光速はAI性能における物理的な上限になるのでは?
光の速さは真空中で秒速約30万kmと決まっており、これはどんな技術を使っても超えることができません。
ということは、AIチップの中を伝わる電気信号やチップ同士をつなぐ通信も、この上限より速く情報を運ぶことは原理的に不可能で、いつか性能は頭打ちになるのでは? と思いついたのが本記事の軸です。
AIの処理速度がどれだけ進化しても、最後には光速という絶対的な制約にぶつかることになるのではないかと考え、いろいろと調べてみました。
既にCPUのクロック周波数は頭打ちになりかけている
パソコンやAIチップの性能を語るときによく出てくる「クロック周波数」という指標があります。
これは1秒間に何回信号を処理できるかを示す数値です。かつては年々クロック周波数が上がり続けていましたが、近年は5GHz前後で大きな伸びが見られない状態が続いています。
その背景には消費電力や発熱、半導体の微細化に伴う漏れ電流など、複数の要因があります。その一つとして、チップ内部の配線を信号が伝わる時間も無視できない制約になっています。
5GHzというのは、1秒間に50億回のサイクルを刻むということです。1回のサイクルにかけられる時間は50億分の1秒しかありません。
この間に光が真空中で進める距離はわずか60mm程度です。しかも実際のチップの中を伝わる電気信号は、真空中の光よりも遅く伝わります。
つまりクロック周波数をさらに高めるほど、1サイクルの間に信号が伝わる距離という制約が厳しくなります。チップ内の配線遅延も、高クロック化を難しくする要因の一つです。
データセンター規模でも同じ壁にぶつかっていた
この問題は1つのチップの中だけではなく、AIを支える巨大なデータセンター全体でも起きていました。
最新のAIモデルは数万台規模以上のGPUを同時に連携させて学習を行うことがあり、GPU同士が離れているほど、信号が届くまでの時間が長くなってしまいます。
そこでNVIDIAなどの半導体メーカーは、電気信号だけに頼らず、光を利用した通信技術に力を入れています。
代表的なものが「コパッケージド・オプティクス」(CPO)と呼ばれる技術で、チップのすぐそばに光通信の部品を組み込むことで、通信の遅延と消費電力を抑える工夫です。
NVIDIAが発表したSpectrum-X Photonicsというスイッチは、従来の方式に比べて電力効率などを改善し、数百万基規模のGPUをつなぐネットワークを目指しています。
ただしここで注意したいのは、光を使った通信であっても、光速そのものを超えられるわけではないという点です。
光通信は高速かつ省電力な通信を可能にしますが、情報伝達速度には光速という上限があります。
では光速の壁を超える方法はないのか
現時点で、真空中の光速を超えて情報を伝えることができる技術は存在しません。そのため研究者たちは、光速の制約を前提としたうえで、いかに無駄なく計算を行うかという方向で工夫を重ねています。
・信号が伝わる物理的な距離をできる限り短くする設計
・電気配線だけに頼らず光通信を使い、高速かつ省電力に通信する
・光そのものを利用して計算を行う光コンピューティングの研究
・1つの巨大なチップに頼るのではなく、多数の小さなチップを効率よく連携させる設計
こうした工夫によって、当面はまだ性能を伸ばす余地が残されています。
ただしどれだけ工夫を重ねても、情報が光速より速く伝わることはないため、長期的には光速が計算機システムの規模や通信遅延を制約する根本的な物理法則の一つになると考えられます。
まとめ
・光速は真空中で秒速約30万kmで進み、この上限を超えて情報を伝える技術は存在しない
・CPUのクロック周波数が5GHz前後で大きく伸びなくなっている背景には、消費電力や発熱など複数の要因があり、信号の伝播速度もその一つ
・巨大なAIデータセンターでも、GPU間の通信遅延という形で信号の伝播時間が性能上の制約になる
・光通信や光コンピューティングは、通信や計算を高速・高効率化する技術だが、情報伝達の光速という上限そのものを超えるものではない
・学習データ量や電力の制約を乗り越えた先にも、光速を含む複数の物理法則が究極的なボトルネックになる可能性がある
AIの進化は、データ・電力・資金といった現実の制約を乗り越えたとしても、最後には光速を含む物理法則そのものによる制約に行き着く可能性があります。
技術の工夫で制約の影響を小さくすることはできても、物理法則そのものを無視することはできません。
とはいえ、その制約がAIの進化を決定的に止める段階に行きつくまではまだまだ時間がかかる見込みで、当面は電力・資金・製造能力などの問題の方が現実的な課題として大きいでしょう。