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アメンボでもわかる流体力学の基礎:ナビエ-ストークス方程式の導出まで

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Last updated at Posted at 2025-10-25

0. はじめに

0.1 流体力学は難しすぎる

 アメンボでも分かると銘打ったのはなにも冗談や煽りではありません。いいえ、多少は冗談のつもりでもあるのですが、これは何よりアメンボ(自分)でも理解できるということを第一の目標に掲げたからなのです。
 流体力学の資料や教科書、そしてネット記事までもが非常に難しいものばかりだという感覚が私にはあります。こうも全てが難しいと感じるのはもちろん私の不勉強のせいでしょうが、そもそも流体力学という学問ジャンルは前提知識が多いということがあると思います。さらに、その前提知識は多くの場合流体力学の教科書や記事には載っていません。
 物理系の学部で流体力学をやるのは普通三年生か四年生です。ですから、教科書にしろ、ネット記事にしろ、「流体力学に触れるひとは連続体の考え方、古典力学の知識、電磁気学で習うベクトル解析の基礎知識くらいはあるよね?」という前提に立っているのではないでしょうか。
 この記事では高校までの基礎的な数学の知識(ベクトル、微分積分)を仮定して、できるだけ易しく流体力学のさわりの部分を文章にしました。大学では物理学に触れていなかったけれど物理学に興味を持ち始めたというエンジニアの方学部の一年生の方にも読んでいただける内容を目指しています。
 特に、自分自身が理解に苦しんだ箇所は構成の美しさを犠牲にしても細かく書くようにしました。そのような事情で、冗長な表現になっている箇所は多々あると思います。また、私自身初学者ですので記事は学びに応じて適宜更する予定です。

0.2 本記事の流れ

 流体力学の基礎方程式であるナビエ–ストークス方程式はニュートンの運動の法則を流体に適用することで得られます。本記事では、以下の流れでナビエ–ストークス方程式を導出します。

  1. 準備:流体力学の考え方
    1.1. 場とは何か
    1.2. 連続体力学とは何か
    1.3. ラグランジュ記述
    1.4. オイラー記述

  2. 質量保存則
    2.1. 積分型の質量保存則
    2.2. 連続の式
    2.3. 非圧縮性流体の連続の式

  3. 運動量保存則
    3.1. 運動方程式と運動量保存則
    3.2. 流体に適応した運動方程式
    3.3. コーシーの運動方程式

  4. ナビエ-ストークス方程式の導出
    4.1. 応力テンソル
    4.2. ニュートン流体
    4.3. 可圧縮流体のナビエ-ストークス方程式
    4.4. 非圧縮流体のナビエ-ストークス方程式

1. 準備:流体力学の考え方

1.1. 場とは何か

 field)という言葉はれっきとした物理用語です。場という言葉は日常ではしばしば「憩いの」や「社交の」などのように「場所」の意味で使います。
 対して、物理学における場とは時空(時間と空間)の各点に関わる物理量です。代表的な場には磁場、電場、重力場などがあります。
 時空とは時間と空間の組です。時間の点は$t$で表され、これは大きさだけを持つスカラー量です。空間の点は$\boldsymbol{x}$や$\boldsymbol{r}$で表され、通常複数の座標成分を持っているのでベクトルです。私たちの住む世界は三次元のなので、位置ベクトルは典型的には三次元のベクトルですが、束縛条件によっては二次元として扱うこともあります。
 時空そのものもベクトルとして扱うことができます。詳しく知りたい方は「特殊相対性理論」や「四元ベクトル」で調べてみると面白いかもしれません。流体力学では相対論的な効果が表れることはまずありえないので、「時空というのはベクトル$\boldsymbol{x}$とスカラー$t$の組$(\boldsymbol{x},t)$だな」くらいに思っておけば問題ないと思います。
 ここまで少し抽象的でしたので、日常的な例で天気を考えてみましょう。天気については時空のある点(日時と場所)に対して湿度、温度、風向きなどの物理量が定まります。これは完全に場の定義に当てはまります。つまり、天気図をみて、地図上に風向きの細かい矢印が沢山描かれているのを見たことがあるという方はすでに「場」の考え方を使った経験があります。
 場は通常多変数関数(複数の変数をもつ関数)の形で表現されます。そして主に三種類の場があります。
 第一の場はスカラー場です。時空のある点$(\boldsymbol{x},t)$という入力に対して、スカラーを返す関数の形で表されるものをスカラー場といい、

