『JavaScript/TypeScript実力強化書 ―― 関数・非同期処理・型システム完全攻略』という本の執筆者が登壇したセミナーを受講した際、各セッションで繰り返し登場したのが "イミュータブル(Immutable)" というキーワード。
なぜ現代の JavaScript/TypeScript でイミュータブルが重要視されているのか?
そして、2025年のトレンドとどう関連するのか?
最新のフロントエンド技術、非同期処理、リアクティブプログラミングなどを横断しながら、イミュータビリティがなぜ注目されているのかを(AIさんにご協力いただきながら)整理していきます!
1. イミュータブルとは何か?
イミュータブルとは、状態(データ)を変更しないという設計思想のこと。
JavaScriptでは次のような書き方がイミュータブルな操作になります。
// ミュータブル(元の配列を書き換える)
arr.push(3);
// イミュータブル(新しい配列を返す)
const newArr = [...arr, 3];
昔のJSでは push や spliceのような破壊的操作、オブジェクトへの直接代入が一般的でしたが、近年のJSでは 「元の値を破壊しない」ほうが安全かつ扱いやすい 場面が増えています。
React・Redux ではイミュータブル前提の API が多く、Redux Toolkit でも Immer が採用され、イミュータブルな操作が広まりました。
2. JavaScriptでイミュータブルが重要になる理由
理由①:React などの“再レンダリング最適化”と相性が良い
React には、 UI の差分を効率的に検知するための仕組み(並行レンダリング、浅い比較(shallow comparison)など) がいくつも用意されています。
イミュータブルであれば、
- 参照が変わった = 値が変わった
- 差分検知がシンプルで高速
- 不要な再レンダリングを防ぎやすい
といったメリットがあります。
※ 補足
Vue・Solid・Svelte などのリアクティブフレームワークでは、Proxy や Signals により 値をミュータブルに扱っても安全に変化を検知できる 場面が多いため、必ずしもイミュータブルが前提ではありません。
理由②:非同期・並行処理で安全に扱いやすい
JavaScript は単一スレッドですが、以下のようなケースでは状態共有のリスクが高まります。
- Web Worker 間の共有メモリ
- Deno/Bun の Worker pool
- React の 並行レンダリング(読み取りフェーズの複製)
こうした “複数の処理が同じデータを参照しうる状況” では、 ミュータブルな値は思わぬ競合を生む ことがあります。
イミュータブルであれば、基本的に
- 読み取り専用のため競合が起きにくい
- データを扱うロジックを単純にできる
といったメリットがあります。
理由③:TypeScriptの型安全性が向上する
TypeScriptでは、as const や Readonly<T> などの「不変」を前提とした構造が強化されています。
イミュータブルが型安全性を向上させる理由として以下があげられます:
- 状態変更が追跡しやすい
- 破壊的変更による型崩壊を防げる
- 副作用の範囲が小さくなり、型推論がより強く働く
- 再帰的 readonly など複雑なデータ構造の安全性が高まる
理由④:サーバー側で状態を管理する流れが強まっている
近年増えている以下のアーキテクチャは、状態管理の透明性が重要です:
- React Server Components
- Next.js Server Actions
- Remix / SvelteKit の loader / action
これらは
- クライアントに複雑な状態を持たせない
- サーバーから返る値が“そのまま状態”になる
という流れが強まっています。
その結果、 状態遷移がより明確であることが価値になり、イミュータブルが役立つ場面が増える というわけです。
3. イミュータブルは“思想”
2025年のJavaScriptでは、イミュータブルは単なるテクニックではなく、アーキテクチャ的な価値観として扱われつつあります。
- React(コンカレンシー)
- Zustand / Recoil / Jotai などの状態管理
- Immer(構造的共有)
- Signals
- 関数型プログラミング的アプローチ
これらを結びつけている共通点は 共有状態の複雑さを減らし、安全で予測可能なデータフローを維持すること です。
4. JavaScriptでイミュータブルを実現する実践パターン
パターン①:スプレッド構文で新しい値を作る
const newUser = { ...user, name: "Alice" };
パターン②:配列を非破壊で扱う
const updated = items.map(i => ({ ...i, done: true }));
パターン③:ECMAScript 2023の新メソッド
// toSorted() - ソート
const sorted = arr.toSorted((a, b) => a - b);
// toReversed() - 反転
const reversed = arr.toReversed();
// with() - 要素の変更
const newArr = arr.with(1, 'new value');
// toSpliced() - 挿入・削除
const spliced = arr.toSpliced(1, 1, 'inserted');
これらのメソッドは、 従来の破壊的メソッド(sort, reverse, splice)の "イミュータブル版" として追加され、 配列操作の副作用を避けるための標準手段 として広く推奨されつつあります。
パターン④:Immerで“破壊的に書けるのにイミュータブル”
import { produce } from "immer";
const next = produce(state, draft => {
draft.count++;
});
Immerは構造的共有(Structural Sharing)を採用しており、部分的な変更でも全コピーを避けつつ効率的にイミュータブルを実現します。
5. ミュータブルが問題になるケース
function addItem(cart, item) {
cart.push(item); // 元のオブジェクトを変更してしまう
}
このような関数を複数コンポーネントで共有すると…
- "どこで値が変わったか" が不明になる
- 不要な再レンダリング、予期しないタイミングの再レンダリングが起きやすい
- 並行処理中にレースコンディションが起きうる
とはいえ、ローカルスコープの一時変数や計算途中のデータなど、ミュータブルのほうが実用的な場面もあります。
イミュータブルとミュータブルは “使い分け”が重要 です。
6. まとめ:イミュータブルは2025年のJSトレンドを読み解く鍵
React の進化、Signalsの普及、TypeScriptの型強化、Server-firstの潮流——
ここ数年のJavaScriptトレンドを振り返ると、背景には「状態をどう扱うか」という共通テーマが存在します。
イミュータブルは、そのテーマを理解する際のひとつの重要な視点だと思います。
もちろん、すべてのケースでイミュータブルを採用する必要はないですが、
- どこを変え
- どこを変えないのか
を意識することで、コードの見通しは良くなります。
そのため、昨今のJavaScript/TypeScriptを理解するうえで、イミュータブルはひとつの重要なキーワードになりそうです。
参考
- TypeScript/JavaScript Array完全攻略2024 | フューチャー技術ブログ
- React18についての紹介 | 株式会社Gizumo
- なぜReactでは状態を直接変更してはいけないのか - Wantedly
- リアクティビティーの探求 | Vue.js
- Signals - Solid Docs
- TypeScriptのreadonlyプロパティを使いこなす - Qiita
- Data Fetching: Server Actions and Mutations | Next.js
- 関数型プログラミング事始め (36) イミュータブル(1)
- データ競合(data race)と競合状態(race condition)を混同しない - Qiita