この記事はドイツ工業規格で定められたエンターテイメントイベントに対する騒音規制の内容を調べたものです。
日本にはこういった規制がなく、世界的に比較的しっかり定められた欧州とくにドイツの規格の規定がどうなっているのか気になったので調べてみました。
DIN 15905-5:2022:電気音響システムによる観客の難聴防止措置
Entertainment Technology
Sound Engineering
Part 5: Measures to prevent the risk of hearing loss of the audience by high sound exposure
of electroacoustic sound systems
1. 本規格の目的と適用範囲
電気音響技術を用いたイベントにおいて、観客が過度な音響暴露による難聴リスクを負わないための測定・評価・管理手順。
主催者の安全義務を履行するための基準。
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根本的目的:
電気音響システムからの高出力放射による聴覚障害リスクの低減 -
音響暴露の前提:
観客が「週1回・約2時間」の音響暴露を受ける状況を基準としている -
適用対象:
ディスコ・コンサート・映画館・多目的ホール・屋外イベント・演劇・放送スタジオ等、PAシステムが使用され観客が立ち入る全エリア -
適用対象外:
- 緊急・災害時の拡声放送
- 観客自身が発生させる騒音(歓声等)
- 従事者の職業暴露(労働安全衛生基準の対象)
- 火薬類(パイロテクニクス)による爆発音
2. 重要用語の定義と記号
規格遵守の判定には、以下の指標および受音点定義を用いる。
| 記号 | 用語 | 定義 |
|---|---|---|
| $L_p$ | 音圧レベル | 基準音圧(20 μPa)に対する音圧レベル(dB) |
| $L_{Aeq}$ | A特性等等価騒音レベル | 指定時間内における、音エネルギー的に等価なA特性音圧レベル |
| $MI_A$ | 主要なA特性受音点 | 観客エリア内で、$L_{Aeq}$ が最大となることが予想される判定場所 |
| $MI_C$ | 主要なC特性受音点 | 観客エリア内で、$L_{Cpeak}$ が最大となることが予想される判定場所 |
| $EI$ | 代替受音点 | 観客ノイズを避け、拡声音を正確に監視するために設定する代替測定場所 |
| $T_r$ | 判定期間 | 判定レベルの算出基準となる時間(原則として連続する30分間) |
| $L_r$ | 判定レベル | MIA における $T_r$ ごとの $L_{Aeq}$ 算出式:$L_r = L_{Aeq,E} + K_A$ |
| $L_{Cpeak}$ | C特性ピーク音圧レベル | C特性で測定される瞬間的な最大音圧レベル |
3. 許容限界値
聴覚保護のため、以下の数値を上限として厳格に運用しなければならない。
| 項目 | 限界値 | 備考 |
|---|---|---|
| 判定レベル $L_r$(A特性等価騒音レベル) | 99 dB | 主要受音点 MIA において、各 $T_r$(30分) ごとの平均値 |
| 最大ピーク音圧レベル $L_{Cpeak,M}$(C特性最大瞬間音圧) | 135 dB | イベント全期間を通じ、いかなる瞬間も超過不可 |
4. 測定条件および測定不確かさ
測定結果の信頼性を担保するため、以下の機器精度と運用条件を遵守する。
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測定機器:
DIN EN 61672-1 のクラス2以上の精度 -
測定不確かさ
- クラス1機器:±1 dB
- クラス2機器:±1.5 dB
- 拡張係数 $k=2$ を適用し、包含確率約95%の信頼区間で評価する
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校正:
6ヶ月に1回の機能検査を推奨。モバイルシステムは各イベント前後に機能テストを実施 -
時間間隔:
判定レベル $L_r$ は、毎時0分および30分から開始される30分ごとの連続した区間で測定 -
リミッターによる特例:
適切に設定され、改ざん防止措置が施された技術的制限装置(リミッター)が導入されている場合、継続的な判定レベルの算出を省略できる場合がある(常設設備など)
5. 測定場所の選定と配置ロジック
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$MI_A$(A特性受音点):
中高域スピーカーの指向性と放射エネルギーに基づき、最も高い平均レベルが予想される位置を選定 -
$MI_C$(C特性受音点):
サブウーファー等の低域ユニットの影響を最も受け、ピークレベルが最大となる位置を選定 -
$EI$(代替受音点)の選定戦略:
- 観客による干渉を最小化するため、スピーカー近傍など拡声音が支配的な場所を選ぶこと
- 専門的知見として、環境ノイズの影響を抑えるために補正値(K値)が負の値になる位置にマイクロホンを設置することが推奨される
6. 補正値の測定と計算
代替受音点(EI)の数値を観客エリア($MI_A$/$MI_C$)のレベルに変換するため、イベント開始前に補正値を算出する。
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測定手順:
実際の配置完了後、40 Hz ~ 20,000 Hz のピンクノイズを用い、15秒以上測定 -
$K_A$ の算出
$K_A = L_{Aeq,M} - L_{Aeq,E}$ -
$K_C$ の算出(推奨手法)
ピーク値の差ではなく、C特性等価連続音圧レベル($L_{Ceq}$)の差分から算出することを推奨する。これにより、測定の再現性が向上する。
$K_C = L_{Ceq,M} - L_{Ceq,E}$ -
適用:
イベント中の判定は以下によりリアルタイムで行う。
$L_r = L_{Aeq,E} + K_A$
$L_{Cpeak,M} = L_{Cpeak,E} + K_C$
7. 運営上の保護措置と視覚表示
音響オペレーターは、制限値を超過する前にプロアクティブ(先行的)な調整を行わなければならない。
視覚表示システム(短時間平均レベル $T \ge 5$ 秒に基づく)
| 表示色 | レベル範囲 | 意味 |
|---|---|---|
| 🔴 赤色 | > 99 dB | 直ちにレベル低減が必要 |
| 🟡 黄色 | 95 dB ~ 99 dB | 注意状態、制限値への接近 |
その他の義務事項
- 85 dB以上:聴覚リスクの通知義務
- 95 dB以上:DIN EN 352準拠の耳栓(Gehörschutz)の提供義務
- 120分超の露出:判定レベルをさらに厳格に制限するか、追加の自己防衛策を通知
- 通知手段:入場券、ポスター、チラシ、場内アナウンス、視覚表示パネル等による具体的な提示
8. 測定記録の必須項目
規格遵守の証跡として、以下の項目を網羅した記録を保存する。
- 主催者名、イベント名、日時、場所
- 測定者および音響担当者(DJ、FOHエンジニア等)の氏名・署名
- 使用機器(クラス、シリアル番号)および校正記録(イベント前後の偏差)
- 受音点($MI_A$, $MI_C$, $EI$)の選定理由・根拠(システム配置に基づく妥当性)
- 算出された補正値($K_A$, $K_C$)とその測定データ
- 全判定期間($T_r$ = 30分)ごとの $L_r$ および最大 $L_{Cpeak}$
- 運用中にレベル低減指示を行った場合はその記録