$$
\rho(\boldsymbol{x},t)\tag{1.1}
$$

のように書きます。スカラーとは大きさのみをもつ単一の量です[1]。天気の例で言えば「湿度」や「気圧」がベクトル場に相当します。
 第二の場はベクトル場です。ベクトルを返す関数の形で表されるものをベクトル場といい、

$$
\boldsymbol{v}(\boldsymbol{x},t)\tag{1.2}
$$

のように書きます。数学においてはベクトルには厳密な定義(ベクトル空間に関する八つの公理による定義)がありますが、応用上はより素朴に向きと大きさを持つもの、または非可換な複数の要素を持つものをベクトルと呼びます。IT系の方はlisttupleがベクトルだと考えれば分かりやすいかもしれません。しかし、setはよく似た複数の要素を持つイテラブル(反復可能オブジェクト)ですが、ベクトルではありません。なぜならsetは順序を保持しないからです。setはその名の通り集合です。
 第三の場はテンソル場です。テンソル場はテンソルを返し、

$$
\boldsymbol{\sigma}(\boldsymbol{x},t)\tag{1.3}
$$

と表されます。これはあまり頻出ではありませんが、流体力学においては避けては通れない場です。テンソルの多くは複雑すぎて生の観測量ではありません。いくつかの観測量に分解され、そこから算出されます。テンソルとはベクトルを別のベクトルに変換するものです。テンソルは普通行列で表されるので両者はしばしば同じ意味で用いられます。ただ、テンソル自体にはもっと広い意味があります。例えばあるベクトル$\boldsymbol{A}$をスカラー$\lambda$を用いて$\lambda\boldsymbol{A}$にスカラー倍するとき、$\lambda$は「ベクトルを別のベクトルに変換する」というテンソルとしての仕事を立派にしています。スカラー量をテンソルとして見るときは$0$階(ランク$0$)のテンソルと言います。またベクトルもベクトルを変換できるのでテンソルです。ベクトルは$1$階テンソル、二次元行列は$2$階のテンソルです。より高階なテンソルを定義することもできますが、物理学で登場するほとんどのテンソルは$2$階です。
 ちなみに、工学の分野では場のことをとも言います。したがって、工業製品のマニュアルに記載されている「電界」や「磁界」という言葉は「電場」や「磁場」と同じ意味です。

1.2. 連続体力学とは何か

 連続体力学とは、対象を連続体という空間的広がりを持った柔らかく滑らかな物体として理想化し、記述する分野です。ここでの連続体は数学用語の連続体とは全く関係のない別の概念です。連続体には弾性体や、この記事で今後扱う流体があります。剛体は柔らかくない(力を加えても変形しない)ので連続体ではありません。
 連続体力学では分子構造のような内部のミクロ(微視的)な構造の情報には注目しません。あくまでマクロ(巨視的)な性質のみに注目し、マクロな観測量からマクロなふるまいを予測します。
 例えば、水槽に入った純水の密度分布(これはスカラー場です)を考えるときに水分子の内部構造、原子量、ファンデルワールス力、そして全ての分子に対して気の遠くなるほどの膨大な運動方程式を計算するのは非現実的です。こういう場合「水槽の中身は均一だ」という仮定の下で、マクロな観測量、つまり水槽を満たす純水の体積$V$と質量$M$を用いて密度は水槽内のどこでも$\rho = M/V$だと結論付けるのが適切です。
 しかし、水槽に食塩を投下し、水槽の下のほうは塩分濃度が高くて密度が高いというようなシチュエーションになるとちょっと困ってしまいます。密度に勾配があるという状況です。こうなると、やはり、ある点での密度にもきちんとした定義が必要そうです。
 ここで活躍するのが粗視化の手続きです。ある点の密度はその点近傍での微小体積当たりの微小質量$\delta M/\delta V$として定義します。このとき微小体積$\delta V$は小さすぎてはいけません。ここで言う微小体積は数学的に定義される極限ではありません。連続体力学における「微小」は基本的には量子的な効果が表れないスケール、少なくとも原子数千個から数万個が入る程度の大きさを暗黙的に仮定していると思ってください。そうしなければ統計的な扱いができず、密度関数(密度場)を連続関数として扱えないからです。
 このように連続体として粗く見ることで連続体上に様々な物理量の(多くの場合微分可能で)連続的な場を定義できます。場は基本的な物理法則に支配されており、それぞれ数式でがっちりと結びついています。ナビエ-ストークス方程式もまた流体における様々な場の関係を記述したものです。

