1. はじめに
最近、SaaSアーキテクチャ設計について学習する機会がありました。
SaaSという言葉自体はよく聞きますが、私はこれまで「クラウドで使えるサービス」くらいの理解で止まっていた気がします。
でも、少し踏み込んで考えてみると、本当に大事なのはそこだけではありませんでした。
SaaSを作るときに実際に問われるのは、
- 1社ごとに専用環境を持たせるのか
- みんなで同じ基盤を使うのか
- その中間にするのか
という、“共有と分離のバランス”をどう設計するか だと思います。
この記事では、SaaSアーキテクチャについてインプットした内容をもとに、
自分なりに 「SaaSって、こう捉えると分かりやすいのかもしれない」
と整理できたことをまとめてみます。少しでも参考になったらうれしいです。

※参考元の資料はこちら
[AWS BlackBelt Online Seminar]SaaS アーキテクチャ ⼊⾨編~マルチテナント SaaS とは~
2. SaaSを考えるとき、いちばん大事なのは何か
SaaSの話になると、つい 「インターネット経由で使える便利なサービス」 という説明で終わってしまいがちだと思います。
もちろんそれも間違いではないのですが、実務で考えるときは、それだけだと少し足りない気がしました。
SaaSを設計するうえでいちばん大事なのは
「顧客ごとにどこまで分けて、どこまで共有するか」
という視点だと思います。
たとえば、同じサービスを複数の企業に提供するときに、
- 顧客ごとに専用環境を持たせるのか
- できるだけ共通の基盤でまとめるのか
- 一部だけ共通化して、重要な部分だけ分けるのか
を考えないといけません。
そして、ここをどう設計するかで以下がかなり変わってきます。
- コスト
- 運用のしやすさ
- 障害時の影響範囲
- セキュリティやコンプライアンスへの対応
- 顧客が増えたときのスケーラビリティ
つまりSaaSは、ただ「クラウドで使えるソフト」なのではなく、
たくさんの顧客に対して、どれだけ共通の仕組みで、どれだけ無理なく届け続けられるか
まで含めて考えるものなんだと思いました。

3. 見た目はSaaSでも、運用が重くなることがある
今回の学習で印象に残ったのは、見た目はSaaSっぽくても、実態としては
- 顧客ごとに構成がかなり違う
- 顧客ごとに個別カスタマイズが必要
- 顧客が増えるたびに人手も増やさないと回らない
という状態だと、かなり運用が重くなるということです。
言い方をやわらかくすると、これは
「サービスを売っている」というより、個別受託をたくさん並べている状態
に近いのかもしれません。
この視点を持つと、SaaSらしさとは単に「クラウドで提供しているか」ではなく、
“どれだけ共通化できているか” にあるんだなと思いました。
たとえば、Google Workspace や Slack のようなサービスをイメージすると分かりやすいと思います。もし顧客が増えるたびに、
- A社向けにサーバーを1個立てる
- B社向けにまた別構成を作る
- C社向けには個別改修を入れる
みたいなことを続けていたら、顧客が増えるほど大変になります。

SaaSの強みは、
「基本は同じ仕組みをみんなで使う」
ことで、速く・安く・安定して提供しやすくなることなんだと思います。
4. テナントという言葉は、「顧客のまとまり」と捉えると分かりやすい
SaaSの話でよく出てくるのが、テナント という言葉です。
最初は少し難しく聞こえるのですが、ざっくり言うと
テナント = サービスを利用する顧客のひとかたまり
くらいで考えるとかなり分かりやすいと思います。
たとえば、A社・B社・C社が同じSaaSを使っていたら、
- A社が1テナント
- B社が1テナント
- C社が1テナント
というイメージです。

