初めに
DockerやPythonを触っているとBookwormとかBullseyeとか聞いたことがあると思います。
これらは何かというと、Debian のコードネームになります。
そしてDebian のコードネームは、Pixar の映画「トイ・ストーリー」に登場するキャラクターの名前から取られています。
おさらいも含めてこれまでのDebianのリリースとそのコードネーム、および対応するキャラクターを表にしてみました。
バージョン | コードネーム | キャラクターの説明 |
---|---|---|
1.1 | Buzz | バズ・ライトイヤー (Buzz Lightyear) - 流行のテレビアニメ『バズ・ライトイヤー』の主人公をモチーフにしたアクションフィギュア。 |
1.2 | Rex | レックス (Rex) - おどおどした性格の緑色のティラノサウルスのフィギュア。 |
1.3 | Bo | ボー・ピープ (Bo Peep) - 羊飼いの少女の人形で、ウッディの想い人。 |
2.0 | Hamm | ハム (Hamm) - ピンク色のブタの貯金箱で、賢く皮肉屋なキャラクター。 |
2.1 | Slink | スリンキー・ドッグ (Slinky Dog) - ばねで胴体がつながった犬のフィギュア。 |
2.2 | Potato | ミスター・ポテトヘッド (Mr. Potato Head) - 顔のパーツを付け替えられるジャガイモ型のフィギュア。 |
3.0 | Woody | ウッディ (Woody) - 西部劇のカウボーイ人形で、アンディのお気に入り。 |
3.1 | Sarge | サージ (Sarge) - 緑色のプラスチックの兵隊たちのリーダー。 |
4.0 | Etch | エッチ・ア・スケッチ (Etch A Sketch) - 劇中に登場するお絵描きボードのおもちゃ。 |
5.0 | Lenny | レニー (Lenny) - ズーム機能のある双眼鏡のおもちゃ。 |
6.0 | Squeeze | エイリアン (Squeeze Toy Aliens) - ピザ・プラネットにいる三つ目の緑色のエイリアンたち。 |
7.0 | Wheezy | ウィージー (Wheezy) - 壊れた笛が特徴のペンギンのぬいぐるみ。 |
8.0 | Jessie | ジェシー (Jessie) - カウガールの人形で、ウッディの仲間。 |
9.0 | Stretch | ストレッチ (Stretch) - 紫色のタコの形をしたおもちゃ。 |
10.0 | Buster | バスター (Buster) - アンディの飼い犬。 |
11.0 | Bullseye | ブルズアイ (Bullseye) - ウッディの愛馬。 |
12.0 | Bookworm | ブックワーム (Bookworm) - 緑色の読書好きの虫。 |
誰かわからなくなるので、それぞれ説明していきます。
Debianでこれまで使われてきたキャラクター
1.1 Buzz
バズ・ライトイヤー (Buzz Lightyear)
宇宙をテーマにしたアクションフィギュア。
勇敢で、当初は自分を本物の宇宙飛行士だと思い込んでいた、ウッディのライバルであり親友。
『トイ・ストーリー』に登場する最初のキャラクターとして、Debianのコードネームがトイ・ストーリーから取られるようになったきっかけの一つと言えるかもしれません。
1.2 Rex
レックス (Rex)
ティラノサウルスのおもちゃ。気弱で心配性だけど、心優しい恐竜。
1.3 Bo
ボー・ピープ (Bo Peep)
羊飼いの少女の人形で、ウッディの想い人。これを開発していた当時は4で再登場するとは思わなかったでしょう。
2.0 Hamm
ハム (Hamm)
ピンク色のブタの貯金箱。皮肉屋で、口数が多い。
2.1 Slink
スリンキー・ドッグ (Slinky Dog)
Slinky Dog (スリンキー・ドッグ)。胴体がバネでできた犬のおもちゃ。忠実で、ウッディの良き相棒。
2.2 Potato
ミスター・ポテトヘッド (Mr. Potato Head)
↑向かって右の髭の生えてる方
顔のパーツを付け替えられるジャガイモ型のフィギュア。
3.0 Woody
ウッディ (Woody)
カウボーイ人形。アンディのお気に入りのおもちゃで、おもちゃたちのリーダー。忠実で、仲間思い。3.0にして主人公が来ました。それだけ安定してきたという自信があったんですね。
3.1 Sarge
サージ (Sarge)
緑色の兵隊たち (Green Army Men) のリーダー。規律を重んじる。
4.0 Etch
スケッチ (Etch A Sketch)
劇中に登場するお絵描きボードの絵が描けるおもちゃ。これ以降4.1のような中途半端なリリースはなくなります。
5.0 Lenny
レニー (Lenny)
ズーム機能のある双眼鏡のおもちゃ。ウッディがバズを見つける手助けをする。
6.0 Squeeze
エイリアン (Squeeze Toy Aliens)
ピザ・プラネットにいる三つ目の緑色のエイリアンたち。単にエイリアン、またはリトルグリーンメン(Little Green Men)として知られていますが、ここで言うSqueeze Toyとは押すと音の出るおもちゃのことです。
7.0 Wheezy
ウィージー (Wheezy)
ペンギンのぬいぐるみ。声が出なくなってしまったが、直してもらい歌が歌えるようになりました。
8.0 Jessie
ジェシー (Jessie)
カウガールの人形で、ウッディの仲間。活発で、歌やヨーデルが得意。
9.0 Stretch
ストレッチ (Stretch)
紫色のタコの形をしたおもちゃ。伸びる腕を持つ。初めてのトイ・ストーリー3のキャラクターです。