1.3. ラグランジュ記述

 まずは流体力学の基本になる重要な二つの考え方を紹介します。それが、オイラー記述(またはオイラー的観測)とラグランジュ記述(またはラグランジュ的観測)です。
 ラグランジュ記述では、流体とともに移動する個々の粒子に注目し、その粒子の状態の時間発展を調べて記述します[2]。例えば、流れる川(流体)の状態をラグランジュの方法で記述するには、川面に浮かぶ一枚ないし何枚かの落ち葉の運動を観察すればよいというのです。落ち葉は流れに沿って運動するでしょうから落ち葉の速度を観察すれば川の流れの速さも直ちに分かるでしょう。
 水や空気の流れはそのまま見ることができないので実験ではラグランジュの方法は非常に便利です。流体の運動を可視化するため、流体に加えられるこの落ち葉のようなものをトレーサーといいます。トレーサは化学的な反応性が低く、軽くて、能動的に動く(泳ぐ)ことのないものが望ましいです。

1.4. オイラー記述

 オイラー記述では、空間中の固定された各点に注目し、その点で定まる物理量の時間発展を記述します。直感的ではありませんが、流体力学において非常に重要な考え方がここに含まれています。オイラー記述は流体を連続体と見なし、その連続体におけるを記述しようという試みです。
 例えば、川の状態が分かるというのは、どの点でどのような流れがあるかを知るということとも考えられるのではないでしょうか。例えば曲がった川では外側の岸の流れは速く、内側の岸の流れは遅いということが知られています。このような場合、川の各座標において、ここではこの向きにこの速さの流れがあるという情報が知りたくなります。さらにその情報は時間とともに刻々と変化しているかもしれません。
 オイラー記述ではこのような状況で川の各時間の各点に対して流速を表す矢印を書いていきます。これが場によるオイラー記述です。場には定義域のすべての情報が含まれています。

2. 質量保存則

2-1. 積分型の質量保存則

 連続体中の任意の閉じた領域$V$内の質量保存則は次の積分方程式で表されます。

$$
\boxed{\frac{d}{dt} \int_V \rho dV + \int_{\partial V} \rho \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n} dS = 0}\tag{2.1}
$$

 数式アレルギーの方はここに来てゾッとしてしまったかもしれません。なにやら仰々しいような感じがします。しかし、一つひとつの文字の意味を理解すれば恐れるほどのものではありませんので、丁寧に見ていきましょう。
 まず、それぞれの変数は次のような意味を持っています。

  • $\rho(\boldsymbol{x},t)$:質量密度
  • $\boldsymbol{v}(\boldsymbol{x},t)$:速度場
  • $\partial V$:領域$V$の境界
    • $\partial V$を単に$S$と書くこともあります
  • $\boldsymbol{n}$:$\partial V$における外向き法線ベクトル
    • $S$の接平面に対して垂直な単位ベクトルです
    • $\boldsymbol{n} dS$をまとめて$d\boldsymbol{S}$と書くこともあります

 ここからは、左辺第一項と第二項の物理的な意味を解説します。第一項は「領域内の単位時間当たりの質量増加量」、第二項は「領域内の単位時間当たりの質量減少量」です。どういうことでしょうか。
 まず、左辺の第一項に登場する積分$\int_V \rho dV$は密度の体積積分(体積分とは言いません)、すなわち領域内の全質量を意味しています。それに時間微分$\frac{d}{dt}$が加わっているので、第一項全体の意味は「領域内の単位時間当たりの質量増加量」となるのです。
 第二項は質量流束と呼ばれる面積分(または面積積分)です。ここでは、境界表面$\partial V$で質量流束密度$\rho \boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n}$という量を面積分しています。質量流束密度はベクトルの内積ですからスカラーであり、質量流束もまたスカラーです。質量流束密度は面上のある点において単位時間当たりどれだけの質量のものが流出したかを意味しています。法線ベクトルがあることで様々な向きの流れから一方向にどれだけ流れたのかというスカラー量を抽出できるのです。流入している場合はベクトル同士のなす角が$\pi/2$を超えるので質量流束密度は負の値を取ります。法線ベクトルの定義はわざわざ書かれないことが多いですが、この向き次第で式の正負が入れ替わってしまうので注意が必要です。
 質量流束密度を面積分した値である質量流束はその面を単位時間当たりどれだけの質量のものが通過したかを意味します。今回の場合は、閉じた領域の表面を考えているので第二項全体は「単位時間でその領域からどれだけの質量が流出したか」を意味します。言い換えればこれは「領域内の単位時間当たりの質量減少量」です。
 ここまで来れば、式全体の意味はほとんど自明です。減少量とはすなわち負の増加量です。つまり、

