こんにちは、お目通しありがとうございます。
筆者はコロナ禍下の2020年3月~4月に転職活動を(期せずして)行い、エンジニア・理学工学系のバックグラウンドがないながらデータサイエンティストとしての転職を果たしたものです。
この記事→1に感銘を受け、同様のキャリアパスを検討されている方に何らかの有用な情報提供が出来ればと思い、本記事を書きました。
本稿の目的
- 一般に転職活動が難しくなるといえるであろう不況下でも、「未経験だけどデータサイエンティストになりたい」といえる人の勇気となること
- ひいて界隈の発展に微力ながら貢献したい
- ポエムでも日記でもございません2。
抄録
- この環境下でもデータサイエンティスト職の求人は意外に思われるほどたくさんある。理由として、需要に対する供給(=人材)の少なさと、「データサイエンティスト」という言葉に対する採用者の期待値とニーズが明確化されていないことが挙げられる。
- 転職活動中は、あらゆる場面で「データサイエンティスト」という言葉の具体化が必要。採用担当者・自分がこの領域で何をしたがっている人間なのかを定義してコミュニケーションを取ることが大切
- バックグラウンドに関わらず、独学ができることはそれ自体で市場価値になる。エンジニアやデータサイエンティストの役職を持った経験がないこと自体は大きなディスアドバンテージにはならない
*以下、データサイエンティストをDSと略記します。
I. 自己紹介
a. 略歴
- 大学卒(経済系) → ビジネススクール(短期間) → カスタマーサクセス3 @スタートアップ → 2ヶ月ほどの転職活動期間 → DSとして転職
- カスタマーサクセスとして、退職直前は顧客の利用データ分析と与信調査に関する分析などを行っていた
b. スキル
(スキルというのもおこがましいです。お目汚し失礼します...)
- 開発の経験:
- Ruby...趣味で1年
- R, Python...趣味で数ヶ月さわった程度
- GAS(GoogleAppsScript)...前職で3ヶ月、SlackBot開発に使用。
- VueJS...前職で1ヶ月、社内向けサービス開発に使用。
- SQL...前職で3ヶ月、データ分析に使用。
- 統計学の知識:
- 大学の教養過程で学んだ程度
- 統計学検定でいえばおそらく2級程度、全く知らないわけでもないが全く詳しくもない
- その他:
- 英語の通訳と翻訳経験
c. 転職理由
- 前職にて解決困難な問題に陥った4にことがあったため。
- 転職先を決める前に先に退職を決めるという綱渡りな(絶対やるべきではないだろう)意思決定をしました。
II. 転職活動の流れ
*サービス名や企業等はすべて伏せさせていただきます。5
1. スケジュール概観
- 2月上旬:転職活動スタート。各サービスに登録
- 2月中旬~4月上旬:少し遅れてエージェントサービスに登録。その後50社ほど選考。
- 4月中旬:内定を数社からいただき、最終的に決定
2. 取り組んだことの詳細
1. 転職活動スタート&各サービスの登録(2月上旬)
大手求人サービスサイト3社と、ハイエンド向けの若手用求人サイト1つに登録しました。後者は、当初カスタマーサクセスとしての転職も視野に入れていたためです。
2. エージェントサービスの登録 & 選考プロセス(2月中旬~4月上旬)
自己応募だけでいけるだろうとたかをくくり、当初エージェント会社への登録を行わなかったが、書類選考結果が芳しく無く方針を変更。エージェントに3社登録しました(内1社はDS領域特化、1社はエンジニア領域特化、1社は最大手級の分野横断的なエージェント。)
- 職務経歴書をひたすらブラッシュアップする
- 当初、「カスタマーサクセス」という前職職種に対するイメージと私の実際の乖離が大きかったようで、書類選考の落選や一次面接でのネガティブな印象が拭えませんでした。
- 「SaaSじゃないのにカスタマーサクセスって成立してたの?」「なんで内勤のセールスがメインの業種でデータ分析してたの?」と
- 「内勤の営業部隊でデータ分析もする仕事です」というフレーズを以て、業務へのイメージとデータ分析をしていたことの妥当性を書面だけで認識してもらえるようにしました6。
- 当初、「カスタマーサクセス」という前職職種に対するイメージと私の実際の乖離が大きかったようで、書類選考の落選や一次面接でのネガティブな印象が拭えませんでした。
- Pythonの自己学習をする
- これについて筆者は時間を割きすぎてしまい、時間の配分をかなり誤りました。選考期間中は1日10時間コード書くより、1日7時間応募ボタン押して3時間コード書くといったほうが妥当性がありました。
