この記事でやりたかったこと
バラバラに使っていた複数のAIに、同じノート置き場を読み書きさせて、「物覚えのいい1人のアシスタント」みたいに振る舞わせる。
AIは便利だけど「ワークスペースやセッションなど環境が変わると全部忘れる」のがつらい。昨日説明したことを今日もまた説明する。Claudeに話したことはCopilotは知らない。
そこで、AIたちの“外から付けられる記憶”を1か所にまとめて、全員でそこを読み書きさせることにしました。これが今回の「外部脳(がいぶのう)」です。
💡 外部脳とは:頭の外に置いた「もう一つの記憶」のこと。今回はメモアプリのノート群がその正体です。AIにとっては「いつでも参照していい長期メモ」になります。
結果として、5種類のAIが同じノートを見て・書いて、しかも「誰がいつ書いたか」まで分かる状態を、特別なサーバーもプログラミングもほぼ無しで作れました。どう作ったかを、専門用語をかみ砕きつつ、自分の記録として残しておきます。
完成したもの
5つのAIが、まんなかの「同じノート置き場」を共有しています。
1つのAIに教えたことを、別のAIも読める。これがゴールです。
(つなぎ方が2種類ある点は、後の STEP 3 で説明します。)
💡 置き場所はiCloud=“脳がどの端末にもある”:このノート置き場をiCloud(クラウド同期)に置いたので、母艦デスクトップ・ノートPC・スマホ・iPadのどれからでも同じVaultを開けます。つまり「5つのAI」だけでなく、自分自身も、別のPCで動かすAIも、同じ外部脳につながる——記憶が特定の1台に縛られないのがGood。
使う道具と、その役割
出てくる用語だけ先に並べておきます。ここが分かると、後がだいぶ読みやすくなりました。
| 用語 | ざっくり言うと | この記事での役割 |
|---|---|---|
| Obsidian(オブシディアン) | 無料のメモアプリ。中身は普通のテキストファイル | ノートを書く場所。AIもこの“ただのファイル”を読み書きする |
| Vault(ヴォールト) | Obsidianでの「ノート全部が入ったフォルダ」 | これが外部脳の本体 |
| Markdown(マークダウン) | 記号で見出しや箇条書きを表す、軽い書式のテキスト | ノートの中身の形式。人もAIも読みやすい |
| フロントマター | ノートの先頭に書く「この文書の情報カード」 | 「いつ・誰が・何の種類で書いたか」をAIが機械的に読める形にする |
| MCP | AIに“外部の道具”を持たせる共通の仕組み | 一部のAIは、これ経由でファイルを触れるようにする |
| iCloud Drive | Appleのクラウド同期 | PC・スマホ・タブレットで同じノートを自動同期(どの端末からでも同じ脳) |
💡 MCPって何?:Model Context Protocol の略。AIに「電卓」「ファイルを開く手」みたいな道具を後付けする、共通の差し込み口だと思ってください。今回は「フォルダを読み書きする手」を一部のAIに持たせます。
ポイントは、ノートの正体が“ただのテキストファイル” だということ。特殊な形式ではないので、どのAIからでも素直に読み書きできました。ここが自分の設計のキモだったと思います。
作る前に、AIに“下調べ”をさせた
いきなり作り始める前に、GitHub Copilot CLI の調査エージェント(/research)に「Obsidian × AI 外部脳のベストプラクティス」を丸ごと調べさせました。約11分で、MCPサーバの種類・フォルダ構成・同期方式・失敗パターンまで一気にレポート化。
出てきた要点を、この記事に関係するところだけかみ砕くと:
- フォルダ構成は PARA+Zettelkasten が定番。番号フォルダで整理し、リンクで繋ぐ、は王道だった。
- メモは“層”に分けると効く。常に読ませる短い正本+索引だけの中間層+本文、に分けると毎回のトークンが大幅に減る(6割減という報告も)。→ 後半で作る「薄い指さし+正本1か所+オンデマンド」の裏づけ。
- 規模で戦略を変える。数十ノートは全部読ませる/数百で索引+必要時取得/それ以上で意味検索やRAG。→「困ってから足す」で十分、の根拠。
- AIの書き込みには Git や Obsidian Sync が安全。iCloud等のクラウド同期は“競合コピー”や“ファイル退避で書き込み失敗”のリスクあり。
- やりがちな失敗:AIに任せるとノートが際限なく増える/凝った自動化は“生産性のふりをした先延ばし”/要約だらけで自分の思考が消える「セカンドブレイン妄想」。
なぜこの作りにしたのか
この下調べを踏まえて方針を決めました。凝った仕組みにすると、自分の場合たいてい後で壊すので、シンプルに寄せています。あえて“勧め”に逆らった所もあります。
-
AI専用プラグインは入れない。 AIには「ただのファイルを直接読み書き」させる。
→ 中で何が起きているか人間が追える。高機能プラグインは調査で山ほど見つかったが、あえて使わず“どのAIでも同じやり方が通る”を優先。 -
クラウド(テキスト)で同期。 専用サーバーは立てない。
