注意書き
この記事は、著者が個人開発の中で調べたことや試したことを整理した備忘録として書いています。
あわせて技術記事という性格上、実際に手元で試す場合は原典や実装、前提条件を確認したうえで各自の責任で扱ってください。
はじめに
麻雀の実戦ではよく「序盤に切った牌の周辺は持たれていない」というセオリーが使われます。「序盤に切るのは手にくっついていない浮き牌であり、その周りにブロックがあるなら普通は切らないはずだ」という理屈です。
しかし、この読みは感覚的に使われることが多く、実際にどのくらい持たれていないのかは曖昧なままです。
- どの数字を切ったときに、どの位置の牌の所持率がどれくらい下がるのか?
- 何巡目までの打牌なら信用できるのか?
この記事では、天鳳・鳳凰卓の2025年分、178,888半荘の実戦牌譜データをもとに、このセオリーを「所持率変化の分析」と「巡目の分析」の2つの軸から徹底的に検証していきます。
(※ 使用データや巡目の数え方、リーチ後の除外といった共通の前処理は第1回にまとめています)
1. 牌種と位置ごとの所持率変化
分析方法
まずは「どの牌を切ったとき、周辺の牌の所持率がどう変化するか」を分析します。
対象とする打牌と測定内容
- 対象とする打牌: 手出し・ツモ切りを含む6巡目までに切られた数牌。
- 測定する内容: その牌を切ったときそのプレイヤーが、切られた牌の周辺の牌を1枚以上持っているかどうか。
分析の前提
「1と9」「2と8」「3と7」「4と6」は左右対称の関係にあるため、それぞれ 1/9 2/8 3/7 4/6 5 の5つのグループにまとめて集計します。
(※ 表記の「4/6」は、1を切ったときは4、9を切ったときは6を意味します)
また、見る範囲は切った牌と同じ半分、つまり中心の5までに限定しています。たとえば1を切った場合は1〜5を対象とし、6〜9は含めません。8を切った場合は5〜9を見ます。
「基準となる持たれやすさ」との差で測る
牌には位置ごとに「もともと手牌に残されやすいかどうか」の偏りがあります。実際、6巡目までの序盤全体の手牌を見ると、1・9の端牌を持っている確率は 約23% なのに対し、中央の5は 約39% あります。この偏りを補正するため、以下の2つの確率の差を計算 します。
- 基準所持率: 序盤に数牌が切られた直後、その位置の牌を持っている確率
- 条件付き所持率: 特定の牌が序盤に切られた直後、対象の牌を持っている確率
たとえば3・7が切られた局面での1つ内側となる4・6を見ると、基準所持率 38% に対して条件付き所持率は 12% となり、26pt急落します。この差を「ある牌が打たれた時、周辺の牌の所持率がどれくらい落ちるか」として評価します。
結果と考察
延べ2,500万件の打牌データから算出した「条件付き所持率」と「基準所持率との差」の2つのヒートマップがこちらです。
(※ 1枚目:切った直後に実際にその牌を持っている確率。濃い赤ほど所持率が高い)
(※ 2枚目:基準所持率からの低下幅。左下を1/9の起点としており、左下から右上への対角線が切った牌自身を表します。青色が濃いほど、切られた局面で対象牌の所持率が基準より大きく低いことを示します)
① 「1つ内側」と「1つ外側」の所持率と減衰
切った牌の周辺となる1つ内側・1つ外側について、基準所持率、切られた直後の条件付き所持率、そしてその差をまとめると以下のようになります。
| 切った牌 | 対象牌 | 基準所持率 | 条件付き所持率 | 基準所持率との差 |
|---|---|---|---|---|
| 3・7 | 1つ内側: 4・6 | 38.1% | 12.0% | −26.2pt |
| 1つ外側: 2・8 | 32.3% | 15.3% | −17.0pt | |
| 4・6 | 1つ内側: 5 | 38.6% | 13.3% | −25.3pt |
| 1つ外側: 3・7 | 37.4% | 15.0% | −22.4pt | |
| 2・8 | 1つ内側: 3・7 | 37.1% | 11.3% | −25.8pt |
| 1つ外側: 1・9 | 22.7% | 15.5% | −7.2pt |
実測値で見ると内側・外側ともに1割強で差はわずか
実戦での条件付き所持率に注目すると、1つ内側は 11〜13%、1つ外側は 15%前後 となっており、実質的な差はわずか 2〜4pt 程度しかありません。普通の面前手であれば、内側だけでなく外側の牌も約1割強しか持っていないという点で共通しています。
なぜ低下幅では「内側」のほうが大きく見えるのか?