$$
(領域内の質量増加量) = - (領域内の質量減少量)\tag{2.2}
$$

であり、

$$
(領域内の質量増加量) + (領域内の質量減少量) = 0\tag{2.3}
$$

であるという非常にシンプルな事実から最初の質量保存則が導かれるのです。

2-2. 連続の式

 先ほど示した積分型の質量保存の法則を微分型にすると有名な連続の式を導くことができます。まず、積分型の質量保存の法則では積分領域の次元が$V$と$\partial V$で異なるのでそのまま内部を比較できません。そこでガウスの発散定理を用いて、

$$
\int_V \frac{\partial \rho}{\partial t} dV + \int_V \nabla \cdot (\rho \boldsymbol{v}) dV = 0\tag{2.5}
$$

と変形します[3]。第一項は単に時間微分を積分の内側に入れただけです。$\rho$は$\boldsymbol{x}$と$t$の多変数関数なので常微分$\frac{d}{dt}$を偏微分を意味する$\frac{\partial}{\partial t}$に書き換えています。問題はGaussの発散定理を適用した第二項です。この変形は一見魔法のようで驚くかもしれませんが、落ち着いてみれば直感によく合致します。$\nabla \cdot (\rho \boldsymbol{v})$はベクトルの湧き出しと呼ばれるものです。領域内の各点で定まる湧き出しの体積積分がその領域を囲む閉曲面における総流出量なのだと理解すればこれは自然な式だと言えるのではないでしょうか。
 それでも納得できない、数学的にきちんと理解したいという方は解析学の本か、電磁気学の本のストークスの定理グリーンの定理の章を参照するとよいかと思います。
 とにかく、この操作で積分領域が$V$に統一されたので、

$$
\int_V \bigg\lbrace \frac{\partial \rho}{\partial t} + \nabla \cdot (\rho \boldsymbol{v}) \bigg\rbrace dV = 0\tag{2.6}
$$

と繋げて書くことができるようになりました。$V \ne 0$として、上の式は任意の$V$に対して成り立つため、

$$
\boxed{\frac{\partial \rho}{\partial t} + \nabla \cdot (\rho \boldsymbol{v}) = 0}\tag{2.7}
$$

と書くことができます。これが連続の式です。この式は質量保存則と同値ですが、局所的な場のふるまいを記述する式として成立している点が優れています。

2.3 非圧縮性流体の連続の式

 また、特に非圧縮流体(水や油など圧力を加えてもほとんど体積が変化しない流体)では密度が一定で、

$$
\rho = \text{const.}\tag{2.8}
$$

となるため、

$$
\frac{\partial \rho}{\partial t} = 0\tag{2.9}
$$

です。このとき、連続の式は

$$
\boxed{\nabla \cdot \boldsymbol{v} = 0}\tag{2.10}
$$

となります。この式は後ほど使います。流体力学では多くの場合扱う流体の非圧縮性を仮定します。空気などの気体は圧力を加えることで、体積が変化しますが、実際には特別な状況を除いて、多くの状況で非圧縮性流体として計算しても差し支えありません。
 ちなみに、$\nabla \cdot \boldsymbol{v}$は「湧き出し」の他に「$\boldsymbol{v}$の発散」や「ダイバージェンス$\boldsymbol{v}$」などとも言います。ベクトル場の発散はナブラ演算子を使わずに$\mathrm{div} \boldsymbol{v}$のように書くこともできます。教科書ではむしろそのような表記が多いかもしれません。ただ、最近の物理学の論文ではナブラ演算子を使った表現のほうが一般的なので、おススメはナブラ演算子を使う方です。

3. 運動量保存則

3.1. 運動方程式と運動量保存則

 まず、普通の質点の運動を考えます。質量$m$の質点が力$\boldsymbol{F}$を受けるとき、ニュートンの運動方程式は、

\boldsymbol{F} =  m \frac{d^2 \boldsymbol{x}}{dt^2} = \frac{d}{dt}\bigg(m\frac{d \boldsymbol{x}}{dt}\bigg) = \frac{d}{dt}(m\boldsymbol{v})\tag{3.1}

