はじめに
Feynmanは,その天才的な物理学のセンスで,経路積分による新たな量子力学の定式化を行った.元々量子電磁力学の問題を解決するために生まれた経路積分は,あらゆる分野に応用されることになる.その中でも物性物理 (量子多体系) に経路積分を適用することで,その圧倒的な威力を実感してもらうことが本稿の目的である.経路積分に慣れるまで多少時間が掛かるが,ひとたびその方法論を習得してしまえば,電子ガスモデル・超流動・超伝導BCSモデル・Hubbardモデル etc...といった物性物理の花形とも言えるモデルに対し統一的かつ直感的な方法で立ち向かうことができる.
本稿では経路積分を強力な道具として使いこなすことに焦点を絞る. したがって,構成の詳細な議論については他書に譲り,ここではその概略を述べるに留めたことをご容赦願いたい.
経路積分とは
◽️ 経路積分の歴史
1925年 (ちょうど100年前!) にHeisenbergらが行列力学を完成させ,1926年にSchrödingerが波動力学を完成させてから約20年後,Feynmanは新たな量子力学の定式化を考案した.それが経路積分の方法であり,その手法は量子力学に限らず,場の量子論,凝縮系物理,統計物理,確率過程 (Brown運動) といった分野においてその威力を発揮している.
経路積分の導入
◽️ 二重スリットの実験
もはや量子力学を学んだことがない人でも知っている二重スリットの実験について復習しよう.
二重スリットの実験とは,電子銃とスクリーンの間に穴が二つ空いたスリットを設置し,電子を一つずつ撃ったときにスクリーン上の電子数の分布に干渉縞が現れるといったものである.これは,電子を「粒子」として扱う古典論では説明不可能な現象であり,電子を「波」として扱う必要がある.
この実験は量子力学的に次のように理解できる.まず,孔$\mathrm A, \mathrm B$を通過しスクリーン上の点$\mathrm P$に到達する経路にそれぞれ$P_{\mathrm A},\ P_{\mathrm B}$と名前を付けよう.$P_{\mathrm A}$の波動の確率振幅を$a_{\mathrm A}$, $P_{\mathrm B}$の波動の確率振幅を$a_{\mathrm B}$とすると,重ね合わせにより電子銃から点$P$に到達する確率振幅は$a_{\mathrm A} + a_{\mathrm B}$で与えられる. よって, 点$\mathrm P$に電子が到達する確率は,
|a_{\mathrm A} + a_{\mathrm B}|^2 = |a_{\mathrm A}|^2 + |a_{\mathrm B}|^2 + 2|a_{\mathrm A}||a_{\mathrm B}|\cos\varphi
となり,$a_{\mathrm A}$と$a_{\mathrm B}$の位相差$\varphi$によって干渉縞ができることが理解できる.
◽️ 二重スリットから経路積分へ
実は,経路積分は二重スリットを拡張する形で定式化される.
二重スリット実験では,文字通り二つの孔からなるスリットを考えたが,これをさらに一般化してスリットが多数あり,さらに孔が多数個空いている状況を考えよう.各スリットにおいて,どの孔を通るかで非常に多数の組み合わせ$c$があり,点$\mathrm P$に到達する確率振幅は$\sum_c a_c$で与えられる (下図(a)).スリットと孔を無限に増やしていけば,もはやそれは何もない空間となり,電子銃から点$\mathrm P$までのあらゆる経路の積分 (重ね合わせ) になるだろう (下図(b)).これがFeynmanが着想した経路積分の考え方である.
◽️ 経路積分による量子力学
Schrödinger方程式
i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\ket{\psi(t)} = \hat H\ket{\psi(t)}
を形式的に解くと,
\ket{\psi(t^\prime)} = e^{-i\hat H(t^\prime - t)/\hbar}\ket{\psi(t)}
と書ける.これを位置表示にすると,
\psi(x^\prime,t^\prime) = \int dx\,\bra{x^\prime}e^{-i\hat H(t^\prime - t)/\hbar}\ket{x}\psi(x, t)
になる.$\bra{x^\prime}e^{-i\hat H(t^\prime - t)/\hbar}\ket{x}$はプロパゲーターと呼ばれる.経路積分表示できるのはこのプロパゲーターであり,
\begin{align}
\bra{x^\prime}e^{-i\hat H(t^\prime - t)/\hbar}\ket{x} &= \sum_{\mathrm{paths}:x\to x^\prime} \exp\left[i\frac{S_{\mathrm{path}}}{\hbar}\right] \\
&= \int \mathcal D p\mathcal D x\exp\left[i\frac{S_{\mathrm{path}}}{\hbar}\right]
\end{align}
と書ける (導出はやや面倒なので他の文献に譲る).ここで,$\sum_{\mathrm{paths}:x\to x^\prime}$は$x$から$x^\prime$までの全ての経路についての和を表し,$\int \mathcal D p\mathcal D x$はそれを仰々しく書いた記号である ($p$は運動量).また,
S_{\mathrm{path}} = \int^{t^\prime}_t dt\,(p\dot x - H(x, p))
であり,解析力学で出てきた作用と同じ形をしていることがわかる (被積分関数はハミルトニアンのLegendre変換,つまりラグランジアンである).特筆すべきは,ここで現れた$x$や$p$は演算子ではなく,古典論的な数であるということである.
◽️ 経路積分から分かる最小作用の原理の根拠
$\hbar \ll S_{\mathrm{path}}$のときを考えよう.このとき,ある経路から少しずれた経路を考えると,$\hbar$が十分小さいゆえに位相$\exp\left[i\frac{S_{\mathrm{path}}}{\hbar}\right]$が激しく振動し,その経路付近のいくつもの激しい波が干渉して打ち消されてしまう.しかし,このような状況にならないときがただ一つある.それは,経路を少しずらしても作用が変わらない場合,つまり$\delta S_{\mathrm{path}} = 0$となる場合である.これは古典力学の最小作用の原理に他ならない.このように,経路積分を用いれば作用が$\hbar$に比べ十分大きいときに古典力学になることが直ちにわかる.
