目次
0.宇宙論とは
1.ニュートン力学におけるフリードマン方程式
2.熱力学第一法則による保存則の導出
3.加速度方程式の導出
4.状態方程式
0. 宇宙論とは
宇宙論(cosmology)とは宇宙全体のことを扱う学問です。現代の宇宙論では宇宙全体のエネルギーの内7割がダークエネルギーと呼ばれる未知のエネルギー成分であると考えられています。ここでは宇宙論の基礎方程式を導出し、高校生でも
ダークエネルギーとは何かを数式を用いて説明できる
レベルまで持っていくことを目標にします。
1. ニュートン力学におけるフリードマン方程式
この章ではフリードマン方程式と呼ばれる宇宙論の基礎方程式を導出します。
一様等方な質量$M$の球を考えます。この球は一様等方性を保ったまま、膨張したり、収縮したりします。これを宇宙だと考えましょう。球の半径を$R(t)$とすると、球面上の質点にはたらく加速度は運動方程式から次のようになります。
$$
\frac{d^2R}{dt^2}=-\frac{GM}{R(t)^2}
\tag{1}
$$
ここで両辺に$dR/dt$をかけて積分すると、
$$
\frac{1}{2}\left(\frac{dR}{dt}\right)^2-\frac{GM}{R}=E
\tag{2}
$$
$E$は積分定数です。左辺の第一項は単位質量あたりの運動エネルギーを表します。また左辺第二項は単位質量あたりのポテンシャルエネルギーを表しています。よって右辺は全エネルギーを表し、この式はエネルギー保存の式となっています。ここで、半径$R(t)$を以下のように表します・
$$
R(t)=a(t)r_0
\tag{3}
$$
ここで$a(t)$はスケール因子と呼ばれる無次元の量であり、現在の時刻$t_0$で$a(t_0)=1$をとることにします。スケール因子は現在$t=t_0$に比べて球の半径が何倍であるかを表します。ここで$r_0$は$t=t_0$での半径$R(t_0)$です。球の密度$\rho(t)$は一様としているので、球の質量は次のように書けます。
$$
M=\frac{4\pi}{3}\rho(t)R(t)^3=\frac{4\pi}{3}\rho(t)a(t)^3r_{0}^3
\tag{4}
$$
すると(2)式は
$$
\frac{1}{2}r_0^2\dot{a}^2=\frac{4\pi}{3}Gr_0^2\rho(t)a(t)^2+U
\tag{5}
$$
両辺を$r_0^2 a^2/2$でわると、
$$
\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2=\frac{8\pi G}{3}\rho(t)+\frac{2U}{r_0^2}\frac{1}{a(t)^2}
\tag{6}
$$
となります。これがフリードマン方程式(に対応するもの)です。一般相対論で、アインシュタイン方程式から導かれるフリードマン方程式は
$$
\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2=\frac{8\pi G}{3c^2}\varepsilon-\frac{\kappa c^2}{R_0^2 a^2}
\tag{7}
$$
です。$\varepsilon$はエネルギー密度で、$c$は光速です。アインシュタインの関係式$E=mc^2$から$\varepsilon=\rho c^2$という関係式が成り立ちます。一般相対論では全てのエネルギーが重力の源として寄与します。他のエネルギー成分が含まれる場合、$\varepsilon$はあらゆるエネルギー成分を加えたものになります。
$R_0$は曲率半径です。$\kappa$は空間の曲率の符号を表し、$-1,0,1$のいずれかの値をとります。
次のような$K$を定義して右辺第二項を表す場合もあります。
$$
\begin{aligned}
K=\frac{\kappa}{R_0^2}
\end{aligned}
\tag{8}
$$
2. 熱力学第一法則による保存則の導出
次に連続の式と呼ばれる式を熱力学第一法則から導きます。一様等方に膨張(または収縮)する宇宙において、ある境界で囲まれた領域を考えます。簡単のために、球状の境界で囲まれた領域を考えましょう。宇宙膨張とともにこの境界も膨張させます。この境界内において、熱力学第一法則
$$
\begin{aligned}
dQ=dE+PdV
\end{aligned}\tag{9}
$$
を考えると、一様等方性から領域の境界では熱の収支が釣り合っているはずなので、$dQ=0$がなりたつはずです。すなわち宇宙は断熱膨張していることになります。ここで時間微分を次のようにドット・で表すことにします。
$$
\dot{A}=\frac{dA}{dt}, \quad \ddot{A}=\frac{d^2A}{dt^2}
$$
式(9)を時間で微分します。
$$
\begin{aligned}
\dot{E}+P\dot{V}=0
\end{aligned}
$$
となります。ここで、この球の共動半径を$r_0$(共動半径は宇宙膨張によって変わらないので今回は定数です)、固有距離を$R(t)$とします。
この2つの距離の関係は、次のように与えられました。
$$
\begin{aligned}
R(t)=a(t)r_0
\end{aligned}
$$
ここで、球の体積は
$$
\begin{aligned}
V(t)=\frac{4}{3}\pi r_0^3 a(t)^3
\end{aligned}
$$
で与えられるので、その時間微分は
$$
\begin{aligned}
\dot{V}(t)=\frac{4}{3}\pi r_0^3\cdot 3a^2\dot{a}=3V(t)\left( \frac{\dot{a}}{a} \right)
\end{aligned}
$$
となります。また、エネルギーは$\varepsilon(t)$をエネルギー密度として、
$$
\begin{aligned}
E(t)=V(t)\varepsilon(t)
\end{aligned}
$$
で与えられるので、その時間微分は
\begin{align}
\dot{E}(t)&=\dot{V}(t)\varepsilon(t)+V(t)\dot{\varepsilon}(t)\\
