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画像屋は夢想する 画像認識に関わる書籍の紹介「赤ちゃんの不思議」

Last updated at Posted at 2018-12-05

画像認識技術や機械学習の進展の中で、いろんなものが明確になってきているように人は思っているかもしれない。しかし、実際はそんなに簡単じゃないことをこの本は教えてくれる。

関 一夫「赤ちゃんの不思議」 岩波新書

目次

第1章 赤ちゃん学の誕生
第2章 こんなものが好き、こんなものは嫌い
第3章 「心」を読む私の「こころ」
第4章 「わたし」はいつから「私」なのか―自己の発見
第5章 赤ちゃんの「脳力」
終章 赤ちゃんと共に育つ

この本でまず驚くことは、以下の新生児模倣という現象です。

新生児模倣

新生児模倣

  • 相手の顔の変化に合わせて、赤ちゃんが自分の顔の表情を変えているということが意味すること。
    • 自分の顔と相手の顔とが対応していることを先見的に理解しているように思える。
    • 自分の顔の筋肉をどう動かせば、どんな表情になるのか、知っているかのように思える。

 深層学習などの機械学習では、該当するカテゴリについての対象物の画像を多数に学びこむことによって、対象物を分類できるようになる。
 ここで、これは顔・これは顔でないという教師つきの学習をしているのではない。

 教師つきでない学習として、クラスタリングがあるが、クラスタリングで、いろんな画像の中から、共通の特徴のあるオブジェクトとして顔画像というカテゴリーを作り上げるにも、相当の数の画像データが必要だろう。

 新生児模倣では、生後すぐであり、クラスタリングできるほどの顔を見ることはない。

 顔は生後に見て、経験によって顔を顔として判断できるようになっているのではなさそうだということ。
(そのために、赤ちゃんに自分の顔を鏡で見せてしまうことのないように実験しているとAndrew Meltzoffの実験では述べているとこの本では紹介している。)
 しかも、相手が見せた舌をみて、赤ちゃんが自分の舌を出してみせるということは、とても簡単じゃない。
 相手が見せた舌が、自分にもあり、どの筋肉を動かせば、自分の舌をだすことができるのかを、新生児の時点で知っていることを想定しているように思えるからだ。

 これから、子どもが生まれるかは、ぜひ試してみることを勧める。

とにかく、この本の最初の1例でさえ、簡単に理解できるものではない。

言葉で聞くことのできない相手の認識を理解するため手法

選好注視法、馴化・脱馴化法 という方法を用いて、赤ちゃんが物事をどう理解しているのかを明らかにしている。

赤ちゃんの視覚機能の驚くべき能力

ファンツの開発した選好注視法とは!?|その実験と問題点について解説

馴化・脱馴化法

こちらを見ている顔に対して特に敏感 であることなどをこれらの手法で判定している。

また、可能事象と不可能事象とを赤ちゃんが区別していることをもこれらの手法を用いて明らかにしている。

テレビの中の対象物と、テレビの外の対象物とをどのように区別しているのかなどを実験で明らかにしている。

言葉を使うことのできない相手での認識の実験は、どのように実験を設計するのかが勝負の多くを支配する。
言葉を使うことのできない相手での認識の実験は、赤ちゃん相手の他にも、類人猿での実験や、その他の動物への実験でも同様に難しい。

「いないいないばあ」は万国共通

「いないいないばあ」は万国共通のやりとりであるそうだ。赤ちゃんと大人(と子ども)の双方向のコミュニケーションである。

  • お互いが顔を合わせていて、見つめ合っていること。
  • 赤ちゃんには、人がそこにいることはわかっているけど(わかっているにちがいないと思うけど)、顔を隠して、「いないいない」ふりをする。
  • 隠していた顔を「ばあ」と言って見せる。
  • そうすることで、赤ちゃんが笑う。
  • オキシトシンと社会脳

赤ちゃんは、大人の双方向のコミュニケーションをすることによって、自分の命を育んでいます。それはまさに命がけの営みと言えるでしょう。

言葉は生きるか死ぬかという状況でなければ身につかない

 この本の中では、外国語の習得は、生きるか死ぬかという状況でないと身につかないと述べています。赤ちゃんが母語を習得するのにしても、親とのコミュニケーションがとれないと、自分の困った状況を解決できないという命がけの状況の中で習得しているものなのだと述べています。
 生後すぐは日本人の赤ちゃんであっても英語の"L"と"R"の区別ができ、「生後5,6ヶ月ぐらいになるとLとRの区別ができなくなってしまいます。」と述べています。 これは、赤ちゃんが生まれる環境では、どのような言語が用いられるのかが事前にわからないものであって、柔軟性が用意されているものだそうです。それが、生後5,6ヶ月ぐらいになると、赤ちゃんの成長する環境で必要なものに合わされている中で、英語の"L"と"R"の区別がされなくなっていくとのことです。
 赤ちゃんにとって、親とのコミュニケーションは命がけの営みですが、早期教育の外国語教育のDVDなどはどうでもいいものです。ですから、早期教育の外国語教育のDVDなどを赤ちゃんにみせても、無意味だと述べています。

赤ちゃんは「ライブ」と「録画」の区別ができるのか

馴化・脱馴化法 を用いて、ライブ」と「録画」の区別ができるのかという研究の内容も紹介しています。

 

この本の内容に興味をもったら

この本の著者の研究室のwebページにアクセスして、その研究や関連の研究を調べてみることをおすすめします。
東京大学 開一夫研究室


この本を読みつつ、私が思ったことを以下に示します。

ヒトが持っている認識能力は、五感の感覚器の情報を、脳内で再構築して作っているものである。

ヒトは、視覚情報においてさえ、「ありのまま見ている」のではない。盲点という現象が存在していること自体、「ありのまま見ている」のではないことを示している。らせんではなく同心円なのに、らせんに見えてしまう錯視は、視覚が、「ありのまま見ている」ことにほど遠いことがわかる。

しかも、そのらせんの錯視は、次の記事のように深層学習でも再現してしまう錯視だということだ。
必見!人工知能AIが錯覚図形をみることで、逆に人間脳の視覚野の仕組みが解明

他にも、ヒトの脳は、解釈しやすいように解釈してしまう癖があって、次のような錯視を生じてしまう。
重力に逆らって坂道を上がる? 「錯覚すべり台」登場」
も、ヒトがありのままではなく、解釈しやすい解釈を優先的に選んで、脳内に再構築しているように見える。

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