アイデアが出ないこと、ありませんか
新機能の方向性を決めなきゃいけない。社内提案の締切は明日。技術選定で候補を洗い出したい。──でも、壁打ち相手がいない。
深夜のオフィスで一人。リモートワークの自室で一人。自分の頭だけでアイデアをひねり出す、あの時間です。
ChatGPTやClaudeに「アイデアを出して」と聞けば、それらしい答えは返ってきます。でも、10個出してもらっても、どれも似たような方向性で「うーん、もっと違う角度が欲しかったんだけど」となることが多い。
そんな経験があるなら、一度試してみてほしいものがあります。
Claude Codeのスキル機能を使って、8人の仮想専門家とブレインストーミングをする仕組みです。
どんなものか、先に見せます
百聞は一見にしかずなので、実際の出力イメージから紹介します。
たとえば、「社内の技術ブログを活性化するアイデアが欲しい」とClaude Codeに伝えると、こんなふうにアイデアが出てきます。
### Creative Expert(クリエイティブ専門家)
1. ブログ記事ビジュアルジェネレーター
記事の内容からサムネイル画像を自動生成するツールを作る。
見た目のインパクトで読者の目を引き、執筆者の負担を減らす。
2. テックストーリー・シリーズ化
障害対応やリファクタリングを「物語」として連載形式にする。
読み物としての面白さを追加し、シリーズ読者を獲得する。
ここまではよくある提案かもしれません。でも、同時にこんな視点も出てきます。
### Disruptor(ディスラプター)
1. ブログ廃止宣言
従来のブログ形式をやめ、全てを5分以内の短編動画に切り替える。
「書く」ハードルを「話す」に下げることで投稿数を増やす。
2. 匿名テックレビュー
自社プロダクトの技術的な弱点を匿名で正直にレビューする。
「本音が読める」ブログとして業界内でのポジションを確立する。
「ブログ廃止宣言」なんて、普通のブレストではなかなか出てこないですよね。でも、こういう「え、それはさすがに」と思うようなアイデアが混ざっていることで、発想の幅が広がります。
これが8人分、合計16〜24個のアイデアとして出てきます。
なぜ「8人の専門家」なのか
「アイデアを10個出して」だと似た視点になりがち。その原因は、「どんな立場から考えるか」を指定していないからです。
人間のブレストでも同じことが起きます。エンジニアだけで集まれば技術寄り、営業だけなら売り方の話、デザイナーだけならUIの話。偏ります。
このスキルでは、あらかじめ8人の専門家を定義しています。それぞれ思考スタイルも着眼点も違うので、「あ、その視点はなかった」が構造的に起こるようになっています。
| 専門家 | 着眼点 | こんなアイデアを出す |
|---|---|---|
| クリエイティブ専門家 | どう表現し、体験させるか | 物語化、ビジュアル、感情設計 |
| 技術専門家 | 技術でどう加速できるか | 自動化、API連携、スケーラブルな仕組み |
| ビジネス専門家 | どう価値を生み、守るか | 収益モデル、パートナーシップ、市場分析 |
| 学術研究者 | 研究は何を示しているか | エビデンス、理論フレームワーク、先行事例 |
| 社会科学者 | 人は実際にどう振る舞うか | 行動心理、インセンティブ設計、文化的配慮 |
| ディスラプター | 逆が正しいとしたら? | 前提破壊、逆張り、常識の反転 |
| ユーモリスト | 人を笑わせ、広めさせるには | ゲーム化、バイラル要素、意外性 |
| 冒険家 | 最も野心的なバージョンは? | ムーンショット、未開拓領域、大胆な賭け |
最初の3人がプロダクト開発の基本軸。次の2人がエビデンスと人間理解で深みを足す。最後の3人が「それは思いつかなかった」を引き出す役割です。
個人的に気に入っているのは「ディスラプター」です。「そもそもブログ自体やめたら?」とか「あえて弱みを全公開したら?」みたいな、自分一人では怖くて出せないアイデアを投げてきます。全部採用する必要はありませんが、こういう揺さぶりがあることで、他のアイデアの見え方も変わってきます。
ペルソナはカスタマイズできます。医療系なら「医療専門家」、教育系なら「教育者」を追加するといった具合です。セットアップ時にClaude Codeが「ペルソナを変更しますか?」と確認してくれます。