3. 内定をいただきだしてから最終決定まで(4月中旬)
3月末から少しずつ内定をいただきだしました。
技術派遣職(顧客企業に派遣され、データ分析にまつわる課題を解決しにいくような仕事)で約5社、データ分析よりのカスタマーサクセスで2社いただくことができました。
最終的には、エージェント経由でデータサイエンス部門の拡大中の企業に1社に内定をいただき、入社を決定しました(後述するパターン③)。
III. 考察
1. DS市場の概観
- 企業様も、データサイエンティストという言葉に対して、何を期待して設けている職種なのか・候補者が何を期待して応募している職種なのか、2020年4月時点では曖昧でありました
- 未経験求職者側は、データの前処理が実際の業務の8割を占めると言われるにも関わらず、その部分をDS領域として考えていない候補者が多いそうです7。
2. DS採用企業のバックグランド
a. DSに正しく期待したい
- どの企業様も多かれ少なかれ、必ず「データサイエンティストって言葉に弊社は○○という期待値を持っている。あなたのデータサイエンスに対する期待値とスキルセットを教えてほしい」というすり合わせをしたがっています
- また、多くの企業が「データサイエンスという言葉を使った時に、どの程度の人材がどれくらい反応してくれるかわかりかねるor人を選ぶことができないくらい人材プールが小さいため、とりあえず広く会っておく」という姿勢をもっているように思われます8
上記より得られる示唆・筆者の意見としては以下のとおりです。
- 「データサイエンティストという言葉に具体的に何に取り組めるという期待値を持っているか、また関連する技術と数理的理解をどの程度有しているか」というすり合わせは、書類選考から一次面接終了までの間に採用担当者様と合意を果たすべきである
- 特に、面接にて口頭で説明できるようになる前は、データサイエンスにまつわる自分の考えが先方へ適切に伝わらない可能性がある(大したバックグラウンドがないなと思われたりするなど)。 転職エージェントの方に、自分のスキルセットと期待値を事前に正直に&具体的に伝えておくべきである9。
b. 採用文脈のパターン
- DSの未経験歓迎求人を出していた企業様は、主に以下の文脈を持っている場合が多かったように感じられる:
- パターン①:大手企業のデータサイエンティスト部門の人員拡大
- パターン②:技術派遣職での人員拡大
- パターン③:スタートアップ企業のサービスのアルゴリズム開発
- パターン④:データサイエンティストっていうけど実際は違う何か
①のケースは、データ基盤を自社で持っていてデータの利活用のおおまかな方向性が決まっている場合が多いように思われます。
②の場合は、「メインとしている客先常駐型ビジネスの人員拡大に伴い、データ分析に特化した領域で人材を採用したい。だが求職者数が少ないので主に自社で育てていきたい」というものが多いです。
③は、筆者自身は選考を全く通過できませんでした。Wantedly等でみられるDS求人の過半数はこのタイプです。比較的経験を豊富に求められることが多く、就業の難易度は高いように思われます。
④のケースは、例えば真っ先にJavaやCOBOLの開発経験を尋ねられるような環境です。よくよくお話を聞いてみると、SEの求人にDSの名前をあてがっていたようでした。
c. 頻出の質問
キャリアにまつわる質問
- 尋ねられたこと
- なでこの領域に自分が取り組むべきだと思うか(指向性とスキルセット共に)
- データサイエンス領域で自分が5/10年後どうありたいか
- 働くうえで重要視している環境要因は何か・どんな支援をしてほしいか
実績やポートフォリオについての質問
- 尋ねられたこと
- データ分析領域での実績
- 独学をするときの学習ソース10
- GitHubのレポジトリ
- GitやJupyter Notebookの使用経験
- 以下は全く尋ねられなかった
- Qiitaや個人のブログでのアウトプット
- GitHub以外のGitのレポジトリ
- その他、選考途中に取り組むように言われたもの:
- Project Euler11
- Kaggle(参加したことはありますか、程度に尋ねられた)
d. 給与レンジについて
働く以上、給与は大切な1側面だと思うので、述べておきます。
- 理工系・エンジニアのバックグラウンド・その他コーディングの経験等全くなしだとすると、残業含めずに年収300~350万円程度(額面)だと思われます12。開発経験やそれに準ずるものがあるとそこに年収(厳密にいえば等級)が加えられていきます。