この古典力学 (粒子力学) と量子力学 (波動力学) の対応は,幾何光学と波動光学にも同様の対応 (つまりあらゆる波が干渉して光線になること) が見れる (cf. 文献[10]).幾何光学においては光路長$L$に対して$\delta L = 0$が成り立ち,Fermatの原理と呼ばれる (本アドベントカレンダー10日目に公開された,Fermatの原理とDijkstra法を組み合わせた光路計算の記事は,非常に独創的で興味深いものでした.ぜひ併せてご一読ください).
◽️ 経路積分による統計力学
統計力学において,分配関数は
Z = \mathrm{Tr}\, e^{-\beta\hat H} = \sum_n \bra{n}e^{-\beta\hat H}\ket{n}
と書ける.$\beta$は逆温度$\beta = 1/k_B T$である.1粒子問題で基底として$\ket{x}$を選ぶと,
Z = \int dx\,\bra x e^{-\beta\hat H}\ket x
となり,プロパゲーターにおいて$x^\prime = x, \ i(t^\prime - t)/\hbar = \beta$と置き換えた形になっている.虚時間$\tau$を$t\to-i\hbar \tau$という置き換えにより導入すると,
\begin{align}
&Z = \sum_{\mathrm{loops}} e^{-S} = \int \mathcal D p\mathcal D x\,e^{-S}\\
&S = \int^\beta_0 d\tau\,\left(-\frac{i}{\hbar}p\partial_\tau x + H\right)
\end{align}
と書くことができる.
第二量子化概観
通常の量子力学では,多粒子 (物性だと$10^{23}$オーダー) の波動関数は非常に複雑な形になり,取り扱いは事実上不可能である.また,物性物理学においてはフォノンやマグノンといった準粒子が生成・消滅をしており,このような現象を通常の量子力学で記述するのは困難である.
以上のような理由から,多粒子系の量子力学を扱うには第二量子化と呼ばれる概念を用いるのが必要不可欠となる.もちろん,多粒子系の経路積分を構成するためにも第二量子化が必然的に必要となるので,ここでその概念を軽く説明しておこう.
◽️粒子の統計性
この世界の全ての粒子は,大きく二つに分類することができる.それは,「同種粒子は区別できない」という非常に単純な原理から導ける.同種粒子の二体波動関数を$\psi(\boldsymbol r_1,\boldsymbol r_2)$と書こう.このとき,先の原理から粒子を交換しても状態として区別できないはずなので,複素数$c$を用いて
\psi(\boldsymbol r_1,\boldsymbol r_2) = c\psi(\boldsymbol r_2,\boldsymbol r_1)
となる.もう一度交換すれば,
\psi(\boldsymbol r_1,\boldsymbol r_2) = c^2\psi(\boldsymbol r_1,\boldsymbol r_2)
となり,$c^2 = 1$が分かる.したがって$c = +1\ \mathrm{or}\ -1$しかあり得ないので,粒子の交換によって波動関数の符号が変わるか変わらないかで粒子を二つに分類することができた.$c = 1$の粒子はBose粒子 (ボゾン) ,$c = -1$の粒子はFermi粒子 (フェルミオン) と呼ばれる.また,$c = 1$の粒子はBose-Einstein統計,$c = -1$の粒子はFermi-Dirac統計に従う,と言ったりもする.
◽️Pauliの排他律
フェルミオンの統計性から,驚くべきことが直ちに従う.2つのフェルミオンが同じ状態にあるとしよう.つまり波動関数としては$\psi(\boldsymbol r_1,\boldsymbol r_1)$と書けるとき,2つの粒子を交換すれば
\psi(\boldsymbol r_1,\boldsymbol r_1) = -\psi(\boldsymbol r_1,\boldsymbol r_1)
が成り立つはずである.しかし,これが成り立つには$\psi(\boldsymbol r_1,\boldsymbol r_1) = 0$しかあり得ない.この結果が意味することは,フェルミオンは同じ状態に1つの粒子しか入れないということである.このフェルミオンの性質をPauliの排他律という.電子がフェルミオンであるために,Pauliの排他律は金属の性質に本質的に関係している (Fermi縮退).
◽️第二量子化
最初に述べた通常の量子力学の困難を回避するには,粒子中心の記述から準位中心の記述にすればよい.つまり,ハミルトニアンを$\hat H$とし,その固有状態 (準位) の波動関数を$\phi_k(\boldsymbol r)$としたとき,準位$k$に粒子を生成・消滅させる演算子$\hat c^\dagger_{k},\ \hat c_{k}$を用いて状態を記述する.例えば,準位$\alpha$に粒子が2つ,準位$\beta$に粒子が1つある状態は
(\hat c^\dagger_\alpha)^2\hat c^\dagger_\beta\ket{0}
と書ける (フェルミオンの場合は同じ準位に2つ以上の粒子が居てはならないので,この状態はゼロ).ここで$\ket{0}$は粒子が何もない真空状態を表す.
生成・消滅演算子は以下の交換関係を満たす.
\begin{align}
[c^\dagger_\alpha, c^\dagger_\beta]_{\pm} &= [c_\alpha, c_\beta]_{\pm} = 0,\\
&[c_\alpha, c^\dagger_\beta]_{\pm} = \delta_{\alpha\beta}.
\end{align}
ここで,$[A,B]_\pm = AB \pm BA$であり,$+$がフェルミオンの場合,$-$がボゾンの場合である.フェルミオンの場合の1式目を考えれば,
\hat c^\dagger_\alpha \hat c^\dagger_\beta = -\hat c^\dagger_\beta \hat c^\dagger_\alpha
となり,確かにフェルミオンの統計性を表している.
