先日ようやく 実験用安定化電源 DP100 を購入しました。発売から既に2年が経過していますが、私にとっては初めてのマイ安定化電源です。今回は所持している様々な素子に通電して実験を行ってみました。
DP100
詳しいスペックや機能、回路分解など詳細にレポートされた記事と動画があります。ご参照ください。
PCとの接続ソフトウェア(公式)
公式ソフトウェアとして ATK-DP100 が提供されていました。このソフトウェアでは DP100 の設定変更、電圧・電流値の切り替え、プリセット変更、ファームウェアのアップデートなど、ほとんどの操作がPCから実行可能です。
しかしところどころ未翻訳があったり、出力OFFの表示でも実際には出力がONになっていたり、電源・電圧のプロット値を保存できないなど、ソフトウェアとしての未完成さを感じます。さらに現在このソフトウェアは公式サイトからは入手できず、記事執筆時点では秋月電子の販売ページくらいからしかダウンロードできません。
AlienTek DP100 Controller
そこで第三者によるソフトウェアを紹介します。
AlienTek DP100 Controller は公式ソフトウェアでできたことのほとんどを実装しており、公式でも実現できていなかった以下の機能を持っています。
- 累計消費エネルギー(J)、平均電力(W)、インピーダンス(Ω)表示
- グラフ表示(詳細な設定も可能)
- サンプリング周波数の調整
- 電圧・電流値のCSV出力
- ファンクションジェネレータ機能
- 定電力機能
その上 UI も非常にわかりやすく、Windows であればビルド済みの実行可能ファイルが配布されおり、すぐに使えます。ぜひ使いましょう。
逆に、公式ソフトウェアでしかできないことはファームウェアの書き込み程度です。既に DP100 の発売から1年以上経過していますので、これからファームウェアを頻繁に更新するということはないでしょう。
今回はこのソフトウェアに搭載されている 電圧・電流値のCSV出力 を使って、素子の電圧と電流の特性を調べました。
通電実験
豆電球
誰もが理科室で見かけたであろうあの豆電球です。先日のイベント にて使用したものです。豆電球には 1.5V タイプと 2.5V のタイプが多いようですが、今回は 1.5V 0.3A の刻印があるタイプです。
DP100を 1.5V で定電圧としたところ、定格通り 300mA 流れました。電力は 450mW です。一方 0.125V 程度でも 100mA も流れており、低電圧でも電流が多く流れることを確認しました。電源が低いとフィラメントの温度も低く、抵抗は小さいので電流が多くなったのだろうと考察しています。
DCファン
12V 0.3A の表示がある DCファン です。データシートでは 0.27A(最大 0.4A)と記載があります。 12V の定電圧モードで通電すると定常状態で最大 250mA 流れ、これもほぼ定格電流通りでした。電力は 3.0W でした。
今回の実験では使用しませんでしたが、電源装置の保護のため 還流ダイオードと逆流防止ダイオード を使用すべきです。
モータは誘導性負荷のため電源投入直後は 突入電流 が発生します。グラフ(上図右)によると突入電流は 800mA に達しているのがわかります。500mA に設定すると電源投入後1秒程度は定電流モードになるのが観察でき、250mA に設定すると5秒ほど定電流モードでゆっくりと回転と電圧が上がる様子を観察できました。
ゆっくりと電圧を上げていくと 3.3V ほどでファンが回り始めます(上図左)。理由は不明ですが 2.5V ほどでもファンは回らないにもかかわらず電流が流れるのを確認しました。
抵抗器
10Ω 1% 1W の金属皮膜抵抗に対して徐々に電圧を上げていき、何Wまで耐えられるか検証しました。安全のため不燃性の土鍋を用意し、低抗体が浸かるよう水(水道水)を入れます。
定格電力を超えるような電圧を印加するため、実験中は激しく発熱・発煙します。十分な安全対策をしてください。
