【AI進化の歴史:第15回】2021年:言葉が絵を描く:DALL-Eの誕生とマルチモーダルAIの胎動
【AI進化の歴史を辿る連載】
※本連載は、AIの誕生から現在までの歴史を1年ずつ追いながら、技術の変遷とドラマをドキュメンタリー小説風に解き明かしていきます。
1. プロローグ:言葉とイメージが交わる場所
2021年1月。前年に「GPT-3」でテキストAIの極地を示したOpenAIは、さらに知能の感覚器官を拡張するための大きな挑戦を発表しました。
それが、言葉(テキスト)から完全なデジタル画像をゼロから生成するAI「DALL-E(ダリー)」の誕生です。
名前は、天才シュルレアリスム画家サルバドール・ダリ(Salvador Dalí)と、ピクサー映画の健気なロボット「WALL-E」から名付けられました。
これまで「言語処理」と「画像処理」に分断されていたAIの世界が、ついに同一の意味空間で融和し、「マルチモーダルAI(複数のモダリティを同時に処理するAI)」の時代が本格的に幕を開けたのです。
2. 陰の主役:言葉と画像を繋ぎ止める「CLIP」の革命
DALL-Eと同時に発表され、実はその後のすべての画像生成AI(Stable DiffusionやMidjourneyなど)の目(判定機)として機能することになる極めて重要な技術がありました。
それが「CLIP(Contrastive Language-Image Pre-training)」です。
人間の知能は、「リンゴ」という言葉を見たときに、赤い丸い果物のイメージを脳内に思い浮かべます。言葉と映像が共通の意味領域で結びついているからです。
CLIPはこの「概念の紐付け」を再現するため、インターネット上の4億組の「画像と説明テキスト(キャプション)」を対照学習(Contrastive Learning)という手法で学習させました。

※図:CLIPにおける対照学習(画像とテキストの対を同一の共通空間ベクトルにマッピングする)の概念(AI生成ダイアグラム)
画像エンコーダと言語エンコーダを通して抽出されたそれぞれのベクトルを、一つの行列(マトリックス)上に配置し、「正しいペア」のコサイン類似度を最大化し、「間違ったペア」の類似度を最小化するように数理的に追い込んでいきます。
この結果、CLIPは「あるテキストに対して、どの画像が最も意味的に合致しているか」を極めて正確にスコアリング(評価)する万能の審判官となりました。これが、言葉から画像を誘導する技術の強固なインフラとなったのです。
3. 「アボカドの椅子」が象徴するAIの創造性
DALL-Eは、GPT-3のTransformerデコーダをベースに構築された「120億パラメータ」のニューラルネットワークです。テキストと画像(離散コサイン変換によってトークン化されたピクセル情報)を一つの連続したデータ列として入力し、次のトークンを予測する形で画像を生成します。
世界を驚愕させたのは、DALL-Eが発揮した「あり得ない文脈を具現化する創造性」でした。
例えば、人間に「アボカドの形をした肘掛け椅子(An armchair in the shape of an avocado)」というお題を与えた場合、アボカドの緑の皮を背もたれにし、中央の茶色い種をクッションにしたユーモラスな椅子のデザインを想起するでしょう。DALL-Eは、まさにこれとまったく同じ知的作業を自律的に行い、クオリティの高い複数の椅子画像を瞬時に生成してみせました。

※画像:テキスト指示『アボカドの形をした肘掛け椅子』からDALL-Eが生成するクリエイティブな成果物のイメージ(AI生成画像)
これは単に既存の画像を検索してパッチワークしているのではなく、「アボカド」と「肘掛け椅子」という別々の概念を分解し、文脈的に矛盾なく再統合して新しいビジュアルを描き出すという、人間の「芸術的ひらめき」に近い処理が機械の中で起きていることを世界に証明したのです。
4. エピローグ:クリエイティブ・ブームの導火線
2021年のDALL-EとCLIPの公開は、画像認識におけるこれまでの「何が写っているかを分類する」という受動的なタスクから、「言葉の意図に沿って世界を作り出す」という能動的なタスクへのパラダイムシフトを決定づけました。
この火種は、翌年2022年、拡散モデル(Diffusion Model)の数理と融合することで、「Stable Diffusion」や「Midjourney」という、世界中を巻き込む爆発的な「画像生成AI大ブーム」の狂騒曲へと発展していきます。
そして、言葉が画像という「光の表現」を獲得したのち、知能の進化は再び「言葉」のコミュニケーションへと回帰します。
「誰もが、専門知識なしに、まるで友達とチャットするように、この巨大な知能と対話できたらどうなるか?」
翌2022年11月。そのシンプルなインターフェースを搭載した「たった一つのチャット画面」が公開され、世界に空前のシンギュラリティ(技術的特異点)の予感と大混乱を巻き起こすことになります。
次回、2022年。ついに歴史の表舞台に現れた「ChatGPT」の衝撃と、LLMの急速な民主化のドラマが始まります。
「【AI進化の歴史:第16回】2022年:シンギュラリティの予感:ChatGPTの誕生とLLMの民主化」へ。
知能は、ついに人類のすべてと直接対話し始めます。