波動関数$\phi_k(\boldsymbol r)$と生成消滅演算子を用いて,
\hat\psi^\dagger(\boldsymbol r) = \sum_k \phi^*_k(\boldsymbol r)\hat c^\dagger_{k},\ \ \ \hat\psi(\boldsymbol r) = \sum_k \phi_k(\boldsymbol r)\hat c_{k}
という演算子を作ると,これは位置$\boldsymbol r$に粒子を生成・消滅する演算子だと解釈できる.交換関係は,
\begin{align}
[\hat\psi(\boldsymbol r),\hat\psi^\dagger(\boldsymbol r^\prime)]_\pm &= \sum_{\alpha,\beta}[\phi_\alpha(\boldsymbol r)\hat c_{\alpha}, \phi^*_\beta(\boldsymbol r^\prime)\hat c^\dagger_{\beta}]_\pm \\
&=\sum_\alpha\phi_\alpha(\boldsymbol r)\phi^*_\alpha(\boldsymbol r^\prime) \\
&= \delta^3(\boldsymbol r - \boldsymbol r^\prime)
\end{align}
である.最後の等式は$\lbrace\phi_k(\boldsymbol r)\rbrace$の完全性関係を用いた.同様にして
\begin{align}
[\hat\psi^\dagger(\boldsymbol r),\hat\psi^\dagger(\boldsymbol r^\prime)]_\pm = [\hat\psi(\boldsymbol r),\hat\psi(\boldsymbol r^\prime)]_\pm = 0
\end{align}
も分かる.
詳細は省くが,第二量子化表示でのハミルトニアン$\hat{\mathcal H}$は,
\begin{align}
\hat{\mathcal H} &= \int d\boldsymbol r\,\hat\psi^\dagger(\boldsymbol r)\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 + V(\boldsymbol r)\right)\psi(\boldsymbol r)\\
&+\frac12 \int\int d\boldsymbol r d\boldsymbol r^\prime\,\hat\psi^\dagger(\boldsymbol r)\hat\psi^\dagger(\boldsymbol r^\prime)U(\boldsymbol r - \boldsymbol r^\prime)\hat\psi(\boldsymbol r^\prime)\hat\psi(\boldsymbol r)
\end{align}
と書ける.第1項は1粒子のハミルトニアンで,第2項が多体系特有の粒子間相互作用を表す.$\hat H \phi_k(\boldsymbol r) = \varepsilon_k\phi_k(\boldsymbol r)$を用いれば,$\hat{\mathcal H}$の第1項は
\sum_k \varepsilon_k\hat c^\dagger_k \hat c_k
と書くこともできる.ここで,$\hat N_k \equiv \hat c^\dagger_k \hat c_k$は粒子数演算子と呼ばれ,準位$k$の粒子数を与える.よって,$\varepsilon_k\hat c^\dagger_k \hat c_k$は$\varepsilon_k$のエネルギーを持つ粒子が$N_k$個ある,と読める.$\hat N_k$が確かに粒子数を与えることは,例えば$\ket{2_k} = (\hat c^\dagger_k)^2\ket 0$という状態に対して$\hat N_k\ket{2_k} = 2\ket{2_k}$が成り立つことを確かめてみよ.
多体系の経路積分
◽️分配関数
経路積分を多体系でも使えるように拡張しよう.前節で得られた分配関数の経路積分表示
\begin{align}
&Z = \sum_{\mathrm{loops}} e^{-S} = \int \mathcal D p\mathcal D x\,e^{-S}\\
&S = \int^\beta_0 d\tau\,\left(-\frac{i}{\hbar}p\partial_\tau x + H\right)
\end{align}
を多体系に拡張することを考える.量子力学における座標変数$x$は,場の理論においては場の演算子$\hat\psi(\boldsymbol r)$であると考えられる.つまり,$\hat x\to\hat\psi(\boldsymbol r)$の関係にある.このとき,正準交換関係$[\hat x,\hat p] = i\hbar, \ [\hat\psi(\boldsymbol r),\hat\psi^\dagger(\boldsymbol r^\prime)] = \delta(\boldsymbol r-\boldsymbol r^\prime)$を整合させるためには,$\hat p\to i\hbar\hat\psi^\dagger(\boldsymbol r)$と対応させれば良い.したがって,この対応関係を用いれば多体系の分配関数は,
\begin{align}
&Z = \int \mathcal{D}\bar\psi \mathcal{D}\psi\,e^{-S}\\
&S = \int_0^\beta d\tau\,
\left(
\sum_\alpha \bar\psi_\alpha \partial_\tau \psi_\alpha
+ \mathcal{H}(\bar\psi, \psi)
- \mu N
\right)
\end{align}
と書かれることが類推される.ここでいくつか注意をしよう.
- 物性物理ではカノニカルアンサンブルだと扱いづらいモデルが多いので,グランドカノニカルアンサンブルを用い,$\mu N$の項を加えた.
- 添え字$\alpha$は量子状態を指定する変数であり,位置$\boldsymbol r$,スピン$\sigma$,波数$\boldsymbol k$などが入る.
- 経路積分に移行したのに伴い,場の演算子はもはや演算子ではなくなり,"数"と化す.それにより,$\psi^\dagger$は$\psi$の複素共役$\bar\psi$となる.また,$\mathcal{H}(\bar\psi, \psi)$や$N$も本来演算子だが,経路積分表示では場の演算子を全て$\bar\psi,\psi$で置き換えればよい.$\hat N$は,
\hat N = \int d\boldsymbol r\,\hat\psi^\dagger(\boldsymbol r)\hat\psi(\boldsymbol r)\,.
- 場の変数$\psi,\bar\psi$は虚時間$\tau$に依存する.虚時間依存性は量子揺らぎを表し,$\beta$が大きいほど (低温になるほど) 量子揺らぎも大きくなる.なぜなら,$\beta$が大きくなることで取りうる経路が増えるからである.
慧眼な読者は「場の変数とは何の数なのか?」と思われるだろう.実はボゾン場の変数は複素数で,フェルミオン場の変数にはGrassmann数と呼ばれる数を用いる.これはそれぞれの粒子の統計性に起因する.
また,分配関数を導出する過程で分かることなのだが,虚時間についてボゾン場は$\psi(0) = \psi(\beta)$,フェルミオン場は$\psi(0) = -\psi(\beta)$という周期境界条件を満たす.
◽️Grassmann数
Grassmann数とは次の反可換性をみたす数である.
\psi_1\psi_2 = -\psi_2\psi_1\,.
この性質から,直ちに$\psi^2 = 0$が分かる.また,Grassmann数は複素共役$\bar\psi$やフェルミオン場の演算子$\hat\psi$とも反可換であるとする.
◽️Grassmann数の微分
Grassmann数の二乗するとゼロになる性質から,Grassmann変数の関数$f(\psi,\bar\psi)$は,
f(\psi,\bar\psi) = f_0 + f_1\psi + f_2\bar\psi + f_3\bar\psi\psi
という形でしかありえない.ここで,$f_0,f_1,f_2,f_3$は通常の複素数である.Grassmann数による微分は,この形の多項式について考えればよい.
