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実装はAIが飲み込む時代、データ基盤構築で人は何をする? AI駆動開発の全体設計図(第1回)

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Last updated at Posted at 2026-06-21

はじめに

私はデータ基盤の運用保守に携わっており、主にバッチ処理まわりの保守や追加開発を担っています。

最近、AIエージェントが話題ですね。AIにどこまで仕事を任すことができ、人がどのようにかかわっていく未来になるのかを知るためにClaude の Pro プランを使い始めました。この2週間で、日々その実力に驚かされており、このブログのリサーチや示唆出しも、Claudeに手伝ってもらっています。

そんな中、データエンジニアとして「どこまで・どう活用できるのか」を考えてみたくなり、データ基盤を要件定義からリリース・運用まで、AIと一緒に作るという前提で全体像を整理してみます。

結論(この記事で言いたいこと):自然言語からのコード生成も、ガバナンス機能も、いまはクラウドベンダーや AI がどんどん「飲み込んで」います。そんな中で人に残り続けるのは、特定の基盤に依存しない要件定義プロセスだと考えました。本記事は、それを起点に要件→設計→実装→テスト→運用まで貫く「全体設計図」を1枚で示す回です。

この分野はまだ発展途上で、半年後にはツールも常識も変わっているはずです。本記事は「正解」ではなく、いま私が考えている現時点の設計図として読んでください。

また、2026年6月に「ループエンジニアリング」というキーワードが話題になりました。私は学生時代に制御工学を学んでいたので、フィードバック制御に似ているなと感じました。その視点も少しだけ添えています。

なぜ「要件定義」なのか

「AIでデータ基盤を作る」こと自体は、もう特別ではないようです。

  1. 実装はベンダー/AIが飲み込みつつある。 自然言語で意図を伝えると本番の ETL を生成してくれる機能が、各データ基盤に組み込まれてきました。「どう作るか」は急速にコモディティ化しています。

  2. ガバナンスもプラットフォームに内製化されつつある。 エージェントごとの権限管理・監査や、外部ツール接続の仕組みも、基盤側に取り込まれてきています。

  3. それでも、プロジェクトは失敗している。 2025年、ガートナーは「エージェンティックAIプロジェクトの40%超が2027年末までに中止される」と予測しています(理由はコスト増・ビジネス価値の不明確さ・リスク統制の不備)。加えて業界では「エージェンティックな企業の土台はデータ基盤だ」という指摘も強まっています。

つまり、コモディティ化しないのは「何を・誰のために・どんな価値で・どんな統制で作るか」という要件定義の部分です。そしてそれは要件定義フェーズで終わらず、設計・実装・運用まで一貫して効き続けます(要件が曖昧なまま進めると、運用で破綻します)。

これは「ツールが不要」という話ではありません。むしろツールは積極的に使います。ただ、勝負どころは要件定義であって、ツール選びではないのではないか、という整理です。

全体設計図:フェーズ × 4つの関心事

私が考えた全体像は、開発フェーズ(要件定義→設計→タスク→実装→テスト→運用) を縦軸に、4つの関心事を横軸に置いたマトリクスです。

スクリーンショット 2026-06-21 212241.png

4つの関心事は、優先度の高い順に次の4つです。

関心事 意味 性格
① 価値 / Value 誰の何の課題を、どんな成果(outcome)で解くか 🔵 基盤非依存(持ち運べる)
② ガバナンス / Governance 所有者・定義・品質・来歴などの統制 🔵 基盤非依存(持ち運べる)
③ 実行 / Execution AIエージェントが実際に手を動かす仕組み 🟣 交換可能
④ 方法論 / Methodology どんな規律(手順)で進めるか 🟣 交換可能

ポイントは、①②と要件定義は「持ち運べる(基盤非依存)」、③④は「交換可能」 だということです。

  • 持ち運べる(Portable):価値とガバナンスは、使う基盤やツールを変えても変わりません。どのクラウドでも「誰のための、どんな価値か」「誰がデータを持ち、どう品質を担保するか」は同じように成り立ちます。
  • 交換可能(Replaceable):実行(どのAIエージェントを使うか)と方法論(どの開発手法を使うか)は、いつでも差し替えられる「一例」にすぎません。本連載では実行に Claude Code、方法論に後述の cc-sdd を使いますが、それはあくまで私の一例です。

