大事なこと・免責事項:このページは著作権法に関する議論を整理した参考情報です。
法的アドバイスではありません。最終的な判断は各自でご検討ください。
はじめに:なぜ上映が問題になるのか
映画のBDを自分で購入し、知人だけを集めてクローズドな場所で上映したい。
よくありますよね。一見すると、ごく個人的な映画鑑賞会のように思えます。
しかし著作権法では、この行為が「公の上映」にあたる可能性があるので前々から調べていましたが、よくまとまったサイトもなく、もやもやする部分もあったので記事にしてみました。
では何が問題になり、なぜグレーゾーンが生まれるのか。
順を追って整理してみたいと思います。
第1章 何が問題になるのか
映画に関係する主な権利
映画の著作物には複数の著作権上の権利が存在しますが、個人上映に関わるのは主に次の2つです。
| 権利 | 条文 | 内容 | 今回の関係 |
|---|---|---|---|
| 上映権 | 著作権法第22条の2 | 著作物を「公に」上映する権利 | 核心的な論点 |
| 頒布権 | 著作権法第26条 | 映画の複製物を公衆に譲渡・貸与する権利 | 関係しない |
【原文】著作権法の目的(第1条)
第1条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
著作権法はあくまで「文化の発展に寄与する」ことを目的としており、権利の保護と文化的利用のバランスを前提としています。
頒布権は問題にならない
頒布権(第26条・第2条第19項)が問題になるのは、BDやDVDなどの複製物そのものを他人に渡したり貸したりする行為です。
自分が購入したBDを自分で再生して映像を見せる行為は「複製物を渡す行為」ではないため、頒布権は今回のケースとは無関係です。
参加者全員がそれぞれBDを所有している場合はなおさらです。
【原文】頒布権(第26条)
第26条 著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有する。
2 著作者は、映画の著作物において複製されているその著作物を当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する。
【原文】「頒布」の定義(第2条第19項)
第2条第19項 頒布 有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。
上映権が唯一の論点
問題になりうるのは上映権だけです。
著作権法第22条の2は、著作者が「その著作物を公に上映する権利」を専有すると定めています。
つまり「公に」上映しているかどうか、これがすべての判断の入口になります。
【原文】上映権(第22条の2)
第22条の2 著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する。
第2章 「公衆」とは何か?――なぜここが難しいのか
「公に」の意味
著作権法では「公に」とは「公衆に直接見せることを目的として」という意味です。そして「公衆」とは次のように解釈されています。
不特定の者、または特定多数の者
逆に言えば、特定少数の者に向けた上映は「公衆」に該当せず、上映権の問題にならない可能性があります。
【原文】「公に」の定義(第22条・演奏権の規定を準用)
第22条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、及び演奏する権利を専有する。
※上映権(第22条の2)における「公に」もこの定義が準用されます。
【原文】「公衆」の定義(第2条第5項)
第2条第5項 この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする。
この条文が重要なポイントです。「不特定の者」だけでなく「特定かつ多数の者」も公衆に含まれると明記されています。逆に言えば、「特定かつ少数の者」は公衆に含まれない、という解釈の余地があります。
3つの概念の整理
| 概念 | 説明 | 例 |
|---|---|---|
| 不特定者 | 誰でも参加できる | 映画館、一般公開の上映会 |
| 特定多数者 | 関係はあるが人数が多い | 会員500人の映画同好会 |
| 特定少数者 | 私的な関係の少人数 | 家族・親しい友人 |
「特定少数」への上映は私的使用の範囲として認められる可能性がありますが、問題は「どこからが多数なのか」に法律上の明確な基準が存在しないことです。
なぜ基準がないのか
著作権法はこの境界線について数字を定めていません。「家族及び知人の通常の集まりの範囲」という表現が解釈上用いられていますが、それが何人を指すのかは法文に書かれていません。
米国の判例では、プライベートゴルフクラブの会員21人・23人が「相当多数」にあたると判示した例があります。日本でも同様に、人数の境界線は個々の事案ごとに裁判所が総合的に判断するしかありません。
知人10人という規模は、この境界線のどちら側にもなりえます。
第3章 なぜ白黒はっきりしないのか
「公衆」の判断は事案ごとに異なる
法律が「特定少数なら私的」「特定多数なら公的」という原則を示しているのに、その境界を数字で定めていないため、同じような状況でも裁判官によって判断が分かれることがあります。
これは著作権法に限った話ではなく、法律全般に見られる現象です。法文は普遍的なルールを定めるものですが、現実の行為は無数のバリエーションを持ちます。その隙間を埋めるのが裁判所の役割であり、だからこそ「最終的には裁判所の判断」という結論にならざるをえません。
