はじめまして、KDDIアジャイル開発センター株式会社(KAG)の天野です。
今回は、研修期間中に開発したWebアプリケーションについてご紹介します。
このアプリは、研修の限られた時間の中で、何か「使ってもらえるもの」を作ろうと試行錯誤を重ね、完成させました。
その背景や実際の利用者の反応、そしてプロダクトに込めた想いを共有します。
「新人として研修中にここまで作れるんだ」というワクワク感を伝えるとともに、このアプリ完成後の社内の反応などを振り返ります。同じように研修で開発に取り組んでいる方や、新たなアイデアを形にしようとしている方の、参考になれば幸いです。
◾️課題「チームでWEBアプリを作る」どんなペルソナに向けて?
新卒入社後、社内研修でアジャイル開発やWebアプリ開発の基礎を学び、次のステップとして「チーム開発研修」に進みました。
この研修では、複数名で1プロダクトを開発し、プロダクト開発の流れやスクラムイベントの流れ、技術面を実践的に習得しました。
チーム開発研修にあたり、「どんなユーザーのどんな課題を解決するのか」を具体的にイメージできるよう、あらかじめペルソナが提示されていました。私たちはその人物像を踏まえながら、実際の開発プロダクトの検討を進めました。
テーマ・ペルソナの特徴
▶︎ テーマ
- 社内にどんどん人が増えることによる課題を解決する
▶︎ 背景
- KAGは「好きな場所」で働けることが特徴
- フルリモートワークやワーケーション、地方移住など、自分のライフスタイルに合わせて働くことが可能
▶︎ ペルソナ(一部抜粋)
- KAGに中途社員として入社した、28歳のソフトウェアエンジニア
- ペイン(不安・困りごと)
- 社員がどんな人かわからないから話すきっかけ作りに悩む
- ゲイン(期待・嬉しいこと)
- 出社した時は、いろんな人と話したい
- 気になるコミュニティや話題に積極的に参加したい
私たちはこのペルソナの抱える不安や期待を軸に、プロダクトビジョンとプロダクトゴールを考えました。
◾️このプロダクトで実現したいことは…
開発に先駆けて、プロダクトビジョンとプロダクトゴールを設定しました。プロダクトビジョンは、プロダクトを通じて実現したい世界観、プロダクトゴールは、プロダクトの将来の状態、具体的な目標を表します。
プロダクトビジョン
社内の人と話すきっかけを生み、コミュニケーションを促進させ、「心理的安全性」「楽しくやる文化」を浸透・発展 させる
プロダクトゴール
話したことがないKAG社員同士の
①会話のハードルを下げる
②コミュニケーションを促進させる
▶︎ プロダクトビジョンに込めた想い
KAGの大きな魅力に、「楽しくやる文化」と「心理的安全性」があります。伸び伸びと働ける、全員で会社を盛り上げていこう!という雰囲気があります。(この雰囲気は入社直後から、新卒メンバーも感じていました)しかしこの魅力が、「社員数が増えてきて、維持できなくなってしまう」ではあまりにももったいない。
そこで、新卒や中途社員を含めたあらゆるメンバーが、誰とでも気軽に話しやすく、協力しあえる土壌を更に整えたいというのが、私たちのゴールに込めた願いです。これから作るプロダクトによって、KAGならではの魅力を浸透させたい、それだけでなく更に発展させていき、社員・会社が、より活気のある方向に進んでいく未来を想像し、このビジョンを設定しました。
▶︎ プロダクトゴールに込めた想い
このビジョンを実現するためには、まず「会話のハードルを下げる」ことが不可欠だと考えました。具体的には、「どんな人かわからない」ことに起因する、話しかけるまでの緊張感を和らげる工夫が必要です。
次のステップとしては、「コミュニケーションを促進させる」。つまり、会話が始まった後も、話を続けられるように後押しする仕組みを作ることで、関係性を深めやすくしたいと考えました。
以上二つのゴールを実現することで、プロダクトビジョンを叶えたい。――そんな想いを持ちながら、アプリケーションの具体的なイメージを議論していきました。
◾️新卒チームで開発したWEBアプリ「へぷこ」
明確なビジョンとゴールを元に、新卒チームとして「へぷこ」の開発に着手しました。
「へぷこ」は、ヘンアイ(=偏愛、好きなもの)・プロフィール・コミュニケーションの頭文字を取り、命名しました。社員のプロフィール情報を手軽に閲覧できる機能に加え、検索機能で気になる相手を簡単に見つけられるようにしています。
主な機能と特徴
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プロフィール閲覧
各社員の名前など、基本情報をひと目で確認できるシンプルなデザインにしています。気になった人のプロフィールをタップすると、一覧では表示されていなかった情報を閲覧することが出来ます。
そして、各ユーザーは、「偏愛」を示すヘンアイタグを登録できます。このタグは、単なるプロフィール情報を超えて、その人ならではのこだわりや、熱中しているものを表現する役割を持ち、初対面での会話のきっかけや共通の話題作りに貢献します。プロフィールの中にヘンアイタグが組み込まれていることで、閲覧者は相手の個性を理解することが出来たり、共通点を見つけ出すことが可能になります。 -
