土壌物理学基礎編
要約:土壌は土粒子、水、空気で構成される
固相(鉱質粒子および有機物)、液相(土壌水および土壌溶液)、気相(土壌空気)から構成される。
固相、液相、気相の割合を三相分布という。
0. はじめに
背景:土壌のとっつきにくさ・イメージの難しさ
<この記事の筆者>土壌物理学が好きな人
<この記事の対象>農業農村工学を学ぶ人、興味関心がある人
小さい頃に泥だんご作って遊んだこと、ありませんか?
あの時は「土壌の構造が…」とか考えていなかったけど、
今なら土壌構造を理解して泥だんごを作ることができます。
大人が本気出して「世界最強の泥だんご 作ってみた」企画、いつかやりたいですね。
土粒子と水と空気の割合を調整して、丈夫な泥だんごを作りたい。
あとボロ雑巾で磨くと、粘土粒子の表面光沢が生まれてピカピカになります。楽しい。
砂場の土と水だけで、材料費0円でピカピカの泥だんごは作れます。楽しい。
目的:土壌の風化過程と土壌の三相分布(土粒子、水、空気)を理解しよう
「土壌って何?」という疑問にお答えしたい!
土はいいぞ!!!
岩石が風化して、有機物が混ざると土壌になります(超ざっくり解説)。
土壌によって「水はけがよい」とか「有機物が多い」とか、様々な特徴があります。
その基礎となる三相分布を学ぶと、土壌の特徴を説明できるようになります。
1. 土壌とは何か?
地球の表面にある、岩石が風化され、細分化された層。
岩石→(物理的・化学的な過程)
→(微視的・巨視的な植物や動物による作用、残渣の集積)→土壌
土壌の分類
①鉱質土壌
②火山性土壌(関東ローム、黒ボク土)
③有機物土壌(泥炭 peat、木質泥炭 woody peat)…北海道の湿地帯など
土壌の構成要素=固体・液体・気体=鉱物粒子&有機物・水・空気
2. 土壌の風化
風化の支配因子=母岩、気候、地形、生物、時間
<補足>支配因子って何?
「風化する理由」「どういう要因で風化するのか」
母岩:岩石の種類 堆積してできた or 火山の噴火によってできた
気候:熱帯、温帯、寒帯、乾燥帯など
地形:水の流れの影響
生物:植物や動物、微生物による影響
時間:数十年~数億年
一次鉱物と二次鉱物
母岩→(物理的風化)→一次鉱物→(化学的風化)→二次鉱物
一次鉱物:土壌の骨格
石英、長石、雲母、輝石、非晶質ガラス類など
二次鉱物:土壌の肉(粘土鉱物)
カオリナイト、ハロサイト、モンモリロナイト、イライト、アロフェンなど
土層の分化(O層、A層、B層、C層、R層)
O層:Organicすなわち有機物、例えば褐色森林土における表層数cmの落ち葉の腐植でできた層
A層:生物活動の主要な場所。微生物による植物・動物遺体の分解。20 cm~40 cm
B層:A層からの水の浸透に伴って溶脱する物質(粘土や炭酸化合物)が集積している。
C層:土壌の母材。風化した岩石、もしくは水によって堆積(沖積)した岩石
R層:基岩
土壌の特徴と土壌分類
①高緯度地域(有機物蓄積型)…寒いから有機物が分解しにくい
②低緯度地域(有機物消耗型)…暑いから有機物が分解しやすい
③中緯度地域(有機物蓄積土壌)…チェルノーゼム、泥炭土
④ポドゾル化作用…亜寒帯の針葉樹林
⑤塩類集積作用…乾燥地帯
⑥鉄アルミナ富化作用…低緯度、高温多湿
3. 土壌の三相分布
土壌の構成要素
- 固相…鉱物粒子、有機物
- 液相…土壌水、土壌溶液
- 気相…土壌空気
気象、植生、管理、深さによって絶えず三相の割合は変化する。
基本的なパラメータ
体積 | 質量 | |
---|---|---|
固相 | Vs | Ms |
液相 | Vw | Mw |
気相 | Va | Ma (=0) |
全体 | Vt | Mt |
間隙 | Vf (=Vw+Va) |
※それぞれの添え字は
Soil(土), Water(水), Air(空気), Total(全部), Fluid(流動体;液体と気体の総称)
別分野(例えば土質力学)ではVoid(間隙)
<疑問>なんで土壌物理学の間隙体積はVfなんやろう?