&=3V\frac{\dot{a}}{a}\varepsilon+V\dot{\varepsilon}\\
&=V\left( \dot{\varepsilon}+3\frac{\dot{a}}{a}\varepsilon \right)
\end{align}
となります。よって、熱力学第一法則は次のように変形できます。
\begin{aligned}
\dot{E}+P\dot{V}&=0 \\
V\left( \dot{\varepsilon}+3\frac{\dot{a}}{a}\varepsilon \right)+3PV\frac{\dot{a}}{a}&=0 \\
\dot{\varepsilon}+3\frac{\dot{a}}{a}(\varepsilon+P)&=0
\end{aligned}
\tag{10}
(10)式はニュートン力学でも一般相対論でも成り立つ式であり、連続の式などと呼ばれます。
4. 加速度方程式の導出
加速度方程式は、スケール因子$a(t)$の2階微分の式であり、フリードマン方程式と連続の式から導出できます。フリードマン方程式は次のように与えられていました。
$$
\begin{aligned}
\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2=\frac{8\pi G}{3c^2}\varepsilon-\frac{\kappa c^2}{R_0^2 a^2}
\end{aligned}
$$
この式の両辺に$a^2$をかけて$t$で微分すると、
$$
\begin{aligned}
2\dot{a}\ddot{a}=\frac{8\pi G}{3c^2}(\dot{\varepsilon}a^2+2\varepsilon a\dot{a})
\end{aligned}
$$
となります。両辺を$2a\dot{a}$で割ると、
$$
\begin{aligned}
\frac{\ddot{a}}{a}=\frac{4\pi G}{3c^2}\left( \dot{\varepsilon}\frac{a}{\dot{a}}+2\varepsilon \right)
\end{aligned}
$$
となります。ここで連続の式(10)より、
\begin{aligned}
\frac{\ddot{a}}{a}&=\frac{4\pi G}{3c^2}\left( -3(\varepsilon+P)+2\varepsilon \right)
\qquad
\left( \because\quad \dot{\varepsilon}=-3\frac{\dot{a}}{a}(\varepsilon+P) \right)\\
&=-\frac{4\pi G}{3c^2}(\varepsilon+3P)
\end{aligned}
\tag{11}
これがスケール因子の二階微分を与える方程式です。加速度方程式と呼ばれます。ニュートン力学における運動方程式に対応します。
$\varepsilon>0$である通常の物質(光子なども含む)では、粒子の熱運動に起因する正の圧力$P$をもちます。加速度方程式の右辺から分かるように、通常の物質は膨張を遅くさせる要因となります($\ddot{a}<0$)。
しかし超新星爆発などの観測によって宇宙は現在加速膨張しているということが分かっています。普通の物質では現在の加速膨張を説明することはできないのです。
では、膨張を加速させるのはどのような要素であるか考えてみましょう(ただし$\varepsilon>0$であるとします)。$\ddot{a}>0$であるためには、$\varepsilon+3P<0$でなければなりません。すなわち、
$$
\begin{aligned}
P<-\frac{1}{3}\varepsilon
\end{aligned}\tag{12}
$$
を満たすような宇宙の何らかのエネルギー成分があれば、加速膨張を引き起こす要因になります。(12)式を満たし、加速膨張を引き起こす原因になるものをダークエネルギーといいます。
3. 状態方程式
今まで導出してきた3つの方程式の内、独立な方程式は2つだけです。そのため、$a,\varepsilon,P$の3つの未知数について方程式を解くには、もう一つ独立な方程式が必要です。それが、$P$と$\varepsilon$を結ぶ状態方程式です。
$$
P=w\varepsilon
\tag{3}
$$
w=
\begin{cases}
1/3 & \text{光子 } \\
0 & \text{物質} \\
-1 & \text{宇宙定数}
\end{cases}
輻射の状態方程式については今回は割愛します。物質を$P=0$をしていますが、理想気体の状態方程式$PV=nRT$を知っていれば$P=0$は意味不明だと思います。なぜ$P=0$としてよいのか今から説明します。
加速度方程式(11)または流体方程式(10)を見てください。どちらの方程式でも、圧力$P$はエネルギー密度$\varepsilon$(またはその3倍)との和の形で現れています。非相対論的物質では、エネルギー密度は$\varepsilon \approx \rho c^2$で与えられ、$\varepsilon$が支配的となるために$\varepsilon+P\approx \varepsilon$と近似できます。圧力$P$はエネルギー密度$\varepsilon$との和でしか方程式に現れないので、$P=0$という状態方程式が許されるのです。
宇宙定数とはアインシュタイン方程式の宇宙項と呼ばれる定数であり、このような項があると$w=-1$のダークエネルギーとして振る舞います。
6. 参考
宇宙論の主要なトピックは宇宙の歴史(インフレーション、ビッグバン元素合成、宇宙の晴れ上がり、構造形成)や、ダークマター、ダークエネルギーなど多岐にわたります。ここで解説した方程式はそれらの基礎となります。宇宙論の本格的な教科書を読もうとすると、一般相対論を前提としてスタートしがちなので、一般相対論で沼ってしまうと、宇宙論まで辿り着くことなく挫折してしまいます。しかし、実は宇宙論の根幹を成すフリードマン方程式はニュートン力学のアナロジーを使って導出できるのです。しかも連続の方程式に至っては完全な形で導出できました。そのように一般相対論を前提とせずに宇宙論を解説したのが以下の本です。
日本語訳
宇宙論の入門書として世界的に高い評価を受けている本です。