Grassmannの微分$\frac{\partial}{\partial\psi}$は,普通の多項式の微分と同様にすれば良いのだが,微分を実行するために$\psi$を$\frac{\partial}{\partial\psi}$のすぐ右に移動する必要がある.つまり,
\frac{\partial}{\partial\psi_2}\psi_1\psi_2 = -\frac{\partial}{\partial\psi_2}\psi_2\psi_1 = -\psi_1
のようにしなければならない.
◽️Grassmann数の積分
積分については,Grassmann数の特殊な事情により通常の積分と大きく異なる.Grassmann数の微分の逆演算が定義できないので,積分を微分の逆演算として定義するのは不可能なのである.そこで,積分として満たしてほしい性質をいくつか課すことによって積分を定義するのだが,実はそれを満たす演算は微分演算子$\frac{\partial}{\partial\psi}$そのものであるということが示せる (cf. 文献[3]).ただ,わざわざフェルミオンのときだけ微分記号を用いるのも面倒なので,積分記号を用いる.つまり,$\int d\psi = \frac{\partial}{\partial\psi}$である.
経路積分の公式
以上で経路積分の定式化を終えたわけだが,その計算方法は依然として謎なままである.ここでは以降の計算で必須となる経路積分の公式を確認する.
◽️ 期待値
物理量$A(\psi,\bar\psi)$の期待値 (アンサンブル平均) は
\langle A \rangle = \frac{1}{Z}\int\mathcal D\bar\psi\mathcal D\psi\, A(\psi,\bar\psi)e^{-S[\psi,\bar\psi]}
で与えられる.
◽️ ボゾン場のGauss積分
経路積分で計算できるのは,大抵Gauss積分のみである.ボゾン場 (複素数) のGauss積分は次のようになる.
\begin{align}
&\int\mathcal D\bar\psi\mathcal D\psi \exp\left[-\int d\tau\left(\sum_{\alpha,\beta}\bar\psi_\alpha H_{\alpha\beta}\psi_\beta - \sum_\alpha(\bar J_\alpha\psi_\alpha + \bar\psi_\alpha J_\alpha)\right)\right] \\
&=[\det H]^{-1}\exp\left[\int d\tau\sum_{\alpha,\beta}\bar J_\alpha H^{-1}_{\alpha\beta}J_\beta\right]
\end{align}
◽️ フェルミオン場のGauss積分
フェルミオン場のGauss積分は,Grassmann数の性質によりボゾン場とは少し異なる.
\begin{align}
&\int\mathcal D\bar\psi\mathcal D\psi \exp\left[-\int d\tau\left(\sum_{\alpha,\beta}\bar\psi_\alpha H_{\alpha\beta}\psi_\beta - \sum_\alpha(\bar J_\alpha\psi_\alpha + \bar\psi_\alpha J_\alpha)\right)\right] \\
&=\det H\exp\left[\int d\tau\sum_{\alpha,\beta}\bar J_\alpha H^{-1}_{\alpha\beta}J_\beta\right]
\end{align}
ボゾン場と異なる点は,$\det H$のインバースが無い点である.
◽️ 自由フェルミオンガス
最も簡単な具体例として,体積$V$の自由フェルミオンガスの分配関数を計算しよう.ハミルトニアンは
\hat{\mathcal H} = \int d\boldsymbol r\,\hat\psi^\dagger(\boldsymbol r)\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 \right)\psi(\boldsymbol r)
で与えられる.ここで,スピンの自由度は無視した.これより,分配関数の経路積分表示は,
Z = \int\mathcal D\bar\psi\mathcal D\psi\,\exp\left[-\int^\beta_0 d\tau\int d\boldsymbol r\,\bar\psi(\boldsymbol r,\tau)\left(\partial_\tau - \frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 - \mu\right)\psi(\boldsymbol r,\tau)\right]
となる.したがって,フェルミオン場のGauss積分の公式を使えば,
Z = \det\left(\partial_\tau - \frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 - \mu\right)
を得る.微分演算子の$\det$なんて計算できないように思えるが,$\det$は基底の変換で不変という性質を使えば,Fourier表示することで計算できる.以下の基底変換 (Fourier変換) を考えよう.
\begin{align}
&\psi(\boldsymbol r,\tau) = (\beta V)^{-1/2}\sum_{\boldsymbol k,\omega_n}e^{-i\omega_n\tau + i\boldsymbol k\cdot\boldsymbol r}c_{\boldsymbol k, \omega_n}\,,\\
&\bar\psi(\boldsymbol r,\tau) = (\beta V)^{-1/2}\sum_{\boldsymbol k,\omega_n}e^{i\omega_n\tau - i\boldsymbol k\cdot\boldsymbol r}\bar c_{\boldsymbol k, \omega_n}\,.