→ 調査では「AIの書き込みは Git / Obsidian Sync が安全」。承知のうえで、全端末で同じ脳を触れる iCloud を選び、競合リスクは STEP 4 のルールで補う。 -
記憶が膨らみすぎる仕組み(自動の意味検索など)は、今は入れない。
→ 調査の“規模別戦略”でも、数十ノートなら意味検索・RAGは過剰。「困ってから足す」方が健全。
どう作ったか(自分の場合)
STEP 1. ノート置き場をつくる
- Obsidian(無料)をインストール。
- 新しいVault(=ノート用フォルダ)を作る。クラウドで同期したいなら、iCloud DriveやOneDriveの中に作る。
- 中をこんな番号付きフォルダで仕切る(番号は並び順を固定するため)。
00_Inbox … とりあえず放り込む場所(未整理)
10_Daily … 日記。1日1ファイル
20_Notes … きちんと残す知識ノート
30_Projects … 進行中のプロジェクト
40_Areas … ずっと続く領域(仕事・健康など。私的なものはここ)
50_Resources … 調べもの・引用・参考資料
60_Archive … 終わったもの置き場
90_Meta … ルールやテンプレ(AI向けの取扱説明書もここ)
💡 この番号フォルダの考え方は PARA(パラ)法 という有名な整理術を、AIにも分かりやすいよう少しアレンジしたものです。自分は「迷ったら00_Inbox」だけ意識しています。
STEP 2. ノートに「情報カード」を付ける
各ノートの先頭には、フロントマター(情報カード)を付けました。AIが「これは何のノートか」を一目で判断できるように、という狙いです。
---
created: 2026-07-01T09:00:00+09:00 # いつ作ったか
type: note # 種類(note/daily/project など)
tags: [obsidian, ai] # タグ
author: あなたの名前 # ← これが今回の超重要ポイント
---
author(書き手)だけは必ず入れるようにしました。 これが後で効いてきます(理由はSTEP 4)。
STEP 3. AIたちをノート置き場につなぐ
ここが本題。AIは大きく2タイプに分かれます。
タイプA:そのままでファイルを触れるAI(追加設定がほぼ不要)
- 例:ファイル操作の機能を最初から持っているタイプのAIアシスタント。
- やること:「このフォルダを見て」と置き場所(フォルダのパス)を教えるだけ。
タイプB:MCP(道具の差し込み口)が必要なAI
- 例:デスクトップ版やエディタ拡張のチャットAI。
- やること:「フォルダを読み書きする道具」を設定ファイルに1か所書き足す。
タイプBの設定は、だいたいこんな数行でした(パスは各自のものに変わります)。
{
"obsidian-vault": {
"command": "npx",
"args": ["-y", "@modelcontextprotocol/server-filesystem",
"C:\\Users\\<ユーザー名>\\...\\MyVault"]
}
}
実際にどのAIを、どこに、どうつないだか
私が実際につないだ5つのAIです。「設定を書く場所」と「つなぎ方」をまとめておきます(パスの <ユーザー名> は各自のもの)。
| AI | つなぎ方 | 設定/指示を書くファイル |
|---|---|---|
| Claude Code(コマンドライン版) | タイプA(FS直) |
~\.claude\CLAUDE.md(全体の指示)+ vault直下の CLAUDE.md(入口) |
| Copilot CLI | タイプA(FS直) |
~\.copilot\copilot-instructions.md(全セッションで自動ロード) |
| VS Code の Copilot Chat | タイプB(MCP) |
~\AppData\Roaming\Code\User\mcp.json(見出しは servers) |
| Claude Desktop | タイプB(MCP) |
~\AppData\Roaming\Claude\claude_desktop_config.json(見出しは mcpServers) |
| 自作AI(OpenClaw) | タイプA(FS直) | AI専用ワークスペースの AGENTS.md + MEMORY.md
|
💡 タイプAのAIは「指示ファイル」も置けるのがミソ。
CLAUDE.md/copilot-instructions.md/AGENTS.mdといった決まった名前のファイルを置くと、AIが起動のたびに自動で読みに来ます(次のSTEP 4の工夫①の正体がこれ)。一方タイプB(MCP接続のみ)は「繋ぐだけ」なので、ルールは都度ノート側を読ませる形になります。
STEP 4. ルールを“守らせる”
つなぐだけなら、実はそんなに難しくありません。本当に大変なのは「複数のAIにルールを守らせ続けること」 でした。
複数のAIが同じファイルを触ると、たまに事故ります。クラウド同期だと「競合コピー」(同じファイルが勝手に2つへ枝分かれ)も起きえます。守らせたいルールはこんな内容:
-
誰が書いたか必ず残す(
authorを書く)。あとで「これ誰が書いた?」を追える。 - 大事なノートは1人ずつ触る。同時に同じファイルを2つのAIに頼まない。
