0. はじめに
前回はコスト管理系のサービスをまとめました。今回はその第8弾として、AI・機械学習系のサービスを見ていきます。
Google CloudのAI/MLサービスは、大きく「①すぐに使える事前学習済みAPI群」「②ノーコード/ローコードでカスタムモデルを作るAutoML」「③本格的なカスタムML基盤(Gemini Enterprise Agent Platform)」の3段階に分けて理解すると整理しやすいなと感じました。難易度・カスタマイズ性はこの順で上がっていきます。加えて、生成AIアプリの設計パターンやMLOps・大規模学習インフラについても後半でまとめています。
また、このカテゴリはサービスの改廃(名称変更・非推奨化)が特に激しい印象があります。執筆時点で確認できた情報をベースにしていますが、実際に利用する際は必ず最新の公式ドキュメントをご確認ください。
1. AI・機械学習
| カテゴリ | AWS | Google Cloud |
|---|---|---|
| 事前学習済み画像認識API | Rekognition | Cloud Vision API |
| 事前学習済み自然言語処理API | Comprehend | Cloud Natural Language API |
| 機械翻訳API | Translate | Cloud Translation API |
| 音声認識(Speech to Text) | Transcribe | Speech-to-Text API |
| 音声合成(Text to Speech) | Polly | Text-to-Speech API |
| ドキュメント解析(OCR+構造化抽出) | Textract | Document AI |
| レコメンデーション | Personalize | Recommendations AI |
| コンタクトセンターAI | Connect + Lex + Transcribe + Q in Connect(組み合わせ) | Contact Center AI (CCAI) |
| ノーコード/ローコードAutoML | SageMaker Autopilot | AutoML (Vertex AI AutoML) |
| モデルの説明可能性(XAI) | SageMaker Clarify | Vertex Explainable AI |
| 統合AI/エージェント基盤 | Bedrock / SageMaker | Gemini Enterprise Agent Platform (旧 Vertex AI) |
| サーバーレスMLパイプラインオーケストレーション | SageMaker Pipelines | Agent Platform Pipelines (Kubeflow Pipelines) |
| 大規模分散学習向け統合インフラ | SageMaker HyperPod / EC2 UltraClusters(近似) | AI Hypercomputer |
| 需要逼迫アクセラレータの一括容量確保 | EC2 Capacity Blocks for ML | Dynamic Workload Scheduler |
1-1. Cloud Vision API
Amazon Rekognitionに相当する、画像認識AIを利用して画像内の物体、人物、文字、ロゴ、ランドマークなどを検出・解析するサービスです。
- 画像分類、顔検出、ラベル付け、OCR、ロゴ認識、ランドマーク認識、不適切画像の検出など多様な画像解析機能をAPIとして提供します。REST API経由で画像を送信するだけで結果を取得でき、自社でのトレーニングデータ準備やモデル構築・管理は不要です。
- 顔検出は表情や位置などの検出にとどまり、特定個人の顔照合(Face Search)には対応していません。Rekognitionにはコレクションに対する顔照合機能があるため、その点は対応関係が1対1ではありません。
1-2. Cloud Natural Language API
Amazon Comprehendに相当する、テキストの意味を解析し、感情分析、エンティティ抽出(固有名詞等)、構文解析、カテゴリ分類などを行う自然言語処理APIです。
- 画像分析用途ではない点に注意です。
- SNS分析、口コミ分析、文書分類、問い合わせ内容の自動分類などに利用されます。
1-3. Cloud Translation API
Amazon Translateに相当する、テキストを100以上の言語へ自動翻訳するサービスです。
- 高品質なニューラル機械翻訳(NMT)を提供し、多言語対応のWebサイトやチャット、文書翻訳などに利用されます。
- API経由でリアルタイム翻訳を実装でき、用語集(Glossary)の適用やカスタムモデルによる翻訳精度向上にも対応しています。
1-4. Speech-to-Text API
Amazon Transcribeに相当する、音声データをテキストへ変換する音声認識サービスです。
- リアルタイムまたは録音済み音声を高精度で文字起こしできます。
- 話者分離、句読点の自動付与、単語ごとの信頼度表示、多言語対応などの機能を備え、会議録作成や字幕生成、コンタクトセンターの通話分析などで利用されます。
1-5. Text-to-Speech API
Amazon Pollyに相当する、テキストを自然な音声へ変換する音声合成サービスです(SSMLによる発話制御にも対応)。
- 複数言語・多数の音声に対応し、ニューラル音声による高品質な読み上げを提供します。