承認ゲートと「手戻り」

各フェーズの境目には、人が成果物を確認して次へ進む承認ゲートを置きます。要件定義・設計・タスク・テスト(リリース判定)の後など、節目で人が確認する設計です。

そして、後のフェーズでつまずいたら前のフェーズへ戻る(手戻り)。たとえば設計で無理が見つかったら、要件定義に戻って合意し直す。この「進んで・確認して・必要なら戻る」のループこそが、全体を動かすエンジンになります。

![データ基盤づくりの全体設計図:開発フェーズ × 4つの関心事。各フェーズの境目に承認ゲートを置き、つまずいたら前のフェーズへ戻る(手戻りループ)。]

stracture.gif

ちょっとだけ制御の話(詳細は別記事で)

制御工学とは、ざっくり言うと「目標に近づくように、測定値を見ながら自動で調整し続ける仕組み」を扱う分野です。身近な例だとエアコンが分かりやすく、設定温度(目標)と室温(測定値)の差を見て、運転を強めたり弱めたりします。この「目標と測定値の差を見て入力を直し続ける」やり方をフィードバック制御と呼びます。

そして「進む→測る→ずれていたら戻る」というプロセスの構造は、このフィードバック制御とよく似ています。目標値(仕様)と出力(成果物)の差(テストの不合格など)を見て、次の一手を決める——閉じたループ(閉ループ)です。

冒頭で触れたループエンジニアリング(人が都度プロンプトを打つのではなく、エージェントを自律で回す「ループ」自体を設計する考え方)も、この延長線上にあるように捉えています。

制御工学では、「では、そのループは必ず目標に到達すると保証できるのか?」——という論点があり、数学の問題に落とし込むプロセスがあります。データ基盤構築の目標は、運用し価値を生み出すことが目標ですね。
制御工学の視点で踏み込むと面白いのですが、長くなるので別記事で詳しく書きます。ここでは「ループは制御に似ている」とだけ押さえておきます。

土台に選んだ cc-sdd と、ツールの位置づけ

方法論(④)には、仕様駆動開発(SDD:Spec-Driven Development) を採り、その実装として国産 OSS の cc-sdd を土台にします。要件定義→設計→タスク→実装を段階的に文書化し、承認ゲートを挟みながら進められるのが選定理由です。

ただし、SDD ツールは cc-sdd だけではありません。海外では GitHub Spec Kit や BMAD などが広く使われていて、それぞれ得意・不得意があります。ツールは主役ではないので、選び方は別途まとめます。cc-sdd 自身にも「設計が長くなると文脈が劣化しやすい」「既存のプロジェクト設定ファイルと共存させにくい」といった弱点があり、そこは運用で工夫します。

通し例:製造業の設備データ基盤(次回から)

第2回以降は、ひとつの題材を例に、AI駆動のデータ基盤構築プロセスをより深く考えていきます。私が選んだのは 製造業の設備データ基盤 です(製造業は国内のIT投資が最も大きい領域でもあります)。

具体的には、製造設備のデータを集めて「設備の停止を予知する」「設備総合効率(OEE) を改善する」ことをゴールにしたデータ基盤を想定します。OEE は ISO 22400 で定義される製造KPIで、可用性 × 性能 × 品質で表されます。「ダッシュボードを何枚作ったか」ではなく「OEEがどれだけ良くなったか」という**成果(outcome)**で価値を測る、という①の考え方を具体化するのにちょうどよい題材です。

題材は一般化した例です。特定企業や案件固有の情報には踏み込みません。

まとめ・次回予告

  • AIとベンダーが「実装」と「統制」を飲み込む時代に、人に残るのは特定基盤に依存しない要件定義
  • それを起点に、フェーズ × 4つの関心事(価値・ガバナンス・実行・方法論) で要件→運用まで貫く。①②は持ち運べる、③④は交換可能。
  • 承認ゲートと手戻りのループで全体を回す。土台は cc-sdd(あくまで一例)。
  • ただしこの分野は発展途上。これは現時点の設計図です。

次回(第2回)は、いちばんの肝である「特定基盤に依存しない要件定義」を、具体的なヒアリング項目に落とし込み、AIが実行するタスクにどのように橋渡しできるのか。について考えていきます。

参考リンク

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