はじめに
どうも。鳩胸になりたい文鳥です。
Cusorが市場を席巻している
ブッチギリでの世界最速ARR $100Mに加えて先日時価総額が1兆円を超えたそうです。間違いなく売れているし今後の成長を期待される企業であるのは間違いないでしょう。
Cursorはソフトウェアエンジニア向けにAI機能を搭載したソースコード編集ソフトを提供している会社です。
上記のブログに記載したがCursorは
- 12人の社員
- Microsoft製のVisual Studio Codeをフォークして作ったラッパーアプリ
- AIのモデルは開発せず、ChatGPTやClaudeのモデルを提供している
語弊を恐れずにいうと、自社で機能開発を行わずに、市場で最も受け入れられているマイクロソフト製のエディタに、AIモデルを組み込んだアプリケーションです。
ChatGPT登場以降によく話題になった「生成AIを使って誰がどのように成功するのか」
という点において現在時点ではトップを走ってる企業と言えると思います。いわゆるつるはし売り戦略的
なやつですね。
何でそんな企業価値つくの?
過去のブログ記事ではその開発速度について言及しましたが記事を書いてる時に素朴な疑問が沸きました。私自身もCursorを使っているのですが、疑問の解像度を上げると大きく2点あって
- なぜGithub CopilotがあるのにCursorなのか?
- ソフトウェアエンジニア向けの製品って市場規模が結構限られてんちゃいますの?
という感じになります。
よく考えてみるとVSCode・ChatGPT・Githubは全部Microsoft傘下にあって、初速が早いとはいえすぐに、
巨大資本と知力を使って飲み込まれる or 蹴散らされるのではないか?という疑問ですね。
2.に関しても、エンジニアしか使わないソフトウェアを対象としていて移り変わりも結構激しい製品領域なのに、なぜ1兆円もの値段がつくのか疑問がありました。VSCodeをフォークした製品に、ただAIモデルを載せるだけの機能なら直ぐに模倣されそうな気もします。実際に似たような製品がいくつも出てきてエンジニアですら追いきれなくなってきていると感じます。
今回はこの辺の疑問を解消すべく、調べ物をしたので纏めていきます。
中間のまとめ
途中記事の中でかなり話題が脱線してしまってタイトルとあまり関係なくなったので結果を先にまとめていきます。
Cursorが市場を席巻している理由
- クイックに価値の高いものを出せる
- 政治があんまりない
- 流行だけを追えるビジネスモデル
- 想起率が高い
- 価格設定がめちゃくちゃうまい
- 開発用のエディタに留まらずプロダクト開発をする事業活動の中心を取りに行ってる
という結論になりました。
続きが気になる方はどうぞ
なぜGithub CopilotがあるのにCursorなのか?
ドメインエキスパート・ユーザー・開発者が同じなのでサイクルが早いということは前回記事にしたのですが、それはマイクロソフトも同じな訳で、Cursorが付け入る隙がどこにあったのかなという点はかなり気がかりです。
CursorとGithub Copilotの性能比較
- 2025年2月時点で、GitHub Copilot と Cursor の機能差はほぼ感じない。
- 2024年12月時点では Cursor を推したかったが、Copilot の驚くべき進化速度によって、Cursor エディタを新たに選択する必要性を感じなくなった。
概ね上記の意見に同意です。
しかしよく考えて見れば、Copilot の驚くべき進化速度
と言われてる点については違和感もあります。なぜCursorの方が人数も資本力もなければ、内部事情を全て知りえるマイクロソフトが後発扱いなのでしょうか。
Cursorには政治がない
マイクロソフトがCopilotにGeminiを取り込んだりClaudeを取り込むとなった場合競合の製品を組み込むことになるため、経営判断が必要になります。
- 競合製品を自社製品に取り込んで得られる顧客
- 競合への支払い
などがトレードオフになるわけです。
一方、Cursorには政治が絡みません。自社でモデルを抱えているわけではないので純粋にいいものがあれば取り入れるというスタンスで済みます。そもそも「やる」と決めるまでのリードタイムが抜群に早いのです。
