を書きました.内容にかなり悩んでしまったので,最終的には1日で書き上げることになりました.
皆さんはゆとりをもって行いましょう.そして常に最新の研究動向をチェックしましょう...
試験本番
URLから会議に入ると,事務の方による受付があり,その後は待機.
画面共有された注意事項を見つつ,カメラONのままで10~15分程度待たされ,かなり長く感じました.
数学口頭試問
はじめに数学の口頭試問が行われます.
向こうは一つの部屋に2名の方がいて,プロジェクターか何かでこちらを見ているような様子でした.
画面共有で問題が出され,手元のタイマーで12分が計測されました.
今回私はA1のホワイトボードを3枚持ち込み,先生方に堂々と背を向けて,書きかけのホワイトボードの内容が見えるようにしながら解いていきました.
少しでも点をもらおうと,出来るだけ口に出して説明しながら解いていきました.
他の体験記にも書いてあったのですが,ヒントは結構くれます(どれくらい点に影響があるのかはわからないが).
わからない場合は潔くヒントをねだるのも手かもしれません.
今回出た問題は以下の通りでした.
代数
任意のn次のベクトル$x$に対して正方行列$A$が$Ax=x$の時,$A$が単位ベクトルであることを示せ.
解析
(1) 次の等式が成り立つ時,A,Bは何になるか
\frac{x}{(x+1)^{2}}=\frac{A}{(x+1)}+\frac{B}{(x+1)^{2}}
(2) 次の不定積分を解け
\int\frac{x}{(x+1)^{2}}dx
解析は一瞬悩んで完答したものの,解析はヒントを貰えどさっぱりわからず単位行列の説明だけして終わるという,情けない結果でした.
正直ここがダメすぎて落ちたと思ってました.
口頭試問(研究に関する質問)
数学が終わってしばらくすると口頭試問が始まります.
また別の部屋からつながり,今度は3名の方がいました.
雰囲気としては准教授,志望研究室の教授,他の教授,といった感じでした.
質問内容のうち主だったものを以下に示します.
- 3分で小論文の内容(これまでの研究と今後行いたい研究)を説明して
- 小論文,特に今後行いたい研究について深掘りする質問
- 具体的手法について
- 提案はどのようなシナリオを想定しているのか
- この内容だと2年で終わりそうな内容に思えるが
- 参考文献に書いた志望研究室の論文に書いてあるアルゴリズムについて説明して(結構深掘りされた)
基本的に志望研究室の教授から質問されて,最後に一応残り2人からも一つづつ,といった感じでした.
2人に関しては「今聞いていて純粋に気になった疑問」のような質問でした.
他の体験記を見ていると,よくプログラミングに関する質問が多くされていますが,今回は一切ありませんでした.
高専推薦の際にすでに聞かれていたのでなかったのかもしれません.
結果
無事,合格をいただきました.
得点は165点.合格最低点は131点だったそうです.
学生寮の優先入寮権もいただけました.
おわりに
これから受験される皆さん,ぜひ頑張ってください!
高専推薦で落ちた方も大丈夫です.一般入試でも挽回できます!