\end{align}
ここで,フェルミオン場の反周期性$\psi(\boldsymbol r,0) = -\psi(\boldsymbol r, \beta)$から,$\omega_n = (2n+1)\pi/\beta$であり,フェルミオンの松原振動数と呼ばれる.この基底における$\partial_\tau - \frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 - \mu$の行列要素は,
\begin{align}
\left[\partial_\tau - \frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 - \mu\right]_{(\boldsymbol k,\omega_n),(\boldsymbol k^\prime,\omega_m)} \\
= \left[-i\omega_n + \frac{\hbar^2}{2m}\boldsymbol k^2 - \mu\right]\delta_{\boldsymbol k,\boldsymbol k^\prime}\delta_{\omega_n,\omega_m}
\end{align}
となり,対角化されている.以上より,分配関数は
\begin{align}
Z &= \det\left[\left(-i\omega_n + \frac{\hbar^2}{2m}\boldsymbol k^2 - \mu\right)\delta_{\boldsymbol k,\boldsymbol k^\prime}\delta_{\omega_n,\omega_m}\right]\\
&=\prod_{\boldsymbol k,\omega_n}\left(-i\omega_n + \frac{\hbar^2}{2m}\boldsymbol k^2 - \mu\right)
\end{align}
となることが分かった.$\ln$を取ることにより,自由エネルギー
\begin{align}
F &= -\frac{1}{\beta}\ln Z\\
&= -\frac{1}{\beta}\sum_{\boldsymbol k,\omega_n}\ln\left(-i\omega_n + \frac{\hbar^2}{2m}\boldsymbol k^2 - \mu\right)\\
&=-\frac{1}{\beta}\sum_{\boldsymbol k}\ln\left(1 + e^{-\beta\xi_{\boldsymbol k}}\right)
\end{align}
を得る (本当はグランドポテンシャルだが,慣習的に自由エネルギーと言ってしまうことが多い).最後のイコールは,$\xi_{\boldsymbol k} = \frac{\hbar^2}{2m}\boldsymbol k^2 - \mu$とおき,松原振動数の和を取った.松原振動数の和は留数定理を用いて行われるが,今回は$\log$が分岐線を持つのでやや複雑な計算となる.熱力学関係式$\partial F/\partial\mu = -N$より,
\begin{align}
N = \sum_{\boldsymbol k}\frac{1}{e^{\beta\xi_{\boldsymbol k}} + 1}
\end{align}
が得られ,$f(\varepsilon) = 1/(e^{\beta(\varepsilon - \mu)} + 1)$はFermi分布関数と呼ばれる.
物性物理においては,温度Green関数という量も重要となる.計算してみよう.温度Green関数は
\begin{align}
G_{\boldsymbol k}(\omega_n) &= \langle \bar c_{\boldsymbol k}(\omega_n)c_{\boldsymbol k}(\omega_n) \rangle\\
&= \frac{1}{Z}\int \mathcal D \bar c\,\mathcal D c\,\bar c_{\boldsymbol k}(\omega_n)c_{\boldsymbol k}(\omega_n)e^{-S[\bar c,c]}
\end{align}
で定義される.Fourier表示において,この系の分配関数は
Z = \int \mathcal D \bar c\,\mathcal D c\,\exp\left[-\sum_{\boldsymbol k,\omega_n}\bar c_{\boldsymbol k}(\omega_n)(-i\omega_n + \xi_{\boldsymbol k})c_{\boldsymbol k}(\omega_n)\right]
で与えられるので,$f_{\boldsymbol k}(\omega_n) = -i\omega_n + \xi_{\boldsymbol k}$と置いて,$Z$を$f_{\boldsymbol k}(\omega_n)$で微分してみると,
\begin{align}
-\frac{1}{Z}\frac{\delta Z}{\delta f_{\boldsymbol k}(\omega_n)} &= \frac{1}{Z}\int \mathcal D \bar c\,\mathcal D c\,\bar c_{\boldsymbol k}(\omega_n)c_{\boldsymbol k}(\omega_n)e^{-S[\bar c,c]}\\
&=G_{\boldsymbol k}(\omega_n)
\end{align}
となり,温度Green関数が得られることが分かる.今,$Z = \prod_{\boldsymbol k,\omega_n}f_{\boldsymbol k}(\omega_n)$と求まっているので,
\begin{align}
G_{\boldsymbol k}(\omega_n) &= -\frac{1}{Z}\frac{\delta Z}{\delta f_{\boldsymbol k}(\omega_n)}\\
&= -\frac{1}{\prod_{\boldsymbol k,\omega_n}f_{\boldsymbol k}(\omega_n)}\prod_{\boldsymbol k^\prime \ne \boldsymbol k,\omega_m \ne \omega_n}f_{\boldsymbol k^\prime}(\omega_m)\\
&= -\frac{1}{f_{\boldsymbol k}(\omega_n)} = \frac{1}{i\omega_n - \xi_{\boldsymbol k}}
\end{align}
のようにして,自由フェルミオンの温度グリーン関数が求まる.
電子ガスモデル
いよいよ経路積分を実際の物性物理の問題に適用する.扱える問題は多様だが,ここでは最も基本的なモデルである電子ガスモデルを考えてみよう.
◽️ モデルの説明
電子ガスモデルは,一様な正電荷の背景の中を電子が互いにCoulomb相互作用しながら運動する系であり,ハミルトニアンは
\hat H = \sum_{i = 1}^N\frac{\hat{\boldsymbol p}^2_i}{2m} + \sum_{i < j} \frac{e^2}{|\hat{\boldsymbol{r}}_i - \hat{\boldsymbol{r}}_j|}
と書ける (本当は電子と正電荷背景の相互作用や,正電荷背景同士の相互作用も考慮するべきだが,ここでは省略して書くことにする.詳細は文献[3]の2章を参照のこと).このハミルトニアンを第二量子化表示すると,
\begin{align}
\hat{\mathcal{H}} = &\int d\boldsymbol r\sum_\sigma \hat\psi^\dagger_\sigma(\boldsymbol r)\left[-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 - \mu \right]\hat\psi_\sigma(\boldsymbol r) \\
&+ \frac{1}{2}\int\int d\boldsymbol r d\boldsymbol r^\prime \hat\psi^\dagger_\sigma(\boldsymbol r)\hat\psi^\dagger_{\sigma^\prime}(\boldsymbol r^\prime)\frac{e^2}{|\boldsymbol r - \boldsymbol r^\prime|}\hat\psi_{\sigma^\prime}(\boldsymbol r^\prime)\hat\psi_{\sigma}(\boldsymbol r)
\end{align}
となる.$\sigma$はスピンの変数であり,今の場合$\sigma = \uparrow,\downarrow$である.