「他社競合製品を機能に取り入れるか」というのは経営レベルでの判断になると思いますので、私のようなエンジニアに話がおりてくるまでの時間が圧倒的に早いということですね。(そもそもCursorは12人のエンジニアor研究者しか社員いないという話ですが)
マイケルジャクソンのお買い物なみに、迷いなき決断と実装により、BigTechの製品を使って、本家よりも先行して新機能をリリースできるのが、Cursorの強みではないかと思いました。
CursorはTech企業界のセレクトショップである
CursorはVSCodeと既存のAIモデルを組み合わせることで事業を成立させており、自社でエディタを作ったり、モデルを開発することをしていません。
これはファッション業界のセレクトショップに似た役割であると思いました。セレクトショップとは特定のブランド品を売るのではなく、流行りものを組み合わせて売る店のことです。
- ユナイテッドアローズ
- シップス
- ビームス
といった店のことですね。
店側が流行り物に特化して売ることに専念しているため、自社の製品をほぼ持ちません。工場や特定のブランドを売る必要がないため、常に流行り物だけを売ることができます。それぞれの店舗はコンセプトを持っており、自分たちの店の世界観に合ったアイテムを揃えることで、
- 田舎から出てきた大学生がとりあえず行けば今風のおしゃれっぽいものが買える
- 仕事で忙しい社会人でもセレクトショップにいけば自分の好きな世界観のアイテムが買える
という空間ができています。Cursorも自分たちの技術をもたいない分流行りに敏感で、「開発用途で必要な領域のAIモデル」
を取り揃えており、各モデルを比べることができます。
現状においてClaude3.7がトップ
Claude 3.7が2月後半に出てからはAIを用いた開発の状況がまた大きく変わっており、Cursorのエージェント機能とCopilotにはまた差が出てきています。個人の感覚ではエージェント機能は、高速に作業できるジュニアエンジニアだったのが、Claude 3.7の登場によって強強のテックリードがアシストしてくれている感覚になっています。
既存の巨大コードベースには使えないと思っていたが、Claude 3.7登場以降によく考えて見れば依存関係整理などは静的解析できる部分であり
コンピュータの得意分野でありこの辺のコンテキスト理解の速度に人間は勝てないなぁと実感しています。
そんな開発においてはゲームチェンジャーなモデルを開発したAnthropic社でさえもCursorのエージェント対応よりも先に、Claude Codeの正式版を出すことができていません。
しかも「Cursorでやばいモデルを利用できるらしい」
といった具合に、話題を持っていってしまっている気配すらあります。AI情報を追い続けている人にとってはこんな意識はないでしょうが、私含めて現場レベルで何となくAIを使ってる人達は、そういう風潮が間違いなくあります。
話題のAI機能を本家よりも実用化が早く、見せ方がうまいので「Cursorすげえ」
ってなるんですね。これは政治がなく、自分たちのモデルを持たないからこそ、その時々のタイミングでいいモデルを使える状態を保つことができているわけですね。
とりあえずCursor使っとけばAIのトレンドに乗り遅れることを避けられる
そんな世界線。よく「最近のAIは色々出過ぎてもう追いつけない」みたいな話を聞いたりしますが、Cursorを使っておけば新しいモデルは勝手に追加されていくし、開発で必要なレベルでのキャッチアップができます。
これも自分たちでモデルを持ってないからこそその価格帯で常に一番いいモデルを使い続けられる状態が作れています。Cursorはインフルエンサーみたいな側面があるなと思いました。
こうして開発者自社の製品にAIを組み込む際の知見を貯めることもできます。
移行コストが低い
Cursorを始めるにあたってVSCodeを触っとことある人なら全く変わらないUXにAIエージェントが乗っかるので移行コストが低いこともユーザーを増やす要因になっていそうです。
良い製品といえど市場規模が限られてんちゃいますの?
