SMPTEにおける映画音響規格体系について
SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers、エスエムピーティーイー)
米国映画テレビ技術者協会
SMPTE ST 202:2010 / B-Chain Electroacoustic Response
Bチェーン電気音響応答
全規格の起点となる基幹規格。
X-Curveの定義、ピンクノイズ+1/3オクターブRTAによる測定方法、中規模劇場向け目標特性(Table 1)と許容誤差を規定。
ST 202-2010, Motion-Pictures - Dubbing Theaters, Review Rooms and Indoor Theaters - B-Chain Electroacoustic Response.pdf
SMPTE RP 200:2012 / Relative and Absolute Sound Pressure Levels for Motion-Picture Multichannel Sound Systems
映画マルチチャンネル音響システムの相対・絶対音圧レベル
ST 202のコンパニオン文書。
周波数特性ではなく絶対・相対音圧レベルを規定。
基準レベル85 dBC、LFEチャンネルのRTAによるin-band gain設定(デジタル音源で+10 dB)など、レベル管理の実務を定めている。
SMPTE RP 2096-1:2017 / Cinema Sound System Baseline Setup and Calibration
シネマ音響システム ベースライン設定・較正
ST 202・RP 200を上位規格として参照しつつ、FFT/トランスファーファンクション測定を主軸とした現代的なベースライン較正手順を体系化した文書
50ページと最もボリュームがあり、実務手順の核心となる部分
RP2096-1-2017, Cinema Sound Calibration.pdf
SMPTE RP 2096-2:2017 -/ Cinema Sound System Maintenance Calibration
シネマ音響システム メンテナンス較正
RP 2096-1のベースラインデータを前提とした定期メンテナンス用の簡略手順書
マイク1本・1点での測定で前回との±1 dB以内の一致を確認
ベースラインデータが入手不可能な場合は本手順を実施できず、2096-1の再実施が必要
RP2096-2-2017, Cinema Sound System Maintenance Calibration.pdf
SMPTE ST 2095-1:2023 / Calibration Reference Wideband Digital Pink Noise Signal
較正基準ワイドバンドデジタルピンクノイズ信号
テスト信号そのものを定義する規格
較正作業の入力信号の品質を標準化する目的で作られています。ST202・RP200・RP2096-1/2 のいずれもこれを参照。
SMPTE ST 2095-12023 Calibration Reference Wideband Digital Pink Noise Signal .pdf
ST-2095-Generator.py
文章体系
ST 2095-1:2023 ──── テスト信号の定義
(ピンクノイズ信号規格)
│
│ 下記の文章で参照
↓
ST 202:2010 ──────── 周波数特性(X-Curve)
│
├──► RP 200:2012 ─── 絶対・相対SPLレベル
│
└──► RP 2096-1:2017 ── ベースライン較正手順(ST 202・RP 200を基本とした最適手順)
│
└──► RP 2096-2:2017
メンテナンス較正
ST202 / RP200で規定された手順
前提:
ST202/RP200においては規定された時代背景から、測定はRTA/騒音計を使ったものを想定されておりFFT/TF測定は条件等が提示されていない。
テスト信号
ワイドバンドピンクノイズ
要件
・25Hz〜20kHzで±0.5 dB以内のフラット応答
・電気的ノイズジェネレーター使用
・光学・磁気テストフィルム不可
(Bチェーン単独測定のため)
・ST 2095-1準拠が望ましい
Aチェーン・Bチェーン
測定範囲はBチェーンの測定となるのでAチェーン・Bチェーンの境界にテスト音源を接続する