基準所持率との差で見ると、1つ内側の −25〜26pt に対し、1つ外側は −7〜17pt と開きがあるように見えます。この差が生まれる理由は主に 2つの要因 で説明できます。
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要因①:牌の構造バイアス:
内側の4や5は手牌に残りやすく基準所持率が約38〜39%と高いため、12〜13%まで急減したときの落差が非常に大きく出ます。一方、外側の1や2はもともとの基準所持率が 23〜32% と低いため、15%に落ちても見かけの差は小さくなります。
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要因②:ターツ落としの切り順バイアス:
12や89のような不要なターツや混一色の不要色を外すとき、「より危険な内側の牌」から先に切られ、外側が後回しにされる傾向があります。
そのため、3を切った直後の手牌には外側の2が一時的に残っているケースがあり、これが内側 12.0% と外側 15.3% の約3ptの差を生んでいます。
2つ隣や3つ以上離れた位置の所持率
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2つ隣にも一定の低下が残る:
2つ隣の位置でも、2・8切りに対する4・6で −13.4pt、3・7切りに対する5で −11.8pt と、10pt前後の低下が残ります。
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3つ以上離れると差が消える:
3つ以上離れた位置になると、切られた牌による影響はほぼなくなり、基準所持率と変わらなくなります。
実戦上の読みとしては、「1つ隣は内側・外側を問わず1割強しか持たれておらず、2つ隣にも一定の低下が残る」と捉えるのが正確です。
② 切られた牌が中張牌であるほど所持率の変化が大きい
切られた牌の数字に注目すると、中張牌を手放したときほど周辺への影響・所持率の変化が大きいことが分かります。
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中張牌を切った場合:
中張牌を切った場合、その周辺は一律で 約25〜26pt も大きく低下します。本来なら手元に残したい中張牌を早い巡目に切っているため、「その周辺にブロックが存在しない」という非常に強い根拠になります。
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端牌を切った場合:
一方、端牌を切った直後の 2・8 は −13.6pt、3・7 は −15.1pt と、中張牌を切ったときと比べるとマイルドな低下にとどまります。端牌については辺張から嵌張への受け替えなど関連牌が残っていても単体で切られるケースがあるため、実戦の牌理とも合致する納得の結果と言えます。
手牌にとって価値の高い内側の牌であればあるほど、それを手放したことによる情報の重さが増すと言えます。
2. 巡目ごとの信頼度と変化
分析方法
次に、「この読みは何巡目まで通用するのか」を検証します。
1巡目から12巡目までの各巡目単体において、切られた牌の1つ内側を持っている条件付き所持率を測定しました。
結果と考察
各巡目に牌が切られた直後、その「1つ内側」を持っている確率の推移が以下のグラフです。
(※ 縦軸は1つ内側の条件付き所持率。値が低いほど「周辺の牌を持っていない」という読みが強く成立していることを示します)
① 1〜2巡目に中張牌を切った局面は所持率わずか 4〜6%
グラフから明らかなように、巡目が早いほど「1つ内側を持っていない」という読みの信頼度は圧倒的に高くなります。
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1〜2巡目の超序盤:
1巡目に中張牌を切った直後、その1つ内側を持っている確率は わずか約4% です。2巡目でも 約6% にとどまります。実に「94〜96%の確率で持っていない」と言える水準であり、1〜2巡目に中張牌を切った局面は極めて強力な安全根拠になります。
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巡目が進むと所持率が上がる理由:
巡目が進むにつれて、手牌のブロックに関わる牌が打たれることが多くなるため徐々に所持率が上昇し、序盤に通用したような場況読みの効果は薄れていきます。