10.0 Buster
バスター (Buster)
アンディの飼い犬。ここにきておもちゃのキャラクターではなくなりました。
11.0 Bullseye
ブルズアイ (Bullseye)
ウッディの愛馬。非常に忠実で優しい。
12.0 Bookworm
ブックワーム (Bookworm)
緑色の読書好きの虫。ついに公式から情報のないおもちゃのキャラクターがでました。中の人はインサイド・ヘッドのビンボンだったりします。
今後のバージョン
Debian 13以降は2025年内のリリースとなっていますが、Debian 15までコードネームは決まっているようです。
今後のコードネームを予測してみるのも面白いのではないでしょうか。
13.0 Trixie
トリクシー (Trixie)
『トイ・ストーリー3』と『トイ・ストーリー4』に登場するトリケラトプスのおもちゃ。コンピュータゲームが好き。
14.0 Forky
フォーキー (Forky)
手作りのフォークのおもちゃ。自分がゴミだと思っている。初めてのトイ・ストーリー4のキャラクターです。
15.0 Duke
デューク・カブーン (Duke Caboom)
バイクスタントマンのおもちゃ。CMと同じように飛べないことがトラウマ。キアヌ・リーヴスが演じています。
バージョン以外で使われているキャラクター
Sid
シド (Sid)
アンディの隣人で、おもちゃの破壊や改造を好み、視聴者たちに強烈な印象を与えました。
このコードネームSidは特別で、非公式には「Still In Development(開発継続中)」のバクロニムとされています。常に不安定な開発に用いられます。
RC-Buggy
RC
RCはアンディのラジコンのおもちゃで、しゃべることはできませんが、飛び跳ねたり音を出すことで気持ちを伝えます。
非公式ですが、このコードネームは不安定ではない、実験中のリポジトリに用いられます。
Zurg
ザーグ (Zurg)
バズの宿敵である、悪の帝王のアクションフィギュア。実はバズの父親で、ディズニーがルーカスフィルムを買収した今、堂々と子会社間のコラボになってしまいました。
本来はDebian 9.0で使う予定でしたが、9.0のコードネームはStretchになってしまいました。またどこかで使うことがあるかもしれません。
なぜDebianのコードネームは「トイ・ストーリー」から来ているのか
Debianのコードネームが「トイ・ストーリー」のキャラクターから取られているのは、当時のDebianプロジェクトリーダーであったBruce Perens氏が、映画を制作したピクサー社で働いていたためです。
彼は1996年にリリースされたDebian 1.1 "Buzz"(バズ・ライトイヤーにちなむ)からこの慣例を始めました。
この命名規則は現在も続いており、Debianの新しいバージョンがリリースされるたびに、「トイ・ストーリー」シリーズのキャラクターの名前がコードネームとして採用されています。
余談
Bruce Perens氏はオープンソースの普及にかなりかかわっているすごい人です。
Open Source Initiativeを設立したり、BusyBoxを作ったり、OSS触っているとどこかでお世話になる機会があると思います。
薄いDockerイメージ作っているとBusyBoxに触れたりして、BusyBoxの軽さに驚いたりするのですが、
彼はそれだけではなく、ピクサーにて12年間、コンピュータグラフィックスと映画製作に携わっています。
映画にクレジットされたことがあるプログラマは中々いないと思いますが、トイストーリー以外にもバグズライフの制作に携わっています。
むしろこの人がトイ・ストーリーを作っていた側で、トイ・ストーリーを作ったという点でもDebianを作ったという点でも驚かされるすごいプログラマーです。
今我々がLinuxなりGitHubを触っているのもこの人のおかげとも言えます。
さらに、アマチュア無線愛好家でモールス符号をなくそうと運動してなくしたという点も付け加えると、ものすごい多才な人でもあります。
用語
スイート
一般的には「オフィススイート」のような、密接に統合されたパッケージ (多くの場合複数のソースパッケージ) のセットを指しますが、
Debian 固有の意味では、不安定版 (unstable)、テスト版 (testing) など、Debian の開発プロセスのある特定の「ブランチ」を保持するリポジトリを指します。
また、sources.listなどでは、"sid" のようなコードネームも「スイート」を特定するものとして認められます。
また、security や backports のような個々の補足的なサブリポジトリを含むように一般化されています。
なんのためにこういったコードネームがあるのかというと、x.y.zのようなバージョンで管理する方法もありますが、WoodyやBuzzという名前で管理する方法もあり、文脈によりけりですが、スイートはそういったコードネームや一般的なブランチ名などと合わせてどういう用途やステータスなのかがわかりやすくなっています。
始めてDockerを触って、BullseyeやBookwormって何?と思った方もいらっしゃいますが、11とか12とか言われるより親しみが持てると思います。
感想
かつてUbuntuやDebianは「おもちゃ」扱いされてきて、商用なら専らRedHatしかあり得ないという風潮がありましたが、
Dockerなどのコンテナ技術が普及するにつれて、むしろこちらの方が主流になりました。
子供のころ、純粋な気持ちで触れていた「おもちゃ」が今こうして社会を支えているのは何とも言えない感慨深いものがあります。
これこそが本当の 「トイ・ストーリー」 なのかもしれませんね。
参考