◽️ ハミルトニアンの変形
計算を進めやすくするためにハミルトニアンを変形する.場の演算子の平面波展開
\psi_{\sigma}(\boldsymbol r) = \frac{1}{\sqrt V}\sum_{\boldsymbol k}e^{-i\boldsymbol k\cdot\boldsymbol r}\hat c_{\boldsymbol k\sigma}
を用いると,ハミルトニアンは
\begin{align}
\hat{\mathcal H} &= \sum_{\boldsymbol k\sigma}\left(\frac{\hbar^2\boldsymbol k^2}{2m}- \mu\right)\hat c^\dagger_{\boldsymbol k\sigma}\hat c_{\boldsymbol k\sigma} \\
&+ \frac{1}{V}\sum_{\boldsymbol q \ne 0}\frac{2\pi e^2}{|\boldsymbol q|^2}\sum_{\boldsymbol k\sigma}\sum_{\boldsymbol k^\prime\sigma^\prime}\hat c^\dagger_{\boldsymbol k + \boldsymbol q,\sigma}\hat c^\dagger_{\boldsymbol k^\prime - \boldsymbol q,\sigma^\prime}\hat c_{\boldsymbol k^\prime\sigma^\prime}\hat c_{\boldsymbol k\sigma}
\end{align}
となる.ここで,$\boldsymbol q$がゼロのところでの和が排除されているのは,一様な正電荷背景により中性条件が満たされていることに起因する.これにより,Coulomb相互作用の$\boldsymbol q =0$での発散が回避されることになる.第二項について,交換関係$\lbrace\hat c_{\boldsymbol k\sigma}, \hat c^\dagger_{\boldsymbol k^\prime\sigma^\prime}\rbrace = \delta_{\boldsymbol k\boldsymbol k^\prime}\delta_{\sigma\sigma^\prime},\ \lbrace\hat c_{\boldsymbol k\sigma}, \hat c_{\boldsymbol k^\prime\sigma^\prime}\rbrace = 0$を使って変形すれば,
\begin{align}
\hat{\mathcal H} &= \sum_{\boldsymbol k\sigma}\left(\frac{\hbar^2\boldsymbol k^2}{2m}- \mu\right)\hat c^\dagger_{\boldsymbol k\sigma}\hat c_{\boldsymbol k\sigma} \\
&+ \frac{1}{V}\sum_{\boldsymbol q \ne 0}\frac{2\pi e^2}{|\boldsymbol q|^2}\left(\rho(\boldsymbol q)\rho(-\boldsymbol q) - N\right)
\end{align}
となる.ここで$\rho(\boldsymbol q) = \sum_{\boldsymbol k,\sigma}\bar c_{\boldsymbol k,\sigma}c_{\boldsymbol k+ \boldsymbol q,\sigma}$は電子数密度$\rho(\boldsymbol r) = \sum_\sigma\hat\psi_\sigma^\dagger(\boldsymbol r)\hat\psi_\sigma(\boldsymbol r)$のFourier変換を表す.
◽️ 経路積分表示
分配関数の経路積分表示は
\begin{align}
Z &= \int\mathcal D\bar c\,\mathcal D c \,e^{-S[\bar c,c]}\\
S[\bar c,c] &= \int^\beta_0 d\tau\left[\sum_{\boldsymbol k,\sigma}\bar c_{\boldsymbol k\sigma}(\partial_\tau + \varepsilon_{\boldsymbol k} - \mu)c_{\boldsymbol k\sigma} \right.\\
&\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ +\left.\frac{1}{V}\sum_{\boldsymbol q\ne 0}\frac{2\pi e^2}{|\boldsymbol q|^2}\left(\rho(\boldsymbol q)\rho(-\boldsymbol q) -N\right)\right]
\end{align}
である.この経路積分を計算したいのだが,$\rho(\boldsymbol q)\rho(-\boldsymbol q)$は$\bar cc$の2次なので,Gauss積分することができない.この困難を解決するのがStratonovich-Hubbard変換 (SH変換) であり,経路積分法の威力を高める最大の武器である.
◽️ Stratonovich-Hubbard変換
まず,分配関数に定数を掛けても得られる物理量は変わらないことから,
\int\mathcal D\phi(\boldsymbol q,\tau)\exp\left[\sum_{\boldsymbol q\ne 0}\frac{|\boldsymbol q|^2}{8\pi}\phi(\boldsymbol q,\tau)\phi(-\boldsymbol q,\tau)\right] = \mathrm{const.}
という定数を掛けてみる( $\phi(\boldsymbol r)$は実数の場であり,Fourier成分は$\phi(\boldsymbol q)^* = \phi(-\boldsymbol q)$を満たす).すると,分配関数の指数の肩の一部が
\frac{2\pi e^2}{V|\boldsymbol q|^2}\rho(\boldsymbol q)\rho(-\boldsymbol q) \longrightarrow \frac{2\pi e^2}{V|\boldsymbol q|^2}\rho(\boldsymbol q)\rho(-\boldsymbol q) + \frac{|\boldsymbol q|^2}{8\pi}\phi(\boldsymbol q,\tau)\phi(-\boldsymbol q,\tau)
と変わる.ここで,$\phi(\boldsymbol q)\to\varphi(\boldsymbol q) - i\frac{4\pi e}{\sqrt V |\boldsymbol q|^2}\rho(\boldsymbol q)$と変換してみると,$\rho(\boldsymbol q)\rho(-\boldsymbol q)$の項が消えて,
\frac{|\boldsymbol q|^2}{8\pi}\varphi(\boldsymbol q)\varphi(-\boldsymbol q) - \frac{ie}{2\sqrt V}\left(\varphi(\boldsymbol q)\rho(-\boldsymbol q) + \varphi(-\boldsymbol q)\rho(\boldsymbol q)\right)
となることが分かる.結局,分配関数は
\begin{align}
Z &= \int \mathcal D\varphi\,\mathcal D\bar c\,\mathcal D c\,e^{-S[\bar c,c,\varphi]}\\
S[\bar c,c,\varphi] &= \int^\beta_0 d\tau\left[\sum_{\boldsymbol k,\sigma}\bar c_{\boldsymbol k\sigma}(\partial_\tau + \varepsilon_{\boldsymbol k} - \mu)c_{\boldsymbol k\sigma} \right.\\
&\ +\left.\sum_{\boldsymbol q \ne 0}\left(\frac{|\boldsymbol q|^2}{8\pi}\varphi(\boldsymbol q)\varphi(-\boldsymbol q) - \frac{ie}{2\sqrt V}\left(\varphi(\boldsymbol q)\rho(-\boldsymbol q) + \varphi(-\boldsymbol q)\rho(\boldsymbol q)\right)\right)\right]
\end{align}
という形になる.以上がSH変換の流れである.$\bar c c$の2次の項を1次に書き換える代わりに,代償として補助場$\varphi$の経路積分を付け加えている.困難を別の困難に押し付けているだけのような気がするのだが,この変換をするのとしないのとでは,物理的意味の解釈のしやすさも,計算の進めやすさも格段に異なるのである.物理的意味を明瞭にするために今一度実空間表示に戻ってみる.すると,以下のようになる.
