1年ほど前に、推しグループのアルバムがサブスクリリース配信リリースされたということがありました。(意外と地下アイドルでもサブスク配信をしている)
しかし、配信後に狭い界隈が若干ざわつき、『音質悪い!』『音が小さくて歌声が聞こえない』という批判が上がって、中には「編集していい感じにしたから聴いて」とアップロードする(版権的にグレー?)強者までいました。
全く音質に興味がなかったので気づかなかったのですが、レコーディングの音声ファイル形式や編集等の仕方によっては、音が悪くなったり聴こえ方が変わってくるのかもしれないな~と過去の事象に対して落とし所ができた気持ちになりました。
魑魅魍魎の音たちがはびこるこの世界に軽く沼ってしまった為、今回も音声ファイル形式(総合編)として記事を書きたいと思っていました。
が、しかし、
mp3だけの回になってしまいました。
音質厨界隈の嫌われ者mp3の悪口の根源を調べ尽くそうと意気込んでいたにも関わらず、そこにあったのはオーディオ圧縮への熱意と研究心、そして営業力が添えられた物語が存在していました。
mp3とは?
MP3の正式名称が『MPEG-1/2 Audio Layer-3』というそうです。
”MPEG”とは、動画・音声データの圧縮方式の標準規格を検討するため、国際標準化機構が1988年に合同で設置した専門家委員会のこと『MPEG【Moving Picture Experts Group】』 --by e-wordsで、三郎がいるなら一郎と二郎がいる方式のように、「Layer-1」と「Layer-2」も存在していたそうです。
諸事情から音楽業界・通信界隈で安定的に重宝されたのはLayer-2の方で、後にWindowsMediaPlayerなどの発達によりMP3も急速な広まりをみせたそうです。
MP3の正式名称はMPEG-1/2 Audio Layer-3で,MPEGによって規格仕様が公開されている.MP3では非圧縮であるCDの容量と比べ,10分の1以下である1.4MB(megabyte)へと圧縮されている.その圧縮方法は人間が知覚できない音の箇所を削除する方法である.
中村明順,三藤利雄『音声規格の標準化競争 -MP3の普及要因分析』
ドイツ生まれだった!
音楽といえば米国というイメージがありましたが、まさかのドイツ生まれ。
MP3は1987年からドイツの研究所で育まれた存在とのことでした!
1987年から、フラウンホーファー集積回路研究所(IIS)から選ばれた大規模なチームがMP3規格の開発に取り組みました。
”What is mp3?” --byFraunhofer Institute for Integrated Circuits IIS
そして、その功労者である(変わり者)ドイツ人技術者カールハインツ・ブランデンブルク氏と、彼を中心とした「フラウンホーファー協会」(ドイツ全土に数多くの拠点を持つ巨大な公的研究機関)の技術者たちが、世界的な電機・家電大手でCDを開発したフィリップス(本社・オランダ)が裏で糸を引く新技術の標準規格決定委員会「MPEG」の露骨な嫌がらせをはねのけ、MP3を世界の標準規格として世界に認めさせたファイル形式とのことでした。『誰が音楽をタダにした? 特定された違法コピー第1号犯ネットおたく、MP3規格、業界のドン…意外な真実とは』 --by産経WEST
カールハインツ・ブランデンブルクとは
カールハインツ・ブランデンブルク氏は、若いときにビートルズに憧れてアンプを自作し、クラスメイトに売りつけていたような奇人(褒め言葉)だったそうです。
大学では電気工学の理学修士号と数学の修士号を取得し、学科長であり、修士課程と博士課程の両方の指導教官であったディーターザイツァー教授から音楽伝送アイデアを提案されたりしていたそうです。
音声圧縮アルゴリズムである Adaptive Transform Coding (ATC) のリアルタイム実装についての研究に進んだそうです。
ブランデンブルクさんの教授とその教授の師匠
ブランデンブルクさんの師匠ディーターザイツァー教授の師匠もまた、音響の功労者であり、音声のデジタル化の発想を抱いていた研究者の一人だったそうです。
ドイツの音響学教授エーバーハルト・ツヴィッカーは人間が音を認識する仕組みを長年研究してきました。
"Why does digital music only make sense to a human ear?" --by By Sašo Dolenc/sci-highs.com
そして、コンピューターエンジニアでもあったディーターザイツァー教授。
師匠も提唱する『心理音響マスキング』について考えていた時、人間の耳には聞こえないデータを取り除けばデジタル音声録音のデータ容量も小さくできると考えたそうです。