ブレストの流れ──4つのフェーズ
スキルの全体像を紹介します。4つのフェーズで、アイデアを広げて、混ぜて、選んで、形にします。
Phase 0: セットアップ(テーマと制約を確認する)
↓
Phase 1: 発散(8人がそれぞれ2〜3個のアイデアを出す)
↓
Phase 2: 融合(異なる専門家のアイデアを掛け合わせる)
↓
Phase 3: 評価(全アイデアをスコアリングする)
↓
Phase 4: 深掘り(上位アイデアの実行計画を作る)
全部通す必要はありません。Phase 1のアイデア一覧を見て「これだ」と思ったら、そこで止めても大丈夫です。各フェーズの終わりに「次に進みますか?」と聞かれるので、自分のペースで進められます。
Phase 0: まずテーマを整理する
「ブレストしたい」と伝えると、まずテーマの確認が入ります。続いて、ターゲットや予算感、タイムラインなど1〜2個の質問で文脈を絞ります。いきなりアイデアを出すのではなく、前提を揃えるステップです。
Phase 1: 8人が一斉にアイデアを出す
ここが本番です。8人の専門家がそれぞれ2〜3個、合計16〜24個のアイデアを出します。前述のように、クリエイティブ専門家は表現やストーリーの切り口を、ディスラプターは前提を壊す切り口を、ユーモリストは「面白さで広める」切り口を出してきます。
ポイントは、どの専門家のアイデアも抽象的でないことです。「AIを活用する」のようなふわっとした提案ではなく、すぐにイメージできる粒度で出てきます。スキルの内部で「各アイデアは具体的かつ実行可能であること。抽象的なお題目は不可」という品質ルールを定義しているためです。
Phase 2: 異なる視点をかけ合わせる
ここが一番面白いフェーズかもしれません。Phase 1で出たアイデアを、異なる専門家の間で組み合わせて、5〜8個のハイブリッドアイデアを作ります。
### ハイブリッドアイデア
1. 匿名テック失敗談バトル
- 融合元: ディスラプター「匿名テックレビュー」× ユーモリスト「ゲーミフィケーション」
- 融合の発見: 本音の技術レビューにゲーム要素を加えることで、
「痛い失敗ほど面白い」というコンテンツの力学が生まれる
- 概要: 匿名で技術的な失敗談を投稿し、読者投票で
「最も学びがある失敗」を月間表彰する。
単に「両方やる」ではなく、掛け合わせることで元のアイデアにはなかった価値が生まれるのが狙いです。「ディスラプター × ユーモリスト」「学術研究者 × 冒険家」など、意外な組み合わせほど面白い結果になります。
Phase 3: スコアで絞り込む
ここで発散から収束に切り替えます。全アイデアを4つの軸(実現可能性・インパクト・新規性・コスト効率)で1〜5点のスコアリングをして、マトリクスで一覧表示します。
| # | アイデア | 出典 | 実現性 | 影響度 | 新規性 | コスト効率 | 合計 |
|---|---------|------|--------|--------|--------|-----------|------|
| 1 | 匿名テック失敗談バトル | Hybrid #1 | 4 | 5 | 5 | 4 | 18 |
| 2 | テックストーリー連載 | Creative #2 | 4 | 4 | 3 | 5 | 16 |
| 3 | ビジュアルジェネレーター | Creative #1 | 5 | 3 | 3 | 4 | 15 |
| ... |
上位3〜5個が「注目アイデア」としてピックアップされます。ここから深掘りしたいものを選んでください。
評価軸もカスタマイズできます。「社内の合意が得やすいか」「技術的に面白いか」など、自分の判断基準に合わせて変更可能です。
Phase 4: 明日から動ける計画にする
最後に、選んだアイデアをミニ提案書に仕上げます。概要・ターゲット・実行ステップ・リスクと対策・成功指標・明日やること、の6項目です。
## Deep Dive: 匿名テック失敗談バトル
### 概要
技術的な失敗談を匿名で投稿し、読者投票で月間ベストを表彰する
社内ブログ企画。失敗の共有を「面白いコンテンツ」に変換する。
### ターゲット
開発チーム全体。特に「ブログを書いたことがない」層。