\begin{align*}
Z &= \int \mathcal D\varphi\,\mathcal D\bar\psi\,\mathcal D \psi\,e^{-S[\bar \psi,\psi,\varphi]}\\
S[\bar \psi,\psi,\varphi] &= \int^\beta_0 d\tau\int d\boldsymbol r\left[\frac{1}{8\pi} [\nabla\varphi(\boldsymbol r)]^2 \right.\\
&\ +\left.\sum_{\sigma}\bar \psi_{\sigma}(\boldsymbol r)\left(\partial_\tau - \frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 - \mu + ie\varphi(\boldsymbol r)\right)\psi_{\sigma}(\boldsymbol r)\right]
\end{align*}
作用の第一項を見てみると,これはまさに電場のエネルギー密度$\boldsymbol E^2/8\pi$ (Gauss単位系) に対応していることが分かる.つまり,$\varphi(\boldsymbol r)$は静電ポテンシャルを表しており,それを踏まえてもう一度作用を見てみると,電子が静電ポテンシャルを感じながら運動するシステムを表現していることが見て取れる.このようにして,SH変換を通して電子間のCoulomb相互作用は,(補助場の経路積分が加わったとはいえ) 静電ポテンシャルとの相互作用に置き換わったのである.
SH変換は純粋に数学的な操作であり,変換の選び方は一つではないことを注意しておく.物理的に意味のある変換を施せるようになるには,それなりの訓練が必要である.
◽️ 有効作用
SH変換した後の分配関数について,電子の自由度はGauss積分可能である.実際に積分すると,スピンの自由度があることに注意して,
\begin{align}
Z &= \int \mathcal D\varphi\, e^{-S_{\mathrm{eff}}[\varphi]}\\
e^{-S_{\mathrm{eff}}[\varphi]} &= \int\mathcal D\bar\psi\,\mathcal D \psi\,e^{-S[\bar \psi,\psi,\varphi]}\\
&= \exp\left[-\int^\beta_0 d\tau\int d\boldsymbol r\,\frac{(\nabla\varphi)^2}{8\pi}\right]\\
&\times\left(\det\left[\partial_\tau- \frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 - \mu + ie\varphi(\boldsymbol r,\tau)\right]\right)^2
\end{align}
を得る.$S_{\mathrm{eff}}[\varphi]$を有効作用と呼ぶ.
◽️ 摂動展開
前節と同様に基底変換すると,
\begin{align}
&\left[\partial_\tau- \frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 - \mu + ie\varphi(\boldsymbol r,\tau)\right]_{(\boldsymbol k, \omega_n),(\boldsymbol k^\prime, \omega_m)}\\
=&\left[-i\omega_n + \frac{\hbar^2}{2m}\boldsymbol k^2 - \mu\right]\delta_{\boldsymbol k,\boldsymbol k^\prime}\delta_{\omega_n,\omega_m} + \frac{ie}{(\beta V)^{1/2}}\varphi(\boldsymbol k - \boldsymbol k^\prime,\omega_n - \omega_m)\\
\equiv& (M_0)_{k,k^\prime} + (M_1)_{k,k^\prime} = M_{k,k^\prime}
\end{align}
となる.ここで,$k = (\boldsymbol k,\omega_n)$とまとめて,
\begin{align}
&(M_0)_{k,k^\prime} = -G_0^{-1}(k)\delta_{k,k^\prime} = \left[-i\omega_n + \frac{\hbar^2}{2m}\boldsymbol k^2 - \mu\right]\delta_{\boldsymbol k,\boldsymbol k^\prime}\delta_{\omega_n,\omega_m}\\
&(M_1)_{k,k^\prime} = \frac{ie}{(\beta V)^{1/2}}\varphi(k - k^\prime)
\end{align}
とおいた.$G_0(k)$は前節で求めた自由フェルミオンのGreen関数である.
以上より,分配関数は,
\begin{align}
Z &= \int\mathcal D\varphi\,e^{-S_{\mathrm{eff}}[\varphi]}\\
S_{\mathrm{eff}}[\varphi] &= -2\ln\det M + \int^\beta_0d\tau\int d\boldsymbol r\frac{(\nabla\varphi(\boldsymbol r,\tau))^2}{8\pi}
\end{align}
となる.$\ln\det M = \mathrm{Tr}\ln M$という公式を用いれば,
\begin{align}
\ln\det M &= \mathrm{Tr}\ln(M_0 + M_1)\\
&= \mathrm{Tr}\ln(-G^{-1}_0 + M_1)\\
&= \mathrm{Tr}\ln\left[(-G^{-1}_0)(1 - G_0M_1)\right]\\
&=\mathrm{Tr}\ln(-G^{-1}_0) + \mathrm{Tr}\ln(1 - G_0M_1)
\end{align}
と変形できる.第1項については,補助場$\varphi$に依存しないので,経路積分の外に出せる.よって,分配関数の定数倍は意味がないのでこの項は無視してよい.次に第2項を考えよう.$\ln(1-x) = -\sum_{n = 1}^\infty x^n/n$という展開を用いることで,
\begin{align}
\mathrm{Tr}\ln(1 - G_0M_1) = -\sum_{n = 1}^\infty\frac{1}{n}\mathrm{Tr}[G_0M_1]^n
\end{align}
と書くことができる.$n = 1$の項は,
\begin{align}
\mathrm{Tr}\,G_0M_1 &= \sum_{k,k^\prime}(G_0)_{kk^\prime}(M_1)_{k^\prime k}\\
&= \sum_k G_0(k)(M_1)_{kk}\\
&= \sum_k G_0(k)\left(\frac{ie}{(\beta V)^{1/2}}\varphi(0)\right)
\end{align}
となる.しかし,中性条件より$\boldsymbol q = 0$の相互作用は排除されるべきなので, $\varphi(0) = 0$としてよい.$n = 2$の項は,
\begin{align}
\frac12 \mathrm{Tr}(G_0M_1)^2 &= \frac12 \sum_{k,k^\prime}G_0(k)(M_1)_{kk^\prime}G_0(k^\prime)(M_1)_{k^\prime k}\\
&=\frac12\sum_{k,q}G_0(k)(M_1)_{k,k+q}G_0(k+q)(M_1)_{k+q, k}\\
&= -\frac12\sum_q \frac{e^2}{\beta V}\left(\sum_k G_0(k)G_0(k + q)\right)\varphi(q)\varphi(-q)\\
&\equiv -\frac14\sum_q e^2\pi(q)\varphi(q)\varphi(-q)
\end{align}
である.ここで,
\pi(q) = \frac{2}{\beta V}\sum_k G_0(k)G_0(k + q)
は分極関数と呼ばれ,どれだけ電子-正孔対を作りやすいかを表す量である.$n = 3$以上の項を無視して,有効作用を書き下すと,
S_{\mathrm{eff}} = \sum_q \left[\frac{|\boldsymbol q|^2}{8\pi}-\frac12 e^2\pi(q)\right]\varphi(q)\varphi(-q)
となる.このように摂動展開が非常に明快に行えるのも経路積分法の利点である.ここで行った近似は,RPA近似と呼ばれている.