水中では 15V 2A(30W) までは印加することができました。ただし 30W を超えてくると次第に電流値が上がり、抵抗値がどんどん下がっていくのが観察できました。抵抗体内部が焼損・溶融し、抵抗が下がる → さらに電流が流れる → さらに発熱する → さらに抵抗が下がる → … といった 熱暴走 状態になっていると考えられます。
また、水に浸かっているリード部分も変色が起きています。陽極側では酸化反応が、陰極側では還元反応が起きたと考えられます。
最終的にこの抵抗は 40W ほどで急激に抵抗値が上がり、電流がゼロになりました。
また、あえて水中ではなく空気中で通電したところ、10W の電力でも数秒後には発煙・赤熱、その後焼損して電流がゼロになりました。
高輝度LED
異なる順方向電圧を持つLEDを直列に接続して同時点灯させました。全て5mmの弾丸型高輝度LEDです。30mA に設定したところ、その時の電圧は 13.92V となりました。
配線を繋ぎ変え、各LEDの順方向電圧を別途測定した結果も上図に示しました。概ね、赤ほど順方向電圧が低く、青ほど高い傾向があります。白色LEDは蛍光体により発色しているため順方向電圧も高めです。
紫外線パワーLED
特殊なLEDとして紫外線パワーLEDに通電してみました。
ピーク波長は 365nm で人間の目には淡い青色に見えますが、それは弱い可視光領域が見えるだけで長波紫外線としてはかなり強い光源です。
安全のため紫外線保護メガネを着用しながら作業し、通電中はLEDを直視しないように注意して計測しています。
とはいえ紫外線が出ていることを人間の目では直接知覚できないため、蛍光鉱物を使ってそれを確認します。蛍光体 に紫外線を照射すると可視光線の光として発光するため人間の目で知覚できます。さらにこの蛍光は、可視光線の反射で見える色とは別になることもあります。
紫外線LEDを点灯させました。ウランガラス、ユーパライト、カルサイトが蛍光しているのがわかります。ウランガラスは特に強く蛍光するため、紫外線が照射されているか判別に役立ちます。よく見ると、DP100 に接続されている赤色のバナナプラグと配線も蛍光しているのがわかります。
電圧と電流の特性も計測しました。10mA 程度では順方向電圧は 3.20V と、青色LEDや白色LEDと大差ありません。しかし発光効率では可視光線LEDよりも紫外線LEDのほうが劣るので、大量の電流を流さなければいけないです。蛍光鉱物の観察であれば少なくとも 100mA 以上は必要なため、自ずと順方向電圧も高くなります。
スイッチングダイオード
ここからは LED 以外のダイオード編です。
まずは汎用的なスイッチングダイオードから。ルネサスの 1S2076A です。データシートによると標準的なシリコンダイオードと同じ順方向電圧を持っているようです。
電流を 20mA に設定したところ、順方向電圧は 0.78V となりました。
整流用ダイオード
次は整流に用いられるダイオードです。PANJIT の 1N4007-3485 です。逆方向電圧は 1000V もあります。
こちらも電流を 20mA に設定したところ、順方向電圧は 0.74V となりました。データシート上では VF = 1.1V @ 1A とされているので、20mA の場合では先ほどのスイッチングダイオードと比べても低くなったのでしょう。
スイッチングダイオードと整流用ダイオードの電圧と電流の特性を測定し、比較してみました。
どちらも電流が流れ始める順方向電圧は 0.65V 付近です。しかしスイッチングダイオードは電圧と電流の傾きが緩やかであるのに対して、整流用ダイオードでは急です。傾きが急であるということは、電流が増加しても電圧降下の変化が少なくて済むということになります。
ショットキーバリアダイオード
次は ショットキーバリアダイオード です。PANJIT の SB240LES です。
データシートでは順方向電圧が 0.37V @ 1A とされています。それを裏付けるように、20mA の電流を流すと順方向電圧はわずか 0.28V となりました。
整流用ダイオードとショットキーバリアダイオードの電圧と電流の特性を比較してみます。整流用ダイオードと比べ、ショットキーバリアダイオードの順方向電圧の低さがわかります。この順方向電圧の低さは、ショットキーバリアダイオードが逆流防止として直列に挿入されることが多い所以でもあります。