土質力学の教科書では間隙体積Vv (=Vw+Va)とありました。
分野によって添え字が異なる理由を調べたのですが分かりませんでした。
もしご存じの方がいれば教えていただければ幸いです…
土粒子の密度 ρs (soil density)
多くの土壌について$2,600~2,700 \mathrm{kg/m^3}$($2.6~2.7 \mathrm{g/cm^3}$)
石英や長石など、鉱物は上記の値(重い)。
植物遺体(例:枯葉が分解したもの)は軽いので、有機物が多い有機質土壌では土粒子密度は低い値を示す。
真比重 Gs (=ρs/ρw)
比重とは、水の密度に対する○○の密度。単位なし。
\rho_s=\frac{M_s}{V_s}\
乾燥密度 ρd (bulk density)
仮比重 Gb (=ρb/ρw)
\rho_d=\frac{M_s}{V_t}\
湿潤密度 ρt
水を含めたtotal density
\rho_t=\frac{M_t}{V_t}\
間隙率 n
n=\frac{V_f}{V_t}\
間隙比 e
e=\frac{V_f}{V_s}\
含水比 w
w=\frac{M_w}{M_s}\
体積含水率 θ
w=\frac{V_w}{V_t}\
飽和度 Sr
S_r=\frac{V_w}{V_f}\
気相率 a
a=\frac{V_a}{V_t}\
固相率 s
s=\frac{V_s}{V_t}\
○○率:全体の体積・質量に対する○○の割合
○○比:固相の体積・質量に対する○○の割合
パラメータの相互関係
乾燥密度を湿潤密度と含水比から求める
\rho_d=\frac{\rho_t}{1+w}\
間隙比を土粒子の比重(密度)と乾燥密度から求める
e=\frac{\rho_s}{\rho_d}-1\
=\frac{G_s \rho_w}{\rho_d}-1
飽和度を含水比と土粒子の比重と間隙比から求める
S_r=\frac{w G_s}{e}\
間隙率と間隙比
e=\frac{n}{1-n}
n=\frac{e}{1+e}
間隙率と乾燥密度
n=1-\frac{\rho_d}{\rho_s}
\rho_d=(1-n) \rho_s
含水比と体積含水率
\theta=w \frac{\rho_d}{\rho_w}
w=\theta \frac{\rho_w}{\rho_d}
ρwは水の密度(標準状態で$1,000 \mathrm{kg/m^3}$、$1 \mathrm{g/cm^3}$)
体積含水率と飽和度
\theta=n S_r
湿潤密度
\rho_t=\frac{(G_s+S_r e) \rho_w}{1+e}
=\frac{(1+w)G_s \rho_w}{1+e}
乾燥密度
\rho_d=\frac{G_s \rho_w}{1+e}
気相率
a=n (1-S_r)=\frac{e-w G_s}{1+e}
4. 練習問題
ある農地1a(=10 m×10 m)から不撹乱土壌を採取した。
採取には円筒形サンプラー(断面積$20 \mathrm{cm^2}$、高さ5 cm、重さ 89.20 g)を用いた。
採取直後の全体重量は215.57 g、炉乾燥後の全体重量は172.85 gであった。
また、この土壌の土粒子密度を測定したところ、$2.65 \mathrm{g/cm^3}$であった。
土壌水の密度は$1 \mathrm{g/cm^3}$とする。以下の値を求めなさい。
a. 乾燥密度
b. 含水比
c. 体積含水率
d. 間隙率
e. 飽和度
f. 気相率
g. 採取した土壌が農地の土壌を代表していると仮定したとき、
この農地(10 m×10 m)の深さ30 cmの土壌中に含まれる水の全重量
(練習問題の解答は次回の記事で解説します。)
5. おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました。
1人でも多くの人に興味を持っていただけるよう、
これからも記事を書いていきます。土はいいぞ!!
よければまた見てください。