はじめに
R言語 Advent Calendar 2025 8日目の記事です。
(この記事は こちらのNote記事をリライトしたものです → https://note.com/mmnt076/n/n31d94d6aafe6?sub_rt=share_pw)
はじめまして、めめんと と申します。私は趣味で短歌を詠みます。短歌とは、5-7-5-7-7の音数を緩やかに守って作る、短いポエムのことです。
短歌には「web歌会」という文化があります。典型的なweb歌会は、参加者が各自お題に沿った短歌を持ち寄り、短歌の作者を伏せた上で、参加者が短歌に対して投票を行い、最も票を集めた短歌を決める催しです。この記事では「結句体言止め」の使用に書き手の作風が現れるのかを、web歌会のデータ分析によって検討しました。
結果として、①結句体言止めの頻度は書き手によってかなりばらつきがあること、②結句体言止めを使う頻度が多い書き手は、評価の高い短歌でより頻繁に結句体言止めを用いる/結句体言止めを使う頻度が少ない書き手は、評価の低い短歌でさらに稀にしか結句体言止めを用いない、ことがランダム切片・ランダム傾きを採用したロジスティック回帰分析を用いた分析で分かりました。
補足:結句体言止めとは?
結句体言止めと私が呼んでいるのは、短歌のテクニックの一つです。結句とは、5-7-5-7-7の最後の7音のことです。体言止めとは、名詞で短歌を締めるテクニックです。拙作で説明すると、
- 何にでも相槌を打つ雨音に慰められているワンルーム
のように、ワンルームという名詞で終わっている短歌を、結句体言止めと呼んでいます。
データ取得元:うたの日
うたの日はweb歌会を実施するサイトの一つです。ここに集積されたデータは、教師あり学習と親和性が高いと私は考えています。
というのは、うたの日は、だいたい20~100名の投票者が、誰が作成した短歌なのかわからない状態で、最も好きな短歌に一首だけ選んで投票する(この投票を「ハートを送る」と呼びます)というシステムを採用しているからです。投票の際に呈示される短歌の順番も投票者ごとにランダム化されています。
このような特性から、一般的なSNSとは異なり、たとえば、フォロワーの数が多いから、単に短歌の書き手と仲が良いから、といった理由での投票が行いにくくなっています。そのため、ある程度客観的に、短歌の出来栄えを送られたハートの数から窺い知ることができるようになっています。
分析
データセット
2024年にうたの日に投稿された短歌から91,875首。これらの短歌一首一首に、結句体言止めフラグ(結句体言止めの短歌ならば1、それ以外0)、短歌への評価(短歌が受け取ったハート数/web歌会の投票者数)、短歌に含まれる名詞の数を付与しました。
結句体言止めは、短歌をMeCabで分かち書きした時に、最後の単語が名詞であるかどうかで判定しました。短歌に含まれる名詞の数もMeCabによる解析結果を用いました。
結句体言止めに関する基礎集計
結句体言止めの短歌は、33,328首で、データセット全体の約36%でした。
MeCabの結句体言止め判定の妥当性を調べるために、データセットから50首をランダムに抽出し、目検で結句体言止めのラベルを作成し、混同行列を計算しました。その結果が下表です。若干、偽陽性率が高い点(12% = 4/34)が気になりますが…… 分析に耐える精度であると考え、統計解析に進みました。

統計解析
統計解析には、ランダム切片(書き手, 2392名)・ランダム傾き(短歌への評価)を用いたロジスティック回帰モデルを用いました。このモデリングは書き手の個性や作風をランダム効果として表現することを意図しています。
回帰モデルの被説明変数として結句体言止めフラグを、説明変数として短歌への評価・名詞の数(名詞の数は統制変数)を投入しました。
分析にはR言語のlme4パッケージを用いました。
固定効果の結果
分析を実施した結果、統制変数の名詞の数が有意でした(b=0.05, z=27.21, p<=0.01)。一方、短歌の出来栄えは有意ではありませんでした(b=0.05, z=0.23, p=0.82)。
ランダム効果の結果
ランダム切片の標準偏差は0.40であり、結句体言止めの使用頻度は書き手によって大きく異なることが分かりました。
また、短歌の出来栄えのランダム傾きとランダム切片の相関係数は0.37でした。これは、もともと結句体言止めを使いがちな書き手は、評価の高い短歌ではさらに結句体言止めを使いがち/もともと結句体言止めを使わない傾向のある書き手は、評価の高い短歌ではなおのこと結句体言止めを使わないことを示唆する結果です。
この結果を図示したのが下図です。この図は、データセットからランダムに書き手を15名抽出し、体言止め(横軸)を変化させながら、体言止めの予測確率(縦軸)をプロットしたものです。

まず、線の高さがばらついていることがランダム切片の標準偏差が高いことを意味しています。線が高いほどもともと体言止めを多用する傾向を表しています。
そして、高い線の書き手(例えば、書き手D)ほど線が右上がりに、低い線の書き手(たとえば、書き手I)ほど線が右下がりになっていることが分かります。これがランダム切片とランダム傾きの正の相関です。これが、体言止めを多用する書き手が、評価の高い短歌でさらに体言止めを使う傾向を意味しています。
まとめ
2024年のうたの日のデータを用いて、結句体言止めのデータ分析を行いました。その結果、体言止めを多用するかは書き手の個性が強く現れることと、体言止めの短歌が多い書き手は評価の高い短歌で、そうでない短歌と比べて、より多く体言止めを使うことが分かりました。
この結果は、書き手には作風があり、出来栄えの良い短歌ではその作風が顕著に出ているという、直感的に納得できる内容を反映した結果だと考えています。
最後に、MeCabによる体言止め判定に関する限界に触れておきます。まず、短歌の多くは区切れと呼ばれる前半・後半構造を持っています。結句体言止めはこのうち後半の体言止めしか拾えていません。前半での体言止めの使用が短歌の出来栄えや作風を反映しているかは今後の課題となります。
また、体言止め判定の偽陽性率の高さです。短歌の中には文語(古い言葉遣い)で表記されるものがあり、この文語の短歌での偽陽性が目立っていたように思います。辞書のカスタマイズが必要でしょう。