日本法と米国法で判断基準が異なる
この問題を深く考えるうえで、日米の法的アプローチの違いが参考になります。安藤和宏氏の論文(早稲田大学、2006年)が指摘するように、両国の判断基準には根本的な相違があります。
| 比較項目 | 日本法 | 米国法 |
|---|---|---|
| 判断の焦点 | 「人」——誰に向けた行為か | 「場所」——どこで行われたか |
| 中心的な問い | 観客は公衆か(不特定・特定多数か) | 上映場所は公衆に開かれているか |
| 予測可能性 | 比較的高い | 裁判所の裁量が大きく低い |
日本法では「誰に向けて上映するか」が問われます。知人10人への上映であれば「その観客は公衆か?」という問いに対して、関係性や人数を考慮した判断がなされます。
米国法では「その場所は公衆に開かれているか」が問われるため、たとえ個室であっても、その店舗やホテル全体が公衆に開放されていれば「公の上映」と判断されることがあります(後述の裁判例参照)。日本法のほうが利用者にとって予測可能性が高いといえます。
場所は判断を左右しない(日本法の場合)
「クローズドな場所を借り切れば問題ないのでは」という考え方は、日本法の下では必ずしも正しくありません。
日本法の判断基準は場所の公共性ではなく、観客が「公衆」に該当するかどうかです。プライベートスタジオでも公民館でも、その点は変わりません。場所をクローズドにすることは私的性質を補強する要素にはなりますが、それだけで問題がなくなるわけではありません。
営利性は直接の要件ではない
「無料でやるから問題ないはず」という考え方も、法的には正確ではありません。上映権侵害の成立要件に営利目的は含まれていません。ただし、非営利であることは実際のリスク評価や情状酌量の面では考慮される可能性があり、まったく無関係ではありません。
【参考原文】私的使用のための複製(第30条)
上映権とは直接異なりますが、「私的使用」の範囲を理解するために関連する条文です。
第30条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
「家庭内その他これに準ずる限られた範囲」という表現が、私的使用の境界を示しています。上映会の参加者がこの範囲に収まるかどうかが、解釈の鍵になります。
第4章 米国の裁判例が示すもの
日本で判例が少ないこの問題について、米国では1980〜90年代にかけて複数の訴訟が起きており、判断の難しさを具体的に示しています。
ビデオ上映サービスをめぐる代表的な裁判例
| 事件名 | サービス形態 | 判断 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| Redd Horne(1984年) | 個室でビデオ再生・店員が操作 | 侵害 | 店全体が公衆に開かれており、本質的に映画館と同じ |
| Aveco(1986年) | 個室でビデオ再生・顧客が操作 | 侵害 | 誰でも利用できるサービスであることが公の場の根拠 |
| Professional Real Estate(1989年) | ホテル客室でのビデオ視聴 | 非侵害 | 客室は借りられた時点で公ではなくなる |
| Video Views(1991年) | 個室での成人映画上映 | 侵害 | Redd Horne・Avecoの法理を採用 |
| On Command Video(1991年) | ホテルへの映像配信システム | 侵害 | 場所は公ではないが、送信相手が公衆にあたる |
裁判例が示す矛盾
Aveco判決(個室・顧客操作=侵害)とProfessional Real Estate判決(ホテル客室・顧客視聴=非侵害)は、サービス形態がほぼ同じにもかかわらず、第3巡回区と第9巡回区という異なる裁判所で正反対の結論が出ました。
同一の法律を適用しても裁判所によって結論が異なる——これが「法律では白黒はっきりしない」という現実を最もよく示しています。
【参考原文】米国著作権法における「公の実演」の定義(17 U.S.C. § 101)
To perform or display a work "publicly" means—
(1) to perform or display it at a place open to the public or at any place where a substantial number of persons outside of a normal circle of a family and its social acquaintances is gathered; or
(2) to transmit or otherwise communicate a performance or display of the work to a place specified by clause (1) or to the public, by means of any device or process, whether the members of the public capable of receiving the performance or display receive it in the same place or in separate places and at the same time or at different times.
