はじめに
前回までに振り子の運動についての計算はほぼ終わりました。ここでは,特殊関数で置くだけでなくもう少しだけ深く計算をしてみることにします。
以下,少し難しい内容もあるかもしれませんが記事の最後に参考を載せておくので,わからない部分は参照してください。
前回の記事はこちら↓↓↓
https://qiita.com/nefu_chem/items/0b887e7757fbd2cdeb7f
第一種完全楕円積分
第一種完全楕円積分を実行してみます。記事では計算不可能と書きましたが,ある程度までは進めることができます。
そもそも第一種完全楕円積分とは以下のようなものでした。
\int _0^{\frac{\pi }{2}}\frac{d\phi }{\sqrt{1-k^2 \sin ^2 \phi }}
まずは準備として被積分関数とよく似た関数である
\frac{1}{\sqrt{1-x}}
を$x=0$のまわりでTaylor展開します。計算は難しくないので省略しますが
\frac{1}{\sqrt{1-x}} = 1 +\frac{1}{2}x + \frac{3}{8}x^2 + \cdots = \sum_{n=0}^{\infty }\frac{(2n-1)!!}{2n!!}x^n
となります。ここで$n!!$は二重階乗というもので一つおきにかけ合わせたものです(ex. $5!! = 5\times 3\times 1$)。
これを用いて先の積分は
\int _0^{\frac{\pi }{2}}\frac{d\phi }{\sqrt{1-k^2 \sin ^2 \phi }} = \int _0^{\frac{\pi }{2}} \sum _{n=0}^{\infty} \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}(k^2\sin ^2\phi )^n d\phi
となります。残ったのは$\sin ^{2n}\phi $の積分です。この積分は高校数学でもお馴染みWaliis積分です。詳しくは省略しますが
\int _0^{\frac{\pi }{2}} \sum _{n=0}^{\infty} \sin ^{2n} \phi d\phi = \frac{\pi }{2} \sum _{n=0}^{\infty} \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}
となります。
以上より楕円積分は
\int _0^{\frac{\pi }{2}}\frac{d\phi }{\sqrt{1-k^2 \sin ^2 \phi }} = \frac{\pi }{2}\sum _{n=0}^{\infty}(\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!})^2k^{2n}
となります。
周期の再考
Taylor展開とWallis積分より周期は
T = \frac{2\pi }{\omega_0}\sum _{n=0}^{\infty}(\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!})^2k^{2n}
となります。$ k=\sin \theta_m $でしたので無限級数の部分に注目してみましょう。$\xi =\sum _{n=0}^{\infty}(\dfrac{(2n-1)!!}{(2n)!!})^2k^{2n}$とおいてみます。きちんと書いてみれば
\begin{align}
\xi &=\sum _{n=0}^{\infty}(\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!})^2k^{2n}\\
&=1+(\frac{1}{2})^2\sin ^2 \frac{\theta_0}{2}+(\frac{3}{2\cdot 4})^2\sin ^4 \frac{\theta_0}{2}+\dots
\end{align}
となります。
ここで $f(\theta)=\sin ^2 \dfrac{\theta_0}{2}$ が $0<\theta<\pi $ での動きを考えると, $0<f(\theta)<1$ かつ単調増加関数であるので,最大角 $\theta_0$ が小さいとき,$\xi $ の最初の数項だけをとればよいことがわかります。つまり,$\theta_0\fallingdotseq 0$ のとき$\xi \fallingdotseq 1$となり,近似する前の周期$T$と一致することがわかりました。
おわりに
今回は振り子を一例に物理に現れる特殊関数を見てみました。特殊関数といっても,それは三角関数や指数関数と同じようなもので,様々な物理現象を数式で記述する際に初等関数についで頻繁に現れる関数に名前をつけたものを指します。ここで扱った特殊関数はごく一部ですので,勉強を進めていって沢山の特殊関数に出会ってください!
参考
二重階乗について
https://manabitimes.jp/math/1369
Wallis積分について
https://mathlandscape.com/wallis-integral/