と表されます。ここで、運動量$\boldsymbol{p} = m \boldsymbol{v}$を使うと、

$$
\boxed{\boldsymbol{F} = \frac{d \boldsymbol{p}}{dt}}\tag{3.2}
$$

となります。高校物理ではこの表記は見慣れないかもしれませんが、これも運動方程式です。高校では運動方程式は「質量と加速度の積と力を関係づけるもの」と習うかもしれません。それは間違いではありませんが、より物理学において本質的な量(保存量)は加速度よりはむしろ運動量であり、運動方程式は「運動量の時間微分と力を関係づけるもの」と言えるのです。
 $\boldsymbol{F}=0$なら運動量は保存され、

$$
\frac{d \boldsymbol{p}}{dt}=0\tag{3.3}
$$

となります。$\boldsymbol{p}$は時間変化しないということです。これが運動量保存則です。

3.2 流体に適応した運動方程式

 流体における領域$V$内の運動量を考えます。この領域内の総運動量$\boldsymbol{P}_V$は、運動量の定義より明らかに

$$
\boldsymbol{P}_V = \int_V \rho\boldsymbol{v} dV\tag{3.4}
$$

です。心配な方は次元解析をして単位を確認してみてください。
 ただし、ここで質量密度$\rho$や速度場$\boldsymbol{v}$はそれぞれ$\rho(\boldsymbol{x},t)$、$\boldsymbol{v}(\boldsymbol{x},t)$のように時間の関数であり、そこから導かれる総運動量$\boldsymbol{P}_V$もまた$\boldsymbol{P}_V(t)$のように表される時間の関数です。
 さて、運動方程式とは「運動量の時間微分と力を関係づけるもの」でした。$\boldsymbol{P}_V$の時間微分を書き下すことができれば、流体の運動方程式を導くことできます。
 実際、運動量$\boldsymbol{P}_V$の時間変化は

$$
\boxed{\frac{d}{dt} \int_{V} \rho \boldsymbol{v} dV=- \int_{\partial V} \rho \boldsymbol{v} (\boldsymbol{v} \cdot \boldsymbol{n}) dS+ \int_{V} \rho \boldsymbol{f} dV+ \int_{\partial V} \boldsymbol{\sigma} \cdot \boldsymbol{n} dS}\tag{3.5}
$$

と表されます。右辺第一項は移流による運動量変化、第二項は体積力、第三項は表面力と呼ばれています。これはニュートンの運動方程式をそのまま流体に適応したものです。
 ここで新しく登場する文字には次のような意味があります。

  • $\boldsymbol{f}$:体積力
    • 重力や慣性力などが該当します
    • 加速度の次元を持っています
  • $\boldsymbol{\sigma}$:応力テンソル
    • 応力テンソルは、物体内部でどの方向の面にどのような力が働いているかを記述する二階のテンソル(あるベクトルを別の変換するもの)です
    • $\boldsymbol{\sigma} \cdot \boldsymbol{n}$は面にかかる力のベクトルを意味します。つまり、応力テンソルは法線ベクトルを面にかかる力へと変換するテンソルです

応力テンソルはかなり難しい概念なので、完璧に理解せずに次のステップに進んで、時々戻るというのでもよいと思います。
 さて、ここでガウスの発散定理より表面力は、

$$
\int_{\partial V}\boldsymbol{\sigma}\cdot\boldsymbol{n}dS=\int_{V}\nabla\cdot\boldsymbol{\sigma}dV\tag{3.6}
$$

となります。
 また、同じく積分型の運動量保存則のうち移流による運動量変化は、

$$
-\int_{\partial V} \rho \boldsymbol{v} (\boldsymbol{v}\cdot\boldsymbol{n})dS= -\int_{V} \nabla\cdot(\rho\boldsymbol{v}\otimes\boldsymbol{v})dV\tag{3.7}
$$

と変形できます。記号$\otimes$はテンソル積と呼ばれるもので、外積ではありません。テンソル積は、

(\boldsymbol{a}\otimes\boldsymbol{b})_{ij}=a_i b_j\tag{3.8}

と定義されます。つまり、二つのベクトルのテンソル積はベクトルではなくテンソルです。式(3.7)の証明は右辺について$\boldsymbol{T}=\rho\boldsymbol{v}\otimes\boldsymbol{v}$とおいたとき、$(\boldsymbol{T}\cdot\boldsymbol{n})_j=\rho v_j (\boldsymbol{v}\cdot\boldsymbol{n})$となることからただちに導かれます。
 したがって、微分型の運動方程式は、

$$
\boxed{\frac{\partial(\rho\boldsymbol{v})}{\partial t}+\nabla\cdot(\rho\boldsymbol{v}\otimes\boldsymbol{v})= \rho\boldsymbol{f}+\nabla\cdot\boldsymbol{\sigma}}\tag{3.9}
$$

