「明日からAIがチームメンバーになります」
そんな時代が、本当にやってきています。
いま海外のテック企業では、AIをただのコーディング支援ツールではなく、開発プロセス全体に組み込んだ「もう一人のチームメンバー」 として活用する動きが加速しています。
その名も 「Agentic DevOps(エージェンティック DevOps)」。
この記事では、初心者の方にもわかりやすく、いま海外で何が起きているのか、そしてこれからの開発現場がどう変わっていくのかを解説します。
そもそも「Agentic DevOps」って何?
まずは用語をかみ砕いて理解しよう
Agentic(エージェンティック) とは、「エージェント(agent)= 代理人」が語源です。つまり、自律的に行動する AI が、開発者の代わりに(または一緒に)作業をしてくれる 仕組みを指します。
DevOps(デブオプス) は、開発(Development)と運用(Operations)を組み合わせた言葉で、ソフトウェアを素早く、安全にリリースし続けるための仕組み のことです。
つまり、Agentic DevOps とは、
「AIエージェントが開発プロセスに常駐して、コード生成・テスト・デプロイ・レビューなどを自動で手伝ってくれる開発スタイル」
のことなんです。
なぜいま「Agentic DevOps」が注目されているの?
背景1: AI開発ツールの急速な進化
ChatGPTやGitHub Copilotなど、AIがコードを書けるツール が次々と登場しました。
しかし最初は「コードの一部を書いてくれる便利ツール」止まりでした。
ところが最近、AIは 「コードを書く→テストする→修正する→デプロイする」といった一連の作業を自律的にこなせる レベルに進化。これにより、AIをプロセス全体に組み込む動き が加速したのです。
背景2: 開発スピードと品質の両立が求められる時代
現代のソフトウェア開発では、速く作る だけでなく、品質も高く保つ ことが求められます。
しかし人間だけでは限界があります。そこで、AIに単純作業や反復作業を任せ、人間はより創造的で重要な判断に集中する スタイルが求められるようになりました。
海外の最新動向:7つのポイント
ここからは、いま海外でどんなことが起きているのか、具体的に見ていきましょう。
1. 骨格はアジャイル+DevOps。AIはその「上に乗せる」形
アジャイル開発・DevOpsって何?(初心者向け)
- アジャイル開発: 大きな計画を立てて一気に作るのではなく、小さく作って素早く改善を繰り返す 開発方法
- DevOps: 開発チームと運用チームが協力して、自動化された仕組み(CI/CD)で素早くリリースを繰り返す やり方
どう変わる?
海外の先進企業は、既存の アジャイル/DevOps の仕組みを捨てずに、そこに AI エージェントを組み込む 形でプロセスを進化させています。
たとえばGoogleが発表した DORA 2025 State of DevOps Report(世界的に権威ある開発生産性レポート)では、
「AI活用は開発速度を向上させるが、組織全体でのプロセス再設計が不可欠」
と指摘しています。
つまり:
- AI導入 = 魔法の杖ではない
- 既存のプロセスを整理し、AIの得意な部分を組み込む設計が必要
参考リンク:
Google Cloud DORA 2025 Report
2. 「完全自動化」ではなく「監督付きAI」が現実解
初心者が誤解しがちなポイント
「AIがすべて自動でやってくれるんでしょ?」
→ 答え:NO
現実の開発現場では、AIに全部任せる のはリスクが高すぎます。なぜなら、
- AIが生成したコードにバグが混入する可能性がある
- セキュリティ上の問題を見落とすかもしれない
- ビジネス要件を正確に理解できていないかもしれない
海外の推奨スタイル:「Human-in-the-loop(人間を介在させる)」
世界的なテック企業のコンサルティング会社 Thoughtworks が発表した Tech Radar 2025 では、
「AIエージェントをIDEやCIに組み込む『CHOP(Chat-Oriented Programming)』を推奨するが、全自動化は非現実的。開発者の監督を前提にした『Human-in-the-loop』型が標準」
としています。
わかりやすく言うと:
- AIは「優秀なアシスタント」
- 最終的な判断とレビューは人間が行う
- 人間とAIが協力して作業する のがベストプラクティス
参考リンク:
Thoughtworks Technology Radar Vol.30 (2025)
3. セキュリティはどうするの? → NISTが新ガイドラインを策定
初心者向け:NISTって何?
NIST(National Institute of Standards and Technology) は、アメリカの国立標準技術研究所。世界中のセキュリティ基準を策定する超重要機関です。
AIを使った開発には新しいセキュリティ基準が必要
従来のソフトウェア開発には SSDF(Secure Software Development Framework) というセキュリティガイドラインがありました。
しかし、AIが生成したコードをどう管理するか? という新しい問題が発生。
そこでNISTは、AI時代に対応した新しいガイドライン「NIST SP 800-218A」 を策定しました。
このガイドラインが求めること:
- AIモデルの「来歴(どこから来たか)」を記録
- データの「来歴(どのデータで学習したか)」を追跡
- モデルの評価とリリース統制を実施
つまり:
AIを使う場合、「誰が、いつ、何を使って、どう生成したか」を記録・管理する仕組み が標準になりつつあります。
参考リンク:
NIST SP 800-218A Draft: Secure Software Development Framework for AI
4. AIを「製造ライン」に組み込む動きが加速中
製造ラインって?(初心者向け)
ソフトウェア開発における「製造ライン」とは、CI/CD パイプライン のこと。
CI/CD パイプライン = コードを書いてから本番環境にリリースするまでの流れを自動化した仕組み
具体的には:
- コードを書く
- 自動テストが実行される
- 問題なければ自動でデプロイ(公開)される
AIがこのラインに組み込まれる
従来は人間がこの流れを回していましたが、いま海外では AIをこのパイプラインに直接組み込む構成 が主流になっています。
具体例:
- AWS AI Quick Suite: AWSが提供するAI開発支援ツール群
- Microsoft Copilot Stack: VS CodeやAzureと統合されたAI開発環境
- Anthropic MCP(Model Context Protocol): AIエージェント間でデータをやり取���する標準プロトコル
これで何が変わる?