そうでもなくなってきている。と最近私は思いました。
現在では「開発者向けのエディタ」という地位を確立していますが、そもそも、AIによって行われているのは作業の高速化
と専門知識の民主化
であり、人間同士のコミュニケーションコストは相対的に上がってきています。
このことから、「人に任せるより自分でやった方が早い」の領域が増えています。(AIに任せた方が早いとも言い換えることができます)
PdMがCursor使ってみた系の記事やFigma x Cursorでデザイナーが作業してみた系の事例が徐々に広がっています。最近ではビジネスサイドの方の記事も見かけるようになりました。
AIが職域の境界を破壊し始めていると言えると思います。Cursorはエンジニアに近いプロダクト職に侵食して、かつ本質的にはVSCode x AIモデルであるにも関わらず、ここでも
「なんかCursorを使えばイケてる開発ができるらしい」
というポジションが取れています。Cursorはとにかく見せ方がうまいのです。
値段設定が絶妙
「Cursorも後発のDevinやclineそしてclaude codeに食われるのじゃ無いか。性能は劣っている」と言う意見はあると思います。もちろん可能性はあるのですが、現状では、「この先どうなるか分からないがとりあえずいい感じのAIエージェントが欲しい」となった時に第一想起されるのはCursorであり、他のエージェントは金額が高かったりAPI毎の課金で手が出しにくかったりします。
どれだけ優れていても大衆向けの金額設定出なければ市場を席巻することができないと思います。
高品質十徳ナイフよりも、そこそこ切れる包丁が売れる世の中で、「ちょっと使ってみるか」というCursorは価格設定を保てているのかなと思います。
想起率の高さ
購入頻度の低い商品を提供する場合はとにかく「エアコン潰れた!」と言うタイミングに「エアコンといえばダイキン」と言ったように想起されることが重視されるようです
。AI x エディタという新しい概念の製品においてなんかSNSで噂になってるなぁ、とか、イケてるスタートアップが一括導入したらしい。と、自然とプロダクト開発に関わる人たちの目に触れるようなポジションを取れています。
人気が人気を呼ぶ的なやつですね。
とりあえず触ってみたい時のハードルがCurosorは低いんですね。ちなみにCursorは広告マーケティング費用をほとんど掛けていないらしいです。
MCPサーバー
これもClaudeを開発してるAnthropic社が提唱した技術なのですが、USB-Cのように各ツールを繋ぐことができる機能です。
YoutubeやZennの記事をみて貰えばわかる通り
- Cursorに話しかけて、GithubのPR作成
- 企画書 → 要件定義・JIRAタスクの作成
ということが可能になります。
これは会議議事録・Slackスレッド・Figmaなどから
- 企画書作成
- 要件定義
- タスク分解・登録
- AIコーディング・テスト
- GithubでPR
といったものを自動生成できるということであり、人間の仕事はさらに意思決定することにフォーカスしていって、残ってる作業は「手直しと承認だけ」みたいな世界観になっていくのかもしれませんね。ならないかもしれないですが
開発しているプロダクト自体にMCPを持つという選択肢も出てくる
例えば特定領域の不動産ベンチャーしているとして、今までは会計ソフトとの
API連携・CSV連携・自作RPA・自作Excelマクロ
みたいなものがあって自動化したり、ツール跨いだりしていたのが新たにMCP連携(AI連携)みたいなプロトコルが増えるイメージと捉えています。これは新しいUXの始まりであり、自然言語でDBやユーザー端末のファイルシステムにアクセスできることができる世界線が来ることを予期しているでしょう。
Redashクエリをエンジニアに頼まなくてもビジネスサイドで完結で切るようになる、みたいなのが一番現実的に想像できる世界観かと思います。
LLMがツールの境界を破壊し始めている
今までCursorがエディタ x lLLMをつないで、ソフトウェアエンジニアの業務支援をしてきたが、このMCPという新たなプロトコルに関しても、本家のAnthropic社を超える勢いでCursorは対応をしました。
Anthropicが年末に提唱した技術で概念的には完全にAnthropicのものなのに、実用に持っていく速度が早過ぎて、「Cursorからやばい機能出たよ!」
みたいな風潮になってんのがcursorのすごいところかと思います。
ここでも「Cursorでプロダクト作りの全ての業務が行えるようになるかも」
みたいなポジションをCursorは取ることができています。Cursorは単にエンジニアの開発支援だけでなく、各社ツールの境界線を破壊して、プロダクト開発してる事業活動の中心を握りに来てる
って捉えることもできるなと思いました。
この点はDevinやClineと差別化される要素になっていくかもしれないですね。
投資家もおそらくこの辺に事業の可能性を感じているのではないかと思いました。
少なくとも単なるエディタの範疇ではなくなっていきそうです。
自分の身の振り方を考えてみるの巻
MCPが浸透した世の中は誰も分からないので、人によってブレが大きいところですが、「MCPが動く前提でのUX」みたいな概念が新しく入ってきそうだなとは思います。また、
