「この技術、なんで選んだんだっけ?」
こんな経験、ありませんか?
先週のあなた
「React vs Vue、どっちがいいかな?」
→ ChatGPTに質問
→ 「なるほど、Reactにしよう」
→ 採用決定
今週、上司に聞かれる
上司「なんでReact選んだの?」
あなた「えっと...(ChatGPTなんて言ってたっけ?)」
他にも:
- エラー解決: 「このエラー、前も調べたのに、また同じこと聞いてる...」
- 技術調査: 「先月調べたライブラリ、何がメリットだったっけ...読み直さないと」
- 設計判断: 「なぜこの設計にしたか説明できない...」
AIで調べた内容が、全然頭に残らない。
最初は「自分の記憶力が悪いのかな」と思ってました。
でも違ったんです。
AIの使い方が、記憶に残りにくくしていました。
MITの研究で、その理由が脳科学的に示唆されたんです。
なぜ覚えていないのか?脳が「省エネモード」に入っている
2025年、MITの研究チームが注目すべき実験結果を発表しました。
注記: 本記事で紹介する研究は初期段階のエビデンスです。「AIは危険だ」という断定ではなく、「こういうリスクの可能性が示唆された」という一見解として読んでください。実務でのAI活用判断は各自の状況によります。
実験の概要
54人を3グループに分けて、エッセイを書いてもらう:
- グループ1: ChatGPTなどのAI使用
- グループ2: Google検索使用
- グループ3: 何も使わず自力
脳波を測定しながら作業してもらい、後日「自分が書いた内容を思い出せるか」テスト。
結果:3つの興味深い発見
① 記憶に残りにくい傾向
AIグループの多くが、自分が書いた内容を思い出すのに苦労しました。
一方、検索グループや自力グループは比較的高い確率で想起できました。
② 脳活動のパターンに変化
脳波測定で、AIユーザーは思考に関わる脳領域の活動が相対的に低下する傾向が見られました。
「深く考えるモード」というより「受動的に読むモード」に近い状態だった可能性があります。
③ 影響が継続する可能性
AI使用をやめても、すぐには元の状態に戻らない傾向が観測されました。
4ヶ月後の追跡調査でも、一部のケースで影響が継続していました。
エンジニアに置き換えると?
| AI丸投げの結果 | 具体例 |
|---|---|
| 検討内容が記憶に残らない | 「技術選定の理由、思い出せない」 |
| 思考プロセスが消える | 「なぜその設計にしたか説明できない」 |
| 同じことを何度も調べる | 「前も調べたのに、また調べてる」 |
| 判断に自信が持てない | 「AIが言ってたから...」 |
これ、ちょっと気になりませんか?
AIで効率化したつもりが、成長の機会を逃しているかもしれないんです。
じゃあAI使うのやめる? → NO!使い方を変えるんです
問題は「AIを使うこと」じゃありません。
**「判断を手放すこと」**が問題なんです。
私が実践して、記憶の定着が劇的に改善した3つのルールを紹介します。
ルール1: 調べる前に5分考える
どんな調べ物でも、最初の5分は自分の頭で考える。
例:技術選定「React vs Vue、どっち使う?」
❌ 悪い例(AI丸投げ)
すぐChatGPTを開く
「React vs Vue、どっちがおすすめ?」
→ 回答を読む → 採用決定
【1週間後】
上司「なんでReact?」
自分「えっと...」
✅ 良い例(5分考えてからAI)
【最初の5分で整理】
- チームのスキルは?→ JS経験者多い
- 何を重視する?→ 学習コストの低さ
- プロジェクト規模は?→ 小規模
【この基準でAIに質問】
「小規模、JS経験者多い、学習コスト重視。React vs Vue どっち?」
【自分の基準で判断】
AIの回答を見て、「チームのスキルと学習コストを考えるとVueだな」
【1週間後】
上司「なんでVue?」
自分「チームのスキルと学習コストを重視して判断しました」
なぜ効果があるのか?
- 自分の判断基準が明確になる(何を重視するか整理される)
- AIの回答を批判的に評価できる(鵜呑みにしない)
- 記憶に残りやすくなる(MITの研究でも「最初に自分で考える」と想起率が高かった)
最初に自分で考えることで、脳が「記憶形成モード」に入りやすくなる可能性があります。
ルール2: 調べた後に自分で整理する
AIの回答をそのまま受け取らず、興味を軸に情報をつなげる。
なぜこれが重要?