となります。

3.2. コーシーの運動方程式

 先ほど導いた運動方程式に質量保存則を加えてみましょう。つまり、先ほどの式に連続の式を加えるのがこの章のゴールです。
 まず、ここで、運動方程式の左辺第一項の時間微分は高校数学でも習う積の微分なので、

$$
\frac{\partial(\rho\boldsymbol{v})}{\partial t}= \rho\frac{\partial\boldsymbol{v}}{\partial t}+ \boldsymbol{v}\frac{\partial\rho}{\partial t}\tag{3.10}
$$

となります。
 また、発散項にも積の法則を適用でき、

$$
\nabla\cdot(\rho\boldsymbol{v}\otimes\boldsymbol{v}) = \boldsymbol{v}(\nabla\cdot(\rho\boldsymbol{v}))+ \rho(\boldsymbol{v}\cdot\nabla)\boldsymbol{v}\tag{3.11}
$$

となります。
 式(3.10)及び式(3.11)を式(3.9)に代入すると次の式のようになります。

$$
\rho\frac{\partial\boldsymbol{v}}{\partial t}+ \boldsymbol{v}\frac{\partial\rho}{\partial t}+ \boldsymbol{v}(\nabla\cdot(\rho\boldsymbol{v}))+ \rho(\boldsymbol{v}\cdot\nabla)\boldsymbol{v}= \rho\boldsymbol{f} + \nabla\cdot\boldsymbol{\sigma}\tag{3.12}
$$

ここで$\rho$と$\boldsymbol{v}$でくくってをまとめると、

$$
\rho\left(\frac{\partial\boldsymbol{v}}{\partial t}+ (\boldsymbol{v}\cdot\nabla)\boldsymbol{v}\right)+ \boldsymbol{v}\left(\frac{\partial\rho}{\partial t}+ \nabla\cdot(\rho\boldsymbol{v})\right)= \rho\boldsymbol{f} + \nabla\cdot\boldsymbol{\sigma}\tag{3.13}
$$

となります。そして連続の式(2.7)より、式(3.13)の左辺第二項が消えて最終的に

$$
\boxed{\rho\left(\frac{\partial\boldsymbol{v}}{\partial t}+ (\boldsymbol{v}\cdot\nabla)\boldsymbol{v}\right)= \rho\boldsymbol{f} + \nabla\cdot\boldsymbol{\sigma}}\tag{3.14}
$$

が得られます。
 これが質量保存を考慮した運動方程式の微分形です。この時点で有名なダブルピース顔文字$(\boldsymbol{v}\cdot\nabla)\boldsymbol{v}$が登場しており、かなりナビエ-ストークス方程式っぽい外観になっています。この方程式はとくにコーシーの運動方程式と呼ばれています[4]。
 式(3.14)において左辺の括弧内を物質微分といいます。物質微分は、

$$
\frac{D\boldsymbol{v}}{D t}\equiv\frac{\partial\boldsymbol{v}}{\partial t}+ (\boldsymbol{v}\cdot\nabla)\boldsymbol{v}\tag{3.15}
$$

と定義されます。つまり、同じ方程式は、

$$
\frac{D\boldsymbol{v}}{D t}=\boldsymbol{f}+\frac{1}{\rho}\nabla\cdot\boldsymbol{\sigma}\tag{3.16}
$$

と簡単に書くこともできます。
 これ自体も流体のふるまいをきちんと記述しています。しかし、ここまで$\boldsymbol{\sigma}$とは何なのかについてしっかり書いてきませんでした。この方程式を実在の流体に適応して使うためには$\boldsymbol{\sigma}$の中身を具体的でマクロな観測量で書き下す必要があります。
 次の章では多くの流体がもつと予想される性質(ニュートン流体であること、非圧縮性)を仮定して、この式を一般的なナビエストークス方程式にします。

4. ナビエ–ストークス方程式

4.1 応力テンソル

 ナビエ–ストークス方程式を導くためには、流体内部に働く応力を正確に表す必要があります。流体中の一点には、周囲の流体からさまざまな方向に力が作用しています。その力の分布を数学的に記述するのが応力テンソル$\boldsymbol{\sigma}$です。応力テンソルは、$3\times3$の行列で表されます。
 流体における応力は、大きく「流体を等方的に押す圧力による応力」と「流体の変形や速度勾配に伴って生じる粘性による応力」に分けて次のように表現することができます。

$$
\boldsymbol{\sigma} = -p\boldsymbol{I} + \boldsymbol{\tau}\tag{4.1}
$$

登場する文字の意味はそれぞれ次のように定義されています。

  • $p$:圧力
  • $\boldsymbol{I}$:単位テンソル
    • 対角成分が1のテンソル
  • $\boldsymbol{\tau}$:粘性応力テンソル

