なぜ今オーケストレーションを見直すのか
- ジョブ型スケジューラから「信頼性とガバナンスを備えた制御プレーン」への進化が加速している
- LLM/生成AI・外部SaaSの増加で、イベント駆動・リアルタイム・監査性を同時に満たす設計が必須に
- クラウドコスト圧力が高まり、K8sネイティブ/サーバレス/宣言的IaCをどう組み合わせるかが競争力を左右する
メジャーOSS 6選
Apache Airflow 2.10系
- 強み: DAG型のデファクト。数千のプロバイダーでETL/ML/インフラまで網羅している。MWAA/Composerなどマネージドが豊富である
- 最近の進化: Datasetスケジューリングとタスクメトリクス強化。3.xは開発中だが安定運用は2.xが本線
- 向く場面: 既存DAG資産が多い、大量バッチをK8sで安定運用したい
- 導入メモ: OpenLineage/Marquezで系統管理、Helm+OIDCでRBACを初期に固める
Dagster 1.12(Components GA)
- 強み: 資産指向(Asset Graph)。データモデルの鮮度SLO・テストを一元管理。BI資産も同じグラフに載せられる
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最近の進化: Componentsと
dgCLIがGA、Airbyte/Fivetran/dbt/Looker等の統合コンポーネントが状態管理に対応 - 向く場面: データ契約や鮮度SLOを重視、ダッシュボードまで含めて制御したいチーム
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導入メモ: 粒度をテーブル/モデル単位に合わせ、CIに
dg scaffold github-actionsを組み込む
Prefect 3.0(イベント駆動OSS)
- 強み: S3到着・Webhookなど外部イベント起点のフローが簡単。軽量エージェントでローカル/クラウド両対応
- 最近の進化: イベントバックエンドとオートメーションをOSS化。トランザクション型キャッシュで冪等性を強化
- 向く場面: 小粒なイベント駆動ジョブが多い、インフラを軽く保ちたいチーム
- 導入メモ: 2→3移行は概ね非破壊だがワーカー設定が増えるため、ログ集約先を先に決定
Kestra 1.0(Declarative + AIネイティブ)
- 強み: YAML主体の宣言的記述をGUI/SDKと併用。900+プラグイン、RBAC・監査ログが標準
- 最近の進化: 1.0 LTSで安定版。AIエージェントタスクを前提にした「宣言的エージェント型」を提唱
- 向く場面: IaC文化があり、AIタスクを統制下で動かしたい大規模組織
- 導入メモ: Terraform連携を前提に権限設計。AI生成YAMLは必ずレビュー+自動テストを通す
Argo Workflows 3.x(Kubernetesネイティブ)
- 強み: CRDとしてK8sに組み込むオーケストレーター。Pod単位の並列実行が得意で、GPU/Spot混在も調整しやすい
- 最近の進化: WorkflowTemplatesとCronWorkflowsの強化、Artifact/Parameterの再利用、EventSource連携(Argo Events)で完全K8s内で完結
- 向く場面: 既にK8sが中核インフラ、ML推論・バッチ・MLOpsを同じクラスターで回したい
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導入メモ: マルチテナント時は
namespace isolation + PodSecurityを徹底。GitOps(Argo CD)とセットでの運用が安定
Flyte 1.10+(型安全・MLフレンドリー)
- 強み: 型安全なタスク定義とキャッシュ/再実行の仕組み。MLワークロードでの再現性とデータ/モデルバージョニングが強い
- 最近の進化: 構造化ログとカスタムリソースによるスケーリング、K8sネイティブでマルチクラウドに対応
- 向く場面: モデル学習・特徴量計算・評価パイプラインを同じ基盤で回したいMLOpsチーム
- 導入メモ: リソース要求/制限をタスク単位で厳密に設定し、カタログキャッシュを活用するとコスト最適化しやすい
サーバレス/マネージド系も押さえる
- AWS Step Functions: サーバレスでSLAの高い業務フローを素早く組める。オンプレや他クラウドとのハイブリッド連携はLambda/ECS/EKS経由で設計
