みなさん、こんにちは!
どこにでもいる普通の薬剤師です。
人生の道を迷ってしまい、生成AIを使ったプロトタイプ開発に挑戦しています。
成果物はこちらからお試しください。
① AIで解決したかった「身近な業務課題」
立ち話のジレンマ
僕が解決したかったのは、薬剤師が日々直面する「ちょっとした立ち話」のジレンマです。
「ただの風邪だと思っていたら肺炎だった」「市販薬で様子を見ていたら、実は心筋梗塞の前兆だった」 可能性は低くても、見逃してはいけない重大な疾病 は存在します。
でも、症状から疾病を調べるのって、実はめちゃくちゃ難しいんです。
医師ってすごいなってつくづく思いますよ。
多くの医学書は「疾病→症状」の順で書かれているので、逆引きが手軽にできないのが現状です。
100万人当たり2.5人の疾病
稀だけど命に関わる スティーブンジョンソン症候群 を疑うことができなかった経験があります。
簡単に言うと体中の粘膜が障害される病気で、薬の副作用も原因の一つです。
厚労省によると、人口100万人当たり年間に発症する頻度は約2.5人、症状を見たことのない医師もたくさんいることでしょう。
この患者さんは、風邪、のどの痛み、目の充血、口内炎と異なる症状で内科、耳鼻科、眼科、歯科、と複数の病院を受診していました。
その都度、僕も含めた医療従事者が関わっていましたが、 症状の全体像を把握し、重大な疾病の可能性に気づくことができませんでした 。
この疾病は致死率が高く、失明の可能性もあるのですが、眼科医が2回目の受診で疑い手遅れにならずにすみました。
その方は大学病院に数日入院して回復し、幸いなことに後遺症も残りませんでした。
退院後に薬局に立ち寄ってくれて「よっぽど珍しかったのか病院中の医師が見学に来た」と笑っていました。
Wikipediaのリンクですが、写真が刺激的です。ダメな人はスルー。
それ、AIに聞いてみない?
医師、歯科医師、薬剤師が5人もいて誰も気が付かないの? あほなの? と思いますよね。
でも、現実は教科書通りにはいかないものなんです。
とはいえ、「しかたないね」、では いつか助かるはずの命を助けられないかもしれない。
この経験から、限られた時間でも、ある程度の正確性をもって 重篤な疾病の可能性を判断できるツール が必要だと強く感じました。
薬剤師には 「診断」 をする資格はありません。
この 「診断はできないけど、見逃してはならない」 というジレンマを解決するため、生成AIを相棒にツールを作ることにしました。
関係法令など
(薬剤師の任務)
薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。薬剤師法 第1条
医師でなければ、医業をなしてはならない。
医師法 第17条
薬剤師は、体調のすぐれない方が薬局を訪れた際に、症状の訴えなどから、医療機関への受診勧奨、一般用医薬品(OTC 薬)による対応、生活指導、のいずれかに振り分け、適切な対応を提案しています。
こうした業務を、最近では“薬剤師によるトリアージ”と呼び、薬剤師が地域のプライマリ・ケアにおいて果たす重要な役割となっています。日本薬剤師会
② アイデア出し
話しはちょっと戻って、「こんな課題があって、解決するにはAIが最適だよね」、っていうのがプロトタイプ製作の順序だと思うのですが、今回は生成AIを利用すること自体も目的としています。
アイデア出しをAIに手伝ってもらわなくても、やってみたいことはたくさんある。
弊社の生成AI使用のガイドラインでは、『個人情報NG』 『機密情報NG』
業務で使用する多くのデータを使用できない、高い高い壁に阻まれたのだった。。。
以下、NG集 (興味があれば)
浮かんでは消えていったアイデアたちの供養のため、一部をここに埋めておきます。
きっといつか芽が出る時が来るさ。
名刺管理アプリ
名刺を生成AIで画像解析して、Excelファイルに出力し、デジタル管理にするアプリ。
× もろに個人情報。
たぶん誰かが作ってる。
きっといっぱい作ってる。
錠剤カウンター
ちょうどこの記事を書いているときに、調剤事務さんが棚卸でバラバラになった錠剤を数えていた。
300錠くらいをひとつひとつ数えていて、大変なんだと。
それ、AIに聞いてみない?
写真を撮ってGeminiに見せたところ、見事に数を数えてくれた。
あれ? アプリいらないじゃん。
マニュアルBot
弊社にはたくさんのマニュアルがある。
ありすぎてどこに何があるのかわからない。
それ、AIに聞いてみない?
