会議で、こんな場面に出くわしたことはありませんか。
だれかが「うちの AI って、結局どこまで進んでるんだっけ」と聞く。すると部屋にいる六人が、六通りの答えを返す。
去年まで、みんなが聞いていたのは「やるべきかどうか」「ROI をどう証明するか」でした。今年、その問いはほぼ消えました。
代わりに出てきたのは、もっと answer しにくい、もっと根本的な問いです。もしあなたの会社でこれらの問いが出ていないなら、そのほうが心配かもしれません。
NLW が KPMG の年次テクノロジー・イノベーション・シンポジウムから持ち帰った、会場で繰り返し出ていた六つの問いを紹介します。いま答えを持っているものは、ほとんどありません。でも、正しい問いです。
まず、変化そのものを見る
パラダイムシフトはもう起きました。「AI が手伝ってくれる」(assisted)から、「AI が自分でやる」(agentic)へ。
企業は三年これを待っていました。それが来たので、問いが総入れ替えになった——すべてが「この新しい働き方が生む新しい問題を、どう解くか」に関するものです。
NLW の見立てはこうです。2026 年は「AI は技術の問題ではなく、変革の問題だ」が本当に地に足のついた年になった。
問い 1:「後付け」ではなく「再設計」できているか
キーワードは**再設計(redesigning)**です。
KPMG の Steve Chase が壇上で最も強く警告したのは、AI 戦略を既存のプロセスやシステムに継ぎ足す(bolt-on)やり方は、必ず問題を起こす、ということでした。
「補助的な AI」の時代なら、継ぎ足しは単に可能性を使い切れないだけでした。agentic の時代には、その代償はずっと大きくなります。
問い 2:アーキテクチャで考えているか、モデル選びで止まっていないか
これまで新しい課題が来たとき、企業の反応は「どのベンダーが一番うまく解決してくれるか」でした。
もう、それでは足りません。
アーキテクチャで考えるとは、具体的に三つのことです。
- マルチモデルのシステム——難易度の違うタスクに、違う知能レベルを割り当てる
- ルーティング層——既製品か自社開発か、リクエストを正しいモデルに落とす
- harness の設計——だれが、どの機能が、どのコンテキスト・データ・システム連携にアクセスできるか。そしてそれを囲むガードレールは何か
問い 3:コストをチーム間でどう配分するか
三つ目はお金の話です。だれが、どのチームが、いくら使っているのか。
その下にあるのは、もうひとつのシステム要件——AI 利用量を監視し計測する仕組みです。
NLW の表現が印象的でした。会場でこれほど頻繁に「トークン」という言葉を聞いたのは、暗号資産の熱狂の絶頂期以来だ、と。
「AI のコスト × アウトプット」への可視性がなければ、だれにどのモデルを、どの規模で使わせるべきかを判断できません。
問い 4:人材の enablement は、動画研修ではなく泥臭い実務
ここが個人的に一番共感したところです。
会場の共通認識は、これは可愛くつくられた企業研修動画の束にはならない、というものでした。
これは泥臭くて散らかった実務です。人を新しいツールで新しい仕事に押し出し、そのうえで「もう分かっている部署」の知見を「まだ分かっていない部署」へ伝えていく。
繰り返し現れたパターンはペアリングでした。AI で再設計されたエンジニアリング組織や、早期採用者を、事業部門と組ませる。
注意したいのは、だれも「マーケがエンジニアを置き換える」とは言っていないことです。語られていたのは、エンジニアや PM が持つスキルの 10〜20%、そしてそれ以上にマインドセットを、マーケ・営業・バックオフィスの人たちの必携ツールにどう変えるか、でした。
問い 5:対外的には? ビジネスモデルはどう変わるか
ここまでは社内変革の話です。でも対外という次元もあります。
会場で議論されていた方向性:
- 「投入ベース課金」(時間単価など)から成果ベース課金へ
- 新しいカテゴリの製品・サービスの登場
- 既存プロダクトの中身の問い直し——agent が継続的に監査をやれるなら、そもそも「監査」とは何か?
ただ多くの組織は、自らを「patient zero」と位置づけています。まず社内の働き方を整え、対外的に売るものを大きく変えるかはその後、と。
難しいのは、半年間ラインを止めて考える、ということが誰にもできない点です。旧来の顧客・製品・提供方法を回しながら、リアルタイムで変えていくしかない。
問い 6:「陳腐化する前提」をどう設計に織り込むか
最後の問いがいちばん直感に反します。
新しいシステムをつくるなら、動的であること、計画的陳腐化、ephemerality(短命さ) を最初から設計に織り込むには、どうすればいいか。
harness は変わります。インタラクションの様式も、顧客の期待も、市場も、政策も変わります。
だから今日つくるものはすべて、こう仮定すべきです——完成した数か月後には、たぶんまた作り直すことになる。
この六つの問いに、いま答えを持っているものはほとんどありません。
でも安心できるのは、まさにその点です。みんながようやく、正しい問いを立てはじめた。去年は「これが本物だと、どう周りを説得するか」ばかりだった会場が、今年は「新しい時代に向けて、どう設計し直すか」を議論している。
一文に圧縮するなら——AI はツールを買って入れることではなく、組織を agentic に設計し直すことだ。
そして問い 2 と 3 にあった「マルチモデルの階層化 + ルーティング + トークンコストの可観測性」。これはまさに私たちが Flatkey をつくっている理由です。この層は、企業がいずれ必ず必要とします。
出典:The AI Daily Brief(ホスト NLW)「6 Questions Every Enterprise Has to Answer About AI」。会場は KPMG 年次テクノロジー・イノベーション・シンポジウム。本稿は同エピソードに基づく整理と評釈であり、見解とデータは原ポッドキャストに準拠します。