AIに丸投げすると:
- AIの回答を読む → 「なるほど」→ 終わり
- 情報がバラバラのまま
- 関連する知識とつながらない
- 結果、記憶に残らない
自分で整理すると:
- 情報を自分の言葉で言い換える
- 過去の情報と関連づける
- 「これとあれ、つながるじゃん!」という発見がある
- 結果、記憶に定着する
具体例:技術調査を自分の知識に変える
【調べた内容】
「React vs Vue」をChatGPTで調査
→ Reactはエコシステム豊富、Vueは学習コスト低い
【ここで終わると忘れる】
「ふーん」→ 終わり
【自分で整理すると記憶に残る】
「あれ、前のプロジェクトでReact使ったときに学習コスト高くて苦労したな」
「今回のチームも初心者多いから、同じ問題が起きそう」
「ということは、Vueの方が現実的かも」
→ 過去の経験と今回の情報がつながった!
→ この「つながり」が記憶を強化する
ポイント
- 興味のあるキーワードを軸にする:「学習コスト」が気になるなら、それを軸に情報を集める
- 過去の情報を引っ張り出す:「前に読んだ記事、関係ありそう」と思い出す
- つながりを探す:「あ、この情報とあの情報、つながるじゃん!」という瞬間を大事にする
この習慣で、調べた情報が「使える知識」に変わります。
ルール3: 人に説明できるレベルまで仕上げる
検討した内容を、必ず言語化する。
なぜ説明が重要?
「説明できない = 理解してない = 記憶に残ってない」
逆に言えば、説明できるレベルまで理解すれば、記憶に定着します。
実践方法
| 方法 | 具体例 | 難易度 |
|---|---|---|
| メモに残す | 「なぜこの技術を選んだか」を箇条書き | ★☆☆ |
| ドキュメント化 | 設計書に判断理由を記載 | ★★☆ |
| チームに共有 | Slackで「〇〇を検討した結果、△△にした理由」を投稿 | ★★☆ |
| ブログに書く | Qiitaに「〇〇を選んだ理由と学び」を記事化 | ★★★ |
難易度が高いほど、記憶への定着効果も高いです。
特に効果的:ブログに書く
私が最も効果を実感したのは、ブログに書くことでした。
理由:
- 人に読まれる前提だと、適当なことが書けない
- 批判的にチェックする習慣がつく
- 「本当に理解してる?」と自問する機会が増える
結果:
- 記憶の定着が圧倒的に向上した
- 関連テーマで書くとき、前回の内容を思い出せる
- 「あの記事で〇〇について調べた」と即答できる
公開するのが恥ずかしければ、限定公開やチーム内共有でもOKです。
大事なのは、「誰かに説明する」というプレッシャーを自分にかけること。
研究が示唆する記憶形成のメカニズム
なぜこの3つのルールが効果的なのか?
MITの研究結果から考えると、脳が記憶を形成するには**「能動的に考えるプロセス」**が重要な可能性があります。
| ルール | 期待される効果 |
|---|---|
| ルール1(5分考える) | 脳が「記憶形成モード」に入りやすくなる |
| ルール2(自分で整理) | 情報を統合し、既存知識と関連づける |
| ルール3(説明する) | 言語化することで記憶が定着しやすくなる |
逆に、AIに丸投げすると:
- 脳が「受動的モード」に入る可能性
- 思考プロセスが働きにくい
- 記憶として定着しにくい
「楽に速く」だけを追求すると、成長の機会を逃すかもしれません。
でも、判断を手放さなければ、AIは最強の相棒になります。
まとめ:AI時代に成長し続けるエンジニアは「判断できる人」
AIは便利です。でも、判断まで委ねたら、あなたの市場価値が低下する可能性があります。
今日から実践:3つのルール
- 調べる前に5分考える(要件整理、仮説立て)
- 調べた後に自分で整理する(箇条書き、なぜ?を繰り返す、過去とつなげる)
- 人に説明できるレベルまで仕上げる(メモ、ドキュメント、ブログ)
判断を手放さない。それだけで、成長速度が変わります。
より詳しく知りたい方へ
本記事は入門向けの要点をまとめたものです。設計判断の背景、詳細な比較表、実践での失敗事例などは下記の詳細版で解説しています。
参考: AIを使うほど記憶に残らない?MITの研究が示す生成AIとの正しい付き合い方(詳細版)