日本語訳(参考):
著作物を「公に」実演または展示するとは——
(1) 公衆に開かれた場所、または家族及び知人の通常の集まりの範囲を超えた相当多数の者が集まる場所において実演または展示すること、あるいは
(2) 何らかの装置または方式を用いて、(1)で定める場所または公衆に対して、著作物の実演または展示を送信または伝達すること(受信者が同一の場所にいるか異なる場所にいるか、同時に受信するか異時に受信するかを問わない)。
米国法は「場所」を判断基準の中心に置いているため、個室の閉鎖性より店舗全体の公開性を重視する判断が生まれやすい構造になっています。
日本法との比較での示唆
米国法が「場所」に着目するのに対し、日本法が「人(観客が公衆か)」に着目するアプローチの方が、法的安定性と予測可能性の観点から優れているというのが論文の結論です。
日本で個人上映の問題を考えるにあたって、この「人基準」こそが判断の軸になります。
第5章 BDの利用制限表記について
市販のBDには「個人で楽しむ以外の用途・上映での使用は不可」といった表記があることがあります。これは著作権法上どのような意味を持つのでしょうか。
法的性質の整理
| 性質 | 説明 |
|---|---|
| 著作権法上の権利制限 | 該当しない——著作権法の規定ではなく、法律の根拠はありません |
| 使用許諾条件・利用規約 | 該当する——契約法上の問題として扱われます |
| 上映権侵害の間接証拠 | 著作権者の意思を示すものとして考慮される可能性があります |
有効性への疑問と消費者契約法
上映権はそもそも「公の上映」のみを対象とした権利です。
その上映権の射程外である「家庭内視聴」に制限を加えることは、権利の本来の範囲を超えているようにも思えます。
消費者の通常の使用を著しく制限するような条項は、消費者契約法により無効とされる可能性もあります。
ただしこれらは実際に裁判にならないと分からない部分です。
【原文】消費者契約法(第10条)
第10条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
「消費者の利益を一方的に害する条項は無効」という規定です。「家庭内のみ」「上映禁止」といった制限が消費者の通常の権利を不当に制限するものであれば、この条文により無効となる可能性があります。
ただし、表記が存在すること自体は「著作権者がこの使用を望んでいない」という意思を示すものとして、リスクを高める要素にはなります。
第6章 総合的なリスク評価
たとえば知人10人・購入済みBD・クローズド環境・非営利というケースを総合的に評価すると次のようになります。
リスクを下げる要素
- 参加者が知人の特定少数(10人)であること
- 非営利・無償の上映であること
- 参加者全員が正規品を所有していること
- クローズドな環境での開催
- 著作権者への経済的損失が実質的にほぼないこと
リスクを高める要素
- 著作権者が個人問合せを明確に拒絶していること
- BDに利用制限の表記があること
- 「特定少数」と「特定多数」の境界が不明確であること
- 場所を借りることによる一定の公的性質
結論
グレーゾーン内では比較的低リスク側にありますが、
「白(完全に問題なし)」と断言することはできません。
最終的には訴訟になった場合の裁判所の総合判断によります。
第7章 構造的な問題――制度と文化のはざまで
問い合わせができないジレンマ
本来、適法に上映したいなら著作権者に許可を求めることが正道です。しかし現実には:
- 著作権者は個人からの問合せに対応しないと宣言しています
- 権利団体も個人の上映については対応しません
- 結果として利用者はグレーゾーンに放置されます
著作権法第1条は「文化の発展に寄与する」ことを目的に掲げていますが、現状の運用はその趣旨から乖離している面があります。
同人誌との比較
二次創作同人誌は、厳密には著作権法上グレーな行為です。それでも実質的に黙認されているのは、原作の宣伝効果・ファンコミュニティの活性化など著作権者にとってもプラスの面があるからです。
個人の映画上映も本来は似た性質を持つはずですが、映画業界では映画館や配信サービスとの競合懸念から、同様の文化的合意が形成されていません。
フィルム時代からDCPへ
かつてフィルムが主流だった時代には、プリントの貸出によって小規模な自主上映が各地で行われていました。デジタル化(DCP)への移行により、KDM(上映許可鍵)による厳密な権利管理が導入され、小規模上映の機会は大幅に減少しました。
皮肉なことに、デジタル技術は配給コストを下げるはずでしたが、権利管理の強化によって逆に多様な上映の機会を奪う結果になっています。
まとめ
| 問い | 答え |
|---|---|
| 何が問題になるか | 上映権(第22条の2)——「公に」上映しているかどうか |
| なぜ問題になるか | 著作者は「公の上映」を独占的にコントロールする権利を持っているから |
| なぜ白黒はっきりしないか | 「公衆」の境界に法的数値基準がなく、事案ごとに裁判所が判断するから |
| 上映権における「公衆」とは | 不特定者または特定多数の者(第2条第5項)。日本法では「誰に向けた行為か」という人基準で判断されます |
| 頒布権は関係するか | しません。複製物の譲渡・貸与がない限り関係しません |
著作権法は権利者の保護と文化の自由な享受のバランスを取るために存在します。しかし現状では、そのバランスが個人の文化活動を萎縮させる方向に傾いている面があることは否定できません。
付録:関連条文一覧
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 著作権法 第1条 | 法律の目的(文化の発展への寄与) |
| 著作権法 第2条第5項 | 「公衆」の定義(特定多数を含む) |
| 著作権法 第2条第19項 | 「頒布」の定義 |
| 著作権法 第22条 | 上演権・演奏権(「公に」の定義を含む) |
| 著作権法 第22条の2 | 上映権 |
| 著作権法 第26条 | 頒布権 |
| 著作権法 第30条 | 私的使用のための複製 |
| 消費者契約法 第10条 | 消費者の利益を一方的に害する条項の無効 |
| 米国著作権法 17 U.S.C. § 101 | 「公の実演」の定義(参考) |
参考文献:安藤和宏「米国著作権法における『公の実演』概念に関する一考察」(早稲田大学大学院、2006年)
本文書は著作権法に関する議論を整理したものであり、法的アドバイスではありません。