定電流ダイオード
次は定電流ダイオードです。SEMITEC の E-103 で、定格電流は 10mA です。
定電流ダイオードには定格電流のほかに 肩特性 という重要な値があります。これは、素子にどれだけの電圧をかければ、定格電流の80%にあたる電流が流れるかという特性です。この定電流ダイオードでは肩特性は 3.5V となっています。
実際に電圧をかけたところ、肩特性よりも低い電圧では 10mA に到達せず、3.5V の印加でようやく 8mA が流れました。15V ほどかけても 8mA のままだったので、実際には 10mA も流れていないと考えられます。
今回も電圧と電流の特性をグラフでプロットしたのですが、残念ながら DP100 の計測制度が足りません。1mA 単位でしか計測できない上、数mAでは計測誤差も無視できなくなってきます。
ツェナーダイオード
次は定電圧回路に使われる ツェナーダイオード です。On Semiconductor の 1N5231B です。ツェナー電圧は 5.1V です。
順方向の電圧ではツェナーダイオードは通常のシリコンダイオードのように振る舞います。ところが逆バイアス(逆電圧)ではシリコンダイオードよりもはるかに低い電圧で降伏(ツェナー降伏)します。ツェナー降伏を起こす電圧をツェナー電圧といいます。素子としてこのツェナー降伏現象を積極的に利用するため、これまでとは素子の方向が逆になります。
ツェナー電圧に達するまでほとんど電流は流れませんが、5.1V に近づくほど急激に電流が増えていきます。
電圧と電流の特性をプロットしてみました。DP100 では負電圧は出力できないため、配線を繋ぎかえて2回分計測を行い、計測値を整えました。
スイッチングダイオードのように順方向電圧を上げていくと 0.7V 程度で順方向電流が増加していきます。一方で逆方向バイアスをかけていき、-5V に近づくと突然逆方向電流が増えていくのがわかります。これがツェナー降伏です。
整流用ダイオードは逆方向電圧に 1000V をかけてようやく降伏(アヴァランシェ降伏)するのに対し、このツェナーダイオードはわずか 5.1V で降伏を起こします。
電気二重層コンデンサ(10個 = 50F)
最後に、5F 2.7V の電気二重層コンデンサを10個並列に接続して充電実験を行いました。定格電圧は 2.7V、10個並列ですので静電容量は合計で 50F です。
とはいえ定格電圧まで充電するのは危険ですので、最大電圧は 2.4V としました。コンデンサに流せる最大電流は 4.5A とデータシートに記載があります。仮にDP100で5Aの出力設定にしたとしても1つのコンデンサに流れる電流は 0.5A なので問題になりません。
今回は充電の様子を観察するため、電圧を 2.4V、電流を 1A に設定しました。また、詳細な電圧値を観察するためにテスターを用意し測定しました。
充電開始10分が経過しました。電圧は 2.4V に近づきましたが、まだ十数mA流れています。
電圧が上がっていくと指数関数的にコンデンサに電流値も減っていくので、充電はこの10分までとしました。
概ね予想通りに充電できましたが、ひとつ気になる点がありました。
充電を開始すると DP100 は 1A の定電流モードとなり、ゆっくりと電圧が上がっていきます。DP100 の表示上は 2.4V に到達して定電圧モードとなり、そこからゆっくりと電流値が減っていきます。グラフ自体は前述のDCファンと似たような形になります。
しかし、理論的にはコンデンサの両端にかかる電圧はゆっくりと 2.4V に近づくだけで超えることはありません。実際にテスターで計測をすると充電中のいずれのタイミングでも 2.4V 以上になることはなく、限りなく 2.4V に近づくような挙動をしていました。
このように 電源装置側の表示電圧と実際の電圧は異なることがある ということがわかりました。あくまで電圧と電流値は参考値とし、詳細に計測したい場合は今回のように別途専用のテスターを接続するのがよさそうです。
参考文献
各販売サイトです。秋月電子のページから公式ソフトウェアとファームウェアをダウンロードできます。
ファームウェアを公式ソフトウェアで書き込む方法が紹介されています。