- Google Cloud Workflows: GCPリソース間のオーケストレーションに特化。Cloud Run/Functions/Batchと相性がよい
- Azure Data Factory / Synapse Pipelines: GUI中心でデータ統合に強く、ガバナンスとAD連携が容易
サーバレスは**「運用レス」「コールドスタート」「ベンダーロックイン」**のトレードオフを意識し、ビジネスクリティカルな部分だけを載せるハイブリッド構成が現実的
早見表:要件別の第一候補
| 目的/要件 | 推奨ツール | 理由 |
|---|---|---|
| 既存DAG資産をK8sで安定運用 | Airflow 2.10 | 実績とプロバイダーの多さ、マネージド選択肢が豊富 |
| データ資産の鮮度SLOと系統管理 | Dagster 1.12 | Asset Graph + FreshnessPolicy + Componentsで統合管理 |
| イベント駆動・軽量フロー | Prefect 3.0 | イベントバックエンドをOSS化、柔軟なワーカー運用 |
| 宣言的+AI統合を早く試す | Kestra 1.0 | YAML/GUI/SDKのハイブリッドとRBAC・監査が標準 |
| K8sネイティブで高並列・低レイテンシ | Argo Workflows 3.x | Pod直制御でGPU/Spot混在も最適化しやすい |
| MLパイプラインの再現性と型安全性 | Flyte 1.10+ | 型安全・キャッシュ・再実行が強力、MLワークロードに最適 |
| インフラ運用レスで素早く組みたい | Step Functions / Cloud Workflows | マネージドで可用性担保、管理コストを最小化 |
導入チェックリスト
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SLO/SLI定義: ジョブ完了よりデータ鮮度・完全性を主要指標に。資産指向なら
FreshnessPolicy、イベント指向なら到着遅延を計測 - 権限・秘密管理: RBAC/ABAC、VaultやSecrets Manager連携、監査ログの有無を確認。マルチテナントはNamespace分離を前提に
- デプロイ戦略: K8sならHelm/Operators、GitOps(Argo CD)をセットで導入。サーバレスなら環境分離とエラーハンドリングを定義
- 移行計画: 既存スクリプトをどこまで再利用できるか(Airflow Operators、Dagster Pipes、Prefect tasks、Kestra plugin、Argo/Flyte Python SDK)
- 可観測性: OpenTelemetry対応、OpenLineage/Marquez連携、集中ログ(CloudWatch/Stackdriver/ELK)。メトリクスとトレースを必ずダッシュボード化
- コスト設計: K8sはノードプール(GPU/Spot/On-Demand)戦略、サーバレスは実行回数とデータ転送料を事前試算
パターン別アーキテクチャ例
- バッチ中心 + BI: Airflow/DagsterでETL→dbt変換→BI更新まで一連のDAG/Asset Graph化。OpenLineageで系統記録
- イベント駆動 + ストリーム補完: Prefect + Kafka/S3イベントで変換を起動し、遅延許容が低い部分は Flink/Kafka Streams を常駐系として分離
- K8sネイティブ MLOps: Argo Workflowsで学習・評価・デプロイをCRD化し、モデル/データバージョンをFlyteまたはMLflowで管理
- 宣言的IaC + 監査重視: KestraやStep FunctionsをTerraformで管理し、ポリシーコード(OPA/Conftest)でCIにガードを入れる
まとめ
- オーケストレーションは「ジョブ実行エンジン」から「データプラットフォームの制御プレーン」へ。モデル選択はDAG型・資産指向・イベント駆動・宣言型・K8sネイティブを組み合わせる時代
- 短期: 主要ユースケースを1〜2個選び、最適そうなツールでPoC(例: K8s中心ならArgo/Flyte、鮮度SLOならDagster)
- 中期: 権限・監査・可観測性を共通レイヤとして整備し、ツールごとの差分を吸収
- 長期: AIタスクや人間レビューを組み込んだ閉ループ運用を設計し、宣言的・イベント駆動・資産指向をハイブリッドに展開