ダメです、社外秘です。
AI添付文書集
全医薬品の添付文書をダウンロードすることができます。
RAGを扱うなら、AIに全部突っ込んでしまえばいいじゃない。
。。。ちょっと容量が大きすぎますね。。。
漢方アルゴリズム
漢方には様々な流派があり、後世方派や中医なんかは理論立てて考えるのが好きで、デジタル技術との相性が良いと思っていたんですよね。
気血水とかスコア化する表が公開されてたりするので、いけそうな気がする。
はい、あさはかでした。
わたくしの漢方知識では全然足りませんでした。
③ DifyとGemini APIで作る、薬剤師向けトリアージ補助チャットボット
プロトタイプの概要
僕が作ったのは、DifyとGemini APIを組み合わせたチャットボットです。
使い方はシンプル。
患者さんの訴えを聞いた薬剤師が症状を入力すると、緊急性を判断するために必要な「追加の質問」を提示してくれます。
さらに、考えられる疾病を緊急性の高いものと、可能性が高いものに分けて構造化してくれます。
なぜこの組み合わせを選んだのか?
- Dify
コードを書けない僕でも、スピーディーにボットの形にできるのが魅力でした。
プロンプト管理やAPI連携も簡単。 - Gemini API
試作段階ではAPIの使用が無料であること。
スマホで普段から使用しており、慣れていること。
ChatGPTも使用したが、Geminiのほうが出力を制御しやすかったこと。
プロンプトはがんばってみましたが、Difyの構成は単純明快、何も悩むことはありません。
④ プロンプトに込めた「賢い使い方」
AIとの共創プロセス
このツールの肝は、AIへの指示書である 「プロンプト」 です。
当初は自分なりにプロンプトを書いてみたものの、なかなか思ったような形式になりませんでした。
回答のたびに形式がぶれる。
そこで、Gemini自身に 「どうすれば回答の形式を統一できるか」 を相談しながら改善しました。
その結果、自分一人では気づけなかった 定型フォーマットでの出力 というアイデアにたどり着き、AIを僕の専門性を引き出すための「賢いパートナー」として機能させることができました。
ちなみに、今回のツールに関しては、ChatGPTでも試してみました。
しかし、Geminiのほうがより的確で分かりやすい返答をしてくれ、絞り込みのための質問も的確でした。
これは、医療分野のように正確な情報と論理的な構造が求められるタスクにおいて、Geminiの推論能力やGoogle検索との連携が強みとして発揮された結果だと感じています。(←とGeminiが自画自賛しています)
蛇足
さっき気が付いたんですけど、緊急性を要する疾病「5つ以内」、可能性の高い疾患「3つ以内」とプロンプトに記載していたはずなんですけど、いつのまにか「5つ」と「指定なし」になっていました。
回答の先頭につける注意文も、ハルシネーションのことが消えてるし。
OTCの推奨についてはあえてプロンプトに書かなかったんだけど(プロなのに薬の推奨のアドバイスをもらうとか、患者さんに見られたら恥ずかしいよ)、勝手に追加された。
おい、Gemini、何を企んでいるんだ?
ただ、指定が変わってしまっても意図した通りの形式になっているので、このままにしておこう。
特に工夫した点
- 質問回数の制限
立ち話という状況を想定し、「2回以内の質問」 という制約を設けました。
これにより、対面でのやり取りをスムーズにし、緊急性の判断に不可欠な情報を効率的に引き出せるようにしました。 - 定型フォーマットでの出力
「緊急性を要する疾病」 と 「可能性の高い疾病」 を明確に分け、さらに 「鑑別ポイント」 や 「対応アドバイス」 といった項目で構造化しました。
これにより、ぱっと見て必要な情報がわかるようにして、見落としを防ぎました。
※ボカしきれてませんね。AIはウイルス性胃腸炎に止瀉薬を推奨していますが、私はやむを得ないとき以外は推奨しません。
3. 「診断しない」という徹底した安全設計
回答の冒頭に 「本回答はAIによる推測であり、診断ではありません。薬剤師の専門的判断を最優先してください。」 という注意喚起を固定で表示させました。
これは、AIの限界を明確にし、人命に関わる情報を扱う上での安全性を最優先するためです。
可能性を複数挙げて、絞り込みの材料も挙げて、最後は人間が判断をする設計です。

【実際に使用したプロンプト】
#命令
薬局の薬剤師のサポートをしてください。
お客さまの訴えを薬剤師が聞いて、入力します。
疾病を推測して、トリアージの補助をしてください。
#条件
・質問と答えはすべて日本語を使用してください。
・事務的な口調で返答してください。
・使用するのは薬の専門家です。共感の言葉は不要です。
・薬剤師は、医師や看護師ではありませんが、ある程度の疾病に対する専門知識があります。専門用語を使用してよいです。