② 中張牌は6巡目まで10%台を維持、端牌は急速に上昇して頭打ち
切られた牌の種類によって、巡目ごとの上昇スピードに明確な違いが現れました。
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中張牌を切った場合:
上昇が比較的緩やかで、4巡目で約 11〜12%、6巡目でも約 16〜18% を維持します。6巡目までの序盤であれば、「その1つ内側は持たれていない」という読みが実戦で十分に通用します。10巡目以降になると約 27〜30% まで上がり、通常の持たれやすさに近づいていきます。
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端牌を切った場合:
端牌を切った直後は1巡目こそ約7%ですが、2巡目で14%、3巡目で21% と急速に所持率が跳ね上がり、5巡目以降は 約27.5% で頭打ちになります。1段目の終わりとなる5〜6巡目あたりまで残っていた端牌は、手牌のブロックに関連している可能性が十分にあるという面白い結果になりました。今回は手出し・ツモ切りを判別していないので、このあたりはぜひ別でより詳しい分析を回してみたいです。
まとめ
天鳳・鳳凰卓の延べ2,500万件の打牌データから検証した結果、以下の知見が得られました。
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「序盤に切った牌の周辺は持たれていない」という読みは統計的に明確に成立する
切られた直後の「1つ隣」の所持率は、内側・外側ともに約1割台前半まで急減する。実戦の危険度としては内外を問わず十分に持たれていない。
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内側と外側の見かけの差は「基準所持率の高さ」と「ターツ落としの順序」によるもの
基準所持率との差では内側のほうが外側より低下幅が大きく見えるが、これは内側牌のもともとの基準所持率が高いことと、不要ターツを危険な内側から先に切る切り順バイアスが主因。
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切られた牌が中張牌であるほど所持率変化が大きい
本来残したい中張牌を切ったときほど、周辺を持っていない強い根拠になる。端牌を切った場合は、中張牌を切ったときほど周辺への低下幅は大きくない。
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巡目が早いほど読みの信頼度が高く、1〜2巡目に中張牌を切ると所持率はわずか4〜6%
中張牌を切った場合は6巡目まで10%台の低所持率を維持するが、端牌を切った場合は2〜3巡目で急速に所持率が上昇する。
最後に
今回は「序盤に切られた牌の周辺は持たれていない」という定番セオリーを、牌譜データをもとに検証しました。
感覚的に語られがちな読みですが、「1つ内側」の所持率が実際に3分の1近くまで落ちることや、巡目とともに急速に信頼度が変わることが定量的に確認できました。実戦での読みについて、より深い学習をする際の参考になれば幸いです。
本分析の前提と補足
- 本分析は手出し・ツモ切りの両方を含めた集計です。手出しに限定した場合は、さらに強力な低下傾向が得られる可能性があります。
- 測定対象は、切ったプレイヤー本人の手元に残る非公開の手牌です。副露したプレイヤーも対象に含みますが、すでに副露で公開された牌は所持判定から除外しています。
- リーチ受理後の打牌は除外しています。詳細は第1回記事を参照してください。
- 「基準所持率との差」は、同じ手牌の切る前後の変化や因果効果ではなく、特定の牌を切った局面と巡目分布を揃えた基準局面との条件付き所持率の差です。
- 基準所持率の算出では牌の位置ごとの残りやすさと巡目分布を調整していますが、副露数や手牌の色構成などの条件までは揃えていません。「その牌を切るプレイヤーの手牌傾向」という選択効果はそのまま反映されています。
- 2,500万件は同一局・同一プレイヤーからの複数の打牌を含む延べ観測数です。本記事では効果量の記述を主眼とし、信頼区間や統計的有意性は算出していません。
- 本分析が測っているのは「打牌直後に特定の牌を持っている確率」です。将来のツモやテンパイ時の待ち、実際の放銃率や牌の安全度を直接評価したものではありません。


