振り返り
気づけば量子プログラミングを始めて2年超。
量子コンピュータについて私見をまとめます。
過去のものは以下。
https://qiita.com/notori48/items/c0293496d72446fb15af
https://qiita.com/notori48/items/1ee323ec8cbddba38ef8
やってきたこと
- 量子アルゴリズムを使って(古典の)問題を解く
- 論文数本
- 受賞歴あり
- 特許数本
- 社外連携(共同研究等)
- 論文数本
- 後進育成
- 社内の量子人材確保への貢献。勉強会活発化、Ph.D呼び込み、若手のエンカレッジ
- Quantum hypeのキャンセル
- 人脈形成
- 若手飲み会開催など
できてないこと
- 量子研究への本質的な貢献。ユースケース探索じゃなくて。
- 最前線へ追い付く
- 量子コンピュータの実用を諦める
- 諦められない!
量子コンピュータの現状(Kuma視点)
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今の量子コンピュータ、今後数年の量子コンピュータで、実用上の問題でメリットを得ることは不可能。
- そういう意味では、NISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum)は終わった。
- 理由はもちろん雑音の影響が大きい。
- 真空管でスマホを作ろうとするようなもの。
- メリットを謳う論文は、Hype(誇大広告)と考えてよい。
- アニーリングとかゲートとか以前の問題。
- 最適化なしを従来法、最適化ありを量子と定義してるので、もはや何でもあり。それは量子アドバンテージじゃなく数値最適化の恩恵。
- 問題規模が大きいところで高速なのが量子性だったはずなのに、「実は規模が小さいところでは量子が速いので、古典で問題分割しまくって量子に投げる」とか訳の分からないことを言っている。
- D-waveとかの量子企業の株価がすごい落ち方をしている。
- でも日本のメディアはまだ量子が実用レベルになってきたと信じている。
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量子誤り訂正を目指すことは大前提だが、何十年もかかる。10年では無理だろう。
- なので、量子誤り耐性コンピューター(FTQC)とNISQの中間を狙うようなアーキテクチャも提案されている。Early FTQCとかPartial FTQCとかいう。面白い!
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量子コンピュータの物理実装方式は確定していない。群雄割拠状態。
- 冷却原子、光量子、半導体量子あたりが最近人気。超伝導やイオントラップは実装で一歩先へ行っている感じがあるが、FTQCという巨大な夢の前には、どっこいどっこいか。
- 量子ビットのチップ単体ではなく、制御配線が大規模にできるのかという視点も重要。何量子ビット出来た!とかの話じゃない。今の雑音と集積度で何ビットできようが、無意味。スケールに資する改善があるかどうかが重要。
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FTQCが動いたとしても、量子コンピュータが実用上使い物になるかどうかは実はまだよくわからない。
- たぶんいまFTQCを渡されても、人類は持て余すということ。
- 素因数分解等は指数加速するので期待されているが、計算に必要な時間が近代の技術で実現可能な量子寿命をはるかに超えてしまっていたりする。
- Grover系の二次加速する量子アルゴリズムは、量子が古典を上回るような問題規模$N$がかなり大きいが、そのような条件で実用上面白い問題は意外と無い。
- しかもGrover系はたいていの場合ブラックボックス部(オラクル)がとんでもなく大変な数のゲート操作になる。ここが二次加速なんか簡単に打ち消してしまう。
- そもそも古典的な問題をGroverアルゴリズムに持ってくるオーバーヘッドがかなり大きい。
- 大量のデータを処理する系のアルゴリズム(例えばデータドリブンな量子機械学習)は、任意の古典データを入力するためのゲート操作が膨大であるため、ほとんどの場合で役に立たないのではないか。
- 量子データを直接量子コンピュータ上の量子ビットに転送する(量子テレポ)とかできれば違ってくるかもしれない。データやメモリの定義から考え直す必要がある。
- QAOAとかVQEといった、データ入力量やパラメータが比較的に少ない学習系アルゴリズムも、実は厳しい。
- 勾配計算のコストが高いので、学習がかなり大変
- パラメータ数が増えてくると、局所解に陥って止まってしまう(バレンプラトー問題)
- 完全に回避することは難しいと思われる。ドメイン知識を駆使して低減することは出来るかもしれないが、職人技すぎてなかなか実用性はないと思う。
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QKDは政治。PoCの域を出ることが難しいような気がする。PQCは良さげ。
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上記の通り、NISQは絶望、FTQCは遠すぎということで、テンソルネットワークのような「量子性が薄いやつ」へ誘導しようとしている
- テンソルネットワーク自体は機械学習界隈でも一定の人気はあるが、席巻するような感じではない(らしい)
- でも量子界隈の一部の人は テンソルネットワークすごい と持ち上げまくっている。
- (量子統計力学のような、量子多体系ガチシミュレーションはいいと思う)
- Kuma的には、もはやただの古典機械学習の一手法なんじゃないかと思っている。。
- 量子性が薄くなるということは、量子アドバンテージがなくなっていく方向・・と一概には決して言えないが、そのリスクはあると思っている。今後注視。
- テンソルネットワークは1000量子ビットでもシミュレーションできるからすごい みたいなのはあんまり本質的じゃない。
- でも量子界隈の一部の人は テンソルネットワークすごい と持ち上げまくっている。
- テンソルネットワーク自体は機械学習界隈でも一定の人気はあるが、席巻するような感じではない(らしい)
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実用上意味のない問題での量子超越は、実現されつつあるし(ほとんどがすぐ反論が出ているが)、そのうち実現されると思う。
- 量子ビット数が増えると内部空間が倍々で増えるのだから、絶対に古典で追えなくなる。
- 追えなくなったからと言って、そこで実用上うれしいことが起きているとは限らない。(ただデバッグできない複雑系というだけかもしれない)
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量子アナログシミュレーション(量子風洞) も出てきているが、古典でも同じような発想は大昔からあるし、結局雑音でスケールしないand汎用性がないと思うので、どうなんだろうと思っている。
- CPUじゃなくて全部ASICでやったらいいやん!という暴論に聞こえる。。それはそうなんだけど、そうじゃない。
今後どう生きていくか
- Kumaが思うに、実機はFTQCを目指すしかないので、それに向けた技術をやるしかない。
- 集積、制御、測定フィードバック/フォワードとか、周辺技術?が重要。ビット数だけ競うべきではない。
- Kumaが思うに、量子アドバンテージが実際に得られる(または得られそうな)アルゴリズムは正直あまりよくわかってはいないので、そこをしっかりやる(NISQは忘れる)必要がある。
- オラクルは効率的とする みたいなexcuseは危険かもしれない。。とりあえずオラクル以外の部分を工夫する というモチベーションならあり。
- お金を出す人が期待するタイムラインと、FTQCのタイムラインがあまりに違うので、そこをどうしていくかは本当にわからない。たぶん誰もわからない。
- 楽しもう。
まとめ
量子コンピュータは、現状では、「モノになるという確信は全然持てない技術」と思うが、だからこそ面白い(と思える人が向いている)。
楽しもう。