- セキュリティ
- 認証
- AIの暴走制御
といったところはMCPを使う上では避けて通れない重要な要素になると思います。
「MCPは騒がれているほどに実はそんなに定着しなかった」みたいなことも考えられますが
私はMCPはChatGPT出てきた時ぐらいのインパクトがあると思っています。
AnthropicのCPOは
- 会議やExcelで多忙な人々の「知識労働」を助ける機能
- 音声関連AIの開発も進めてる
を開発していくと宣言しています。
B to Bのサービス事業者にはかなりインパクトが大きいことだと思いますが、自分たちが開発している製品自体にもMCPを持つっていう選択肢がでてきた時点で、これからどうなっていくんかは正直あまりイメージがつきません。
深くシステム利用者の業務に洞察して、ツール跨いだワークフローみたいなのを定義できた人が勝つ世の中になるのかとか、
周辺ツールを統合するプラットフォームが流行るのかなとか、
はたまた、周辺ツールとの相性抜群で機能は少ないが爆発的な付加価値を持つプロダクトが勝っていくのかなど、想像もつきません。
が開発に近い部分からMCPは利用促進される気はするので、自身の開発に利用しつつ、それが自身の開発するプロダクト自体に適用できるものなのか?という目線を持ちつつ、今後過ごしていきたいと思いました。
ツールの境界が曖昧になった世界線で、データをどう蓄積しどう扱うかが、これまで以上に重視されることには成るかなと思います。
プロダクト視点を持ったエンジニアや、フロントエンジニア領域をカバーできるデザイナーみたいなポジションが重宝される気はします。
作業が高速化されてツールが境界を跨ぐなら決定権を持っている人がAIを使って作った方が早いです。
これまで以上に人から人への伝達コストは相対的に上がるでしょう。
AIの得意不得意を知る
というところは大事だなと思っていて、
- AIは間違える
- 単純作業の高速化には不向き・確認コストが残る
- レスポンスは不安定かつ遅い
- モデルの提供者に依存する
というところを踏まえて置く必要があってここを蔑ろにすると、ユーザー自身がAIを搭載されたシステムに慣れていないので、プロジェクトの終盤に精度の問題や速度の問題で進まなくなることは増えるのではないかと思いました。
専門職が時間をかけてくだす意思決定にAIは有用
弁護士に判例・医者に症例・建築家に図面などに有用なのかなと思ったりします。
人間が最終的にコミットするかどうかを決めるという工程を経ても、なおメリットが上回る領域では、AIは有用なのだと思います。(エンジニアの業務もそうなので)
逆に決まりが厳格なデータの移行・転記などには従来通りCSVやAPI連携が優位性を持ちそうと思っています。
AI開発では仕様・テストケースを決めづらくドメインエキスパートでないと性能評価できない側面はあるので、開発スタイルはそういった意味でも変わっていくかもしれないですね。
AIを含んだ機能開発は性能評価が難しい
これまでのシステム開発においては、
- 仕様と違う→バグ→だめ
- 仕様と一緒→→テストOK
みたいに白黒はっきりした世界でした。しかしAIを組み込んだ時点で、利用者・提供者共に、AIから返却されるレスポンスへの期待値を100%定義することができず、組み込んだ機能が有用なのかを検証するのが難しいです。我々はAIにコードをサジェストしてもらっているが、プロンプトを描いた自体で返り値を100%予期出てきていないのと一緒です。
白黒はっきりせずに、60点の出来、120点の出来みたいになるので品質と値段設定の関係がむずかしくなるイメージがあります。
開発サイクルにおける
要件定義→設計→開発→QA
みたいな流れの最適解が変わっていくかもしれないなと思いました。この辺の見積もりが甘いとプロジェクトの終盤に「ん?」「おやおや?」みたいなことが増えてきて、進捗率95%から進まない問題が多発しそうです。
特にQAで担保しなければならない期待値を定義することが難しく、ユーザーの業務をよく理解したドメインエキスパートが密接に関わるチームが強い世界線になる気はします。
誰から買うかが重要な世界線になるかもしれない
AIを用いた開発では結局いろんな会社が同じモデルを用いた製品を開発することになるので
〇〇 x DXといえばこの会社!
〇〇 x AIといえばこの会社!
みたいに、誰から買うかが今まで以上に重要になってくるのかなと思いました。AIに強いという企業イメージをつけることが大事なのかもしれないですね。コンサルっぽい会社の導入支援が手厚い各社統合システムみたいなのが流行るかもしれないですね。Cursorに学ぶ点は多いなと思いました。
まとめ
かなり脱線しましたがCursorがこれほどにも市場で評価を受けているのは
- 「クイックに価値の高いものを出せる」は正義
- 政治がない
- 流行だけを追えるビジネスモデル
- 価格設定がめちゃくちゃうまい
- 移行コストが低い
- 想起率が高い
- 開発用のエディタにとどまらずプロダクト開発をする事業活動の中心を取りに行ってる
ということが言えるかなと思いました。
世界一勢いよく売れてる商品から学ぶというのは結構楽しいなと思いました。特にBtoBの製品を開発する上で、ツールとしてだけでなくCursorから学ぶことは多いなと思いました。
以上