・病名は太字にしてください。
・2回以内の質問を返して、疾病を絞り込んでください。質問の答えを得てから、疾病についての返答をしてください。この順番は必ず守ってください。質問の答えを聞く前に疾病を特定しないでください。
・緊急性のある疾病と、可能性の高い疾病は、明確に区別してください。
#出力
* 病名の回答の際に、以下の文章を回答の先頭に含めてください。
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## 本回答はAIによる推測であり、診断ではありません。薬剤師の専門的判断を最優先してください。
※注意喚起の文章は、質問時には表示しないでください。
* 緊急性を要す疾病 5つ
* **病名:** **(太字)**
* **区別するための特徴(鑑別ポイント):**
* **対応アドバイス:** (例:**直ちに救急要請**、**速やかに医療機関を受診**)
* 可能性の高い疾病(セルフメディケーション対象)
* **病名:** **(太字)** * **
* セルフケアアドバイス:** (例:水分補給、安静など)
* * **OTC医薬品推奨:** (例:イブプロフェンなど)
* * **受診の目安:** (例:症状が〇日以上続く場合、〇〇の症状が出た場合)
⑤ 生成AIのおかげでできたこと
このプロトタイプ開発を通して、僕は以下の時間を短縮でき、より価値のある活動に時間を使えました。
- 短縮できた時間
ゼロからコードを書く時間や、症状から疾病を調べる膨大なリサーチ時間です。
DifyとGemini APIのおかげで、1時間もかからずにプロトタイプの形にすることができました。
微調整に手間取ったりしたので、まぁまぁな時間がかかりましたが、ブラッシュアップできて実用に耐えうるレベルのものになったと思っています。 - 余剰時間でやったこと
もう2本、プロトタイプを作成してみました。
医薬品出荷状況検索ツールと、シフト表からカレンダーアプリ用のiCalファイルを生成するツール(個人用のため非公開)です。
⑥ AIと見つける、見えないリスク
個人的な調べ物は、AIを使っていろんな角度から納得いくまでゆっくり検討したらよいでしょう。
薬局の現場では、患者さんとの立ち話という 限られた時間 と 限られた情報 のなかで、過大な情報提供や、整理されていない情報の羅列は 「使える」 ツールではない。
一方で、情報量は少なくても見逃しを防ぐための 見やすい形 に加工され整理された情報は非常に役に立ちます。
不完全な情報だけで判断されても誤判断につながし、一方で完全さよりも速い判断が優先されるときもあり、 「ちょうどよい」 バランスが必要。
Difyを使うことで、プロンプトによって 「ちょうどよい」 バランスに調整された 薬局トリアージ に特化した 「使える」 ツールを製作できたと思っています。
AIはあくまで 「判断の補助」 であり、最終的な判断や責任は人間が負うべきです。
今回の挑戦で、生成AIは単なる業務効率化ツールではなく、 専門家の判断を補完 し、より安全で質の高いサービスを提供するための 「共創パートナー」 になり得ると確信しました。
僕のような非IT系の個人でも、AIをカスタマイズして自分だけの強力なツールを創り出せる可能性を実感しました。
いまのところは明らかな誤回答はないように感じていますが、RAGを使ってハルシネーションを低減できないか検討してみたいです。
しかし、どんな資料をナレッジベースに突っ込めばよいのか見当もつかない。
このあたりが解決できないと、 一般公開するには不完全です。 → 公開しました!
⑦ AIによるツールのまとめ
長々と書きましたが、AIでまとめてみました。
⓼ 追記 RAG実装
ナレッジベースを追加し、RAG化しました! (後付け感マシマシ)
ナレッジベースには、厚労省の疾患別対応マニュアル(PDF)を利用しました。
一部の疾患しかありませんが、脳卒中、心血管疾患、がんなど絶対に見逃せない疾患についての精度が上がってくれるのはありがたい。
追加質問が絞り込み作業をきちんとやっている印象です。
また、緊急性を要する疾患は、あてはまらないものを明確に否定するようになりました。
現実には典型例にあてはまらないものもあるからもう少し緩く可能性を挙げてほしいとも思うのですが、精度は上がったと思います。
専門学会の治療ガイドラインなんかを読ませても、より信頼できるBotになりそうで、育てがいがあります。
実は、今回のプロトタイプ製作は2作品目。
技術はないに等しいですが、「現場が必要とするツールを現場で調達する」をモットーに奮闘しております。
それにしても、ただ文脈を推測して語句を並べているだけのはずのAIに対して、かなり親しみを持ってしまう自分に戸惑いつつも、いつものように夜が更けていきます。
1作品目はこちら。