測定機材
・1/3オクターブ リアルタイムアナライザー(RTA)
→ 主測定機材
・騒音計
→ レベル確認用
→ C特性Slow読みが可能なもの
・キャリブレーション済み小径マイク
→ 1/4〜1/2インチ
→ 無指向性・プレッシャー型推奨
→ マイク向き: 直接音に対して90°(天井向き)
測定ポイント
【劇場】
- プライマリ位置:
スクリーンから2/3L地点(Sポイント) - 追加位置:
標準偏差3dB未満になるまで(通常4点) - 制約:
壁から1.5m以上
スクリーンから5.0m以上離れていること
床上1.0〜1.2m(着席耳高)
【ダビングステージ】
ミキサー各席・プロデューサー席など主要ポジション全て
【空間平均の計算】
1点測定だと反射による定在波の影響があり正しい評価とならない。
複数測定点での測定を実施した後に、それぞれの箇所の測定点を下記の計算にて平均して評価する。
SPL = 10×log10[(1/N)×Σ10^(Lk/10)]

4点測定の場合

※レンジ4dB以内なら算術平均可
測定手順
-
背景雑音(バックグラウンドノイズ)確認
→ テスト信号より10dB以上低いこと -
各チャンネルを個別に順番に測定
Front L → C → Front R → サラウンド各ch -
ピンクノイズ印加・RTA読み取り
→ 1/3oct・周波数重みづけなし・
→ 低域は20秒以上の時間平均
→ 詳細は下記の周波数特性(ST 202 Table 1)を参照 -
空間平均を算出
-
X-Curveターゲットと比較・EQ調整
-
レベル確認(騒音計C特性)
→ 騒音計C特性Slow読みで測定
→ 詳細は下記のレベル(RP 200)を参照
判定基準
【周波数特性(ST 202 Table 1)】
中規模劇場(200〜500席)基準:
帯域 基準値 許容差(+/-)
50Hz〜2kHz : 0 dB +3/-3 dB
2.5kHz : -1 dB +3/-3 dB
3.15kHz : -2 dB +3/-3 dB
4kHz : -3 dB +3/-3 dB
5kHz : -4 dB +3/-3 dB
6.3kHz : -5 dB +3/-3 dB
8kHz : -6 dB +3/-3 dB
10kHz : -7 dB +3/-4 dB
12.5kHz : -9 dB +3/-5 dB
16kHz : -11 dB +3/-6 dB
LFE :
25Hz〜120Hz ±3 dB以内フラット (ST 202 Section 6.3)
測定条件補足
RTAの制約で1/3オクターブでなく1/1オクターブを使用時は
許容差の上限下限(Tolerances)を1dB厳しくすること
(Xカーブに関する豆知識)
このカーブは歴史的な背景から映画館などの劇場のみに適用する。
(ダビング工程でXカーブに調整しているため)
ホームシアターなど家庭用フォーマットはすべてフラット特性で調整する規定となっているため、Xカーブで調整すると高域が足りないこもった音となる。
【レベル(RP 200)】
騒音計C特性Slow読みで測定
(RTA測定はオクターブバンドごとのレベル値になるので異なる)
- スクリーン各ch : 85 dBC(±0.5 dB以内の均一性)
- サラウンド2ch : 各ch 82dBC(-3dB)(同時再生の和=85 dBC)
(こちらの資料は規格ではなくインターネットより引用したイメージ図)

(レベルに関する豆知識)
-
サラウンドチャンネルが-3dBな理由
歴史からサラウンドチャンネルが元々モノラルサラウンドチャンネルを両方のサラウンドスピーカーを鳴らすことが多くチャンネルの信号が相関していて、2つのスピーカーチャンネル間のリスニングポジションで3dB加算されて聞こえるという歴史的な理由があるため
そのためホームシアターシステムは、ITU-R BS.775-2の推奨事項に従い、5つのスピーカーすべてを同じレベルに設定します -
LFEが+10dBな理由
LFE素材が定義上、低周波効果音(爆発音など)のみであるため。
通常のステレオ信号の低周波成分はメインのステレオスピーカーで再生する必要がある。
ホームシアターシステムなどはメインのステレオスピーカーの低域補強目的でメインチャンネルの低域信号のみをLFEへ加算するシステムがあるのでこの調整とはならない。
現代版のSMPTE RP 2096-1・SMPTE RP 2096-2に関しては続けて記載するつもりでしたが、長くなったので別記事にして後日公開します・・・




