Kumaは(99%趣味で)量子コンピュータをやっています。
今年やったこと/見聞きしたこと
連続量 x 光量子 x 量子機械学習
いろいろな理由で光量子もやりたいなと思ったので、Pennylaneのデモを参考に連続量で量子機械学習をやってみました。
さすがに場の量子論は忘れてたので、苦戦しましたが、最低限の変分ゲートセットの動きを理解して、回帰をやらせてみました。
光量子で古典光の問題を解く ということに何かロマンを感じたので、toy problemですが実際に解いてみました。
で、その 連続量光量子量子機械学習(必殺技かな?)で学会へ論文を投稿したところ、Oral acceptされました。
- 去年は離散量量子機械学習で分類問題を解いてみたのだけど、Oral落とされてPoster採録だったので、進歩しているかもしれない。
量子誤り訂正符号
Post表面符号として、量子LDPC(Low Density Parity Check)符号が注目されているらしいです。
LDPC符号は、古典では現状もっとも強力な符号として知られています。
(このQiitaの記事も、LDPCで誤りから守られることで配信されています)
量子でもやっぱりLDPCなのかぁ と感慨深いです。
古典のLDPC符号の基本的な考えは、「復号計算量を抑えながら符号長を長くする」です。
符号長を長くすると、大数の法則から、誤りは統計に従うので、扱いやすくなります。
しかし符号長が長いほど、復号の際に「ありえる送信符号語の候補数」が指数的に増えてしまうので、復号が困難となります。
LDPCの場合、これを 符号を定義する生成行列をスカスカにする("Low Density")とか、局所情報を計算グラフでやりとりすることで効率的に復号する(特に並列化がしやすい)といった手法で巧みにカバーしています。
LDPCの用途は、知るだけでも
- 光ファイバ通信(都市間・大陸間)
- 衛星通信(DVB-S2)
- 無線通信(4G,5G)
と、無数にあります。逆にLDPCが使われないのは、復号器の回路のコストが許されない用途 or/and ランダムエラーよりもバーストエラーが多い (Fiber to the homeとか QRコードとか)に限ります。
LDPCは復号が効率的ですが、といっても大規模な数値演算となります。
そのため、低コスト用途には Stair Case符号というものがでてきています。
Stair Caseは、短い符号を部分的にオーバーラップさせながらつないでいくことで疑似的に長い符号長を実現するものです。
復号も端からスライディングでやっていきます。
(LDPCでも同じようなアイデアがあって、空間結合LDPCとかLDPC畳み込みとかよばれます)
もしかすると、量子でもStair Caseのような「複数の符号の疎結合」が出てくるかもしれません。
Quantum Stair Case 符号!?
また、誤りのある量子回路を通信路とみなせば、最適な符号語というのは、量子回路の統計的性質に依存するかもしれません。
例えば誤り訂正符号化をしたとして、その論理状態を生成するためのコスト(ゲート数など)が妙に高くついてしまう ということはありえると思います。
このような場合、「論理状態を生成するコスト(ゲート数かもしれないし、制御パルスの所要エネルギーかもしれない)」や「論理状態同士の”距離”」といった物理的な制約までも考慮した符号語が、End-to-endでみると最適な符号化になっていることがあるかも、ということです。
これは通信路理論で言うところの 符号化変調 の概念です。
つまり、符号というのはデジタルの世界に住んでいるんだけども、実際にそれを物理で実現したとすると、そこにはアナログ的なコスト(エネルギーとか)がついて回るので、それも含めて最適化しないといけないよ、という話です。
関係あるかもしれないし、ないかもしれません。
あとは、軟判定とかターボ符号ですかね。そのうち量子版が出るかも。
中性原子/冷却原子/リードベルグ原子
物理量子ビットの”移動”が可能なので、非隣接のCNOTが必要な量子LDPCには向いているらしいです。
でも”移動”はまだかなり遅いそうです。。
QSVT(量子特異値変換)
1年遅れぐらいですが勉強しています。Qiitaにも記事書いてます。
いろんなアルゴリズムを見通しよく理解できる一般化になっています。
QKD
学会でたまに聴講しています。最近は古典光と同時伝送するというPoCが流行っているようです。欧州中心。
古典光と同時伝送すると、光ファイバ中のラマン効果というやつで量子光がやられます。
なので、古典光と量子光は、200 nm以上離す必要があります。(100 nmぐらいだとラマンにやられます)
ただ既存の光ファイバNWは古典光のために作られたものなので、中継間隔は長いし、実験室に比べるとだいぶロスも大きいです。
そこで量子光を飛ばせる区間がどれぐらいあるのか、とかリアルなことを考えてしまいます。
新しくファイバを引けばいいじゃないか、と思うかもしれませんが、、
古典伝送のための光ファイバが枯渇してきている現状でも、めったなことではファイバを引こうとはしない(コストがとてつもなくかかる)ので、QKDのため(だけ)に敷設するというのはまずないと思います。
学術ネットワークだったらありえますが。
QKDは、やはりPoCで止まるんじゃないかという気がしています。
希望的観測としては、コスト度外視の防衛用途でしょうか。防衛費盛り上がってますしね。
勉強会
量子統計力学をやっています。難しいですが、久しぶりに物理の脳が動くのは楽しいです。
まとめ
量子コンピュータを本業にする気はないのですが、やはり学術的にも工学的にも面白い分野です。
来年度も量子はちょこちょこやっていきます。