- 音声ガイダンス、ナビゲーション、アクセシビリティ対応、チャットボットの音声応答などで広く利用されます。
1-6. Document AI
Amazon Textractに相当する、PDFや請求書、契約書、領収書などの非構造化ドキュメントを解析し、必要な情報を自動抽出するAIサービスです。
- 単純なOCRに加えてAIによる文書理解機能を備えており、請求書の金額・日付・取引先、契約書の条項、本人確認書類などから必要な情報を高精度で抽出し、構造化データへ変換できます。業務システムへの登録やワークフロー自動化に活用されます。
- 契約書分析など業務文書向けの専用プロセッサが充実している点がTextractとの差別化ポイントです。
1-7. Recommendations AI
Amazon Personalizeに相当する、ECサイトやWebサービス向けに、ユーザーの行動履歴や購買履歴を基に最適な商品・コンテンツをレコメンドするサービスです。
- クリック履歴・購入履歴・閲覧履歴などを学習し、ユーザーごとに最適な商品やコンテンツをリアルタイムで推薦します。機械学習モデルの構築・チューニングを意識せず導入できます。
1-8. Contact Center AI (CCAI)
AIを活用したコンタクトセンター向けサービスです。AWS側には単一の対応サービスがなく、Amazon Connectを中心にLex・Transcribe・Amazon Q in Connectなどを組み合わせて同等の機能を構築する必要があるのが、Google Cloud側との大きな違いです。
- チャットボット、音声ボット、通話内容の分析、オペレーター支援などを提供します。
- 音声認識、自然言語理解、会話要約、リアルタイム回答支援、FAQ検索などを組み合わせ、オペレーターの負担軽減や顧客満足度向上を実現します。
1-9. AutoML (Vertex AI AutoML)
Amazon SageMaker Autopilotに相当する、機械学習の専門知識がなくても高精度なAIモデルを自動で学習・構築できるサービスです。
- データセットをアップロードするだけで、データ前処理・特徴量エンジニアリング・アルゴリズム選定・ハイパーパラメータ調整などを自動実行します。コーディングやML専門知識が少なくても高品質なモデルを構築できるため、PoC(概念実証)の迅速化や業務部門でのAI活用に適しています。
- 現在サポートされる用途は画像データ(分類・物体検出)と表形式データ(分類/回帰・時系列予測)の2つです。
かつては自然言語処理(Text)や動画(Video)の用途もありましたが、いずれも2025年中にshutdown済みで、現在はGeminiへの移行が案内されています。AWSのSageMaker Autopilotと比べる際は「画像・表形式データのみ」という現在の対応範囲で見る必要があります。
1-10. Vertex Explainable AI
Amazon SageMaker Clarifyに相当する、機械学習モデルの予測結果について「なぜその予測になったのか」を可視化・説明するサービスです。
- 特徴量ごとの寄与度(Feature Attribution)を算出し、どの入力データが予測にどの程度影響したかを確認でき、金融・医療・公共分野など説明責任が求められるシステムで利用されます。
- 公式ドキュメントでも明記されている通り、寄与度だけではモデルが公平・無バイアスであるかまでは判断できません。バイアス検出機能を持つSageMaker Clarifyとは、この点でカバー範囲が異なります。
なお、Vertex Explainable AIは2026年3月16日付で非推奨(deprecated)となっており、2027年3月16日以降はアクセスできなくなる予定です。実務での新規採用は避ける必要があります。
1-11. Gemini Enterprise Agent Platform (旧 Vertex AI)
Bedrock/SageMakerに相当する、カスタム機械学習モデルや高度なAIエージェントの構築・トレーニング・管理を行う包括的なプラットフォームです。2026年のCloud Next 2026にてVertex AIから改称・統合されました(Agentspaceも統合)。
- 独自モデルも構築できますが、トレーニングデータ準備やモデル評価の作業が発生します。定型的な分類なら事前学習済みのVision API/Natural Language APIの方が手軽です。
- 名称が変わったばかりなので、しばらくは「Vertex AI」という旧名で書かれた情報にも出会うかと思います。
- セルフホストJupyterからの移行先: セルフホスト型Jupyterノートブックで作業しているMLエンジニアには、マネージドノートブック環境(Workbench・Colab Enterprise)を含むこのプラットフォームへの移行と、MLOpsプラクティスによるモデルのデプロイ・運用の体系化がGoogle推奨です。
- 予測ドリフト検出とトレーニング/サービングスキュー検出の違い: モデルへの入力データの分布が時間の経過とともに徐々に変化するのを検出したい場合はモデルモニタリングの予測ドリフト検出を使います(過去のサービングデータと現在のサービングデータの分布を継続比較)。名前が似たトレーニングとサービングのスキュー検出は、学習データと本番入力データの分布差という別の観点を見る機能で、混同しないよう注意してください。