### 実行ステップ
1. 匿名投稿の仕組みを構築する(Slackbot + Notion連携)
2. フォーマットを決める(状況、やらかし、学び、の3段構成)
3. パイロット期間として1か月間、チーム内で試す
4. 月間投票と表彰の仕組みを整備する
5. 全社展開し、四半期MVPを設ける
### リスクと対策
| リスク | 対策 |
|------|------|
| 投稿が集まらない | 最初の3本は企画メンバーが書いて空気を作る |
| 個人批判になる | ガイドラインで「自分の失敗」に限定する |
| 外部に漏れる | 社内限定の閲覧権限を設定する |
### 成功指標
- 月間投稿数: 10本以上
- 投票参加率: エンジニアの50%以上
### 最初の一歩
明日やること: Slackに #tech-failures チャンネルを作り、
自分の失敗談を1本投稿する。
「明日やること」が1行で書いてあるのがポイントです。ブレストで終わらず、次のアクションまで出てきます。
普通にAIに聞くのと何が違うの?
「ChatGPTに『10個アイデア出して』と聞くのと結局同じでは?」という声が聞こえてきそうなので、違いを整理しておきます。
視点の偏りが構造的に防がれる
AIに「アイデアを出して」と聞くと、確率の高い答えから順に出てきます。だから似た視点が並びがちです。このスキルでは8人の異なる思考スタイルが定義されているため、必ず「技術の最適解」「前提を壊す逆張り」「笑いで広める案」「10倍スケールの野心案」が混在します。
広げてから絞る、が自然にできる
ブレストの鉄則は「発散と収束を同時にやらない」こと。でも一人でやっていると、つい「それは無理かな」と自分で潰してしまいます。このスキルは、Phase 1-2で徹底的に広げてからPhase 3で評価する流れが組み込まれているので、いいアイデアを早まって捨てるリスクが減ります。
誰がやっても同じプロセスで回せる
Markdownファイルで定義されたスキルなので、チーム全員が同じクオリティのブレストをできます。「あの人がいないとアイデアが出ない」状態から抜け出せます。
使ってみる
必要なもの
- Claude Codeがインストールされていること
インストール
このスキルはGitHubで公開しています。
3つのインストール方法があります。
方法1: skillab(推奨)
npx skillab add nogataka/SkillLab --skill multi-perspective-ideation
管理コマンドも使えます。
npx skillab list # インストール済みスキルの一覧
npx skillab update # 全スキルを最新版に更新
npx skillab remove <name> # スキルの削除
方法2: claude install-skill
claude install-skill https://github.com/nogataka/SkillLab/tree/main/multi-perspective-ideation
方法3: 手動コピー
git clone https://github.com/nogataka/SkillLab.git
cp -r SkillLab/multi-perspective-ideation ~/.claude/skills/
話しかけてみる
インストールしたら、Claude Codeにこう言うだけです。
ブレストしたい。社内の技術ブログを活性化するアイデアが欲しい。
新規プロダクトの方向性を多角的に考えたい。
来期のチーム施策のアイデアを出して。
「ブレスト」「アイデアを出して」「多角的に考えて」──こういったキーワードがトリガーになって、スキルが自動的に起動します。
おわりに
一人で考えていると、自分の得意な思考パターンの中をぐるぐる回りがちです。そこに「前提を壊す人」「笑いで考える人」「10倍で考える人」が混ざるだけで、景色がかなり変わります。
このスキルは、その「異なる視点の人を混ぜる」をAgent Skillsで再現しただけの、シンプルな仕組みです。Markdownファイルを置くだけなので、試すのに5分もかかりません。
次にアイデア出しが必要になったとき、ぜひ一度8人の専門家を召喚してみてください。