ミッション∞インフィニティ|宇宙+量子+芸術 展
2026年1月31日(土)から5月6日(水)まで、東京都現代美術館(清澄白河)で開催中の「ミッション∞インフィニティ」展に行ってきました。テーマはなんと「宇宙+量子+芸術」。この組み合わせ、気にならないわけがない!
さらに、2月23日には同会場で開催された講演会にも参加。量子コンピュータの実機デモや、量子を使ったアートの話など、技術者としても、新しいもの好きとしても刺激的な内容でした。
この記事では、展示や講演の様子を紹介しつつ、技術的な視点からも少し掘り下げてみたいと思います。宇宙の展示も魅力的でしたが、今回は「量子」にフォーカスしてお届けします。

なお、本展示のコンテンツは、大阪万博の「エンタングル・モーメント」で使用されたものの一部です。
東京で大阪万博を体感できる貴重な機会にもなっています。
展示について
いくつか展示物を紹介したいと思います。
ただ、ぜひ現地に行ってみてきてほしいため、すべてを紹介することはしません。
入口でまず目に飛び込んでくるのは、量子100周年を記念した巨大ポスター。

電子データはこちらから無料でダウンロードできます。
https://www.mext.go.jp/stw/series.html
私は自宅と職場に貼ってます。地味にテンション上がります。
そして、とても大事なことが書いてあります!

「そんざいの たしかな ふたしかさ」 良いですね。
この言葉を胸に、展示を見ていきました。
浜松ホトニクスが二重スリット実験の解説を展示していました。
アナログなセットにこだわりが感じられますね。動画で、フォトンカウンティングの実験の様子(ショットノイズ測定?)が移っていました。

来訪者からは、「二重スリット実験というのは聞いたことあるけど、具体的にどういう実験系なのか知らなかった。面白い。」という声が聞かれました。空間光学系、ふつう見ることないですしね。
超伝導量子コンピュータに欠かせない希釈冷凍機の模型も展示されていました。

通称「シャンデリア」と呼ばれるこの装置、段ごとに温度が下がっていき、最下層ではほぼ絶対零度(-273℃)の世界が広がっています。そこに量子ビット(QPU)が静かに隔離されているという構造です。
量子コンピュータがどれだけ繊細な環境で動いているかがよくわかります。
そして、個人的に一番衝撃を受けたのが、量子のふるまいを体験できるインタラクティブなゲーム。

内容はネタバレになるので詳しくは書きませんが、「これを体験するためだけに来る価値がある」と思える展示でした。
会場では、量子パズルQA2も遊ぶことができますよ。
量子をテーマにしたアート作品(ポスターやフラッグ)も多数展示されています。
電子版は以下から閲覧できますが、会場では未公開の新作も展示されていました。
科学と芸術が交差する瞬間を、視覚的に体験できる貴重な機会です。
量子×芸術. Quantum Computer Art Studies
この芸術の解説は後程。
講演会
2/23の講演会では、大阪万博QIQBの根来先生、多摩美術大学の久保田先生が登壇されました。
会場はほぼ満席で、年齢層も様々でした。量子技術への高い関心がうかがえました。
根来先生のトーク
根来先生のトークでは、
前半は、量子ゲートの基本的な仕組みの解説からスタート。
その後、スマホから大阪大学の量子コンピュータを実際に操作し、Bell状態(もつれ)を生成するデモが行われました。
Bell状態(もつれ)を作った際の実際のスクリーンショットです。

画面下部が実機ですが、実機の出力には、理論上は出ないはずの「01」や「10」も混ざっていました。これは量子コンピュータがアナログ的な性質を持ち、ノイズの影響を受けるためです。
ただし、量子コンピュータは「アナログなのに誤り訂正ができる」という不思議な特徴を持っており、現在も世界中でその研究が進められています。
続いて、量子コンピュータの完成はまだまだ難しく、開発するための人材がまだまだ足りていないというお話がありました。例えばどういうことが現場レベルで起きてきた(あるいは今も起きているのか)の例が紹介されました。

これらの課題の中には、量子コンピュータ特有の課題もありますし、制御部やソフトウェアといった、「量子のための古典技術」にかかわるものもありますね。
また、技術的に難しいものもあれば、Human Errorに近いものもあります。
これが今の量子コンピュータのリアルな姿であり、「動くもの」を作るためには、量子力学の専門家だけではどうにもならない、ということだと思っています。
ソフトウェアエンジニアの視点、FPGAエンジニアの視点、色々なものが必要になっています。パーツが動くのとシステムが動くのとでは、別次元の話です。
量子コンピュータが大規模化、量産化するほど、この問題はますます避けて通れないものになってくると思います。
そこで根来先生からは、人材を集めるためには、アウトリーチ活動や教育も重要と考えているというお話がありました。
これも本当に そうだな と感じます。
私自身もまずは自分ができることを取り組んでいます。
Qiitaの記事を書いたり、勉強会をしたり、教科書を貸し出したり、どういうルートなら量子コンピュータの技術に関われるかを教えたり。量子の冬 を乗り越えてきた人たちのバトンを受け取り、落とさず走り、そしていつか次に渡す ということを心掛けたいと思っています。
講演の中では、QA2の紹介もありました。

この場で、私のQA2解説記事も、口頭でご紹介いただきました。ありがとうございます!
また、講演後に、QA2の開発者とも立ち話ができました。貴重な経験です。
久保田先生のトーク
久保田先生のトークでは、まず、なぜ量子コンピュータにアートを書かせようと思ったのか という話がありました。なんと、古典コンピュータの黎明期にも、アートを書かせた人たちがいるそうです。それの量子版 という位置づけになりますね。
私が印象に残ったところは、「量子コンピュータをイメージ(想像)としてアートにするのではなく、量子コンピュータを実際に動かして出てくるものをアートにする」というコンセプトでした。
つまりどういうことかというと・・・
こういうことです。
出展:量子×芸術. Quantum Computer Art Studies
こちらは、大阪大学の量子コンピュータで実際に量子計算を行った出力を可視化したものです。
いつ実行されたのかも記録されていますが、これは「量子雑音は時変するので、”その時”に意味がある」というコンセプトとのことでした。量子コンピュータはナマモノだ。
トークの中では、実際に量子回路を書いている様子なども紹介され、「久保田先生すげぇ・・・」ってなりました。
(そして、サポートした宮永さんもすごい)
Quantum-inspired ではなく、 Quantum そのものをアートとして表現しようというコンセプト、そしてそれを形にしたこと、なかなかに衝撃的です。
他にも、Bloch球での可視化、密度行列の可視化なども紹介されました。
2量子ビット以上でもつれが入ると、Bloch球で書けなくなるのでどうするか といった技術的な話もあり、大変面白かったです。
将来的には、量子コンピュータがもっと簡単に使えるようになり、アートの作者も増えるんでしょうかね?
まとめ
「ミッション∞インフィニティ」展は、量子という一見難解なテーマを、アートや体験を通じて“感じる”ことができる貴重な場でした。
二重スリット実験の展示や、量子ゲーム、アート作品の数々は、技術者としても新鮮な驚きがありましたし、講演会では量子コンピュータの最前線とその裏側にあるリアルな課題にも触れることができました。
大阪万博のコンテンツを東京で体験できるという意味でも、非常に価値のある展示です。
量子に興味がある方はもちろん、アートや未来技術に関心のある方にもおすすめです。
会期は5月6日(水)まで。
気になっている方は、ぜひ足を運んでみてください。