- コード生成 → テスト → デプロイ → レビュー の流れが 自動連携
- 人間は「確認と承認」に集中できる
参考リンク:
5. ガバナンス(統制)とトレーサビリティ(追跡可能性)の標準化
初心者向け:ガバナンスって何?
ガバナンス = 「誰が何をしたか」「どのAIモデルを使ったか」をきちんと記録・管理する仕組み
なぜ必要?
- AIが生成したコードにバグがあったとき、原因を追跡できる
- セキュリティ監査で「どのAIをどう使ったか」説明できる
- 法的責任が問われたときに証拠を示せる
MCP(Model Context Protocol)が標準に
Anthropic社 が提唱する MCP(Model Context Protocol) が、AI開発ガバナンスの実質的な標準になりつつあります。
MCPができること:
- AIモデル・データ・依存関係を 署名付きで記録
- どのAIが、どのデータを使って、何を生成したかを追跡可能に
- DevOps/セキュリティ監査の統合管理が可能
わかりやすく言うと:
AIが作った成果物にも「製造ラベル」が付いて、後から追跡できるようになる仕組みです。
参考リンク:
Anthropic MCP Overview
6. 「アジャイルは死んでいない」が、中身は進化中
よくある誤解:「AIがあればアジャイルは不要?」
→ 答え:NO
アジャイル開発の本質(小さく作って素早く改善)は、AI時代でも有効です。
ただし、AI前提でやり方を調整する必要がある と、調査会社 Forrester は指摘しています。
何を調整するの?
- 計画の粒度: AIが担当する部分と人間が担当する部分を明確化
- 品質チェックポイント(ゲート設計): AI生成物のレビュー工程を組み込む
- メトリクス(測定指標): AI活用による生産性をどう測るか再定義
参考リンク:
Forrester: The Future of Agile in the Age of AI (2025)
7. 「個人の生産性向上」と「組織全体の価値化」は別問題
初心者が見落としがちな罠
「AIツールを導入すれば、チーム全体が速くなる!」
→ 実は、そう単純ではありません
Bain & Company や DORA の調査によると、
「個人レベルでは確かに効率が上がるが、それが組織全体の価値向上につながるかは別問題」
とされています。
なぜ?
- 個人が速く作れても、レビュー体制が追いつかない
- AI生成コードの品質チェックに時間がかかる
- チーム間の連携プロセスが整っていないと、ボトルネックが移動するだけ
解決策:
- プロセス全体を再設計 する
- 計測指標を整備 して、どこがボトルネックか可視化する
参考リンク:
Bain & Company 2025 AI in Engineering Report
まとめ:海外の「Agentic DevOps」標準像
| 項目 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| プロセスの骨格 | アジャイル / DevOps / CI/CD | 既存の仕組みを捨てず、AIを工程ごとに組み込む |
| AI統合方式 | Agentic DevOps, CHOP, MCP | AIエージェントをパイプライン単位で組み込む |
| セキュリティ | NIST SP 800-218A, MCP | AIモデルの来歴・評価・監査を標準化 |
| 開発文化 | Human-in-the-loop, 説明可能なAI | 完全自律化ではなく「協働型AI」が中心 |
結論:これからの開発者に求められること
「AIに仕事を奪われる」のではなく、「AIと協働する力」が求められる時代
海外の最新動向を見ると、次のことが明らかです:
- AIは万能ではない → 人間の監督と判断が不可欠
- 既存プロセスを捨てる必要はない → アジャイル/DevOpsの上にAIを乗せる
- ガバナンス(管理)が重要 → AIが何をしたか記録・追跡する仕組みが標準化
- 個人の効率化 ≠ 組織の価値化 → プロセス全体の再設計が必要
【参考】Water-Scrum-Fastとの関連性
本記事で紹介した「Agentic DevOps」の考え方は、筆者が提唱する 「Water-Scrum-Fast」 というフレームワークと強く整合します。
Water-Scrum-Fast とは:
- Water(ウォーターフォール的な前段ゲート): 最初に要件や品質基準を固める
- Scrum(スクラム的な短期反復): AIを活用して高速に開発を回す
- Fast(高速な反復とフィードバック): 人間のレビューを組み込みながら素早く改善
これはまさに、海外で推奨される「Dual-track AI Agile(二段階AI型アジャイル)」や「Human-in-the-loop DevOps」 と同じ設計思想です。
詳しくはこちらの記事で解説していますので、ぜひご覧ください:
「Water-Scrum-Fast」― AI開発時代の新しいアジャイル開発手法
さらに学びたい方へ:参考リンク集
- Google Cloud DORA 2025 Report
- Thoughtworks Technology Radar Vol.30
- NIST SP 800-218A: AI Secure SDLC
- Anthropic MCP
- Forrester: The Future of Agile in the Age of AI
- Bain & Company: AI in Software Engineering
この記事が役に立ったら、ぜひシェアやいいねをお願いします!