※ここでは分かりやすさのために「1社 = 1テナント」のイメージで説明していますが、実際には部門や契約単位などで切られることもあります。
5. シングルテナントとマルチテナントは、「一軒家」と「マンション」の違いで考えるとイメージしやすい
SaaSの設計を考えるとき、よく出てくるのが
- シングルテナント
- マルチテナント
の違いです。
5-1. シングルテナント
シングルテナントは、 1顧客ごとに専用環境を持つ形 を指します。
イメージとしては、マンションではなく 1社ごとに一軒家を建てるイメージ です。
メリット:
- 他社の影響を受けにくい
- 分離が分かりやすい
- セキュリティやコンプライアンスの説明がしやすい
- 顧客ごとの細かな調整がしやすい
たとえば、
- 他社と基盤を共有したくない
- 要件がかなり厳しい
- 顧客ごとに細かい個別調整が必要
というケースでは、シングルテナント寄りのほうが合いやすそうです。
デメリット:
- 顧客が増えるほどコストが増えやすい
- 運用対象が増えて管理が大変
- デプロイや保守も個別に考える必要が出やすい
つまり、分かりやすくて安心感はあるけれど、 顧客が増えたときに負荷がかかる
のがシングルテナントなんだと思います。

5-2. マルチテナント
マルチテナントは、 複数の顧客が同じ基盤を共有する形 を指します。
イメージとしては、 同じマンションにたくさんの人が住むイメージ です。
部屋は分かれているけれど、建物の土台や設備は共有しています。
メリット:
- コスト効率が良い
- 運用をまとめやすい
- デプロイしやすい
- 改善を全体へ反映しやすい
たとえば、
- まずは多くの会社に素早く使ってもらいたい
- 価格もなるべく抑えたい
- 共通の仕組みで運用効率を上げたい
というサービスなら、マルチテナントの相性が良さそうです。
デメリット:
- 他テナントの負荷の影響を受けることがある
- 分離の設計をしっかり考えないと危ない
- 障害時に影響範囲が広くなる可能性がある
特に分かりやすいのが、ノイジーネイバー問題 です。
これは、ある顧客の重い処理や大量アクセスが、同じ基盤を使っている他の顧客にも影響してしまう問題です。
つまりマルチテナントは、効率が良い分 「共有しても安全に回るように設計する難しさ」がある ということだと思います。

6. じゃあ、どっちが正解なのか
ここは気になるところですが、結論としてはどっちかが絶対正解、という話ではない
のだと思います。
むしろ大事なのは、
- 分離をどれだけ強くしたいか
- 効率をどれだけ重視したいか
- 顧客やプランごとにどこまで差をつけたいか
を見ながら、バランスを決めることです。
つまり、
- 分離を強くしたいならシングル寄り
- 効率を重視したいならマルチ寄り
- 顧客やプランによって変えたいなら中間や組み合わせ
という考え方になります。
このあたりは、白黒で決めるというより トレードオフの中で設計する話 なんだなと思いました。
7. 現実的なのは、ハイブリッドで考えること
実務では、シングルかマルチかの二択ではなく、中間や組み合わせが現実的な選択になることも多いと思います。
たとえば、以下のような分け方です。
- 無料プラン・標準プランの顧客は共有基盤
- 厳しい要件を持つ大口顧客は専用基盤
これなら、全員に高コストな専用環境を用意しなくても済みますし、
必要な顧客には専用性を持たせることができます。
たとえるなら、飛行機の座席のようなイメージです。
- エコノミーは共通の仕組みで効率よく
- ビジネスやファーストは、より高い体験を提供
SaaSでも、価格や要件に応じて提供体験を変えるイメージで考えると、かなりわかりやすいと思いました。

