目次
1.文献管理を始めよう
研究室の生活では、論文を「探す」「読む」「引用する」ことに多くの時間をかける。それらの作業に対して、PDFやExcelだけを使ったやり方はあまり現実的でない。
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PDFで論文をダウンロード→ファイル名とディレクトリ名で整理
- 逐一ファイル名をつけるのが大変
- 「タイトル」「著者」「公開年」「ジャーナル名」が収まらない
- 並び替えが大変
- 発行元のURLが不明(メモに残す?)
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Excelで論文リストを作成
- 逐一リストを埋めるのが大変
- PDFと紐付けできない
- 引用スタイル(APAとかChicagoとか)に合わせるのが大変
これらの課題は、Zoteroなどの文献管理ツールを導入することで解決できる。
2.Zoteroのインストール
文献管理ツールとしてZoteroをおすすめしている。インストールはこちらのリンク(https://www.zotero.org/ )からできる。
できることは以下の通り。
- アプリ内PDFリーダーで閲覧・メモ
- 無料で50~100本ぐらいのクラウドデータベースを利用可能
- 同期したiPadで続きを読める
- ブラウザからワンクリックで論文情報を保存
- 引用文献リストを一瞬で作成
- 自動で翻訳や要約が可能
ちなみに、Zotero以外の文献管理ツールはこのようなものがある。
(最近は状況変わってるかも)
- Endnote:PC版のアプリが有料
- Mendeley:モバイル版のアプリがない
- Papership:有料
- Notion:メモを重視しない場合は使いずらい
3.Zotero Connectorのインストール
Zotero Connectorを使うと、SafariやChromeなどのwebブラウザから、論文情報をワンクリックで保存できる。Zoteroアプリを立ち上げた状態で、ブラウザ内のZoteroボタンをクリックする。すると、Zoteroアプリ内にPDFとタイトル・著者名・発行名などの論文データが保存される。
ダウンロードはコチラから→ https://www.zotero.org/download/connectors
オープンジャーナル出版大手のElsevier社などは対策をしているため、上のページからPDFのダウンロードが失敗することがある。その時はPDFをローカルに直接ダウンロードしてZoteroアプリにドラッグ&ドロップする。
4.便利な機能の紹介
Zoteroはオープンソースの文献管理アプリケーションなので、世界中の開発者のおかげで便利な拡張機能(Plugin)が使えるようになっている。
拡張機能は、GitHubなどから.xpi形式のファイルをダウンロードし、「Tools」→「Plugins」→「Settings」→「Install Plugin From File...」から追加できる。
4.1. 自動翻訳
各種翻訳APIに接続することで、ドラッグ選択した文章を翻訳できる。おすすめの拡張機能はコチラ→ https://github.com/windingwind/zotero-pdf-translate
- 完全無料
- Google Translate
- 制限あり(有料)
- DeepL Translate
- GPT
- Gemini
- Claude
4.2. AI要約機能
こちらもAPIに接続することで、ChatGPTなどのLLMに要約・解説がZotero内で可能になる。ChatGPTは月額制の通常のプランではなく、OpenAIの従量課金制のAPIプラットフォームが必要になる。
筆者のアカウント検証したところ、1つのリクエストあたり、インプットに1000トークン、アウトプットに200トークンぐらいかかった。つまり、GPT-4.1の場合は0.522円かかる($1=¥145)。心配な人はOpenAIアカウントからトークン上限を設けることで、使いすぎを防ぐことができる。
決定的に使いやすい拡張機能はあまりないが、ARIAとPapersGPTなどがUI・更新頻度の点でオススメできる。
4.3. Wordに埋め込み
ZoteroにはMicrosoft Wordとの連携機能が標準搭載されている。これを使って、通常の「引用文献の挿入」と同様に、文中引用が可能になる。引用した論文は自動で参考論文リストに反映され、引用順でもABC順でも並び替えされる。また、引用スタイルも自在に変更できるので、状況に応じた対応が可能である。
詳しくはコチラの記事を参考
4.4. Bibtexと同期
普段Latexで文章を書くユーザーにとってもZoteroは非常に有用である。Better BIBTEXというプラグインを使うことで、特定の文献リストの情報を.bibファイルに同期することが可能になる。Latexでは、同期された.bibファイルのパスを指定することで、文中引用も参考文献リストの作成も容易に行えるようになる。
しかし、日本語の論文を同期しようとすると、「Citetion Key」の表記がおかしくなる問題が発生する。Citetion Keyとは、Latex中で文中引用する際に必要なコマンドなのだが、漢字を中国語として変換した謎の英語がデフォルトで出力される。(例:「有村」→「youcun」)
日本語対応のための設定を含め、詳しくはコチラの記事を参考
4.5. 引用ネットワークの表示
最後に、拡張機能ではないが、Zoteroアカウントと連携して引用ネットワークを可視化するためのツールも便利である。Research Rabbitは、論文同士の引用ネットワークを可視化することができ、類似性や公開年で分類も可能である。学問内の細かい分野の関係性が分かりやすく、文献レビューには非常に有用である。
まとめ
論文レビューは 「量」 と 「質」 の両面が重要である。膨大な「量」の論文を整理するためには、便利なツールを使って最大限効率化することが重要である。いちいちファイル名を変更する暇があるなら、少しでも多くの論文に目を通すべきである。さらに、「質」に関しても、最近はAIのおかげで翻訳や要約のツールが利用できるようになっている。ツールを使えば自然と頭が良くなることはないが、難解な文章に頭を抱えるよりはAIに助けを求めた方が早いかもしれない。最近はNotebook LMやDeep Researchも出てきており、進化し続けるAIツールに使いこなすことが個人の能力として重視されるようになっている。
ちなみに、筆者が初めての分野の論文を読むときは、必ず紙に印刷している。理由は様々あるが、そもそも全てをPC内で完結させる必要もないし、自分の理解しやすいように試行錯誤した結果こうなっている。また、筆者の研究室の担当教員は自動読み上げ機能を使って、空き時間で読んで(聞いて?)いるらしい。この記事の読者もぜひ、自分なりの論文レビューの方法を見つけてほしい。