- 大きな書き換えより、追記でいく。全文上書きは事故のもと。
-
新しい走り書きはまず
00_Inboxへ。 整理は後でまとめて。
問題は、AIは毎回記憶がリセットされること。口で言っても次の会話では忘れます。だから「お願いする」のではなく、仕組みで守らせる。具体的には、次の2本柱に落とし込みました。
柱①:正本を1か所に置き、各AIには「指さし」だけを配る
ルールを各AIにバラバラに書くと、すぐ食い違います。そこで 本物のルール(正本)は 90_Meta フォルダの1セットだけ と決めました。
これが効くのは、多くのAIアシスタントが 特定の名前のファイルを起動のたびに自動で読む からです(AGENTS.md / CLAUDE.md / copilot-instructions.md など)。だから各AIの入口には、正本を丸ごとコピーせず、「詳しくは 90_Meta を見ろ」と指さすだけの薄い紙を置く。例えば入口ファイルの中身は実質これだけです:
# CLAUDE.md(入口・指さし用)
詳しいルールは `90_Meta/AGENTS.md` を正典とする。
- 新規ノートには `author:` を必ず付ける
- 迷ったら `00_Inbox/` に置く
→ 「机に貼った貼り紙を、全員が出社のたびに必ず読む」状態。記憶に頼らず、ルールを直したい時も正本1か所いじれば全AIに効く。
そして正本の側は、「気をつけて」で終わらせず 表で”してよいこと/確認してからすること”の線引きをハッキリ書きました。おかげでAIも自分も迷いにくくなりました:
| AIがしてよい | 確認してからにする |
|---|---|
00_Inbox への新規メモ |
既存ノートの大きな書き換え・削除 |
| 知識ノートへの追記 | プライベート領域(家族など)への書き込み |
| 日記への追記 | 完了ステータスの変更・アーカイブ移動 |
柱②:破ったとき”誰の仕業か分かって直せる”ようにする(=author を必ず残す)
ルールは、たまに破られます。そこで すべてのノートに author(書き手)を残す ことにしました。フロントマターに1行あるだけです:
---
created: 2026-07-01T09:00:00+09:00
type: note
author: claude-code@あなたのID # ← どのAIが書いたか
---
こうしておくと、「いつ・どのAIが・何を書いたか」を後から追えます(author: で検索すれば一覧できる)。
狙いは「見張られているからAIが行儀よくなる」ではありません。AIは毎回記憶が消えるので、そんな心理的な抑止は効きません。本当の狙いは、問題が起きたときにフィードバックを“正しい相手”へ返せることです。おかしな編集やルール違反を見つけたら、author を見ればどのAIの仕業かが一発で分かる。すると――
- そのAIの指示ファイル(柱①の
CLAUDE.md/AGENTS.mdなど)をピンポイントで直せる。「次からこうして」を、やらかしたAIにだけ確実に効かせられる。 - 壊れた箇所をその1人分だけ切り分けて戻せる。全体を疑わなくて済む。
- どのAIのルールが緩いのかが見えるので、ルール自体を鍛え直せる。
つまり柱②は、柱①とペアで改善のループになります。柱①でルールを毎回流し込み、柱②で違反を可視化して「どのAIのどのルールを直すか」に反映する。人間のチームで“犯人を責めるため”ではなく“手順を直すため”に記録を残すのと同じです。
💡 振り返ると、「お願い」ではなく「環境」でルールを守らせるのが効きました。①正本を1か所に置いて各AIには指さしだけを配り、②誰が書いたかを残して、違反を見つけたら“そのAIの指示ファイル”を直す。この①→②→①の改善ループが、自分の場合いちばん効いた気がします。
まとめ
やったことは、突き詰めると次の3つだけです。
- ノートを“ただのテキストファイル”として1か所に集める(=外部脳の本体)。
- 複数のAIを、その同じ場所につなぐ(そのまま繋がるAルートと、MCPで繋ぐBルート)。
- ルールは「お願い」せず「環境」で守らせる。自動で読まれる場所に・正本を1つだけ・曖昧さなく書き・誰が書いたか残す(=違反を見つけたら“そのAI”に直させられる)。
「いろんなAIを試したい欲張りさん」こそ、外部脳を共有しよう
新しいAIが出るたびに乗り換えて、そのたびに自己紹介と前提を一から説明し直す……その“仕切り直しコスト”に、地味に疲れていませんか。
発想を逆にしてみました。AIは取り替えのきく道具、"記憶"だけは自分の資産として1か所に持つ。外部脳を共有させておけば、ChatGPTでもClaudeでもCopilotでも、明日出てくる新顔でも、同じノート置き場を指さすだけで、これまでの文脈を引き継いで働き始めます。「1つに決め打ち」しなくていい。それぞれの得意を使い分けても、記憶だけは途切れない。
つまりこれは、あれこれ試したい欲張りな人ほど得をするやり方でした。特別なサーバーも、難しいプログラミングも要りません。自分はメモアプリ1つと、AIへの短い約束ごと1枚から始めて、いまも気になるAIを片っ端から“同じ脳”につないで育てているところです。