- 一般的な話ではありますが、年収が提示される時に、以下の4種類のどれなのかは確認したほうが良いと思われます。
- ①提示年収 + 残業代全額支給
- ②提示年収にみなし労働時間が含まれている(みなし労働時間制)
- ③提示年収 + 残業代を原則で集計しない(裁量労働制)
④提示年収 + 裁量労働制じゃないのに残業代が出ない
- データサイエンティスト職に限らずですが、転職活動時にこの4種類はたいてい「年収◯◯万円」と一緒くたにされています。仮に基本給が同じなら、掲載金額上は「② > ③ > ①」または「③ > ② > ①」となりますが、残業時間を考えたら①が一番高いこともあるので、最終オファーをいただいてみるまではわからないです
- 筆者としては、「うちはスタートアップだから13④なんだよね」という考えはなんだかバグりまくってる気がするので、①②③のちゃんとしたところで選べば良いと思います...
- 未経験としてチャレンジングな環境に飛び込めることと、給与面等で豊かな環境を得られることは矛盾しません。「未経験なので年収はいくら低くても良いです」は、交渉のカードとしてあまりきらないほうが良いカードだと思われます。
候補者として
a. きつかったことと対策
- 書類選考(職務経歴書)の段階で門前払いをいただきまくった(業種問わず複数)
- →なぜデータサイエンスなのか?に対するストーリーづくりができていなかった。特に、「前職はビジネス職(カスタマーサクセス)なのになぜデータ分析を行っていたのか?」がなかなか理解してもらえなかった
- 前職がカタカナの人は、その説明をわかりやすくすることを心がけたほうが良い
- 前職での退職理由に対する箴言14
- → 短期で退職してしまったのは事実なので、ある程度厳しいことを言われるのは覚悟していたが、こういうふうに言われたのは50社ほどの面接を受けてこの1回だけだった。もちろん傷ついたが、ちゃんと理解してもらおう!と奮起する材料に使った。
- 志望度の高い企業からいただいた年収オファーが自分の想定よりもかなり低く、びっくりする(スタートアップ)
- 年収の相場をしらなかったことが原因。相場をエージェントの方に確認し、年収を犠牲にしなくて大丈夫そうなことに気づいたのでやむなく辞退した。このコロナウイルスの環境下で転職活動をしている中、自分が弱い立場にいそうだという理由で採用担当者が強く交渉に出ているだけだった。
b.適切な評価
エンジニアになったことのない自分を、市場において過小/過大に評価しないこと、これがデータサイエンティストとしての未経験転職で一番むずかしいことだろうと思いました。万能の解決策はありませんが、都度エージェント15や周囲のデータサイエンティストに相談をするなどし、客観化をはかったほうが良いと思われます。
IV. むすびに - 未経験データサイエンティストは求職難なのか
- 「コロナ禍だから採用難」は、一切感じられませんでした。「採用難」というのが大局論すぎて、一部の知的労働分野(データサイエンス領域など)では人材不足が発生していることの証左ではないかと感じられまあした。
- 未経験分野への転職活動はきっと勇気がいることですし、不用意に他人が「勇気を出しなよ!」と言えることでもないと思います。ですが、「採用難」を理由にかこつけて志望を諦めるのももったいないように思われます。未経験者に門前払いを食らわせているものではない、「人材を欲している企業はいる」、というのは、声を大にしていえることです。
ご感想やコメントがありましたら、ぜひ小さなことでもお寄せいただけると幸いです。筆者の励みにもなります。
長文を最後までお読みくださり、ありがとうございました。
(以上)
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『データサイエンティスト職に未経験が転職活動した結果』(https://qiita.com/takuya66520126/items/e3b52e8786e5052c4a19) 素晴らしい記事で勇気をもらいました。この記事は理工系のバックグラウンドを持った方が書かれているので、自分はそういうバックグラウンドを持たない身として転職活動を終えたら是非記事を書きたい!と思っていました。 ↩
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「ポエムと日記はQiitaに合わぬ」というご意見があるかもしれませんし、私も100%同意します。本投稿の趣旨はその両者どちらでもなく、技術者のキャリア形成の事例共有にあります。データサイエンティスト職としてのキャリアパスの事例共有このQiitaコミュニティの射程範囲だろうと思い投稿しております。 ↩