 次に、この応力テンソルが流体のコーシーの運動方程式に対してどのように関わるかを見てみましょう。流体中の微小な体積要素に作用する力の総和、すなわち体積力はコーシーの運動方程式におてい応力テンソルの発散で与えられます。体積力の項に$\boldsymbol{\sigma} = -p\boldsymbol{I} + \boldsymbol{\tau}$を代入すると、次のように展開できます。この証明はこの章の最後で行います。

$$
\nabla \cdot \boldsymbol{\sigma} = -\nabla p + \nabla \cdot \boldsymbol{\tau}\tag{4.2}
$$

 この式は、流体要素に働く力が「圧力の勾配による力」と「粘性による力」に分かれることを意味しています。
 先ほどの式の証明を行う前に添え字を使ったテンソル表示について軽く触れます。応力テンソルや単位テンソル、そしてベクトルにはいくつかの表現方法があります。もっとも丁寧な表現はすべての要素を書きだす成分表示です。しかし、もっとシンプルにテンソル$\boldsymbol{\sigma}$の$(i,j)$成分を添え字を使って$\sigma_{ij}$と書くことがあります。これを使うと式がシンプルになりますし、証明も容易になります。また、添え字をつかっえば単位テンソル(単位行列)をディラックのデルタ$\delta_{ij}$で容易に書くことができます。ディラックのデルタとは$i=j$ならば$1$、それ以外なら$0$を返すというものです。シンプルですが、これは非常に便利です。
 ではここから証明をしていきましょう。まず、応力テンソルの成分は

$$
\sigma_{ij} = -p\delta_{ij} + \tau_{ij}\tag{4.3}
$$

となります。また、テンソルの発散の$i$成分は

(\nabla\cdot\boldsymbol{\sigma})_i = \frac{\partial \sigma_{ij}}{\partial x_j}\tag{4.4}

です。これに上の式を代入すると

(\nabla\cdot\boldsymbol{\sigma})_i= \frac{\partial}{\partial x_j}\big(-p\,\delta_{ij} + \tau_{ij}\big)= -\frac{\partial}{\partial x_j}\big(p\,\delta_{ij}\big) + \frac{\partial \tau_{ij}}{\partial x_j}\tag{4.5}

です。ここで、$i=j$において$\delta_{ij}=1$なので、

\frac{\partial}{\partial x_j}\big(p\delta_{ij}\big) = \delta_{ij}\frac{\partial p}{\partial x_j} = \frac{\partial p}{\partial x_i}\tag{4.6}

です。よって

(\nabla\cdot\boldsymbol{\sigma})_i = -\frac{\partial p}{\partial x_i} + \frac{\partial \tau_{ij}}{\partial x_j}\tag{4.7}

が導かれます。これは任意の$i$に対して成りたち、ベクトル表記で

\nabla\cdot\boldsymbol{\sigma} = -\nabla p + \nabla\cdot\boldsymbol{\tau}\tag{4.8}

と一致します。以上で証明が完了しました。

4.2. ニュートン流体

 ニュートン流体とはニュートンの粘性法則に厳密に従う理想的な流体です。理想的なという言葉からもわかるように現実世界の流体が厳密にニュートンの粘性法則に従うわけではありません。しかし、多くの流体が、ある速度領域でニュートンの粘性法則で説明できるということもまた事実です。ニュートンの粘性法則が通用するような速度領域をとくに粘性領域ということもあります。
 ニュートン流体において粘性応力$\boldsymbol{\tau}$は速度勾配の一次関数で表されます。すなわち、一次元でのニュートンの粘性法則は、

$$
\tau_{xy} = \mu \frac{\partial v_x}{\partial y}\tag{4.9}
$$

と表されます。具体例を考えてみましょう。例えばプールの中を歩こうとするとき、進もうとする向きから水の反発を感じると思います。あなたが速さ$V$で進んでいるときに受ける抵抗が$F$であるならば、あなたが倍の速さ$2V$で進もうとするときの水の抵抗はニュートンの粘性法則より$2F$であると予想されます。速度と抵抗の間に線形な関係があると予想するのがニュートンの粘性法則です。
 ではここからは粘性応力$\boldsymbol{\tau}$にこの法則を適用する方法を考えていきましょう。そのためには、一次元の式()を三次元に拡張する必要があります。まず、速度場$\boldsymbol{v}$の勾配を意味する速度勾配テンソルは、