- データ所在地を厳密に守った推論: 特定国・地域の外で処理してはならないという厳格なデータ所在地制約のもとで、強力な事前学習済み生成AIモデルを使いたい場合は、Model GardenからGemma等のオープンモデルを選び、対象国内のGoogle CloudリージョンにあるこのプラットフォームのエンドポイントへVMやコンテナとして自己デプロイします。自己デプロイなら推論処理がそのリージョン内で完結し、処理場所を完全に統制できます。
- LLMアプリの体感レイテンシ改善: マルチモーダルなプロンプトを扱うLLMアプリでリアルタイム性・体感速度を改善したい場合は、モデルからのストリーミング応答を有効にします。生成完了を待たずトークンを順次クライアントへ返せるため、最初の文字が表示されるまでの時間を大幅に短縮できます。
- カスタムトレーニングへのCMEK適用範囲: 独自モデルのカスタムトレーニングで顧客管理の暗号鍵(CMEK)を要件とする場合、対象はトレーニングコード・データだけでなく、メタデータや生成されたモデルアーティファクトまで含むサポートされる全データタイプです。一部のリソースだけCMEKを設定しても要件を満たしません。
-
Workbenchインスタンスの統制: セルフホストJupyterから移行したWorkbenchインスタンスで、ユーザーによるOS設定の誤変更やOS更新の未適用を防ぎたい場合は、組織ポリシー制約
constraints/ainotebooks.disableRootAccess(rootアクセスの無効化)とconstraints/ainotebooks.requireAutoUpgradeSchedule(自動アップグレードスケジュールの強制)を組織・フォルダレベルで設定します。
1-12. 生成AIアプリケーションのバックエンド設計(RAGアーキテクチャ)
頻繁に変わる企業データ(製品カタログ等)を生成AIの回答へ反映したい場合、モデルの再学習が必要なファインチューニングではなく、**検索拡張生成(RAG)**が定石です。
- Cloud Storage・Pub/Sub・Document AI等でデータ取り込みパイプラインを構築して最新情報を継続的に取り込み、検索した内容をプロンプトに注入することで、モデルを再学習せずに常に正確な回答を提供できます。
- バックエンドの実行基盤には、自動スケールしインフラ管理が不要なCloud Runのようなサーバーレスサービスが、保守容易性とコスト最適化の要件に適します。
1-13. モデルのカスタマイズ手法(アダプターチューニング/PEFTと完全なファインチューニング)
少量データ・低予算でGeminiモデルの応答を特定ドメインに適応させたい場合は、アダプターチューニング(PEFT: パラメータ効率の良いファインチューニング)が適します。
- ベースモデルの重みを凍結したまま少数の追加パラメータ(アダプター層)のみを学習するため、計算コストを抑えつつ少量データでも応答品質を改善できます。
- 完全なファインチューニングは全パラメータを更新するため計算コストが大きく、大規模な挙動変更が必要な場合にのみ検討します。低予算・少量データという制約下では過剰な選択肢になります。
1-14. Agent Platform Pipelines (Kubeflow Pipelines)
SageMaker Pipelinesに相当する、Kubeflow PipelinesやTFXで定義したMLパイプライン(前処理・トレーニング・評価・デプロイ等)をサーバーレスで実行するマネージドサービスです。
- 各ステップの入出力アーティファクトとメタデータを自動記録し、リネージ(実験の再現性)を追跡できます。
- スケジューラAPIと組み合わせることで、Cloud Schedulerなどの外部スケジューラを追加せず定期的な再トレーニングを構成できます。名前が似たCloud ComposerはAirflow DAGによる汎用のワークフローオーケストレーションで、MLアーティファクトのリネージ追跡や実験の再現性の機能は標準では備えません。
1-15. AI Hypercomputer と Dynamic Workload Scheduler
AI Hypercomputerは、数千規模のアクセラレータを使う大規模分散トレーニング向けに、コンピューティング(Cloud TPU/GPU)・高帯域ネットワーキング・ストレージ・ソフトウェアを統合的に最適化したGoogle Cloudのアーキテクチャです。AWSに厳密な1対1対応サービスはなく、SageMaker HyperPod/EC2 UltraClustersが近い位置づけです。
- 汎用マシンタイプへのGPU個別アタッチでは得られない高帯域インターコネクトやトポロジ最適化を提供します。
- Dynamic Workload Schedulerは、需要が逼迫しているアクセラレータ容量を、ジョブが必要とする数だけ同時に(atomicに)確保できるスケジューリング機能です。開始までの待機を許容する短期ワークロード向けのフレックススタートモードと、将来の期間をあらかじめ予約するカレンダーモードがあり、いずれもオンデマンドでの調達が難しい高需要アクセラレータの入手性とコスト効率を高められます。
2. まとめ
今回はAI・機械学習系のサービスをまとめました。事前学習済みAPI群はAWSとほぼ1対1で対応が付く一方、AutoMLやExplainable AIのように短期間で仕様変更・非推奨化が進んでいるサービスも多く、対応表を覚えるだけでなく現在の提供範囲を都度確認する必要があるカテゴリだと感じました。
次回はデベロッパーツール系のサービスをまとめる予定です。
参考