8. 何を基準に決めるのか
シングルテナントかマルチテナントかを考えるときは、いくつかの観点で見ていくと整理しやすいです。

8-1. コンプライアンス
まず気になるのが、「他社と同じ基盤で本当に大丈夫か?」 という観点です。
金融・医療・公共系など、分離や説明責任が重い領域では、シングル寄りになりやすいと思います。
8-2. コスト
専用環境を増やせば、そのぶんお金も運用負荷も増えます。顧客数が増えたときに効率よく支えたいなら、 共有できるところは共有したい、という発想になります。
このあたりは、マルチテナントの強みが出やすいところです。
8-3. 可用性
専用環境なら、障害が起きてもその顧客だけで済むことがあります。
一方で、共有基盤だと、設計によっては影響範囲が広くなる可能性があります。
つまり、「障害が起きたとき、どこまで巻き込む可能性があるか」 という視点も大事です。
8-4. パフォーマンス
マルチテナントでは、ある顧客の重い処理が他の顧客に影響することがあります。
これがノイジーネイバー問題です。
共有基盤にすると効率は良くなる一方で、 性能面の影響をどう抑えるか もセットで考えないといけません。
8-5. デプロイ・運用
環境がバラバラになるほど、そのぶん更新や保守も大変になります。
運用効率だけで見ると、やはり共有基盤のほうが有利になりやすいです。
顧客が増えるほど、「一括で直せるか」「一括で改善を届けられるか」 の価値は大きくなっていくと思います。
9. SaaSは、アプリを作るだけでは終わらない
SaaSの話になると、ついアプリの作りだけに目が向きがちですが、実際にはそれだけでは回りません。
たとえば、SaaSをちゃんと回そうと思うと、アプリ本体以外にも
- 新しい顧客をすぐ使い始められるようにする仕組み
- テナントごとの認証・認可
- 利用量の計測
- 課金
- 監視
- デプロイの仕組み
などが必要になります。
「アプリを作ったから終わり」ではなくて、申し込み後すぐ使えるか、課金できるか、監視できるか、安全に全顧客へリリースできるかまで含めてSaaS なんだと思います。

10. 技術の話に見えて、実は事業の話でもある
アーキテクチャの設計は、単に技術の好みで決めるものではなく、
どういう顧客に、どんなプランで、どんな価値を届けたいか
とセットで考える必要があります。
たとえば、
- 低価格でたくさんの顧客を取りたい
→ マルチテナント寄りが向きやすい - 高単価で厳しい要件の顧客を取りたい
→ シングルテナント寄りが向きやすい
というように、料金プランや営業戦略と、基盤設計がつながっている ということです。
技術の設計は、つい技術だけで考えてしまいがちですが、実際には「誰にどう売るか」と切り離せないんだなと思いました。

11. いきなり理想形じゃなくてもいい
SaaSというと、最初からきれいなマルチテナントで設計しないといけないように感じることがあります。
でも実際には、
- 最初は顧客数が少ないので、専用環境寄りで始める
- 利用者が増えてきたら、共通化できる部分を整理していく
- 段階的にマルチテナントへ近づけていく
という進め方もかなり現実的だと思います。
最初から全部をきれいに作ろうとすると、設計も実装もかなり重くなります。
でも、事業のフェーズに合わせて少しずつ進化させる前提なら、考えやすくなりますし、実際の現場でも取りやすい選択なんじゃないかなと思いました。
12. 覚えておきたいこと
最後に、自分なりに
「ここを覚えておけば、SaaSアーキテクチャを考えるときの軸になりそう」
と思ったポイントをまとめます。
- SaaSは「クラウドで使えるソフト」というだけではなく、共通の仕組みで多数顧客に届けるモデル と捉えると理解しやすい
- 設計の中心は、どこまで共有して、どこまで分離するか
- シングルテナントは分離しやすいが重い
- マルチテナントは効率が良いが設計が難しい
- 実務では中間やハイブリッドがかなり現実的
- 技術の話だけでなく、価格プラン・顧客層・運用体制 まで含めて決まる
個人的には、
SaaSの設計 = 共有と分離のバランスをどう取るかを考えること
13. おわりに
今回SaaSアーキテクチャについて整理してみて、
SaaSという言葉に対する見え方が少し変わりました。
以前は 「クラウドで使えるサービス」くらいの理解が強かったのですが、今はそれよりも
多数の顧客に対して、共通化された仕組みをどこまで維持できるか
そしてそのうえで
どこに分離や個別性を残すか
を考えることが、SaaS設計の中心なんだと思っています。
シングルテナントか、マルチテナントか。この問いは、単なる技術選定ではなく、顧客要件や事業の方向性も含めた設計判断なんだと整理できました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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