検索機能
氏名やヘンアイでの検索、部署や職種での絞り込みが可能です。社員の中で、特に気になる人物を簡単に見つけ出すことができ、交流の一歩を踏み出すサポートをします。 -
生成AIを活用したコミュニケーション支援(コア機能)
ヘンアイタグの情報をもとに、生成AIが各ユーザーに合わせた「話のタネ(話題)」を提案します。これにより、例えば次のようなメリットがあります。- 各ユーザーの偏愛が反映された話題によって会話が弾みやすい
- 自分では思い付かないような話題が見つかる
- 共通の趣味を持つ人はもちろん、それ以外の人とも会話が弾みやすくなる
へぷこが実現する価値
「へぷこ」は、先に設定したプロダクトビジョンとゴールを、具体的に、次のように体現していると考えています。
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会話のハードルを下げる:
各社員の基本情報に加え、個性や趣味が明確に表現されることで、共通の関心や意外な一面を発見しやすくするとともに、初めて会話をする際の緊張や、「どんな人かわからない」という不安を軽減します。 -
コミュニケーションを促進させる:
生成AIによって、「話のタネ」が提案されることにより、会話が始めやすくなる・弾みやすくなるための、サポートをします。
◾️「へぷこ」誕生までの試行錯誤
当初は別のプロダクト案で取り組んでいました。しかし、ある時に、
- 他のサービスや仕組みとの差別化はできているか
- (元々の案で)自分たちが本当に使いたいと思うか
- ユーザーが自発的に関与しなければ、十分に活用されないプロダクトになっていないか
というフィードバック・質問をいただきました。これらの問いに、当時の私たちははっきりとした回答を持ち合わせていませんでした。そこで、改めてチーム内で、
- 中途社員・新卒社員が共通して持つ感情は何か
- 感情の動きは自然なものか
- その感情に沿っているプロダクト(コア機能)は何か
などの議論を重ねました。結果、プロフィール閲覧サービスに、生成AIを活用した話題生成機能をコア機能として追加する方針に舵を切り、先に紹介した「へぷこ」が生まれました。
◾️プロダクト作成後の社内の反応と利用範囲拡大
プロダクト作成中は、たまの出社時に、個々人が他者のプロフィールを閲覧し、声をかけたり、会話を始めるきっかけとして利用することを想定していました。しかし、実際の運用では、次のようなフィードバックが寄せられ、当初の意図を超えて、コミュニケーションの促進に貢献できています。
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チームビルディングのツールとしての活用
社員同士のフリートークの場面で、初対面の方のヘンアイタグの情報が、会話のスタートをスムーズにし、話しやすいという声をいただいています。新メンバーが入ってきた際など、頻繁に利用していただいている部署もあります。 -
生成AIによる話題提案の効果
全く知らない分野でも、生成AIが提案してくれる話題をきっかけに会話が広がる、プロフィールやヘンアイ情報をきっかけとする会話だけでなく、「生成AIがこんな変な話題を提案している」という話でも盛り上がるとの声もあります。また、「へぷこ」の存在自体が、声を掛ける際の心理的な壁を取り除く効果を持っているという評価がありました。 -
利用範囲の拡大
社員限定で運用していた「へぷこ」ですが、新卒採用イベントでのを希望する声を受け、今年2月にゲストページ機能を追加改修しました。これにより、社員から招待を受けた一般の方も利用できるようになり、KAGだけでなく、外部の方も交えたコミュニケーションの促進にも寄与しています。
◾️まとめ
Webアプリケーション「へぷこ」は、KAGが大切にする「楽しくやる文化」と「心理的安全性」を浸透・発展させるための試みとして作成しました。
新卒チームが短期間の研修内で取り組んだこのプロダクトは、個々人の好きなものを表現した「ヘンアイタグ」と生成AIを活用した話題提案機能により、実際に社内コミュニケーションの活性化に寄与しています。さらに、内部利用にとどまらず新卒採用イベントなど外部との交流促進にも繋がっています。今後も、ユーザーのフィードバックを活かしたアップデートや機能拡充を通じて、魅力的なツールへと進化していく可能性を秘めています。
また、研修の一環として、自分たちの生み出したプロダクトがユーザーの声を受けて進化していくという、実践的な経験を積むことができたことは、今後のキャリアにおける大きな糧となったと感じています。
以上、新卒チームで開発したWEBアプリ「へぷこ」に関する取り組みについての紹介でした。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。