◽️ Green関数
ポテンシャル$\varphi$のGreen関数を求めよう.
S_{\mathrm{eff}} = \sum_q f(q)\varphi(q)\varphi(-q)
と書くことにすれば,
\begin{align}
Z &= \int \mathcal D\varphi\,e^{-\sum_q f(q)\varphi(q)\varphi(-q)}\\
&= \prod_q \sqrt{\frac{\pi}{f(q)}}
\end{align}
となる.したがって,$\varphi$のGreen関数$D(q)$は
\begin{align}
D(q) &= \langle \varphi(q)\varphi(-q)\rangle\\
&= -\frac{1}{Z}\frac{\delta Z}{\delta f(q)}\\
&= -\frac{1}{\prod_{q^\prime} \sqrt{\frac{\pi}{f(q^\prime)}}}\left(-\frac12 \frac{\sqrt{\pi}}{f(q)^{3/2}}\right)\prod_{q^{\prime\prime}\ne q}\ \sqrt{\frac{\pi}{f(q^{\prime\prime})}}\\
&=\frac12 \frac{f(q)^{1/2}}{\sqrt\pi}\frac{\sqrt\pi}{f(q)^{3/2}}\\
&= \frac{1}{2f(q)} = \left(\frac{|\boldsymbol q|^2}{4\pi}-e^2\pi(q)\right)^{-1}
\end{align}
と計算できる.相互作用がないときのGreen関数が$D_0(q) = 4\pi/|\boldsymbol q|^2$であるから,分極関数がそこからのズレを表している.
◽️ 物理的な帰結
以降は経路積分に関係のないただの計算なので大幅に省略する.詳細は文献[1]を参照のこと.
絶対零度,長波長極限 ($\boldsymbol q \to 0$) の下で
D(\boldsymbol q,\omega_\ell = 0) = \frac{4\pi}{|\boldsymbol q|^2 + \lambda^{-2}}
となる.これをFourier変換すると,
$$
D(\boldsymbol r,\omega_\ell = 0) = \frac{e^{-|\boldsymbol r|/\lambda}}{|\boldsymbol r|}
$$
となり,Coulomb力が遮蔽されていることを表す.$\lambda$は遮蔽長と呼ばれる.
また,ある振動数$\omega = \omega_p$でGreen関数が発散するのだが,これは金属内の電子が一様に振動する現象 (プラズマ振動) を説明する.
本来,固体中の電子間には長距離のクーロン相互作用が存在する.それにもかかわらず相互作用を考慮しないバンド理論,あるいは短距離相互作用を考えるHubbard模型が金属物性の記述に有効であるのは,プラズマ振動および遮蔽効果によって個々の電子への影響が実効的に弱められているためである.
終わりに
本稿で扱ったモデルは単純なものであったが,それでも経路積分の威力の一端を感じ取っていただけただろうか.この手法は他の系にも同様に適用可能であり,作用の具体的な形から物理的な定性・定量的な性質が見えてくる点は非常に興味深い.もし本稿を通じて関心を持たれた方がいれば,ぜひ以下の文献にも目を通していただきたい.
かなり長くなってしまったが,ここまでお付き合いいただいた読者の皆様に深く感謝する.
参考文献
[1] 永長 直人『物性論における場の量子論』(岩波書店)
自発的対称性の破れ,電子ガスモデル,超流動,超伝導,量子ホール系を経路積分を駆使して鮮やかに解析している名著.永長先生の物理的センスが文章の節々から感じられ,一流の物理学者の考え方を学ぶことができる.本稿の電子ガスモデルの解説は本書の構成に大きく依拠している.
九州大学の学生なら英語版をSpringerのサイトから無料でダウンロードできる.
[2] P. Coleman, Introduction to Many-Body Physics, Cambridge
場の量子論を用いた物性物理学の比較的新しい洋書.約800ページもある大部であるが,その分説明が詳しい.本稿の経路積分の説明は本書をかなり参考にさせてもらった.
九州大学の学生なら図書館のホームページから無料でダウンロードできる.
[3] 藤本 聡・川上 則雄『量子多体系の物理 量子現象の基礎を理解するために』(サイエンス社)
くりこみ群と共形場理論に焦点を当てた物性物理学の本.多体系の分配関数の経路積分表示の導出が詳しい.
[4] 小形 正男『物性物理のための 場の理論・グリーン関数 [第2版]』(サイエンス社)
本稿では経路積分で計算していたグリーン関数を,第二量子化表示でゴリゴリ計算する本.ファインマンダイアグラムや線型応答理論に実践を通して慣れることができる.
[5] アルトランド,サイモンズ『凝縮系物理における場の理論(上)』(吉岡書店)
[6] 永長 直人『電子相関における場の量子論』(岩波書店)
[7] 石原 純夫『相関電子と軌道自由度』(共立出版)
[8] 田崎 晴明『統計力学Ⅱ』(培風館)
[9] 北 孝文『統計力学から理解する超伝導理論』(サイエンス社)
[10] 山本 義隆『幾何光学の正準理論』(数学書房)