\nabla\boldsymbol{v} =
\begin{pmatrix}
\partial_x v_x & \partial_y v_x & \partial_z v_x \\
\partial_x v_y & \partial_y v_y & \partial_z v_y \\
\partial_x v_z & \partial_y v_z & \partial_z v_z
\end{pmatrix}\tag{4.10}

と定義されます。これに対して成り立ってほしい条件として回転対称性等方性があります。まず、回転成分を打ち消して対称化したテンソル

$$
\boldsymbol{D} = \frac{1}{2}\big(\nabla\boldsymbol{v} + (\nabla\boldsymbol{v})^{T}\big)\tag{4.11}
$$

を導入します。これを変形速度テンソルと呼びます[5]。また、等方性を仮定すると、$\boldsymbol{\tau}$は$\boldsymbol{D}$の線形関数

$$
\boldsymbol{\tau} = \mu\big(\nabla\boldsymbol{v} + (\nabla\boldsymbol{v})^{T}\big)+ \lambda(\nabla\cdot\boldsymbol{v})\boldsymbol{I}\tag{4.12}
$$

となります。ここで$\mu$はせん断粘性係数、$\lambda$は体積粘性係数です。
 そして、この発散は、

\begin{align*}
\nabla\cdot\boldsymbol{\tau}
&= \mu\nabla\cdot\big(\nabla\boldsymbol{v} + (\nabla\boldsymbol{v})^T\big)+ \lambda \nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{v}) \\
&= \mu\nabla^2\boldsymbol{v} + \mu\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{v})+ \lambda\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{v}) \\
&= \mu\nabla^2\boldsymbol{v} + (\mu+\lambda)\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{v})
\end{align*}\tag{4.13}

となります。

4.3. 可圧縮性流体のナビエ–ストークス方程式

ここまでで求めた応力テンソル(4.13)をコーシーの運動方程式(3.14)に代入すると、

$$
\boxed{\rho\left(\frac{\partial\boldsymbol{v}}{\partial t}+ (\boldsymbol{v}\cdot\nabla)\boldsymbol{v}\right)= -\nabla p + \mu\nabla^{2}\boldsymbol{v}+ (\mu+\lambda)\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{v})+ \rho\boldsymbol{f}}\tag{4.14}
$$

これが可圧縮ニュートン流体のナビエ–ストークス方程式です。

4.4. 非圧縮性流体のナビエ-ストークス方程式

 式(2.10)に示す非圧縮条件を用いると、上式は簡略化されて

$$
\boxed{\rho\left(\frac{\partial\boldsymbol{v}}{\partial t}+ (\boldsymbol{v}\cdot\nabla)\boldsymbol{v}\right)= -\nabla p + \mu\nabla^{2}\boldsymbol{v}+ \rho\boldsymbol{f}}\tag{4.15}
$$

となります。さらに、

$$
\nabla\cdot\boldsymbol{v}=0\tag{4.16}
$$

を連立させることで、最もよく知られた非圧縮性ナビエ–ストークス方程式の形になります。

参考文献

[1] 山口研究室, 「大学物理入門 スカラーとベクトル」, 東京理科大学,
https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/yamalab/2007/toda/SandV.html (参照:2025-10-26)
[2] Fiveable, 5.1 Eulerian and Lagrangian Descriptions — Fluid Mechanics Study Guides,
https://fiveable.me/fluid-mechanics/unit-5/eulerian-lagrangian-descriptions/study-guide/aNfcNZFcLvQk2W8h (参照:2025-10-26)
[3] Wikipedia, 「発散定理」,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BA%E6%95%A3%E5%AE%9A%E7%90%86 (参照:2025-10-26)
[4] 真田徹, 「コーシーの運動方程式の導出」, 静岡大学工学部,
https://ars.eng.shizuoka.ac.jp/~ttsanad/data/2016.1.14.pdf (参照:2025-10-26)
[5] EMANの物理学, 「変形速度テンソル — EMANの流体力学」, 2020年8月7日,
https://eman-physics.net/fluid/deformation.html (参照:2025-10-26)
[6] 今井 功, 『流体力学』, 岩波書店, 1973年.

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