【AI進化の歴史:第17回】2023年:百花繚乱のLLM大戦:GPT-4の君臨とオープンソースの反撃
【AI進化の歴史を辿る連載】
※本連載は、AIの誕生から現在までの歴史を1年ずつ追いながら、技術の変遷とドラマをドキュメンタリー小説風に解き明かしていきます。
1. プロローグ:AI大戦国時代の幕開け
2023年。世界は、AIの進化速度が「1ヶ月がこれまでの1年に匹敵する」と形容されるほどの超加速フェーズに突入しました。前年のChatGPTが巻き起こした大ブームは、一時的な流行にとどまらず、地球規模の知能の争奪戦へと昇華したのです。
その主役となったのは、誰もが絶対王者と認めるOpenAIの「GPT-4」の降臨。そして、Metaのモデル流出をきっかけに、世界中の数百万人の開発者が結集して起こした「オープンソースLLM」による狂気的な猛追劇でした。
知能の覇権を巡って巨大テック企業と世界中のギークたちが激突した、百花繚乱のLLM大戦の真実に迫ります。
2. 絶対王者の君臨:マルチモーダルと高度推論を実装した「GPT-4」
2023年3月、OpenAIは待望の次世代フラッグシップモデル「GPT-4」を発表しました。
GPT-4は、従来のChatGPT(GPT-3.5)が持っていた「言葉づかいは流暢だが、論理的な一貫性が崩れやすい」という弱点を克服し、人間と同等レベルの高度な論理推論能力を示しました。
米国の司法試験(Bar Exam)の模試において、GPT-3.5が下位10%のスコアだったのに対し、GPT-4は上位10%のスコアを叩き出し、医学・物理学など多くの難関試験で人間を圧倒しました。
さらにGPT-4は、テキストに加えて「画像」を読み取って理解する「マルチモーダル能力」を本格的に解禁しました。

※図:手書きの設計スケッチから実際のHTMLコードを一瞬で生成するGPT-4のマルチモーダル機能(AI生成ダイアグラム)
紙のノートに手書きで描かれたWebサイトのレイアウト図の写真を読み込ませ、「この通りに動くWebサイトのコードを書いて」と指示するだけで、GPT-4は数秒で完璧なHTMLとJavaScriptのコードを出力し、実際に動くボタンやフォームを構築してみせました。世界は、AIが人間の「目」と「脳」を同時に獲得した現実を目撃したのです。
3. 流出した設計図とオープンソースの「カンブリア爆発」
GPT-4がクローズド(独占的)な知能の頂点に立つ一方、業界の勢力図を根底から揺るがす大事件がMetaを起点に発生しました。
2023年2月、マーク・ザッカーバーグ率いるMetaは、研究者向けに軽量かつ超高性能な言語モデル「LLaMA(ラマ)」を発表しました。しかしそのわずか数日後、匿名掲示板「4chan」などに、LLaMAの最もコアなデータである「モデルの重み(Weight / パラメータの実数値)」が丸ごと流出(リーク)したのです。
この「禁断のデータ流出」は、オープンソースコミュニティにおける前代未聞の爆発的な進化を引き起こしました。
数百万ドルの開発インフラを持たない一般の技術者たちが、流出したLLaMAをベースに、LoRA(低ランク適応)などの効率的な追加学習技術を駆使し、数万円のPCや個人のGPUだけで「GPT-3に匹敵するアシスタントモデル」を数日のうちに次々と作り上げました。

※画像:独占的なクローズドAIの巨大な砦に対し、LLaMAを基点とするオープンソースAIのコミュニティが猛追をかけた勢力図(AI生成画像)
「Alpaca(アルパカ)」「Vicuna(ビクーニャ)」など、ラマの親戚にあたる名前を冠したオープンソースモデルが毎週のように産声を上げ、ソースコード共有サイトGitHubやAIプラットフォームHugging Faceは熱狂の渦に包まれました。Googleの内部文書とされる「我々に堀(Moat)はない、そしてOpenAIにもない」というメモが流出し、オープンソースのコミュニティが巨大テック企業の独占を脅かす構図が完成したのです。
4. Googleの逆襲とGeminiの咆哮
検索エンジンの覇権を脅かされ、「コード・レッド(緊急警報)」を出し続けていたGoogleは、この状況を打開するため、長年のライバルであった「Google Brain」チームと「DeepMind」を電撃的に合併し、新組織「Google DeepMind」を設立しました。
そして2023年末、彼らは総力を結集した野心作「Gemini(ジェミニ)」を発表します。
Geminiは、テキストモデルの後に画像の処理を付け足した従来の構成とは異なり、「最初からテキスト、画像、音声、動画を同時に処理できるように一から設計・訓練されたネイティブ・マルチモーダル」という新しいアプローチを採用し、GPT-4の独走を止めるべく猛烈な反撃を開始しました。
5. エピローグ:知能は現実世界を模倣し始める
2023年、知能はテキストと画像の壁を完全に取り払い、オープンとクローズドの双方向から、私たちの社会の実務を一気に書き換えました。
しかし、知能のスケールアップが目指すフロンティアは、まだ先がありました。
言葉と静止画を理解したAIが次に直面したのは、私たちが生きる「時間が流れる物理空間(動画)」、そして「AIが自律的にツールを使い、意思決定を行って目標を達成する(エージェント)」という、現実世界の動的なシミュレーションでした。
翌2024年。言葉から映画クオリティの映像を創り出す驚異のビデオ生成AI、そして人間の代わりに自律的にPCを操作してタスクを解決するエージェントたちの世界が幕を開けます。
次回、2024年。現実世界を動画で創造する「Sora」の衝撃と、自律的な「エージェントAI」の台頭を描きます。
「【AI進化の歴史:第18回】2024年:現実世界を創り出す:Soraの衝撃と知能のエージェント化」へ。
知能はキャンバスから飛び出し、物理世界の時系列シミュレーターへと進化し始めます。