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生成AIの収束先の存在を圏論で証明する

Last updated at Posted at 2026-01-17

はじめに

敵対的模倣学習の圏論的解釈について紹介します。

近年、敵対的模倣学習 (Generative Adversarial Imitation Learning; GAIL) や、それを応用した RLHF (Reinforcement Learning from Human Feedback) は、LLMの微調整など現代AIの根幹を支える技術となっています。しかし、これらの学習が「なぜ収束するのか?」という問いに対し、従来の機械学習理論は「凸性」という高い壁に阻まれてきました。今回紹介するメモ書きは、この難問に対し、圏論 (Category Theory) という極めて抽象度の高い数学を用いて、非凸な深層学習の世界に鮮やかな秩序を与えています。特に、F.W. Lawvere(ローヴェア)の不動点定理を距離空間へと拡張し、ニューラルネットワークの普遍近似定理と結びつけた点は、理論的にも実用上の解釈としても画期的だと思われます。

1. 既存理論の限界

GAIL/RLHFが抱える「非凸性」の壁

敵対的学習(GANやGAIL)の目的関数は、一般に方策 $\pi$ と識別器 $D$ のミニマックスゲームとして定式化されます。$$\min_{\pi} \max_{D} V(\pi, D)$$このゲームが収束し、ナッシュ均衡(Nash Equilibrium)が存在することを証明するために、古典的な理論では ブラウアー(Brouwer)の不動点定理 や 角谷(Kakutani)の不動点定理 が使われてきました。しかし、深層学習の世界では、これらの前提条件がことごとく崩壊しています。なぜ「非凸」だと既存の不動点定理は使えないのか?

① ブラウアーの不動点定理の破綻

ブラウアーの定理は、「コンパクトな凸集合 $C$ から自分自身への連続関数 $f: C \to C$ は、不動点 $f(x)=x$ を持つ」というものです。しかし、深層学習のパラメータ空間 $\Theta$ において、良好な性能を持つ領域 $C \subset \Theta$ は一般に凸ではありません。$$V(\lambda \theta_1 + (1-\lambda)\theta_2) > \lambda V(\theta_1) + (1-\lambda)V(\theta_2)$$多層ニューラルネットワークの非線形性により、2つの優れた解の中間地点が「最悪の解」になることは珍しくありません。集合が凸でない以上、ブラウアーの定理は適用できません。

② 角谷の不動点定理と「多峰性」

角谷の定理は、一点に定まらない「対応(set-valued mapping)」を扱います。この定理が成立するには、ある状態に対する最適反応(Best Response)の集合 $G(x)$ が、常に空でない凸集合である必要があります。しかし、RLHFやGAILでは、ある識別器に対する「最適解」が、全く異なる2つの戦略(例:右から避ける、左から避ける)に分かれることがあります。このとき、その平均的な戦略(真ん中に突っ込む)は最適ではないため、最適反応の集合が凸になりません。 これにより、均衡の存在保証が失われます。

2. 最適化を「随伴(ガロア接続)」で捉え直す

メモ書きでは、この非凸性の問題を回避するために、空間の「形(凸性)」ではなく、最適化プロセスの「構造」に着目します。生成器($\pi$)と識別器($D$)の競争を、順序集合の圏における随伴関手 (Adjoint Functors) 、すなわちガロア接続として定式化しています。最適反応関手 $F, G$:

$F(\pi) := \text{arg} \max_{D} V(\pi, D)$ ($\pi$ に対する最強の敵)

$G(D) := \text{arg} \min_{\pi} V(\pi, D)$ ($D$ を最も騙す味方)

このとき、以下の随伴関係 $F \dashv G$ が成立します。$$F(\pi) \ge D \iff \pi \le G(D)$$この構造を用いることで、具体的な損失関数の形状(凸性)に関わらず、最適化のダイナミクスそのものを射の性質として議論できるようになります。

3. Lawvereの不動点定理と「距離空間の圏 Met」

本メモ書きの最大のハイライトは、F.W. Lawvereの不動点定理の拡張です。古典的なLawvereの定理の問題点Lawvereの定理は、「あるコード化 $e: A \to Y^A$ が点全射(すべての関数を表現可能)なら、任意の更新ルール $t: Y \to Y$ は不動点を持つ」というメタ定理です。しかし、有限のパラメータを持つニューラルネットワークは、すべての関数を厳密に表現(全射)することはできません。

ブレイクスルー:普遍近似定理 = 稠密性

ここで著者は、Lawvereが1973年に提唱した「距離空間は豊穣圏である」という視座(距離空間の圏 $Met$)を導入します。ニューラルネットワークの普遍近似定理を、「全射」ではなく「関数空間において像が $\epsilon$-稠密 (dense) である」と再解釈したのです。これに基づき、論文は以下の近似不動点定理を導出しました。

定理(近似不動点定理)

パラメータ空間 $A$ から関数空間 $Y^A$ への射 $e$ の像が $\epsilon$-稠密であるならば、リプシッツ連続な任意の更新規則 $t: Y \to Y$ は、以下を満たす近似不動点 $y$ を持つ。$$d_Y(y, t(y)) < \epsilon$$

4. 結論:

なぜ表現力が高いと学習は収束するのか?この理論がGAILやRLHFに与える示唆は極めて強力です。

  • 「凸性」は不要: 学習の収束(近似ナッシュ均衡への到達)を保証するのは、ランドスケープが「お椀型」であることではありません。
  • 「表現力」が収束を生む: ニューラルネットワークが十分に広く、深く、関数空間を「稠密」に覆っているならば、対角線論法の幾何学的帰結として、システムは必ず安定点(近似不動点)に到達します。
  • 近似の許容: 厳密な不動点($d=0$)を求めるのではなく、モデルの近似精度 $\epsilon$ の範囲内で収束を認めるという考え方が、実用的な深層学習の挙動を見事に説明しています。

GAILやRLHFの実装において「層を深く・広くすると学習が安定する」という経験則は、圏論的には「稠密性 $\epsilon$ が小さくなり、より高精度な近似不動点が保証されるから」と解釈できるのです。「非凸だから理論的に扱えない」という時代は終わったかも?

参考文献

  1. 吉田英樹 (2025). 敵対的模倣学習におけるナッシュ均衡の圏論的構造解析.
  2. Lawvere, F. W. (1973). Metric spaces, generalized logic, and closed categories.
  3. Ho, J., & Ermon, S. (2016). Generative adversarial imitation learning.

紹介記事

おわりに

カントールの対角線論法とニューラルネットワークの普遍近似定理が、Lawvereの不動点定理を通じて結びつく瞬間は、面白いなと思いました。非凸なカオスの中に潜む、随伴と不動点の秩序。これこそが深層学習の真の姿なのかもしれません。
(ほんとか?)

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