ディーターザイツァー教授的には1982年に登場した『CD』も、1秒間のステレオサウンドに約14億バイトのデータを使用することに不満を覚えていたそうです。
教授はアイデアを特許申請したものの、受け入れられなかったという。
ISDNは128kbps(2Bサービスの場合)のデジタル回線交換を実現するもので、1980年代に実用化された。サイツァー教授はこのアイデアを特許化しようとしたが「128kbpsで高品質オーディオをデジタル伝送するのは荒唐無稽」として特許は成立しなかったという。
『【コラム】MP3の開発者 カールハインツ・ブランデンブルグ博士インタビュー「MP3最大の功績はメディアと方式の分離」』 --byInterBEE
そこでブランデンブルクさんにアイデア兼プロジェクトを引き渡したという経緯もあったそうです。
ラウドネス曲線
この『マスキング効果』を利用してず視されたのが『ラウドネス曲線』と呼ばれる曲線で、mp3の思想といっても良い曲線なのでしょう。
「ラウドネス曲線」という言葉を耳にされた方もいるかもしれませんが、これは図1で示した曲線のことです。ですから、低音から高音まで広いレンジで鳴っている音源があっても(図2)、人間の耳には両端を落とした形(図3)でしか聴こえないという特徴があります。これを逆手にとって、聴こえない周波数のデータを全部省いてしまうことで、大幅な圧縮が可能になります。
『その100「MP3/MPEG Audioの仕組み」』 --by槻ノ木隆のBBっとWORDS
壁になった曲:「Tom’s Diner」
ある日、たまたま廊下の向こうから流れてきた曲を聴いて、ブランデンブルグ氏は『不可能だ』と感じたそうです。
流れてきたのはSuzanne Vegaのアカペラで歌われた「Tom’s Diner」。
というのも、高度な「オーディオ圧縮」を志すブランデンブルグ氏にとって、圧縮が難しい曲をちょうど探していたのかも知れません。
ブランデンブルグ氏はラボに戻り、「Tom’s Diner」を圧縮してみたそうですがうまくは行かなかったそうです。
最初はデジタル圧縮されたヴェガの声は温かみがなく、人間らしくもなく、ひどく歪んでいて、「怪物のような」音でした。
"Suzanne Vega, “Tom’s Diner” and the Birth of the MP3 "
もちろん「Tom’s Diner」だけではないそうですが、同曲を何度も何度も聴き、人間の耳が何を聞き、何を聞かないのか。どの音が消えても許され、どの音が消えてはいけないのか模索をしたのだそうです。
そして。MP3の承認。
1991年、MPEG-1 Audio Layer I、II、IIIのアルゴリズムが承認されました。1992年に最終化され、1993年にISO/IEC 11172-3として公開されました。Layer III——後にMP3と呼ばれる技術——の誕生です。
"Music×Tech #04「Tom’s Diner」――The Mother of the MP3" --by innovatopia
貢献したSuzanne Vegaさんは『MP3の母』という称号をゲットしたそうです。
"Suzanne Vega is the “Mother of the MP3” --by obserber
音界隈ではあれこれと言われているかも知れませんが(ライセンスだとか、音を削りすぎたとか)、このストーリーを知り、込み上げてくるものがありました。
想像に難くないことですが、MP3の研究開発は音楽からのハードの乖離を意味することでもあり、技術が認められるまで、CD会社(オランダのフィリップス)や家電会社から嫌がらせを受けたり、業界規格としてもなかなか認められない日々が続いたのだそうです。
残念ながら、多くの支持を得ていたにもかかわらず、MP3規格はすぐに新しい用途には普及しなかったようです。デジタルラジオ、インタラクティブCD-ROM、VCD、HDTVなど、あらゆる機器でMP2規格が好まれるようになってしまったのです
"Why does digital music only make sense to a human ear?" --by By Sašo Dolenc/sci-highs.com
2017年、Mp3ライセンス終了
2017 年 4 月 23 日、Technicolor と Fraunhofer IIS の特定の mp3 関連特許およびソフトウェアに対する Technicolor の mp3 ライセンス プログラムは終了しました。
"mp3" --byFraunhofer Institute for Integrated Circuits IIS
参考
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasmin/2011f/0/2011f_0_23/_pdf/-char/ja