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カスタマーサクセス:自社サービス利用による顧客の成功を支援するべく、あらゆる手段を使って利用促進をするビジネスサイドの役職。電話をしたり訪問をしたりMarketoでメールコンテンツを考えたり、業務の管掌範囲はかなり広かったです。筆者はこの業務の一環でSlackBotの開発とSQLを用いたデータ分析を行い、魅力に感じました。 ↩
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労使関係のあれこれですが割愛します。 ↩
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宣伝や批判は本稿の意図するものではないため。お名前を出すことはできませんが、お世話になったエージェントの方々や、最終的には入社に至らなかったものの諸々ご支援くださった採用担当者の皆様には、心より感謝しています。 ↩
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ご担当いただいたエージェントの方からの一番の学びが、「自分の使っている語彙を相手が理解している前提で臨んではいけない」ということでありました。 ↩
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一次面接で非常に申し訳なさそうに、「実は8割方データクレンジングの部分にアサインされますけど大丈夫ですか...?」といったお話をいただくことが多かったです。裏を返せば、DSにきらびやかな空想のみを抱いて応募する候補者が多いということなのだと思います。 ↩
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筆者の経験上、パターン②と④(III-1-a参照)で多かったです。 ↩
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ある意味、私が「自分のコードに語らせる」ことができないくらいこれまでの公開実績に乏しかったため、エージェントの方にコミュニケーションをお願いするというこの方法をとりました。PythonやR等で豊富なポートフォリオをお持ちな方は、職務経歴書で「これを見てください」と動線をつくっておくことが肝要かと思われます。 ↩
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私は主に以下を回答していました:SQLZoo(SQL学習サイト)、DataCamp(Pythonとかを学べる英語の動画サイト)、StackOverflow、ライブラリ直読みなど ↩
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http://odz.sakura.ne.jp/projecteuler/index.php?Project%20Euler プログラミングを駆使して解く類の数学問題集。難易度はバラバラで、加えてプログラムをオーバーフローしないようにしようといった工夫も必要。 ↩
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エージェントの方とも複数お話しましたが、どの方もこのレンジでお話されていました。大きく外れていることはないと思われます。私の場合はここにRubyでの開発経験やSQLの使用経験などをご評価いただき、上乗せしていただきました。 ↩
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スタートアップであってもこうではない企業様はもちろんたくさんあります。本当のところは企業の規模に左右されるべきでない話だと思います。 ↩
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退職理由をZoomで30分間ひとしきりにdisられ、「君は社会人マインドを見直したほうが良いね笑」とエモいことを言われるなど。 ↩
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エージェントという仕組みをやたら礼賛するようになっているかもしれません。その意図は全くないものの、どうか筆者がエージェント経由で転職活動に成功したことは差し引いてお読みいただきたいです。 ↩